「聖王家からオリヴィエが留学生と言う名目でシュトゥラに送られてきたのは、元々がインクヴァルド家への人質という扱いでした。
　ただ、クラウスにとってそれはどうでもよいことでした。……年の近い友人ができた。それだけのことだったんです。
　大人たちの思惑などは問題ではありませんでした。……クラウスも、オリヴィエも、子供だったんです。
　オリヴィエは……そうですね、ちょうどヴィヴィオさんと同じような瞳と笑顔の持ち主でした。
　クラウスとオリヴィエとは、武術、学問とをともに学びました。オリヴィエの武術のほどは目を見張るものがありました。
　斧を用いて、あるいは剣を用いての能力はかなりのものがあったのです。
　そして、クラウスはオリヴィエの友人、騎士エレミアとも友人になりました。エレミアはオリヴィエに義手を贈った人物です。
　館の外では戦乱が続いていましたが、ここでは、平穏な時間が流れていたんです」

……そう、それは甘い記憶。永遠とも思えた時間。

「やっぱり、うちのご先祖様とも知り合いやったんやね」
「それで、チャンプはご先祖様の記憶とかないんですか」
「ごめん、うちは戦闘関係の記憶しか継承してないんよ」
「そうなんですか」

「ともあれ、戦火はますます拡大していきました。
　その結果、聖王家はゆりかごの再起動を決定します。
　そのための鍵として白羽の矢が立ったのが、……オリヴィエでした。
　聖王のゆりかご、玉座につくものの命と運命を引き替えに絶対の力をふるう最終兵器。
　オリヴィエ自身、ゆりかごで生まれた子だったんです。
　ゆりかごの王としての力は薄いと判断されてシュトゥラに人質にされたんですが
　皮肉なことに、シュトゥラで磨き上げられた武術が近隣諸国に鳴り響いたことで
　聖王家はオリヴィエを選んだんです」

そう、それは皮肉な結末。人質はふぬけなお人形が良い、教育など花嫁修業で十分、という話があったのも後から聞いた。
そうする方が良かったのかもしれない。だが、それは彼女自身が望まなかったろう。そして、クラウス自身が。

「ゆりかごの王になれば自由も、尊厳も、未来さえも奪われる……だからクラウスは止めようとしたんです。
　ゆりかごの王にならなくても戦乱を止める方法はあるはずだって。でも、無理でした。
　私は……戦っても、彼女を止められなかったんです……笑顔一つ曇らせることすら出来ずに……」

そう、すべては私の弱さから出たこと。彼女を止める強さがなかったのが、すべてだったのだ。

「そうして、オリヴィエは国に戻り、ゆりかごの王となりました。
　諸王時代は一年で終わりを告げ、ベルカは統一への道を歩むことになります。
　ゆりかごは聖王家の剣としてベルカの空を飛び続けていましたが、オリヴィエとクラウスが出会うことは二度とありませんでした」
「クラウスとうちのご先祖様とはどうなったん？」
「リッド……ヴィルフリッド・エレミアは、オリヴィエが国に呼び戻される少し前に姿を消していました。
　元々風来坊みたいなところがあって、ふっと半年ぐらい姿を消すこともあったんですが、それから姿を現すことはありませんでした」
「そっか、……」
「子孫も大差ないみたいね」
「うちは行方不明にはなってない」
「行方不明にはならないでほしいわ」
「そうですね……頭では分かっているんです。エレミアが悪いわけではないって。
　それでも、見かけたら一発ぶん殴ってやるつもりではあったんです。
　とはいえ、ゆりかごが起動したからといって、すべての戦乱が終わったわけではありませんでした。
　クラウスはベルカ統一戦争のなかで、短い生涯を閉じることになります。
　……私からお話しできるのは、これくらいです」
「それで、うちに聞きたいことって、その頃のエレミア……リッドについてなんか？」
「はい、何かご存じだったらと思ったんですが……」
「残念だけど、その頃の記録はジークの実家にもあまり残ってないのよ。
　ダークグリュン家ともエレミアは交流があったみたいですけど、なにぶん流浪の一族だから」
「……こうなったら、無限書庫を当たってみようよ。あそこは自動収拾してるから、何か出てくるかもしれないよ☆」
「ヴィヴィオさんは気楽に言ってくれますけど……」
「簡単な検索なら、申請すれば民間人でも大丈夫だよ。司書さんが検索してくれるし、私が司書の資格持ってるから帰りに当たれるよ」
「簡単な検索で見つかればええんやけどな」
「八神指令、それは一体？」
「私もこういう集まりをわざわざ開くからには、下調べぐらいはしてるんよ、ユーノ司書長に頼んで下調べはしてる。
　エレミア関係と古代ベルカ関係の検索はかけた。正直、無限書庫の一般情報は、アインハルトの記憶より少ないのが事実や。
　簡単な検索じゃどうしようもないやろな」
「だめですか……」
「けど、いくつか蔵書がある、ちゅう情報はあるんよ」
「本当ですか」
「エレミアの手記は確かに無限書庫が収拾してる。けど……入ってる場所が問題や」
「場所が問題って？」
「簡単な検索で出てこない、ちゅうんでヴィヴィオは分かるやろ」
「あるのが危険区画ですか」
「正解」
「ヴィヴィオ、危険区画ってなんだよ」
「おおざっぱに言うと、夜天の書みたいな、危ない魔道書なんかが集まってる区画だよ。
　たいていの本は死んでるから大丈夫だけど、中には生きてる奴もあるから、はっきり危ない場所だよ。
　ユーノパパも、あそこは危ないから、なのはママとかいない時は近づかないようにって言ってる」
「ふーん、じゃ、なのはおばさんがいるときに行けばいいじゃないか、話は早いぜ」
「……私たちでは、無理な場所ですか？」
「子供たちで行くのはあんまり感心せえへんなあ……」
「けど、行かせてください。お願いします。それに、どのみちヴィヴィオさんは司書として行くんでしょう」
「私が行ってもいいのですけどね」
「エミーちゃんも司書だもんね」
「うちもつれてってぇな。ご先祖さまのことやし、ご先祖様の手記ならうちもこの目でみてみたいわ」
「私も行きますわ」
「エミーちゃんが行くなら私たちも、ね、リオちゃん」
「そうだな、コロナ」
「ここまで呼んでおいてオレをのけ者、っていうのはなしだぜ」
「私も行きます」
「ボクも行きます」
「なんか大人数になってるな、ゲッコウ、行くぞ」
「え？　化け物とか出る場所なんでしょ。足手まといにならないかな」
「RPGにマッパーは必須だろ。戦闘要員でないおまえがやるのが固いんだよ」
「冬美ちゃんは？」
「ま、自分の身ぐらい自分で守れるだろ。当たらなければどうということはない」
「魔法の武器でないとダメージ受けない相手とかいるかもしれないよ」
『そのときには我が主が頑張ってください』
「うん、そうだねライチェントゥークス」
「責任重大やな。私が責任もって引率するわ」
「こっちも姉妹に話しておく」

大人数の無限書庫探検隊が編成されました。八神指令の引率の元無限書庫探索です。
しかし、向かうのは危険区画。司書長も近づかない場所には、一体何があるのでしょうか。

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