遙かなる昔、古代ベルカの時代。
オリヴィエとクラウスのいた時代。

分かっている、過ぎ去りし時代のことだ。
もうすんだこと、終わったこと、取り返しのつかないもの。
それでも、私にとっては、生々しい今と変わりはない記憶。

「もう止めましょうクラウス、これ以上続ければ、私はあなたを傷つけることになる」
「行かせません。ここを行かせれば、私はあなたを見殺しにすることになる」
「私が行けば、この戦いを終わらせることが出来るかもしれないんですよ」
「分かってるんですか。ゆりかごの王にになるという事の意味が」
「分かっています。玉座を守る操り人形になるということなのでしょう」
「分かっているならなぜ」
「私が行かなければ、ほかの誰かがそこに向かうことになります。
　誰かが行かなければならないのなら、それが私でもかまわないでしょう」
「誰かが行かなければならないのなら、それがあなたでなくても良いはずだ」
「私でなければならないのです。私は、……すでに死んでいてもおかしくはない人間なのですから」
「でもあなたは生きている。生きている必然があるはずだ」
「それが、ゆりかごの王になるということなのです。きっと、そのために生きているのだと、私にはそう思えます」
「それは間違ってる」
「間違ってません、私以上に、ゆりかごの王になるのに、ふさわしい誰かがいるとは、思えません。
　ほかの誰にも、その運命は担わせたくありません。私はシュトゥラで十分に幸せでした。
　もう、私個人の幸福は十分でしょう。時は満ちたのです、今は高貴なものの義務を果たすべき時です」
「それでも、私はあなたを止める」

しかし、私は彼女を止められなかった。私は彼女の笑顔を曇らせることすら出来なかった。
すべては私の弱さからきたことだった。

だが、彼女をここまで強くしたのはだれだ？
彼女にこの運命を強いたのは誰？

……そうだ、彼女に鉄の腕と聖王核を贈ったのは、エレミアだった。
確かに、エレミアがいなければ、彼女は生きてはいなかったろう。
だが、それは死より過酷な運命を彼女に強いることになった。

……エレミア！

「エレミアっ！」
「っ！」

ここは現実のリング、目の前にいるのは、古代ベルカのエレミアではなく、前々回チャンピオンのジークリンデ＝エレミア。
オリヴィエの運命を変えたエレミアではないのは分かっているし、そもそも自分はクラウスではない。
それでも我を忘れて目の前のエレミアにラッシュをかける。

「君はちょぅ落ち着こうか」

ラッシュといっても、無我夢中の攻撃だから隙は大きい。その隙をエレミアが見逃すわけがない。
まともに肋骨へ打撃が入る、リング場外まで吹き飛ばされる。骨が折れた〜クラッシュエミュレートだから実際に折れるわけではないが〜のが分かる。

ここで、第一ラウンドが終了する。

「さすがに強いですね」
「強いっていうかもう少し落ち着いていけ。練習したことを思い出せ」
「クラッシュエミュレートで骨が折れてるみたいだけど大丈夫か、状況次第ではドクターストップもありえるが……」

審判員の方が状況を見に来ました。確かに、無茶なラッシュとエレミアの反撃とで拳とあばらの骨が砕けてます。ドクターストップをかけられても
文句は言えないでしょう、普通ならですが。

「問題ありません、ティオ、お願いします」
「にゃあ」
「骨折が治った？……LPも回復？……君のデバイスは回復が得意なようだね。
　なるほど、それなら次のラウンドはいけそうだ、分かった」
「ティオの回復能力が高いからって、無限じゃないんだ。
　むやみに突っ込むなよ」
「分かりました」

次のラウンドが始まります。

「さてと、こっちの条件だけ出すのはフェアやないやろ、そっちの望みも聞いておかなあかんやろな」
「全力のあなたに勝利することです。勝ったら、あなたのご先祖について、お聞きしたいことがあります」
「そうか、それならヴィクターにきいてみよ。うちよりヴィクターの方がくわしいやろ。
　まあ、それはそれとして……」

また、エレミアの姿が消えます。
と、自分の体が宙に舞います。
投げを打たれたのがこんどは分かります。

「全力のエレミアを相手にして、五体満足に帰れると思ったらあかんよ」
「たとえ五体が砕けようと、たとえどれだけ血を流そうと、守るべきものを守り切る、それが覇王の意思です」

打撃はティオが回復してくれてます。無限の回復力ではないにせよ、まだ戦えます。
ヴィヴィオさんなら、もうエレミアの動きも”覚えた”んでしょうか。

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