抜剣。ボクの最大のして最後の切り札、収束魔法だ。
ヴィヴィオさんにもこれがあるのはわかってる。だけどヴィヴィオさんには使わせない、撃たせない。
これがまともに当たれば、ガードの上からだってヴィヴィオさんを落とせる自信はある。

……まともに当たれば。

「当たらなければどうということはないよね、ライチェントゥークス」
『覚悟を決めて飛び込んでくるミウラさんを甘くみないことです、我が主』
「わかってる。こっちも全力で行くよ」
「ヴィヴィオが本気を出した？」
「私だってやるときはやるよ、冬美ちゃん」

『リング内の魔力値基準値オーバー、保護レベルをエマージェンシーレベルに引き上げます』

「行きます……抜剣、飛竜っ！」

……当たらない、ヴィヴィオさんは軽く動いただけでかわした。飛び道具は通用しない。なら接近するまでっ！

「ライチェントゥークスっ！」
『はいっ、我が主っ！』
「ガードしたっ？！」
「今度は完璧、LPロスなしだね、じゃあ、……こっちの番だよっ」
「そうはいきませんよ」
「え？　かわした？」
「抜剣を使ったからって攻撃一辺倒じゃないってことです」
「O.K.そうでなきゃ。じゃあ、こっちから行くよ、川崎流二段蹴りっ」
「ヴィヴィオ、無理攻めするな、カウンターを食ったら一撃で落ちるぞ」
「大丈夫、ミウラちゃんの動きは見えてる」
「見えてる？」
「もう一撃もいれさせないよ。抜剣食らったら痛そうだもん」
「本当に見えてるかどうか……」
「見えてるって言ったら見えてるんだよ、ミウラちゃん」
『我が主の言葉ははったりとは違います、ミウラさん』
「これもノーダメージで防がれた、まさか」
「10分間ずっと攻撃を受け続けたんだよ、いい加減にはなれるってば」
「たった10分で、もうボクの動きを見切ったって言うんですか」
「なれただけだってば、ミウラちゃんだって、私の動きにはなれたでしょ」
「そんなのヴィヴィオさんぐらいですよ……」

格が違いすぎる。
ヴィヴィオさんはやっぱり天才だ。
練習量じゃボクの方が上だってザフィーラさんは言ってくれた。
だけど、練習量で上回っていても、これじゃあ全く勝てる気がしない。
同じ練習時間でも、密度が全然違いすぎる。
本当に、当たらなければ意味がない。

「ミウラっ！　動きを止めるなっ！」
「え？」
「そこっ！」

『ミウラ選手リングアウト、カウント１、２、３、４、…』

……だめだ、勝てる気がしない、このまま……

「こら、ミウラ、立てよ、まだねんねするには早すぎるぜ」
「ミウラ、負けるのは、できることを全部やり尽くしてからだ。
　おまえはヴィヴィオに負ける前に、自分に負けている」

『…１０、１１、１２…』

……まだ、終わっちゃ、だめなのかな……

『…１７、１８』

『ミウラ選手、立ち上がりました』
「大丈夫、まだやれるか？」
「はい、まだ大丈夫です、ボクはまだできることを残してます」
「よし、では試合再開」
「ミウラちゃん、まだLP残ってたんだ、決まったと思ったのに」
「紙一重ですけどね。……けど、いくらLP差があろうと、抜剣一撃で決めて見せます」
「うん、……収束魔法は一撃勝負だよね。防げなければ一撃で落ちるのはわかってる」
「防がせませんっ」

普通に行ったら防がれる。っていうか、今日の自分じゃ通用しないんだ。
今の自分を超えなければ。
ヴィヴィオさんに見えてるのは今の自分。
だから、ボクはボクを……今の自分を、今、この瞬間、超えなければいけない。

この一撃に、すべてを込めて。

「行きますっ！」

まず、セオリー通りに遠い間合いから飛び込んでの突き。
これをヴィヴィオさんはノーダメージで防ぐ。
続いて回し蹴り、これもヴィヴィオさんはノーダメージでかわす。
ここで間合いを開く。
ヴィヴィオさんが間合いを詰めてくるのがわかる。
普段のボクならここでクロスカウンターに持ち込むんだけど
無茶は承知でここから一気に勝負に出る。

間合いを詰めてヴィヴィオさんの攻撃をかわすんだ。
そして、放て、天衝星煌刃！

……きまっ……た。

ボクの天衝星煌刃は、ヴィヴィオさんの聖王の鎧さえ貫いて、ヴィヴィオさんにまともに命中した。

……勝った、……信じられないけど、ボクは、ヴィヴィオさんに、勝ったんだ。

---

 

前へ　戻る　次へ