めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜セコンド 川崎冬美〜
時の経つのは早いもんだな。あれからもう2ヶ月が経ったのか。
あたしらは、今ミッドチルダのインターミッド都市予選会場に来ている。
「エミーちゃん久しぶり〜」
「あら、高町さん、川崎さん、中島さん、こんにちは、お久しぶりですね」
「コロナちゃんにリオちゃんも、元気してた？」
「当然、2ヶ月間ばっちり魔力を鍛えてきたぜ」
「うん、ゴーレム創成にも磨きを掛けて、創成妨害にも対応出来るようになったよ」
「リオ、魔法以外の技も磨いただろうな？」
「もちろん、インターミッドが終わったら、冬美とも一回やろうな」
「魔法抜きならまけるつもりはないぜ」
「二人とも、まずは目の前のインターミッドだろ」
「そうですね、ノーヴェさん」
「こんにちは、ノーヴェお姉ちゃん。いーなー、3人とも魔力負荷掛けて練習してたんでしょ。
私は……」
『我が主、お忘れですか。私は本来、第97管理外世界で、我が主が普通の人間として暮らすために
作られたんですよ。魔力負荷ならお手の物です』
「ライチェントゥークス、じゃ、ずっと私に魔力負荷をかけてたの？」
『もちろんです、我が主』
「じゃ、条件は互角だね」
「そうなりますね、ヴィヴィオさん」
「さて、と。じゃ、全員の組み合わせを発表するぞ」
「はい、ノーヴェお姉ちゃん」
「えと、じゃ、最初にヴィヴィオ陛下だけど、予選4組な。
エミー陛下は予選8組、リオは予選5組、……ここは、シードでハリー選手がいる。
あこがれの砲撃番長を倒さないと、本戦には進めないぞ」
「任せてください、本戦に出るだけの練習はしてきましたよ」
「それから、ヴィヴィオ陛下んとこは、アインハルトのスパー相手、ミヤカがいる。
都市本戦3位入賞の実力者だ、心して行けよ」
「大丈夫、一回戦を勝てばOKって冬美ちゃんに言われてるから」
「そんな志の低いことでどうするんだよヴィヴィオ、最低でもエミーより上の順位をねらわないとな」
「エミーちゃんより上って、本戦出場ぐらい難しいよ冬美ちゃん……」
「ヴィヴィオちゃん、がんば」
「うー、月光ちゃんまで〜」
「で、アインハルトとコロナは予選1組、同じ組になったな」
「覇王が相手でも、負けませんよ」
「こちらも、負けないだけの修練は積んできました」
「そうだな、その意気だ。とにかく、この予選1組には、とんでもない選手がいるからな」
「とんでもない選手？」
「無敗の女王、ジークリンデ・エミリア。自ら辞退したことはあっても、試合では一度も負けたことがない。
文字通りの無敗の女王だ。こいつに勝たない限り、都市本戦には出られない」
「……けど、もし、彼女に勝ったとしたら……それだけで、次元世界最強に一歩近づける、わけですよね」
「そうだな、アインハルト。……もし、勝てればだ」
「それだけでも、やる気が出てきました。強い相手と、それだけ早く当たれるんですから」
「いい元気だ、その調子でやれ」
「みなさん、そろそろ開会式ですよ、選手一同集まらないといけませんわ」
「そうだな、エミー陛下の言うとおりだ。あたしらは観客席に下がってるからな」
「ねえ、ノーヴェお姉ちゃん、開会式って何をすればいいの？」
「ゼッケン順に並んで立ってればいい、開会式なんて、選手宣誓に大会委員長の
退屈なお話と相場は決まってるさ」
「はーい」
「大事なのは試合だからな、開会式は気楽にやれよ、ヴィヴィオ」
「はーい」
「エミー陛下も、リラックスしていけよ」
「私は緊張してませんわ、ノーヴェさん」
「でも、エミーちゃん、右手と右足が同時に出てる」
「……ふふ、まあ、多少は緊張もしますわ、人間ですもの」
「さあ、いこう、いざ実力を発揮しに」
「おー！」
そんなわけで、ヴィヴィオ達は開会式に向かった。
あたしらセコンド組は、観客席の方で待ちぼうけだ。
「久しぶりだな、ノーヴェ、冬美、月光」
「……えと、どちら様でしたっけ」
「八神さんちのザフィーラだよ」
「人間形態で会うのは始めてだったかな？」
「人間形態って？」
「……これなら見覚えがあるか？」
そういうと、見たことのないお兄さんは、巨大な犬の姿に変わった。
「あ、ザフィーラだ。ザフィーラも、ユーノおじさんと同じだったのか」
「どっちかっていうと、アルフに近いけどな」
「俺は守護獣だ」
「あーはいはい、他人には小さい違いに見えることでも、当人には
大違いってこともあるからな。あたしにもそういう拘りはあるし
追及はしないぜ」
「ザフィーラはまたどうしてここに？」
「うちの道場の教え子も、インターミッドに参加する」
「へー、そうなんだ。一体誰？」
「ミウラ・リナルディだ」
「あー、あいつか。やっぱあいつもインターミッドに出場するんだな」
「あいつかって、一体誰なんです、ミウラっていうのは」
「俺の道場の中でも一番の実力の持ち主だ。年は若いが、インターミッドで勝ち抜くだけの
実力はある」
「へー、都市本戦に出るぐらいに？」
「どうだろうな。それは時の運もある」
「そうなんだ。で、ザフィーラ、一体そのミウラは何組で登場するんだ？」
「4組だ」
「じゃ、ヴィヴィオと一緒だな。……よし、ヴィヴィオの当面の目標が決まった。
ミウラより順位が上を目指してもらおう」
「大丈夫か？ ミウラは、強いぞ」
「ヴィヴィオも十分鍛えてますよ。それに、あいつは天才ですし」
「ミウラも修練は積んでいるぞ」
「ま、そこらは、実際に試合が始まればわかりますよ……と、開会式は終わったみたいだな」
「冬美ちゃん、セコンドの人は試合場に行くようにって」
「O.K、ゲッコウ。さあ、腕試しの開始だぜ」
「今回は公開スパーリングだから、勝っても負けてもスタートが変わるだけですよ」
「……なんだ、一発勝負ってわけじゃないんだな。その方がいいか、ヴィヴィオの緊張もほぐれる」
「なんだか、冬美ちゃんの方が入れ込んでる気がする……」
「とはいっても、先にミウラの方がリングに上がるみたいだな」
「そうみたいだね、冬美ちゃん。……そういえば、他の人は」
「他の奴は観客席。ここに入れるのは、選手とセコンドだけだ」
「セコンドって、冬美ちゃんはセコンドの資格持ってるの？」
「どういうマジックを使ったかわかんねーけど、とにかくあたしも
第97管理外世界の師範代、ってことで、セコンドになって
いいことになってるらしいんだよ。まあ、川崎流の師範代ってのは
嘘じゃないからな」
「うん、ヴィヴィオ、全力でいくよ」
「あー、ヴィヴィオ、先にいっとくけど、シード選手とあたるまで幻術禁止な」
「えー、そんなぁ。幻術を使わないと実力半減だよぉ」
「ここ2ヶ月の練習で幻術なんて使わなかったろうが。安心しろ、幻術使わなくても
お前は十分に強い。……それに、手の内を今から全部さらけだしてやる必要もねーよ」
「うう・・・まけたら冬美ちゃんのせいだからね」
「まけねえって、安心しろ……と、ミウラの試合が始まるぜ」
「本当だ。がんばって、ミウラちゃん」
がんばって、ってヴィヴィオが言うのはいいけど、あいつがちがちに緊張してやがるな。
よほど実力差がないと、こりゃあっという間に負けてしまうぜ。実力を発揮する前にな。
大丈夫かな、ザフィーラは、勝ち抜く実力があるなんて言ってたけど。
「……ねえ、冬美ちゃん」
「なんだよヴィヴィオ」
「ミウラちゃん、なんだか緊張してるみたい、大丈夫かな」
「どうだろうな、こういうとき、セコンドが何をするかで、勝負は決まってしまうもんなんだけど……」
「ザフィーラお兄ちゃん、どんな指示を出すんだろう」
確かに、ザフィーラの指示は参考になるだろうな、ヴィヴィオに出す指示の。
「落ち着いていけ、届く距離まで近づいて蹴ればいいんだ」
「えと、冬美ちゃん、あんな指示でいいの？」
「……具体的な行動を示してるって意味じゃ、あれでいいのかもな。
けど、あんなこと言ったら、普通はアウトレンジされるぜ。
相手が格闘型だといいんだけど……」
「あ、始まったよ、冬美ちゃん」
「あのばかっ！」
「どうしたの冬美ちゃん」
「ミウラの対戦相手が誰だかしらないが、自分からミウラの間合いに飛び込みやがった。
これで試合はわからなくなったぜ」
「どういうこと？」
「ま、見てろ。みてりゃわかる」
ミウラは、相手の懐に飛び込むと、徹底的な連打で逆に相手を追い詰めていく。
こうなると、なめてかかっていただけ、対戦相手には”こんなはずじゃない”という思いが生まれる。
思い切って間合いをひらいて、体勢を整えなおせればいい。だけど、間合いを開こうとするより
ミウラの踏み込みの方が早い。
「体勢が少しでも崩れたら……ほら、決まった」
ミウラの回し蹴りがきれいにみぞおちにヒットする。
こりゃ、魔法で防護されてなきゃ、救急車が必要になるな。
「はあ、はあ……勝った……」
「よし、よくやったぞミウラ」
「ミウラちゃんすごーい」
「さて、次はヴィヴィオの出番だ。思い切ってぶつかっていけ」
「思い切って？」
「インファイトだ、相手の懐に飛び込んで、ぶちのめせ」
「えー、相手の様子を見るとかそういうのは〜」
「そんなのは、本試合でやればいいの。今は実力を試す時なんだから、自分の攻撃が
どれだけ通用するかやってみろよ」
「う、うん……わかった」
……ま、こういっときゃ、相手はカウンターねらいで来てくれるだろう。
ヴィヴィオは中距離で魔法弾を撃ちあう方が強い……残念だけどな。
途中で指示を変えて、魔法弾でしとめることにすれば、楽勝のはずだ。
「よろしくおねがいします」
「あ、ああ、よろしく」
……ヴィヴィオの奴、大人モードも封印かよ。本気で、実力を試すつもりなんだな。
「用意、……始め！」
ヴィヴィオは、あたしが最初に指示したとおり、真一文字につっこんでいく。
魔法戦ならバインド一撃でやられるところだけど、ヴィヴィオはバインドされても
十分戦える……って、しまった。間合いを開かずに相手もインファイトで襲いかかってきた。
これだと条件は互角。リーチが短いだけヴィヴィオの方が不利なはず。
いまさら間合いを開けともいえないし……あとは、ヴィヴィオの実力を信じるだけだな。
「ヴィヴィオ、打ち負けるな、行けっ」
「大丈夫冬美ちゃん、川崎流奥義、一分の見切りが通用する相手だからっ！」
その言葉の通り、ヴィヴィオは相手の攻撃を、体を最小限に動かすだけでかわしていく。
ここから、どう攻撃に結びつける？……
ヴィヴィオは、ぶんぶんと腕を振り回しながら、どんどんと逃げ始めた。
チャンスと見て相手はかさにかかってせめかかってくる。クリーンヒットはなくても
ヴィヴィオからの攻撃がないんだから当然、、、って、ヴィヴィオ、なにやってるんだよ。
「なのぱーんち」
ぶんぶんと振り回していた腕をとめた瞬間、体当たりに近いパンチがまともに
相手のほおを打ち抜いた。
「冬美ちゃん、勝ったよ〜」
「まあ、ヴィヴィオにしては上出来だな。しかし、あんな腕を振り回さないとパンチが打てないのかよ」
「えー、顔を食べさせて人助けする人は、ああやってパンチの威力を増やしてるよ〜」
「いや、あれは漫画だから……」
まあ、とりあえず、実力の半分も出さずに勝てたんだからよしとするか。
本当の勝負は、これからなんだから。