めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜師範代見習い 川崎冬美〜
「私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオ＝スクライア＝テスタロッサ＝ハラオウン。
今私は、冬美ちゃん、月光ちゃんと一緒に、プロレスのジムに来てます。
えとえとえと、今、ヴィヴィオは大人モードなんだよ。なんでも、特訓のためには
大人モードでいることが必要なんだって。冬美ちゃんがそう言ってたんだよ。
じゃ、今からジムに入るからね。……でも冬美ちゃん、なんでプロレスのジムなんかに
行く必要があるの？」
「……ていうか、エミーへのビデオレターだろ。何もいちいち名乗る必要ないんじゃないか？」
「あの、冬美ちゃん、ビデオレターの導入部分なんだから、ちょっとした説明は
いるんじゃないかな」
「そんなもんかな、あたしはビデオレターを作ったことがないからわかんねーや。
ていうか、今ビデオレターは誰が作ってるんだ？ あたしも、ゲッコウも
カメラなんて構えてないぜ」
『私が映像を準備しています。ですから、我が主から見た映像で編集されていて
我が主の姿は見えないんです』
「なんだ、ライチェントゥークスがビデオレターを作ってたのか。
それじゃヴィヴィオについては説明がいるのも仕方ないな」
「えと、それで、なんでプロレスのジムなんかで練習しなきゃいけないの？」
「それは出発前に説明したろヴィヴィオ」
「そうだったっけ？ ヴィヴィオ、よく覚えてない」
「あーもう、なんで格闘と勉強は一人前なのに、こういうことは覚えられないんだよ。
いいか？ お前は、インターミッド地球代表なんだから、地球で出来る限りの特訓は
積んだ上で参加してほしいんだよ」
「それはわかってるよ。だから、なのはママには中長距離の砲撃戦の練習を受けてるし
士郎おじいちゃんからは、近距離戦闘の特訓を受けてるし、冬美ちゃんからは
格闘の練習を受けてるよ。それじゃまだ不足なの？」
「残念ながら、足りてないんだ。川崎流は打撃技、立ち技主体で、寝技がないからな」
「冬美ちゃん、寝技って、なに？」
「寝技っていうのは……まあ、ジムに入ればわかる。いったんいろんな技を
ヴィヴィオには受けてもらうからな」
「うん、技を受ければいいんだね。けど、なんで寝技の練習をする必要があるの？
インターミッドでは、魔導師がほとんどで、格闘戦をやってくる相手自体少ないよ。
それに、ヴィヴィオは飛べるから、押さえ込みとか効かないはずなんだけど」
「飛べるからって、重力が無効化されるわけじゃないだろ。それに、関節技は
いったん決まれば一発逆転がある大技だからな。対処法を知らなきゃ
そういう相手が現れたときには、一発でしとめられるぞ」
「そういう相手って？」
「打撃戦よりさらに近距離で取っ組み合ってくる相手ってこと。
ま、論より実践。さっさと始めようぜ」
実際、ここで議論してても、時間の無駄になるだけで、ヴィヴィオが強くなるわけじゃないからな。
エミーもリオもコロナも、魔力負荷のギプスをつけて、魔力増大をはかったり
弱点に対処するための専門のコーチをつけての特訓を行ってるってきいてる。
アインハルトさんは、実力者相手のスパーリングを毎日こなしてるっていうし
ヴィヴィオが一回戦負けしないようにするためには、こっちも出来ることはなんでも教えておかないとな。
「ごめんください、あの、練習を予約していた川崎道場の川崎冬美っていいます。
館長さんはいらっしゃいますか」
「あ、冬美ちゃん、いらっしゃい。こっちが、練習生のヴィヴィオちゃんなの？」
「はい、立川さん。今日は一日よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。でも、珍しいね、冬美ちゃんがうちのジムの方を訪れるなんて」
「立川さん、うちの親父が立川さんによろしく伝えるようにいってました」
「そうかい、ありがと」
「ヴィヴィオ、ゲッコウ、紹介するよ。こちらが、うちの道場の卒業生で
今は女子プロレスのジムの館長をされてる、立川さん。
立川さん、紹介します、こっちが私の同級生の中島月光……あ、ゲッコウはあだ名で
正しくはアカリって読みます」
「清祥小学校4年、中島月光です、はじめまして、立川さん」
「初めまして、中島さん」
「で、こちらがうちの道場の練習生の高町ヴィヴィオです」
「高町ヴィヴィオです。よろしくお願いします」
「……本当にこの子は16歳なのかい？ なんか小学生のような感じがするけど……」
「ええと……まあ、ジムの人には16歳ってことにしてください。
10歳から19歳までが参加する格闘大会に出るために、プロレスのジムで
特訓を受けさせようっていううんですから」
「わかった。じゃあ、特訓も本気で行くよ」
「お願いします」
「うちは小さいジムだからね。冬美ちゃんのために、今日は練習生は出稽古に
いかせてるよ。だから、相手はあたし一人ってことになるけど、かまわないかね」
「ええ、かまいません。立川さんに教えていただけるなら、感謝します」
「えと、冬美ちゃん、立川さんと、冬美ちゃんと、どういう関係なの？」
「立川さんは親父の姉弟子なんだよ。で、18歳の時にプロレスの世界に入ったってわけ。
川崎流の師範代じゃ、飯食えないからさ」
「ふふ、若気のいたり、ってものだよ。 ま、長話もなんだから、さっそく
プロレスの極め技を見せていこうかね」
「お願いします、ヴィヴィオ、さ、上着を脱いでリングに上がれよ」
「うん、冬美ちゃん」
ヴィヴィオの奴は、おっかなびっくりでリングに上がる。
これから何が起きるかわからないんだから当然だ。
立川さんの方は、普段から乗り慣れてるリングだから、落ち着いたものだ。
「さてと、そう緊張しなくていいよ。最初は、ゆっくり、一個ずつ、技を
掛けていけばいいんだったね」
「技を掛けるって？」
「ヴィヴィオは体を柔らかくして待機してればいい。痛いようだったら、ギブアップって言うんだぞ」
「ギブアップ？ うん、わかった」
「よし、じゃあ始めるかね。……まず、これがコブラツイスト」
「いた、いたいいたいいたい……ギブアーップ」
「うーん、案外からだが堅いねえ。わかいんだから、もっと体を柔らかくしないとだめだよ」
「ストレッチは苦手……」
「まあ、それも今から練習すれば身につくよ。冬美ちゃん、筋肉はそれなりについてるみたいだけど
体はもっと柔らかい方がいいから、ストレッチをメインに体作りをしたほうがいいね。
試合まであと一ヶ月なんだろ」
「はい、そうですね、お願いします」
「次は、応用範囲の広い十字固め」
「十字がためって……あっ」
立川さんは素早く足払いを掛けてかける。
ヴィヴィオは足払いを難なくかわしたけど、これは立川さんの見せ技で
本命はあくまで十字固め。ヴィヴィオの手首をとると、素早く前転。
ヴィヴィオは腕を極められて転がされると、もう十字固めの体勢に入っている。
「えええ〜ほ、ほどけない〜ギブアップ」
「関節技は、ほんと勉強してないんだね」
「うん。打撃メインで練習してたから」
「関節技は、プロレスの華だからね。あたしも最初の内は打ち技しかなくて苦労したもんさ。
さあ、次はキャメル・クラッチだよ」
「えー、まだあるの〜」
「そりゃいろんな技があるさ。あたしだって、プロレスの極め技全部を使えるわけじゃないぐらいに
いっぱいあるよ」
「ほどほどにおねがいしま〜す」
そうはいっても、さすがはヴィヴィオで、だんだん技の掛けられ方もなれてきたみたいだった。
そのうち、一通りの技を立川さんがかけ終わる。
「はい、今日はこれまで。……どうだい？ 少しは技を覚えたかい」
「うん、今日は勉強になりました」
「まだ帰るには早いだろ、自分で技を掛ける練習もしていったらどうだい」
「いいんですか？ 立川さん」
「プロレスラーは、技を掛けられるのも仕事の内だからね。
だけど、力は入れすぎないようにしてくれよ。極め技は、一歩間違えると
相手を壊してしまう危険な技だからね」
「はーい。……えと、じゃあまずは、十字固めの練習からいきますね」
立川さんは、技を掛けやすいように寝転がろうとします。
「あの、立川さん、技を掛けるところから練習させてもらえませんか」
「それはいいけど、かけ方はわかるのかい？」
「見よう見まねでなら、……えと、こうだったかな？」
そういうと、ヴィヴィオは立川さんの腕をとって、そのまま手首を極めます。
「え？」
立川さんがきょとん、としてるうちに、ヴィヴィオは立川さんがヴィヴィオに極めたのと
同じように素早く立川さんを倒しこんで十字がためを極めます。
やっぱりヴィヴィオの奴は天才だな。一度見た技は確実に自分の物にしてる。
「……ギブアップ。一度見ただけで、よく技を自分の物に出来たね。
驚いたよ」
「えとえとえと、普通ですよ、普通……」
「あたしが、実戦で極め技が使えるようになるまで2年はかかったよ。
それをこの子は……」
「ヴィヴィオは天才なんですよ、立川さん。だから、一ヶ月後の試合のために
立川さんに時間をとってもらったんです」
「そうかい……がんばんなよ。この子なら、きっと良いところまでいくさ」
「えと、ありがとうございます。立川さん」
「よしヴィヴィオ、帰ったらすぐに柔軟メインの……」
「まちな、柔軟なら、ここでやっていくといい、クールダウンにもなるだろ」
「それもそうですね、立川さん、ではお言葉に甘えて……」
川崎流師範代としても、立川さんは先輩です。まだまだ、あたしは修行が足りてないみたいだな。