めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜古代ベルカ流 アインハルト〜
「じゃ、行くぜ、陛下」
「ええ、いつでもよろしいですよ」
シスターシャンテと、エミーさんが、ストリートファイトを始めるつもりのようです。
エミーさんも、決して弱い方ではありません。そのエミーさん相手に自信満々の
シスターシャンテは、一体どのような戦いをするつもりなのでしょうか。
申し遅れました、私は、古代ベルカの覇王流を継ぐ、アインハルト＝ストラトス。
サンクト・ヒルデ学園の中等部１年生です。
「さってと、じゃ、右から行こうかな」
「右からですか？」
「シスター嘘つかない」
「どうでしょうね」
「ほんとほんと、ほんとのこと……」
シスターの姿が消えました。次の瞬間、真後ろから一撃を加えようとします。
「シスターは嘘をつかないのではありませんか？」
エミーさんは、ほほえみながら語りかけます。
背後からの一撃を、まるで後ろに目がついてたかのごとくにかわしました。
「陛下、今のが見えたんですか」
「いえ、お言葉通り、見えませんでした。
けど、攻撃の気配は感じ取れましたよ」
「ちぇー、やっぱシスターシャッハからも格闘の手ほどきを受けてるだけのことはあるか。
じゃ、これはどうかな」
「その前に、こちらもデバイスを使わせていただいてよろしいですか」
「ええ、それはもちろん。デバイスなしじゃ危ないですし」
「では、……クリス、セットアップ」
「あれ？ 見た目全然かわってないですけど、いいんですか？」
「見た目は変わってなくても、見えないところでクリスは働いてくれてますよ」
「ふーん、ま、お手並み拝見ってことで」
「ええ、いつでもよろしいですわ」
シスターシャンテは、エミーさんに積極的な攻撃を加えていきます。
エミーさんの方は、その攻撃にきっちりカウンターを当てて攻撃を拳で相殺していきます。
あのスピードについて行けるとは、これは私もうかうかしていられませんね。
「見えないところで変わってるっていう意味、わかりましたよ。
デバイスが防御に専念してるから、攻撃一辺倒でいけるってわけですね」
「ええ、そういうことですわ」
「……けど……エミー陛下？」
「なんでしょう？」
「ちょっと、カウンターを打つのをやめて、攻撃を受けてもらえませんか」
「ええ、いいですよ」
「じゃ、遠慮なく行かせてもらいます」
シスターシャンテは、武器を持って構えると、思い切りよく一撃を入れていきます。
ですが、エミーさんには、聖王の鎧があるはず。これを使えば
シスターシャンテの攻撃は、簡単に防げるのではないでしょうか。
一体、シスターは何を考えて、このようなことを言っているのでしょう。
「……やっぱり、思った通り、意図的に聖王の鎧を封じてますね、エミー陛下」
「ええ、ストライクアーツに、聖王の鎧は含まれていませんもの」
「けど、インターミッドは全力を出さずに勝ち抜けるほど、甘くはないですよ」
「わかってるつもりです。ですが、聖王が聖王の鎧のような能力に頼って戦いを勝ち進んでも
それで人が納得するともおもってません」
「陛下は潔癖症なんですね」
「うふふ、そうでしょうかしら」
「っていうか、陛下はフロントアタッカータイプじゃないですよ、どう見ても
フルバックタイプじゃないですか。学究肌の陛下が、どうしてまたストライクアーツを？」
「どうしてでしょうね。聖王である以上、戦いからも逃げるべきではない、そう思ってるだけですわ」
……聖王である以上、戦いからも逃げるべきではない。
エミーさんは、聖王であるために、相応の覚悟をもってインターミッドに臨もうとしている。
翻って、私はどうでしょうか。エミーさんのように、能力を封じてまで、納得のいくような
強さを求めているのでしょうか。
「で、シスターシャンテ、何を勝手に陛下とストリートファイトをやってるんです？」
「あら、シスターオットーにシスターディード、いつこちらに見えられたのですか？」
「シスターシャンテが無茶してないかどうかお目付にきたんですよ」
「やだなあ。あたしはそんなに信用できないですかね」
「信用も何も、今さっきストリートファイトをやってたじゃないですか」
「あれは陛下と一緒の合法的なファイトのはずですよぉ」
「陛下に怪我でもあったらどうするんですか」
「聖王の鎧があるから怪我をするわけないじゃないですかぁ」
「一部始終みてたんですよ。聖王の鎧を封じておられることも、わかった上で
打ち込んでたでしょう？」
「う、まあ、そうなんだけど。けど、エミー陛下が本気を出せばシスターシャッハにも
勝てるわけだし、その……」
「言い訳は帰ってから聞きます、とりあえず、今日は帰りますよ、シャンテ」
「うぅ……なにもバインドして引きずって行かなくてもいいじゃないかぁ」
「シスターシャッハにもよろしくお伝えくださいね。シスターシャンテ、シスターオットー、シスターディード」
「わかりました、陛下。シスターシャッハにもそう伝えておきます」
「では、ご機嫌よろしく、陛下」
「じゃ、陛下、こんどはインターミッドで」
「いい加減懲りなさい」
シスターシャンテは、シスターオットーとシスターディードに、文字通り引きずられて
この場を去っていきました。しかし、聖王の鎧を封じるとは一体……。
「どうされました、アインハルトさん」
「いえ、聖王の鎧はけっして反則ではないはずなのに、どうして封じるのか、それが不思議で。
相手は普通に武器を使ってくる上に、常に全力を用いてくるんです。
むしろ、用いることの出来る全力をもって対戦するのが、礼儀ではないかと思って」
「私も全力で立ち向かいますよ。私の使えるストライクアーツのすべてを使って。
聖王の能力を出し惜しみすることなく。ですが、聖王の鎧はストライクアーツとは無関係ですし
第一、聖王の鎧を発動しても、その前にLPは低下してしまいますもの」
「……肉体に打撃が行くほどの攻撃を受けない限り、聖王の鎧は発動しない、そういうことなんですね」
「ええ、そうです。肉体に打撃が行く前の段階で、LPを低下させる。そのおかげで
DSAAはスポーツになってるのですものね」
「スポーツとしての、格闘ですか」
「ええ、……そういって、ノーヴェさんは教えてくれましたわ」
「おーい、エミー、アインハルトさん、そろそろ行かないと、はやてさんや
リインフォースツヴァイさんや、アギトさんが待ってるんだから」
「そうだね、そろそろ行こうよ、エミーちゃん、アインハルトさん」
「そうですわね。今日は、アインハルトさんのデバイスのお披露目でしたわね」
「……私の、デバイス……」
「どうした、アインハルト」
「い、いえ、一体どんなデバイスになってるのかと思いまして」
「全部あっちに任せたんだろ。どんなデバイスかはわからないけど
悪いようにはしてないはずだぜ」
「ええ、そうですね」
「よし、じゃあ出発！」
私は、むしろみんなの後についていくようにして、八神家に向かいます。
「いらっしゃい、みんなようきてくれたなあ」
「中身の基本はリィンが作ったですよぉ」
「外装はあたしが作ったんだぜ。きっと、気に入ってくれると思うんだけどさ」
「外装はアギトさんが作ったのか、一体どんな外見になってるんだ？」
「へっへー、ルールーからクラウス陛下のことを聞いて、それにちなんだ
格好にしてあるんだぜ」
「ルーテシアさんから聞いて、クラウスにちなんだ格好に？」
「そう、クラウス陛下って、豹を飼ってたって聞いたぜ。
それで、外装も豹に似せてつくってあるんだよ」
「豹に似せて作ってあるんですか。けど、あまり巨大だと取り回しが難しくないです？」
「その辺りはちゃんと考えて作ったってば。あたしを信用しろよ」
「そもそも、どうしてクラウス陛下は、豹を飼ってたんですか？」
「シュトゥラ地方では、雪原豹は優秀な狩人ですから」
「ふーん、猟犬を飼うような感覚で飼ってたのかなぁ」
「遊びだけじゃないんですよ、実戦にも投入されてたんです」
「クラウス陛下のことを話すときって、昔のアインハルトさんは気重そうだったけど
最近は、楽しそうに話すんだな」
「そうでしょうか、リオさん」
「私もそう思うよ、ね、エミーちゃん」
「ええ、そうですわね、コロナさん」
「前振りはそれくらいにして、そろそろお披露目と行こうじゃないか、行けリィン」
「はいですぅ。これが八神家特製のアインハルトさん用デバイスですよぉ」
これが、私のデバイス……
「あけてよろしいですか」
「あけなきゃお披露目式にならへんのよ」
「それもそうですね。では、あけさせていただきます」
箱の中に入っていたのは、小さな豹のこどもに似たぬいぐるみでした。
けど、これだけ頭が大きくて体がちっちゃいと、どう見てもねこですね。
「……雪原豹をモチーフって言ったよな、アギト」
「せっかくだからかわいらしくしたんだよ、文句あるか」
「ま、その、……デバイスは性能ですよね、やっぱり」
「あー、そこ、スルーするな」
「かわいらしいですね。本当にもらってよろしいんでしょうか」
「良いも悪いも、アインハルトのために作ったんやで、もらってもらえへんと
うちらがへこむわ」
「あ、すいません」
「謝ることでもないですよぉ。とりあえず、マスター登録するですぅ」
「そうですね、では、庭でマスター登録することにしましょうか」
私たちは、八神家の庭に出ました。
「で、名前はなんにするの？」
「名前ですか」
「そりゃ、デバイスの識別には名前が必要だからさ。
レイジングハートみたく、初めから名前があるって方が例外で」
「……名前……」
名前、ですか。考えていませんでした。
ですが、この子には、良い名前をつけてあげたいと思います。
クラウスとの思い出の名前がよいように感じます。
……そういえば、特にオリヴィエ殿下がかわいがっていたつがいがありました。
気の早いオリヴィエ殿下が、生まれることの出来なかったその子につけようと
していた名前がありました。その名前を、私はこの子に送ろうと思います。
「あなたの名前は、アスティオン、マスコットネームはティオ」
「にゃあ」
「アスティオン。セット・アップ」
ティオを起動してみます。
……うん、良い感じです。私の魔法波動によくなじみます。
「あれ、なんだか髪型が変わってる」
「きっと、ティオが調整してくれたですよぉ」
「そうなの、ティオ」
「にゃぁ」
……どうみても、ねこですね、この子。
けど、本当にかわいらしい、私の愛機です。
ですが、これは、インターミッド参加への条件が満たされたというのに過ぎません。
私たちの実力で、インターミッドを勝ち抜くのは、多分不可能です。
あと二ヶ月で、どれだけ底上げできるか。本当の戦いは、これからです。