めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜古代ベルカ語専門家 ルーテシア・アルピーノ〜
「ルーテシアさん、見せたいものって、なに？」
「そういえば、すごいものを見せてくれるって話だったよな、コロナ」
「うん、そうだね、リオ」
「ねえ、ライチェントゥークス、すごいものって、やっぱり料理かな、お菓子かな」
『我が主、料理やお菓子なら、昼食の時に見せてくれてると思いますが』
「あは、やっぱり」
「ふふ、高町さんは相変わらずですわね」
「えー、エミーちゃん、じゃあ、エミーちゃんはなんだと思うの」
「ルーテシアさんが見せたいというものですから、何か、本ではないでしょうかしらね」
「エミーちゃん、正解」
「へー、エミー、すごい推理力だな」
「当てずっぽうがたまたま当たっただけですわ。それに、本と言っても
種類がたくさんありますから、いったいどんな本であるかまで
推理しなければ、推理したことにもならないでしょう」
「……古代ベルカ関係の本だろうということはわかります。
ですが、古代ベルカのどんな本かまでは……」
「アインハルトさん、やっぱり、わかる？」
「いえ、なんとなくそんな気がしたんです」
「ま、そっか、わたしが古代ベルカ語が読めるっていうのは
もうみんな聞いて知ってるよね。今から見せるのも、そういう本の一つ」
「見せてもらっても、私たちには読めないよ、ルーテシアさん」
「心配御無用、月光ちゃん。ちゃんとわたしが読んであげるから」
『古代ベルカ語でですか、ルーテシアさん』
「ちょっと、それ信用なさ過ぎ、ちゃんとミッド語に翻訳して読んであげるから大丈夫」
「それで、いったいどんな本なんだ」
「それは……と、著者の名前を言ったらすぐにわかるはずだよ」
「著者の名前？」
「そう、著者の名前」
「……クラウス インクヴァルド？」
「……あー、先に言っちゃだめだよアインハルトさん」
「クラウスって、覇王インクヴァルドの名前だったよね」
「そうよ、コロナちゃん」
「覇王インクヴァルドに、回想録があるなんて初めて聞きました」
「後世の贋作って言う説もあるから、本物の回想録として定説になってる本じゃないの。
だけど、わたしは、この回想録に出てくるクラウスって、本物じゃない買って言う気がする」
「クラウスが回想録を書いていたのは本当です。そういう記憶はありますから」
「そっか、アインハルトさんって、覇王インクヴァルドの記憶を受け継いでいるんだから
本物かどうかは、聞いてもらったらすぐわかるんだ」
「いえ、回想録を書いていた記憶はありますが、内容までは記憶していないんです。
私が持っている記憶は、あくまで断片的なものですから。ただ、その断片的な
記憶をつなぎ合わせると、そう長くもない、クラウス・インクヴァルドの一生を
思い出すことが出来るんです」
「そう長くもないって？」
「覇王インクヴァルドも、その覇業の途中で命を落としています。
古代ベルカは、戦乱うち続く世界。空はどんよりとした雲に覆われ、
鳥ではなく戦船が浮かび、荒れ果てた地上を顧みる人とてない。
クラウスも、そんな世界の中で、ひたすら戦いに明け暮れる一生でした。
ほんの少し、安らぎの記憶があるぐらいで」
「ほんの少しの安らぎって、どんな記憶なの？」
「ヴィヴィオ、そっから先は、ルーテシアさんの回想録の方で教えてもらおうぜ。
たぶん、ルーテシアさんは、もうあらすじぐらい頭に入ってるはずなんだからさ」
「そっか、せっかくルーテシアさんが本を用意してくれたんだもんね。
ルーテシアさんに読んでもらわないと、ルーテシアさんにも悪いか。
冬美ちゃん、気が回るね」
「あたしが気が回るんじゃないんだ、ヴィヴィオが気が回らなさすぎるだけ」
「えー、それってひどいよ冬美ちゃん」
「ふふ、脱線はそれくらいにして、ルーテシアさんのお話を聞いてみましょう」
「うん、エミーちゃん」
「えと、楽しい記憶と言えば、やっぱりここかな、聖王女オリヴィエとの
ロマンスのとこ」
「ロマンスって、戦場での出会いとか、”おおクラウス。あなたはどうしてクラウスなの”とか
そんなお話？」
「残念ながら、そうドラマティックな出会いがあったわけじゃないの。
クラウスとオリヴィエとは、兄弟同然に育てられた二人、というだけね」
「けど、クラウスの先代で、一度インクヴァルド家は滅亡したんだろ。
それで、どうして兄弟同然に育ったりするんだ？」
「覇王の異名は伊達じゃないってこと。弱冠10歳にして、兵を借りたクラウスは
あっという間に父王の居城を奪い返したの。
その後、自ら覇王を名乗ったクラウスは、聖王家との結びつきを求め
それに応じた聖王家から送られてきたのが、後の”最後のゆりかごの聖王”と
呼ばれることになる、オリヴィエだったんです」
「オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだよね」
「ええ、コロナさん」
「でも、なんでオリヴィエが選ばれたんだろう」
「聖王家の血を引いているとはいえ、王位継承順位はかなり低かったので
有り体に言えば、人質交換といったところでしょう」
「人質として差し出されたってわけか。けど、兄弟同然に育ったんだよな」
「ええ、回想録の中でも、オリヴィエとのつきあいは、楽しい記憶として残されてます」
「ロマンスっていうことは、やっぱりいろんなことをしてたのかな」
「いろんなことというか、武道の修行仲間みたいなつきあいをしていたようですね。
ともにベルカの地に平和をもたらすための力を求める同志といったところでしょうか」
「へー、そういう仲だったんだ、けど、それってロマンスなのかな」
「本人にとっては、甘い思い出として残ってるみたいだから、そうなんじゃない」
「ええ、オリヴィエとの生活は、楽しい記憶として残ってます。
オリヴィエと別れた後のクラウスの生活が、ひたすら戦いに明け暮れていただけに
戦いの準備とはいえ、同志と武道に励むことが出来た、あの時期は、とりわけ
太陽の輝きにもにた、まぶしい時として記憶されてるんです」
「へー、そうなんだ。……なあ、ヴィヴィオ」
「なに、リオちゃん」
「ヴィヴィオって、オリヴィエのクローンなんだよな」
「うん、そうらしいね、エミーちゃんも一緒」
「だけど、クローンにしてはあんまり似てないよな」
「エミーちゃんともあんまり似てないよ、遺伝子情報がかなり欠落してたんじゃないかな」
「聖骸衣についてた血液から生まれたんだもん。時代もたってるし、経年変化とか
突然変異分とか、あるんじゃないかな、やっぱり」
「そういえば、犬や猫のクローンを作るビジネスをやってる会社もあったけど
あんまり元の動物に似ないっていう理由で、廃業になったってニュースを見たことがある」
「え、そうなの冬美ちゃん」
「ああ、まあ、ちょっと新聞を見ただけだから、記憶違いかもしれないけどな」
「うわぁ。冬美ちゃんって新聞を読むんだ、ちょっと意外」
「なんだよ、ヴィヴィオ。あたしが新聞読んだらおかしいか？」
「新聞って、難しい漢字とかいっぱい出てるんでしょ、ヴィヴィオ、あんまり
読めないんだよ」
「その代わりヴィヴィオは外国語が得意だろ、人それぞれなんだって」
「そっか、ありがと、冬美ちゃん」
「あ、続けていい？」
「いいよ、ルーテシアさん」
「おーい、みんな、そろってるか」
「あれ、ノーヴェさんいらっしゃいませ。ノーヴェさんも一緒に
ルーテシアさんのお話をお聞きになりませんか？」
「それなんだけどさ、エミー陛下。今から大人組が訓練を始めるから
ちょっと見に行かないかって誘いに来たんだ」
「大人組の模擬戦ですか？」
「そう、本局教導官の指導風景なんて、普通に見られるものじゃないからさ。
それに、アインハルトには約束したからな、勉強になるからこいよって。
今回の”勉強”の目玉がこれなんだから、見なければそんだぜ」
「本局教導官、といったら、どなたなんですか？
それらしいかたは見かけませんでしたが……」
「あ、えと、アインハルトさんって、週刊誌とか雑誌とか読まないの？」
「時々新聞は読みますけど、週刊誌などは興味がないので読んでません」
「それで、管理局の白い悪魔のこともしらないんだ」
「どういうことなの、リオさん」
「んーと、見ればわかると思うよ、アインハルトさん」
「コロナさん？」
「ふふ、百聞は一見にしかずですわ、アインハルトさん」
「管理局の白い悪魔、名前は聞いたことがあります。
ですけれど、そんな風に呼ばれるような方が一緒に旅行にこられてるようには
みえませんでしたけど」
「あはは、まあ、鬼の高町は訓練の時だけだからな。
ちょっと見ただけじゃわからないのも無理はないか」
「高町？ もしかして、なのはおばさんのが白い悪魔なんですか。
とてもそうは見えないんですが」
「なのはママがそういう風に見えないのは当たり前。
肉体関係の戦闘訓練もちゃんと受けてるけど、ちっちゃい頃は
運動音痴だったって聞いてるよ。だから、格闘で鍛えてる
アインハルトさんだったら、戦闘やるようには見えないのかもね」
「とにかく、早く行かないと、はじまっちゃうぜ」
「はーい」
あれあれ、みんな体を動かす方が本を読むことより好きなみたい。
ま、いっか。まだ日は高いんだから。
本は、また夜にでもゆっくり読んであげれば。