次元港を出発して４時間。さすがの我が主も疲れて眠っている最中に
我が主とその友達たち、そして旧機動六課フォワードチームに
ジンベルリッターに、なのはさんとフェイトさんを乗せた客船は
アルピーノ親子の待つ無人世界へと到着しました。

次元港なんていう豪勢なものはないので、普通に短距離転送で降下です。

「ライチェントゥークス。短距離転送って普通なのかな」
『民間船では、あまり一般的とはいえないかもしれませんね、我が主。
　転送装置で降着しなければならない分、船賃もお高くなってます』
「転送って、なんか感覚が狂うんだよな」
「けど、移動してる実感はあるでしょ。テレポートとは違うんだよ」
「ま、ヴィヴィオの言うのもわかるけどさ。けど、なんか普通に
　移動するのとは、なんていうかな、加速度を感じないのに動いてるっていう
　奇妙な感覚がするんだよ」
「自由落下だと思えば、そんなものですわ、冬美さん」
「エミーはなれてるのか？」
「私は、自分でも転送魔法を使いますから、それほど
　奇妙な感覚だとも思いません。
　自分で自転車に乗ることと、人に自転車に乗せてもらってるのとの
　違いではないでしょうか」
「そんなもんかな。あたしは魔法使いじゃないからわからないや」
「あたしも転送魔法にはまだなれてないけど、いずれ使えるようになる予定なんだぜ」
「転送魔法かぁ。クラナガンじゃ禁止されてるけど、使えると便利だよね」
「そうそう、遅刻しそうになっても転送でさっと教室に入れると便利じゃないかな」
「ベルカ自治領でも、転送魔法は禁止ですよ、リオさん」
「どうやら、お出迎えみたいだぜ」

ノーヴェさんの言うとおり、お出迎えです。
ルーテシアさんに、メガーヌさんが、我々の転送ポイントまで
わざわざお越しになってます。

「いらっしゃい、みなさん。長旅で疲れてないですか」
「いえ、船の中でゆっくり休んでましたから」
「久しぶり、ルーちゃん」
「久しぶりキャロ、それにエリオ。うわ、エリオってまた背が伸びたね」
「ルーテシアも大きくなったね」
「私だって成長したんですよ……１５mmも」
「ミリ単位で主張するなんて、背伸びしなくてもいいよ、キャロ」
「うー、なんで私だけ背が伸びないんだろう」
「ねえ、ライチェントゥークス」
『なんでしょう、我が主』
「ヴィヴィオは、ちゃんと背が伸びるかな」
『我が主は、まだ9歳ではありませんか。成長期はこれからですよ』
「キャロお姉ちゃんは、成長期が遅いのかな」
『本当に、エリオさんにキャロさんの成長が全部すわれてるのかもしれませんね』
「うー、ヴィヴィオも誰かに成長要素すわれたくない」
『そんなことをいうと、キャロさんに失礼ですよ』
「え、エリオお兄ちゃんにじゃなくて」
「おい、ヴィヴィオ、機動六課組はアスレチックコースでトレーニングするそうだけど
　あたしらは川でトレーニングだってさ」
「川で？　川でなにやるの？」
「さあ、なんかおもしろいことをやるってノーヴェさんは言ってるぜ」
「おもしろいことだって。ねえ、ライチェントゥークス、何をやるんだろう」
『私に聞かれてもこまります、ノーヴェさんについていけば何かわかるのではないでしょうか』
「おし、全員話は聞いたな。じゃあ20分後に水着に着替えて集合だぞ」
「はーい」

説明しておきますと、ここは赤道直下の高地、つまり常春の国なのです。
いえ、常春と言うにはちょっと暑いですね。つまり、水遊びには最適な場所ということです。

「いっちばーん」
「リオ、おまえ水着を下に着てたんじゃないか」
「そんなことしねーよ。冬美じゃあるまいし」
「あたしは、水着なんて持ってきてない。ルーテシアから借りてきたんだ」
「ヴィヴィオは変身魔法を使ったんだよ」
「ヴィヴィオちゃんが一番ずるだと思う」
「その割に、出てきたのは一番最後だったね」
「あ、それは言わないでコロナちゃん」
「ふふ、水着が無くても、こんなこともあろうかと
　各種用意してくれてたそうですわ。
　主に、ルーテシアさんのお古ですけれどもね」
「エミーちゃんは、水着を持ってきてたんだよね」
「ええ、プールでの訓練もやってますから」
「プールでの訓練？いったいなにをやるんだよ」
「おーし、とりあえず適当に柔軟やってから水に入れよ」
「はーい、ノーヴェさん」
『クリス、あなたはエミーさんのそばに行かないんですか』
……
『外装がぬいぐるみだからぬれると飛べなくなる？ちょっと
　外装を作った人に文句を言った方がよくはありませんか。
　雨が降ったら実用にならなくなるなんて、設計思想を疑いますよ』
……
『いえ、すいません。そういうつもりもなかったんですけどね。
　本来はエミーさんに抱きかかえられて使われるデバイスなんですね』

かくいう私も、川岸で我が主たちが泳いでいるのを見守っています。
主たちは、さっそく水遊びではしゃいでるようです。

「よーし、向こうの岸まで往復競争だぞ」
「さんせー」
「……うう、泳がなきゃだめか？」
「どうした、運動は万能だってヴィヴィオから聞いてたぞ、冬美」
「たいていの運動は出来るけど、泳ぐのは苦手なんだよな」
「なんでだよ。泳ぐのって気持ちいいぞ」
「犬かきなら得意だよね、冬美ちゃん」
「顔を水につけずに済むからな。……って、ヴィヴィオぉ」
「わ、冬美ちゃん、怒った？」
「怒ってねえ。怒ってないけど、まあいいか、犬かきでもはやけりゃいいんだ
　速ければ」
「冬美ちゃんって、犬かきなのにスピードは平均的だよね」
「ゲッコウ、それ、ほめてるのかけなしてるのかわかんねえぜ」
「あの、鍛錬ではないのですか、ノーヴェさん」
「あ、なんだアインハルト、水遊びだけしてるように見えてるのか。
　けど、おまえも一緒に泳いでみろよ。ちょっとは、あいつらを見直すと思うぜ」
「あいつらって、エミーさんたちのことですか？」
「ああ、……まあ、泳いでみればわかる」
「そうですか、それでは……」

今まで川岸に立っていたアインハルトさんが、川の中に飛び込みます。

「アインハルトさんも参加するんだ。よーし、負けられないぜ」
「中等部の方が参加されるのでしたら、全力で行かなければなりませんね」
「そんなのりのりにならなくても、普通にやればいいと思うよ」
「川に流されなければなんでもいいよ」
「月光ちゃん、そこまで弱気にならなくてもいいのに」
「うー、最下位でなければなんでもいい」
「よーし、みんな位置についたか。よーい、どん」

スピード勝負なら、クロールが圧倒的に有利です。
けど、月光さんは平泳ぎ、冬美さんは犬かきです。
ですが、アインハルトさんは、我が主と並んで泳いでます。
そして、エミーさん、リオさん、コロナさんは、我が主を引き離して
もう向こうの岸までたどりつき、ターンしてきてます。

「ヴィヴィオ、クロールの割に遅いぞ」
「えー、ヴィヴィオも一生懸命泳いでるのに、リオちゃん速すぎるよ」
「毎週2回水泳トレーニングをしてるから、それなりに速く泳げないと」
「ふふ、練習量の差がそのまま出てるだけですわ」
「うー、なんか悔しい、パティシエさんだって、体力は必要だって
　桃子おばあちゃんが言ってたのに〜」
『我が主、スピード勝負と体力はまた別だと思いますが』
「エミーちゃんだけじゃなくて、コロナちゃんやリオちゃんにまで
　負けると、なんか第97管理外世界組がぼろぼろな気がするんだよ」
『それは考えすぎです、我が主』
「でもでもでも〜次は水中バレーボールで対決だよ」
「よし、受けて立ってやるぜ」
「まあ、まてよ、とりあえず、アインハルトのために、エミー、クリス、リオ
　水斬りをやってみせてやれよ」
「水斬り？　O.K.師匠」
「はい、師範代」
「ええ、わかりましたわ、ノーヴェさん」
「水斬り？　水を斬るっていうんですか」
「ん、その通り……って、なんだ、なんか信用してないってかおだな。
　まあ、よく見てろ」

水面で、エミーさん、コロナさん、リオさんの三人が拳を構えます。
いったい何を始めるつもりなんでしょう。

水中で拳をふるうと、勢いよく水が割れます。
そう、まるで、拳で水を切り裂いたように。
これが水斬り、まるでモーセが紅海を割ったような光景です。
規模は、全然違いますけどね。

「うわー、すっごーい。ねえねえ、ヴィヴィオもやる〜」
『我が主、大丈夫ですか』
「まてよヴィヴィオ、ヴィヴィオがやる前に、アインハルトにやってもらおうぜ」
「え、私がやるんですか？」
「トレーニングの一種だよ。まあ、お遊びっちゃお遊びなんだが
　……とりあえず、やってみればわかるさ」
「わかりました、やってみます」

水を斬る。それには十分なエネルギーが必要です。
覇王断空拳では、踏み込みでエネルギーを得ますが
水中では、踏み込みでエネルギーを作るわけにはいきません。
どうするのでしょう。

どっぱーん

巨大な水柱が立ち上ります。
水を斬るというより、水を砕いたようです。

「……なんとなくわかった。力じゃなくて勁を水に作用させる技法なのか」
「冬美ちゃん、それどういうこと？」
「ん、まあ、あたしがやってみて、思い通りに出来たら、説明するよ」
「思い通りに出来たらって？」
「まずは、やってみないと、勘違いなんだか、本当にわかったのかすら
　判断つかないだろ」

そういうと、冬美さんは水中で構えます。
しかし、その構え、妙に後ろに重心がかかってるように見えますけど
これでいいんでしょうか。

「要は、水に勁を伝えればいいんだ、だから、拳と一緒に水が動くように
　拳に水をまとうようにして、水で水を断つ！」

ばさっ。

まるで、水の固まりが水を引き裂くように水が二つに割れます。

「……まあ、最初だからこんなものかな」
「うわあ、冬美ちゃん、一度見ただけで極意がわかったんだ、すごーい」
「極意っていうか、アインハルトさんの失敗を見たおかげだよ。
　先にやってれば、あたしも、水柱を盛大に立ててたと思うぜ」
「あの、もう一度やってよろしいでしょうか」
「アインハルトさんも、原理がわかったみたいだな」
「ねえ、冬美ちゃん、原理って？　私にはまだよくわからない」
「あ、ゲッコウにはわかりにくいかもな。力と勁の違いがわからないと
　説明しても伝わりにくいと思うぜ」
「力と勁？　何が違うの？」
「簡単に言うと、力は止まるが、勁は抜けるんだよ。
　もっと手っ取り早く説明するか。
　要するに、だ。力で水を打ち抜くとこうなる」

そういうと、冬美さんは、拳を水面にたたきつけました。
ぱしーんという音とともに、盛大な水柱が立ち上ります。

「これが、力。
　同じ拳でも、勁を発動した場合には、こうなる」

そういうと、冬美さんは、再び水面に拳を構えます。
そして、水に拳を打ち込むと、こんどはまるで
水がクレーターのようにへこみます。
クレーターのように、ですから、もちろんこぶしを中心とした
盛り上がりは出来ているのですけど、砕けた水柱というような
ものではありません。説明は難しいのですが、まるで
巨大なミルク・クラウンです。
どっかの缶詰屋さんの宣伝をイメージすると、もっとわかりよいでしょうか。

「これが勁、な、全然違うだろ」
「ありゃ、こりゃあたしの出番ねえな」
「ノーヴェさん、どういうことなんですか」
「どういうこともこういうことも、見ての通りだぜ。
　ていうか、アインハルトには、もう言わなくても
　どうやればいいのかわかったんじゃないのか？」
「ええ、冬美さんのやっているのを見ればだいたいわかりました。
　もう一度やってみます」

そういうと、アインハルトさんは、再び水中でこぶしを構えます。
最初はゆっくり、柔らかく、しかし同じ加速度を維持してこぶしを動かし
そして、短く小さな踏み込みで、こぶしと一緒に移動していた
水を突き放すようにして放つ！

まるで、拳が水を割ったかのごとく、水が拳の先から遠のきます。

「距離は全然ですね」
「けど、一回の説明でこれだけ出来るなんて、やっぱり
　アインハルト先輩はすごいです。
　私は同じように出来るようになるまで二週間かかりました」
「あたしも、丸一日練習してやっと出来るようになったぜ。
　よく一回見ただけで出来るな、さすが先輩」
「あ〜ヴィヴィオもやる〜」
『我が主、あまり無理はなさらないでください』
「無理じゃないもん。みてて、ライチェントゥークス」

我が主が構えます。

『我が主、言っておきますが、魔法は禁止ですよ』
「言われなくてもわかってるよぉ。構えて、冬美ちゃんがやったように
　重心移動して、水を引きつけ、そして、放つ！」

まるで、魚が水面をはしったかのごとく、水が左右に引き裂かれて行きます。
水しぶきこそたいしたことがありませんが、航跡のような波が
ざっと１０ｍぐらいはしっていきました。

「あれ？　もっと盛大にしぶきがあがると思ったのに」
「……ヴィヴィオ、やっぱおまえ格闘家になれよ、なんで
　見ただけであんなうまくやれるんだ？」
「聖王の特殊能力、一度見た技は使えるを発動しただけだってば。
　水に力を伝えればいいんだし、その方法も教えてもらったんだから
　後は実践するだけだよね」
「……もう一度、やってもいいですか」
「ああ、いいぜ、気が済むまでなんどでも」
「あたしもやるぜ、ヴィヴィオがあれだけうまくやるのを見せられたら
　川崎流の意地にかけても、負けるわけにいかないからな」
「ふふ、私も参加させてもらいますわ。私は、確かに
　一度見ただけで出来るようになりましたけど、あんな風な
　水斬りは、出来たことがありませんものね」
「エミーちゃんは十分チートだよ」

お昼になるまで、エミーさん、コロナさん、リオさん、そして、アインハルトさんの
四人は、ずっと水斬りの練習をやっていました。
それこそ、お昼を食べるのに、腕があがらなくなるぐらいまで。

そのお昼の最中に、後ですごいものをみせると、ルーテシアさんはお話くださいました。
その、すごいものとはなにか、それはまた別のお話です。

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