私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことを呼ぶときは、ヴィヴィオだよ。

「それはみんな知ってるっての。なんで毎回自己紹介から入るんだヴィヴィオは」
「えー、だって、書き出しはお約束って決まってるもん、冬美ちゃん」
「高町さんは、デバイスを使ってビデオレターでも作ってるのかしら」
「ううん、そうじゃないよエミーちゃん」
「だけど、ビデオは撮っておいた方がいいんじゃないかエミー。
　きっと思い出になるぜ」
「そうかもしれませんわね、リオさん。ですけれど、私は
　写真をとりたいと思いますわ。ね、クリス」

こくこく。

「えと、エミーちゃん、クリスってストレージデバイスじゃないの。
　今、エミーちゃんの言葉に反応して頷いたよ」
「そうですね、コロナさん。少しリミッターを解除する許可をもらいました。
　ストレージ系デバイスですから、しゃべったりはできませんけれど
　私の意図を読み取って、必要な行動をしてくれる程度には機能しますよ」
「意図を読み取って必要な行動って？」
「ほら、こんな風に」

そういうと、エミーちゃんはクリスに小型カメラを抱えさせます。
クリス自体がちっちゃなウサギの人形型デバイスだから
小型のカメラといっても、クリスから見れば一抱えです。

「クリス、まずは車内の集合写真を撮りましょう」
「集合写真って、車外に出てとるの？」
「ふふ、高町さんは相変わらずですわね」
「けど、車外に出ないと、なのはママやフェイトママが写らないよ」
「それもそうですわね。集合写真じゃなくて、私たちの写真を撮りましょうか」
「ヴィヴィオ、みんなの写真は次元港に到着してから、ね」
「はーいなのはママ」

フェイトママは運転に集中してます。

「ヴィヴィオ、そこまでゆとりのない運転はしてないから」

てへ。

「おい、アインハルト、写真とるってよ、車外ばっか見てないで
　レンズの方を向いてやれよ」
「いえ、別に私なんか写らなくても……」
「場がしらけるって言ってるんだよ、少しは空気読めって」
「あ、はい……」
「ノーヴェさんもそこまで強く言わなくたって」
「そこまで強く言わないと、アインハルトには通じないんだってば。
　ったく、昔のエミーお嬢様見てるみたいだぜ」
「私はそんなに愛想がありませんでした？
　あ、すいません、アインハルトさん、決してアインハルトさんが
　無愛想だとか、そういうことを言いたいわけではありませんわ」
「……いいんです、本当のことですから。
　確かに、みなさんが盛り上がってる時に、私だけ
　よそを向いているというのも、失礼ですわね」
「じゃ、クリス、記念写真をお願い」
「なんでヴィヴィオが言うんだよ」
「えー、ヴィヴィオがお願いしちゃだめなの〜」
『クリスはエミーさんのデバイスですよ、我が主。横から割ってはいらない方がよろしいかと』
「ライチェントゥークスまで〜」
「ふふ、では、みなさんクリスの方を向いてくださいな。……はい、チーズ」

こんな調子で、ヴィヴィオたちは次元港に向かってます。
あ、説明が遅れました。
今ヴィヴィオたちは、次元港に向かうマイクロバスの中です。
車を運転してるのはフェイトママ。助手席にはなのはママ。
そして、最前列にはアインハルトさんとノーヴェさん。
その後ろがエミーちゃんにリオちゃんにクリスちゃん。
一番後ろに座ってるのが、ヴィヴィオと冬美ちゃんと月光ちゃんです。

「ヴィヴィオちゃん。次元港まであとどれくらいなの」
「えと、ヴィヴィオにもわかんない。道路の標識を見ればわかると思うけど……」
「……単位系はどうせこっちと違うんだろ、文字も違うし、あたしらが
　見ても全然わかんねぇよ」
「いえ、単位系はミッドチルダも第97管理外世界も同じですわ」
「そうなのか。なんかすごい偶然だな」
「たいていの次元世界で、子午線の長さは同じなんです。
　その90度を一万等分した長さも、一致するのが当然ですわね」
「むしろそっちの偶然の方が怖いよエミーちゃん」
「ふふ、ミッド人も地球人も、それ以外の管理世界でも、どの次元世界だろうと
　普通に呼吸できる大気がある偶然に比べれば、たいしたことではありませんわ」
「あ、エミーちゃん、ヴィヴィオそれ知ってる。アルハザード＝プリズム理論だよね」
「アルハザードプリズム理論？なんだそれ」
「あれ、リオちゃん知らないの。かなり昔からある理論だよ」
「なんでコロナは知ってるんだ」
「歴史について調べてたら、普通に見つかるよ。
　超高次元体アルハザードが次元世界に投影されてるのが
　個々の次元世界だっていう理論。次元世界同士がほとんどすべて
　同じ世界に見えるっていう理由付けの一つになってるんだよ」
「ってことは、ほかにも理論があるってことじゃないか。
　ほかの理論も紹介してくれよ」
「えと、ほかの理論って、マイナーだから私もよく知らない」
「……多重世界理論というのもありますね。アルハザードを仮定せず
　すべての次元世界がミッドチルダの投影だとする理論です。
　ほかにも、タイムシフト仮説とか、相互干渉による相似世界とか
　いろんな理論が提唱はされてます。けど、どれも観測データが不足していて
　決定的な理論は出てないのが現状です」
「……すっごーい、さすがアインハルト先輩、中等部って
　こんな勉強もしてるんだ」
「……勉強、とはあまり関係ありません。私は格闘のトレーニングに
　ほとんどの時間を使っていて、勉強は授業に集中することだけ
　やっていますから」
「授業に集中するだけで、そういう知識も身につくって、やっぱり
　中等部の勉強って難しいんだね。ついていけるかなぁ」
「全教科満点だったのでしょう。あまり自分を卑下しないことです」
「満点だけど、実技がだめで成績は中の上ぐらいなんです、アインハルト先輩」
「へー、全教科満点なのか、すごいな、あたしなんか学校の成績は
　下から数えた方が早いぐらいなのに」
「けど、体育は万能だよね、冬美ちゃんは」
「そりゃ日頃から鍛えてるもんな」
「みんな、あと10分ぐらいで次元港につくからね」
「はーい」

そういえば、時間単位も第97管理外世界とミッドチルダとで共通です。
1日が24時間だからですけれど、それも偶然なら恐ろしい話です。

ヴィヴィオたちは、こんな風にわいわいと騒ぎながら、次元港に到着しました。

「とーちゃーく」
「だから無駄にはしゃぐなっての、幼稚園児かおまえは」
「えー、ヴィヴィオは小学4年生だよぉ」
「ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃんはそういうことを言ってるんじゃないと思うよ」
「わかってる、けど反論したい」
「みんな、なのはさんからはぐれないようにきてね」
「はーい」
「フェイトちゃんは最後尾をお願い」
「うん、わかったよなのは」
「どこで待ち合わせでしょうか」
「出発カウンターだけど、フォワードチームのみんながいるはずだから
　すぐにわかると思うよ」
「やたら背の高いやつがいるわけじゃないから、まぎれてるとわからないかも　
　しれないけど、ハチマキの姉貴が旗を作ってたから、すぐにわかるはずだぜ」
「どんな旗なんでしょう」
「ん、機動六課のマークを入れた旗だって聞いたけど、現物は見てない。
　ま、なのはさんが見れば一目でわかるんじゃないか」
「とりあえずロビーにしゅっぱーつ」
「だからおまえは幼稚園児かって……」
「冬美ちゃん、それ無限ループ」
「次元港で無人世界か、無人世界なんて行くのは初めてだな」
「無人世界っていっても、現地にはルーテシアちゃんの家族がいるから
　全くの無人って感じはしないと思うよ」
「キャロさんやエリオさんのいる世界の方が、無人世界らしいかもしれませんわね」
「２人は、自然保護区の担当でしたよね」
「ええ、そうですね」
「ハチマキの姉貴は、知っての通りのレスキュー隊」
「ティアナは、執務官で事件担当をやってるね。
　今は、大きな仕事を私設親衛隊にまかせてるって聞いたけど」
「私設親衛隊？いったいどういうことなんですか、なのはさん」
「私設、っていったら言い過ぎかな。けど、あえばわかると思うよ。
　見送りにはきてると思うから」
「どういうことなんでしょう」
「それもあえばわかるから」

なのはママは、思わせぶりな話をするばかりです。
けど、ティアナお姉ちゃんの私設親衛隊ってどんな人たちなんでしょうか。
やっぱり『ほっちゃん、ほあ、ほわー』な人たちを集めてるんでしょうか。

『我が主、それでは事件捜査の役に立ちませんが』
「わかってるよぉ。今のはちょっとしたお茶目だから」
『我が主が言うと、冗談に聞こえないから困ります』
「ライチェントゥークスってば、ヴィヴィオをなんだと思ってるのぉ」

なんて言ってるうちに、ヴィヴィオたちはティアナお姉ちゃんたち
旧機動六課フォワードチームの4人と合流です。
あれ？あと4人、見慣れない人たちがいます。
いえ、見慣れないといっても、見覚えがない人たちではありません。
シグナムおばちゃんに、シャマルおばちゃんに、ヴィータお姉ちゃんに、ザフィーラおじちゃんです。
けど、何かが違うような気がします。まずシグナムおばちゃんに
アギトの気配を感じません。
それに、4人とも、腕に銀の腕輪をはめてます。
いったいどういう理由なんでしょうか。

「なのはさん、ご無沙汰してます」
「スバル、元気そうで何より。仕事の方は順調にやってる？」
「えと、あんまり出動機会は多くない方が、平和でいいんですけど
　まあ順調です。訓練では毎日のようにしごかれてます」
「なのはさん、みなさん、これから4日間、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「うわぁ、キャロお姉ちゃんもエリオお兄ちゃんもずいぶん大きくなったね」
「けど、エリオくんの方が大きくなる早さが早いんですよ、ずるいです」
「男の子だから仕方ないよ、ね、エリオ」
「え、ええまあ」
「おかしいなぁ。女の子の方が成長期が早いはずなのに、私は
　あんまりのびなくって、エリオ君だけぐんと伸びちゃうなんて」
「……きっと、キャロさんのご両親も、背は大きくなかったんですよ」
「そっか……パパやママも、ちっちゃかったのかな」
「……何か、私が悪いことをいいましたでしょうか」
「い、いいえ、そんなことはないですアインハルトさん」
「お久しぶりです、なのはさん。捜査ではお世話になってます、フェイトさん」
「こちらこそ、ティアナ。それより、ジンベルリッターに仕事の引き継ぎはしたの」
「それなんですけど、今からでもジンベルリッターの4人を加えてもらえませんか。
　仕事の引き継ぎも考えましたけど、せっかくフェイトさん、なのはさんが
　こられるのなら、ジンベルリッターにも戦技指導をお願いしたいと思いまして」
「オリジナルなら教える側なのかもしれないが、我々はまだA級でしかないからな」
「オーバードライブかけりゃオリジナルと互角だけどよ。長くはもたねーから
　力を節約した戦い方ってーのをおぼえねーとな」
「よろしくお願いします、高町戦技教導官」
「教えることで学ぶこともあるだろう。そう思って引き受けてはもらえないか」
「うーん、私はかまわないけど、先方はどうかな。土壇場で4人も増やして
　大丈夫かな、ノーヴェ」
「ああ、今から確認をとってみる」

ノーヴェお姉ちゃんは、携帯でメガーヌさんと連絡を取り始めました。

「えと、なのはママ、ジンベルリッターって、どういうこと？」
「ヴィヴィオは覚えてない？昔、海鳴市で、エミーちゃんを
　引き留める戦いがあったときのこと」
「うん、もちろん覚えてるよ」
「あのとき、クアットロが作った、ヴォルケンリッターの
　コピープログラムがあったよね。それがジンベルリッター」
「当分保護観察だったが、フッケバインの活動が観測されたことで
　我々も管理局入りして、捜査に協力することにした」
「フッケバインって？」
「ドクターとはまたべつな意味で、狂った組織。
　違法な科学研究に手を染めていて、人殺しもいとわない。
　わかってるのはこれぐらいね」
「スカリエッティもさ、ひずんでるとはいえ、命を愛してはいるからな。
　フッケバインみたいなやり方には賛成出来ないってのもあるんだってよ」
「そういう訳で、我々も対フッケバインの捜査に協力することを申し出て
　管理局に受理されたというわけだ」
「元がクアットロに作られたプログラムだから、かなり
　管理局からは信用がないがな」
「だが、我々のプログラム自体は、オリジナルのほぼ完全なコピーだ。
　オリジナルが主から自立しているのと同程度に、我々も
　クアットロからは独立している」
「リンカーコアも自前だしよ。正直あのめがねのためになんかする気にはなれねーよ」
「……オリジナルが、管理局で危険な職務を引き受けることをもって
　自分たちの罪滅ぼしというのなら、我々もまた、危険な職務を引き受けることが
　我々のしたことに対する、罪滅ぼしにはなるだろう」
「ところで、なんでジンベルリッターって名前なの？」
「あ、それは簡単。シルバーカーテンで作られた騎士団だから
　銀の騎士団、ジンベルリッターって名付けたの。
　オリジナルと区別がつくように、4人とも銀の腕輪をはめてもらってるわ」
「オリジナルまで銀の腕輪をはめたら、区別はつかないと思うがな」
「コピーは完璧、だけど、リンカーコアの出力は桁違いに弱い……
　……なんか理不尽なものを感じるぜ」
「元々は、一瞬で消え去るはずのプログラムだった。
　それだけ雑な作りだったのかもしれんな」
「おーい、さっきメガーヌさんと話をして、OKとれたから。
　4人増えても歓迎だってさ」
「ありがとうございます、ノーヴェさん」
「お礼なら向こうに行ってからメガーヌとルーテシアに言ってくれよ。
　あたしは電話しただけなんだからさ」
「なのは、そろそろ乗船準備に入った方がいいよ」
「あ、そうだねフェイトちゃん。
　冬美ちゃんに月光ちゃんは、こっちの次元港は初めてだよね。
　はぐれないようについてきて」
「はーい」

旅は道連れというけど、あまりに意外な道連れが出来ました。
ヴィヴィオたちは冬休み、エミーちゃんたちは試験休みを利用しての
合宿4日間、どんなことがあるんでしょう。

わくわく、どきどきしてるヴィヴィオは、今日も元気です。

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