私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオだよ。
いまヴィヴィオたちは、ミッドチルダはクラナガンにある
ノーヴェお姉ちゃんが師範代をやってる道場にきてます。
エミーちゃんたちが、寒稽古をやるのに、ヴィヴィオたちもおつきあいです。

「ヴィヴィオ、なにいつまでふるえてるんだよ」
「えー、だって寒いよ冬美ちゃん」
「寒くなきゃ寒稽古にならないっての」
「なんで寒いときにいちいち稽古なんてするの〜。
　もっと暖かくなってからすればいいのに」
「お菓子作りだって、いつも暖房の効いた部屋でばかり作る訳じゃないだろ」
「うん、冷たい水を使わないと出来ないお菓子とかあるよ」
「それと一緒。寒いときにしか寒稽古は出来ないんだよ」
「だからって、寒いときに稽古しなくてもいいのに」
「あら、高町さんは、寒いのが苦手なんですか」
「寒いのと暑いのが苦手だよ、エミーちゃん」
「ふふ、苦手だから、寒いと感じたり、暑いと感じたりするものですわ」
「エミーちゃんは寒くないの？」
「あまり、寒さや暑さは感じないんですよ」
「いーなー。ヴィヴィオは寒かったり暑かったりだよ」
「エミーは鍛え方が違うんだろ」
「そういう冬美ちゃんはどうなの？」
「心頭滅却すれば火もまた涼しだよ」
「今は寒いんだってば、冬美ちゃん」
「ヴィヴィオちゃん、わがまま言い過ぎだよ……」
「ごめんって、月光ちゃん」
「おはよーございます」
「おはよう、ちょっと遅れちゃった」
「あら、リオさん、コロナさん、何かあったのですか？」
「何かあったっていうか、アインハルト先輩を待ってたんだよ」
「アインハルトさんも来られるんですか」
「そうだよ、エミーちゃん。エミーちゃん、知らなかったの？」
「聞いてませんでしたわ、コロナさん。
　アインハルトさんは、しばらく自分で練習するとお聞きしていましたもの」
「師範代が誘ってくれたんだって。エミー、よかったよな」
「ふふ、でしたら、私にも教えてくださればよかったのに」
「びっくりさせようっていうんで、直前まで秘密にしてたんだよ」
「そうですか」
「あんまり、感動なさそうだな」
「そんなことはありませんよ」
「あ、師範代と先輩だ」
「よっす、全員そろってるな」
「はい、師範代」
「ほら、アインハルト、挨拶は？」
「……おはようございます。今日は、第97管理外世界の方と
　一緒に練習をさせていただきます」
「よーし、じゃあ早速柔軟からだな」

まずはウォーミングアップで体を温めます。
体を動かしていないないと、寒さで体が凍り付いてしまいます。

「よーし、体もほぐれてきただろ、じゃあ、基本の型からやっていく
　ところなんだが、他流派のやつに、ストライクアーツの型を
　教えてもしかたないな。まずは、軽くスパーリングでもやってみるか」
「そうこなくっちゃな、師範代」
「なんだ、リオ、えらく乗り気だな」
「クリスマスパーティの時に、組み手をやる約束をしたの、忘れてなかったか」
「当然だよ」
「よし、じゃあスパーリング、3分一本勝負、言うまでもないけど
　魔法は禁止だからな。冬美の方が、魔法が使える訳じゃないんだから」
「了解、師範代」
「魔法ありでもかまわないんだけど、まあ、まずは魔法抜きの実力をみさせてもらおうか」
「よし、じゃあ始め！」

冬美ちゃんと、リオちゃんとのスパーリング開始です。
冬美ちゃんは、川崎流の、リオちゃんは、ストライクアーツの
基本的な構えで相対します。
お互い、相手の実力は全くの未知数なので、うかつに近づくのは
避けてるみたいです。

じりじりと、冬美ちゃんが間合いをつめていきます。
リオちゃんは、それにあわせて間合いを開きます。
けど、リオちゃんは、自分の間合いをとってるつもりかも
しれませんが、この間合いは、冬美ちゃんにとって
一番得意な間合いなんです。
飛び込み上等の冬美ちゃんにとって、少し遠めの間合いのほうが
踏み込みの余地があって……ほら、動いた！

冬美ちゃんが一気にリオちゃんの懐に飛び込んでいきます。
けど、リオちゃんはそれを完全に読み切っていたみたいです。
カウンターを踏み込んで打ち込んで行きます。

「川崎流奥義！一分の見切りっ！」

後ろ足の足首をひねり、踏み込む足を振ってバランスをわざと崩すことで
カウンターパンチをすれすれでかわす。
それが川崎流の踏み込みです。
ヴィヴィオも、この変則的な踏み込みには悩まされました。
けど、カウンターまで見越して、長距離を飛び込むのは
やっぱり、冬美ちゃんの修練のたまものです。

冬美ちゃんの突きが、きれいにリオちゃんの胸に入ります。

「一本、そこまで！」

ノーヴェさんの右手が挙がります。
今のスパーリングは、冬美ちゃんが勝ったようです。
確かに、あれは、知らないとかわせる気がしません。

「つー、なんだ今の動きは、魔法を使わなくてもあんなことが出来るのかよ」
「それが川崎流の奥義だからさ。けど、カウンターが決まると
　決めてかかってなければ、ガードできてただろ。
　左手が動いてたぜ」
「よく見えてるな。完敗だぜ」
「そっちは魔法使ってなんぼなんだろ。
　魔法抜き、それも川崎流を知らない相手に
　負けてられないっての」
「……よし、そこまで言うならもう一回。
　こんどは魔法ありでお願いします、師範代」
「まてよ、魔法を生身の人間相手に使うのは犯罪だって。
　それに、ほかの奴らだって、みてるだけじゃ退屈するだろ。
　次は、コロナとヴィヴィオぐらいでやってみるか」
「うん、いいよ。魔法は抜きでね」
「えー魔法抜き〜。ずるいよそれ、魔法ありでやろうよ、ね、ライチェントゥークス」
『我が主、デバイス乗っ取りは反則ですよ』
「えへへ、やっぱだめか。じゃあ魔法抜きでいいよ」
「ヴィヴィオちゃんって結構せこいんだ」
「コロナ、ヴィヴィオを甘くみるなよ。
　ヴィヴィオはあたしと五分にやれる実力があるんだからな」
「へー、人は見かけによらないって本当なんだ」
「ヴィヴィオはパティシエさんになるから、本当は
　たたき合いとかしたくないんだけどなぁ」
『我が主、やるといったからには、ちゃんとやってください』
「わかってるよライチェントゥークス」

ライチェントゥークスの言うとおり、健康法としてとはいえ
格闘にもつきあうと約束したんです。
自分の言葉には、ちゃんと責任を持たねばなりません。

ヴィヴィオは、ストライクアーツに川崎流を混ぜた
混成の構えで入ります。
コロナちゃんは、やっぱりまっとうなストライクアーツの構えです。
リオちゃんは、きっちりガードを固めてるのがわかります。
コロナちゃんと違って、カウンターねらいというより
まずはヴィヴィオの出方を見守るつもりのようです。
ヴィヴィオも、どちらかというと、守りから入るタイプです。
けど、お互いが完全な守りに入ってしまうと、指導も入ってしまいます。
それでは、スパーリングになりません。

ヴィヴィオは、わざと間合いの外からパンチを連打します。
これでコロナちゃんのガードを引き上げようという作戦です。
コロナちゃんの方は、左手一本で顔面をガードして
右手はあくまで腹のあたりで待機しています。
これでは、パンチを打ってるだけ、ヴィヴィオが疲れてしまいます。
けど、川崎流の踏み込みは、もう冬美ちゃんが見せてしまいました。
使っても通用するような気がしません。
となれば、思い切って飛び込んで……クロスレンジからのハンマーフック！
コロナちゃんは、それをしゃがんでかわすと、蛙跳びからの
アッパーカットを放ってきました。
こちらはスウェイでアッパーをかわすと、重心を後ろ足に残して
足払いを仕掛けます。
コロナちゃんは、蛙跳びでそのまま飛び上がって、足払いをかわします。
これは、見えていたというより、はじめから想定してたんでしょう。
ちょっとヴィヴィオ的には残念です。
でも、勝負はここからです。
足払いの反動を利用して、一回転しながら間合いを開きます。
コロナちゃんが、背中を見せたことでたたみかけてくるのを感じたので
一回転で間合いを開いたんです。

再びにらみ合い。ヴィヴィオはわざとガードを甘くして
コロナちゃんの攻撃を誘いますが、コロナちゃんはそれに乗ってくれません。
それなら、やっぱりヴィヴィオから攻撃です。
えとえと、確かこれはテレビで見た技なんだけど、大丈夫かな……。

おおきく両手を広げて、完全な隙を作ります。
コロナちゃんは、ヴィヴィオの行動が何を意味するのか
全然読めてないらしく、きょとん、としてます。
そこで踏み込んでジャンピングキック！
鶴がけんかするときの格好をまねた攻撃なんだそうです。
意味は、よくわかりません。
コロナちゃんは、これも軽くガードします。
えー、映画じゃきれいに決まったのに。
けど、これで間合いの中にまで入り込めました。
今度は逃がしません。コロナちゃんをタックルで押し倒します。
それからマウントポジションを押さえて……

「一本、それまで、きれいなタックルが決まったところで勝負あり」
「うーん、ヴィヴィオちゃん、やっぱり強いね。
　エミーちゃんが言ってたとおり」
「ヴィヴィオはそんなに強くないって。
　冬美ちゃんの練習に毎日つきあってるだけだよ」
「冬美ちゃんが十分強いのに、それにつきあえるだけたいしたものだよ」
「第97管理外世界組の実力は予想以上だな。
　じゃ、次は月光とエミーでやってみるか？」
「え、あと、私はいいです。練習っていっても、普段から
　冬美ちゃんヴィヴィオちゃんのをみてるだけですから」
「じゃ、スパーリングは終わりにして、基礎練習をやってみるかな。
　リオ、コロナ、今のスパーリングで、自分に欠けてるものがわかっただろ」
「はい、師範代」
「はい、ノーヴェさん」

こんな調子で寒稽古は進んでいきました。
最後に、地球流ということで、ぜんざいを食べました。
作ったのはヴィヴィオなんだよ、偉いでしょ。

寒稽古は、やっぱり寒かったけど、今日もヴィヴィオは元気です。

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