私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオだよ。
今、ヴィヴィオたちは、ミッドチルダのベルカ自治領にある
サンクト＝ヒルデ魔法学校の宿舎にきています。
今日は、第97管理外世界風に言うと、クリスマス。
そして、エミーちゃんたちも、今日から冬休み。
だから、ヴィヴィオたちはエミーちゃんたちと一緒にクリスマスパーティなんです。

「クリスマス、といっても、聖王教会とは無関係ですから、あまり
　大きなパーティにはできませんね、高町さん」
「うん、エミーちゃん。それは残念だと思ってる」
「スバルさんはお仕事だし、スバルさんの家族もそれぞれ用事があって
　出ることができないんだよな、残念」
「スバルお姉ちゃんたちとは、また話すことがあるよ、冬美ちゃん。
　ミッドチルダにきたときには、出迎えにきてくれたじゃない」
「そうだったな。あれはびっくりした」
「ふふ。せっかくのお客様ですもの。きっと、スバルさんも
　冬美さんに会うことを楽しみにされてたはずですわ」
「そうだといいな」
「へー、スバルさんと知り合いなのか。じゃ、ノーヴェ師匠とも知り合いなんだ」
「ノーヴェ師匠？スバルさんの妹か。その人とはあんまりつきあいがないな。
　スバルさんによく似た、赤毛の人だろ。スバルさんは謙遜して
　格闘ならノーヴェさんには負けるって話してたけどな」
「ねえ、ところで、クリスマスって、どういう謂われがあるの？」
「えと、・・・そのお話は、アカリちゃんパス」
「え、わ、わたし？えと・・・何から説明すればいいかな。
　手っ取り早く言うと、ナザレのイエスっていう人の誕生祭りだよ」
「その、ナザレのイエスって、どんな人？」
「おおざっぱに説明すると……聖王教会でいう聖王みたいなものかな」
「なんだ、聖王聖誕祭の第97管理外世界版みたいなものか」
「簡単に言うとそう。こっちの世界にも、クリスマスみたいな祭りがあるの？」
「あるって言えばある。けど、聖王聖誕祭っていったら、なんか偉い
　聖王教会の神父さんがやってきて、あーだこーだと講話をして
　聖王の降誕に感謝の祈りを捧げる日だぜ。
　パーティとか開いたりはしないんだよな」
「そうなのか、ヴィヴィオ」
「うん、確か、聖王降誕祭はそうだったと思う。
　とりあえず、聖王って一人じゃないし、降誕祭といっても
　伝承で聖王女オリヴィエの誕生日らしい日を見つけてきて
　それでお祝いしてるぐらいかな」
「へー。じゃ、クリスマスみたいにパーティを開いたり、プレゼント交換を
　したりはしないんだ」
「する宗派もあるって聞いたことはあるけど、聖王教会じゃしないかな。
　パーティをやるのは、聖王昇天祭の時」
「聖王昇天祭？」
「聖王陛下が天に召された日を記念してる祝日なんだ。
　この日は、午前中は聖王が失われたことを悲しむんだけど
　午後は聖王陛下の幸福な昇天を祝ってバカ騒ぎするんだぜ。
　無礼講なんだ……あんま、あたしは好きじゃないんだけど」
「リオちゃん。それはまたどうしてなの？」
「……いっつも、親父のやつ、聖王昇天祭じゃ羽目を外して
　管理局のお世話になるんだぜ。やってられないっての」
「管理局のやっかいになるって、いったいどんな悪いことをするの？」
「ヴィヴィオ、そんな人を犯罪者みたいにいうなよ。
　ただ、あっちこっちで酒を飲んでべろべろに酔っぱらうってだけ。
　で、家にも帰れなくなって、管理局員に介抱されて、タクシーで
　家にご帰還ってわけ。お袋もそのせいで機嫌が悪くなるんだよな。
　聖王昇天祭には、だからあんまりいいイメージがないんだ」
「聖王降誕祭にも、あんまりいいイメージもってなさそうだけどな」
「冬美ぃ。いったな。ま、その通りなんだけど」
「当たってるんじゃないか」
「ま、な」
「第97管理外世界のクリスマスも、聖王昇天祭みたいなお祝いをするの？」
「うーん、羽目を外したバカ騒ぎっていうのはあんまりやらないかも。
　親密な人と、クリスマスパーティを開くのが普通だよ。
　家族でやったり、友達を集めて開いたりするんだ」
「普通の誕生日と同じなんだな」
「うん、そんな感じ。……と、そろそろパーティを始めようよ。
　ヴィヴィオ、がんばってケーキを作ったんだよ」
「ケーキを作ったって、スポンジ部分は桃子おばちゃんが作ったんだろ」
「あー、冬美ちゃん、ばらしちゃだめだってばぁ」
「ばらすなっていうか、そこらはちゃんとしておかないとな」
「でもでもでも、生クリームのホイップも、飾り付けも全部ヴィヴィオがやったんだよ」
「あら、高町さんが飾り付けをされたのですか。なかなかかわいらしくできてますね」
「でしょでしょ、エミーちゃん」
「ヴィヴィオちゃん、けど、すこしケーキが斜めにかしいでるよ」
「うー、スポンジをスライスするときに、水平に切れなかったのかも」
「つくづく、ヴィヴィオって、お菓子職人より格闘家に向いてるよな」
「冬美ちゃんってば。お菓子作りは難しいんだってば」
「格闘だって難しいっての。簡単にやっちゃうヴィヴィオがおかしいんだ」
「そっかな。一度みた技を忘れずに覚えられる才能があれば、他の人より
　効率的に修行できるっていうだけだと思うよ」
「なんだよ、その、一度みた技を忘れずに覚えられる才能って」
「ほら、エミーちゃんと一緒だよリオちゃん」
「あ、そか、ヴィヴィオもエミーと一緒で、聖王の能力を持ってるんだったよな」
「ええ、ですけれど、インクヴァルドさんには、まだまだかないませんわ」
「あの人は別格だろ。ただでさえレベルが高いのに、さらに高見を目指してて
　日々技術が進歩してるんだから。同じ技でも日進月歩っていうんだから
　さすがの聖王様だって、簡単には勝たせてもらえないって」
「へー、そんなすごい人もいるんだ。お菓子作りの桃子おばあちゃんみたい」
「桃子おばあちゃんって言う人が、ヴィヴィオちゃんのお菓子作りのお師匠さんなの？」
「そうだよ、コロナちゃん」
「いーからそろそろパーティを始めようぜ。もう夜なんだ、そんな長々と
　話をしてるわけにもいかないだろ」
「うん、そうだね冬美ちゃん。じゃ、持ってきたシャンメリーの栓を
　あけて・・と、んしょ、んしょ」
『我が主、人の方向に向けて引っ張ってはいけません』
「え、そなの、ライチェントゥークス」
『栓が急に飛び出しますから、危険です。我が主』
「あ、そうだった。忘れてた、注意してくれてありがと、ライチェントゥークス」
「それがヴィヴィオちゃんのデバイス？」
「そうだよコロナちゃん。ライチェントゥークス。私のインテリジェントデバイスなんだ。
　なのはママのレイジングハートをベースに作られてるんだよ」
『よろしく、みなさん』
「リオさんも、デバイスの紹介をしてはいかがですか？」
「後でいいよ。それより、シャンメリーってなんなんだ？」
「お酒じゃないシャンパンだよ」
「シャンパンって？」
「シャンメリーのお酒……」
「説明になってないぜヴィヴィオ」
「えー、じゃあ冬美ちゃんならどういって説明するの？」
「クリスマスに飲む、泡の出る飲み物なんだよ。
　子供用のシャンパンなんだってさ。
　シャンパンについては、こどもは飲んじゃいけないからよくしらない」
「あはは、とにかく、飲めばわかるよね」
「そういうこと」
「んと……ライチェントゥークス。魔法使っていい？」
『さすがに不許可です、我が主』
「あー、ヴィヴィオは本当にぶきっちょだな。かしてみろよ」
「うん、いいよ冬美ちゃん」
「せーの」

すぽーん。

「わっ」
「あっ」
「悪い悪い、天井に向かってとばしちゃった」
「大丈夫？誰も怪我してない？」
「大丈夫みたいですね、高町さん。
　栓は天井に当たった後、誰にもぶつからずに床に転がりましたわ」
「あ、見えてたんだエミーちゃん、すごいすごい」
「はぁ……これでなんであたしの拳は見えるんだ？」
「気配でわかるんだよ、冬美ちゃん」
「やっぱ、ヴィヴィオって……まあいいや、無限ループになるし。
　じゃ、さっそく乾杯の準備をしようぜ」
「うん、みんなのコップにシャンメリーを注いでっと……はい、これで全員分だよね」
「乾杯って、なんていってするの」
「Merry Christmas!」だよ。
「メリークリスマス、か、どういう意味なんだ」
「楽しいクリスマスを、ぐらいの意味になるかな」
「そうなんだ。じゃ、さっそく」
「「メリークリスマス」」

ここから先はプライベートだからお話もここまで。
だけど、一言だけ言わせて。
ヴィヴィオのケーキはちゃんと評判がよかったんだよ。

『半分以上は桃子さんのおかげですけどね、我が主』
「いくつも失敗しながら練習してきた成果っていってよライチェントゥークスってば」
「あ、ずるいぞヴィヴィオ、自分だけ目立って。
　あたし、コロナやリオと練習試合をする約束をとりつけたんだ。
　楽しみだな」
「こっちの楽器は演奏の仕方がよくわからないけど、エミーちゃんが
　地球風のオルガンを用意してくれたから、演奏したんだよ」
「月光ちゃんと歴史のお話ができて楽しかった」
「コロナは本当に歴史が好きなんだな。こっちは
　冬美との練習試合の方が楽しみだ」
「ふふ、みんな、うち解けてくれて本当によかったことですわ」
「あー、エミーちゃん、自分だけ大人びた言い方した〜」
「ごめんなさいね、そんなつもりではありませんでした。
　ですけれど、時々、高町さんがうらやましくなります」
「どうして？」
「夢に向かって、エネルギーを発揮されてますもの」
「エミーちゃんだって、聖王になるっていう夢があるんでしょ。
　お手本がないだけ、ヴィヴィオより大変だよ」
「ええ、そうですわね」
『我が主、全然プライベートを秘密にしてることになってませんが』
「ま、いいんじゃない、今日はクリスマス。みんな楽しまなきゃ、ね」
『みんな、ですか？我が主』
「もちろん、ライチェントゥークスもね」
『ありがとうございます。我が主』

ヴィヴィオたちは、いつもこんな調子です。
時々失敗してへこむことがあるけど、ヴィヴィオは今日も元気です。

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