1ラウンド終了のゴングが鳴る。
このラウンドは完全にヴィヴィさんのものじゃった。
次のラウンドはどうなるじゃろうか。
「4ラウンド逃げ切れれば余裕でヴィヴィオの勝ちだな。
ただ、リンネに作戦がないとも思えない」
「どんな作戦ですかね」
「いろんな作戦が考えられる。スタミナの少ないヴィヴィオのスタミナを削るために
ガードに徹して、スタミナ切れしたところを叩くのも考え方だ。
あるいは、ヴィヴィオの目をごまかして、死角から一撃を加えるか。
さもなければ、魔力の少ないヴィヴィオにクリーンヒットを入れ続けて魔力切れを狙う」
「どの作戦で来るんでしょう」
「たぶん、全部だな。どの作戦をとるにせよ、ガードを固めてヴィヴィオの動きを見切る必要がある。
それはつまり、ヴィヴィオのスタミナ切れを狙うということだ」
「ヴィヴィさんの動きって、見切れるものなんですか」
「簡単に見切れればここまで勝ち上がってない。が、リンネも才能ある選手だし
事前研究もしてるだろう。ある程度慣れれば見切ることが出来るかもしれない」
「かも、ですか」
「ああ、かも、だな。ここまでヴィヴィオは省エネ戦法でスタミナ切れを起こさないようにしてるようだ」
第2ラウンドもヴィヴィさんの一方的な展開になった。
踏み込もうとすれば、ヴィヴィさんのカウンター。カウンターを避けてアウトレンジしようとすれば
ヴィヴィさんにかわされる。レンジはヴィヴィさんの方が上じゃ。
「第2ラウンドもヴィヴィさんでしたね。このまま判定にいければ、ヴィヴィさんの勝ちは動かないんじゃないですか」
「そうだな。このまま行けば……ヴィヴィオの悪い癖が出れば別だろうけど」
「悪い癖って」
「最初にアインハルトから聞いたろ、フィニッシュブローが大ぶりになる癖があるって。
へたに欲を出してフィニッシュブローを決めようとすると、リンネにつけ込まれるかもしれない」
「下手に欲を出さなければ、ヴィヴィさんの勝ちですか」
「このラウンド次第だな」
第3ラウンドのゴングが鳴る。
第3ラウンドも第2ラウンドの繰り返しのようじゃ。
これならヴィヴィさんは余裕で勝てるじゃろう。
ほんまにヴィヴィさんは強いわ。
リンネが強引に前に出ようとするが、ヴィヴィさんは冷静に間合いを開いてジャブを当てる。
決して無理はしない。回りながらリングを広く使う。
「いかん、ヴィヴィオ」
「どうしたんです、会長」
「ヴィヴィオが疲れてきてる、ジャブに切れがない」
「でも、リンネは相当打たれてますよ。動きが鈍っても……」
「鈍ったように見えるか？」
「いえ、なんか第一ラウンドと変わらない気がします」
「ジルが鍛えたスタミナがここで生きてる。
あいつは無茶なトレーニングをさせるから、ついて行ける選手は少ない。
だが、リンネはそれについて行ける才能の持ち主だ。
ジルが想定したスタミナがリンネに備わってるとしたら……」
「したら？」
「ヴィヴィオは捕まえられる」
「ヴィヴィさんには何か策はないんですか」
「あるかもしれないし、無いのかもしれない。
冬美には秘策があると言ってたけど……」
ヴィヴィさんの打撃に、再びリンネは強引に前に出る。
ヴィヴィさんのストレートがリンネの顔面にクリーンヒットする。
が、全くリンネはひるまず前にでてヴィヴィさんに踏み込む。
ヴィヴィさんのカウンタージャブも顔面に命中するが、リンネはそれもものともせずに
ヴィヴィさんの顔面にパンチを打ち込む。
が、それはヴィヴィさんにガードされる。
次の瞬間、ヴィヴィさんはリングに崩れ落ちた。
「ヴィヴィオのやつ、リンネの足技が見えてなかった」
「見えてなかったって……」
「お前は見ただろう」
「確かに、ローキックがヴィヴィさんの軸足に命中しました。
だけど、あれも魔力で撃ち返せるんじゃないんですか」
「みえていればな。顔面を強打したあと、ボディへのパンチとみせかけてローキックを放った。
ヴィヴィオが崩れたところを見ると、反応出来てない」
「けど、……」
「あれは確実に折れてる。もはや戦いは続行不能だろう」
「また相手を壊しての勝利ですか……」
むちゃくちゃするな、リンネの奴。
けど、ワシが必ず……
「ヴィヴィオ、立て！ 今日は必ず勝つぞ」
「うん、分かってる冬美ちゃん。ちょっと油断しちゃったね」
「作戦は今まで通り。ただ、ちょっと変化を入れる」
「うん、分かってる。ノーヴェから聞いてたあれだね」
冬美さんは、ヴィヴィさんにまだ戦わせるつもりのようじゃ。
じゃが、軸足を破壊されてどんな戦いが出来るというんじゃろう。
「片足だけなら、まだヴィヴィオは戦えないこともない。
ただ、今までのようにリングを広く使う戦いは無理だな。
普通の殴り合いになる。
リンネにそれでどうやって勝つつもりか……」
「足をやられたら、ヴィヴィさんが今までやってたような、リングを広く使う戦いは無理ってことですか」
「ああ、そうなるな」
「大丈夫じゃろうか、ヴィヴィさん」
「リンネは、このラウンドで決めるつもりだろう」
「ヴィヴィさんは立った……軸足を逆に変えた？」
「ああ、あれはアタシが教えた。万が一足を壊された時のために、サウスポースタイルも練習しとけってな。
それが生きたらしい」
「けど、それ、付け焼き刃ですよね」
「付け焼き刃さ。けど、ヴィヴィオは、天才だからな」
「天才って……」
「付け焼き刃でも、並みの格闘家が修練したていどのことは出来る」
会長はそう断言した。
ヴィヴィさんは軸足を変えても今まで通りに中距離砲フリッカーを放つ。
練習したというのは伊達じゃないようじゃ。
しかし、付け焼き刃でどこまでやれるじゃろうか……
「リンネ、前に出て、このラウンドで決めるわよ」
ジルコーチの声が飛ぶ。
リンネは再び打ち込みにかかる。
ヴィヴィさんはずるずるとロープ際に追い詰められ、そしてリンネの連打を浴びる。
「ライチェントゥークス、そろそろだ。ヴィヴィオ、ぎりぎり耐えろよ」
「うん、分かった冬美ちゃん」
そろそろ、って、何がそろそろなんじゃろう。
「持って、あと1歩だけ！」
またスイッチ！ そしてリンネの攻撃をボディで受け止めて体をかわす。
ガードすらしないが、確かにリンネの攻撃も見えてる限り
ヴィヴィさんにはリンネの攻撃は通用しない。
しかし、怪我した足に体重を掛けて大丈夫なんじゃろうか。
リング中央でヴィヴィさんはまたサウスポースタイルに構え直してフリッカーを放つ。
でも、馬鹿の一つ覚えみたいにフリッカーを打ってもリンネにはいずれ見切られるじゃろう。
ほら、リンネが前に出る。
ヴィヴィさんは再びじわじわ下がりながらロープ際に……！
それは、一瞬の出来事じゃった。
一気に踏み込んだヴィヴィさんが、リンネの顔面を打ったんじゃ。
でも、こういう攻撃なら何度もリンネは受けとるはず。
ヴィヴィさんは壊された足に負荷を掛けた、これは大きく響くはずじゃ。
「よし、よくやったライチェントゥークス、ヴィヴィオ」
「リンネさん、大丈夫です？ 立てますか？」
リンネは完全に意識を吹っ飛ばされたらしく、まったく立ち上がれなくなっていた。
ヴィヴィさんの勝利じゃ。
ということは、ワシが勝ち上がれば対戦相手はヴィヴィさん……あれ。
ヴィヴィさんはリングに倒れ込んだ。
「うー、試合が終わったらむちゃくちゃ痛いよう」
「よくやったってほめたいところだし、実際よくやったんだが
こりゃ足を完全にやってるな。次の試合は棄権じゃないか。
痛恨の一撃だったな、ありゃ」
「一瞬リンネさんの攻撃が見えなかったんだよ」
「歩けるか？ ヴィヴィオ」
「歩きたくない……」
「仕方ないな、担架をお願いします」
ヴィヴィさんも、リンネも担架に乗せられてリングを後にした。
壮絶な試合になったもんじゃ。
「ヴィヴィさんは負傷ですけど、リンネも負けててでれないですよね、次の試合はどうなるんですか」
「Aブロックの第3位がでることになるな、大会規定だと。
まったく、ヴィヴィオの奴無茶する。いや、冬美が無茶させたのか」
「一撃でリンネを落とすって、一体なにをヴィヴィさんはやったんです」
「見よう見まねの抜剣さ。
普段はスターライトブレイカーとして、魔法攻撃をするんだが、格闘大会だと
魔法弾は禁止だからな。それで、拳に収束した魔力を乗せてリンネを打った」
「抜剣が見よう見まねで出来るんですか……」
「ヴィヴィオになら出来る。いや、現に出来たっていうべきか」
ひとまずワシらはヴィヴィさんの運ばれるのを見守りに行った。
「ヴィヴィさん、大丈夫ですか」
「あ、フーカさん、じょぶじょぶ、やるべき事はやったから。
あとはフーカさんがやるべき事をやる番だよ」
「いや、そんなことより、怪我は大丈夫なんですか」
「イクスちゃんが治癒魔法を掛けてくれてからそう長引かないと思うよ。
まあ、今回はベスト４進出ということで、ウィンターカップの成績としてはまずまずかな」
「まずまずで済むか、無茶しやがって」
「ノーヴェお姉ちゃん、無茶はしてないよ、ちょっと油断はあったかも」
「それじゃだめだろ。もっときっちりよけてきっちり当てろ」
「もっと間合いを取りたかったんだけど、あれだけ当てれば間合いが開くと思ったんだよ」
「思ったよりリンネが頑丈だったんだな。けど、治ったら間合いの取り方からやり直しな」
「お手柔らかに、冬美ちゃん」
「フーカ、お前はそろそろ試合だ。行くぞ」
「はい、会長」
リンネが負けた、ということは、ワシとは間違ってもあたらん、ということじゃ。
ウィンターカップで当たらんということは、別試合でリンネとやるということになる。
それはそれとして、次の試合勝たんとな。
勝って、リンネとの試合に当たるんじゃ。