リンネの話を聞いてから、また一週間が過ぎた。
話が一週間ごとなのは、平日や土曜日には、別段話すような変化がないからじゃ。
平日は前にも話したとおり、ジムのバイトと修練を平行してやるし
土曜日もそれはかわらん。
その意味じゃ日曜も変わらんのじゃが、日曜日ごとに何かしら変化が加わるんじゃ。
今週もそうじゃった。
「こんにちは、フーカさん」
「こんにちは、ヴィヴィさん。そういえば、今日は日曜日じゃったな」
「曜日の感覚がなくなってるんですか」
「まあ、そういうたらそういうもんです、冬美さん」
「月月火水木金金の練習なんですね」
「ナカジマジムは年中無休だからしょうがないです、アカリさん」
「フーカさんはまだ窓口の仕事があるの？」
「ええ、ユミナさんが来られるまでは窓口です」
「大変だね」
「別に、大変ってわけじゃないです。仕事は好きですから」
「好きでも体は時々休ませてやらないと、痛むよ」
「助言ありがとうございます」
「ま、ノーヴェお姉ちゃんにも言ってみるね。
じゃ、ヴィヴィオ達は練習場に行ってるから」
「はい、行ってらっしゃい」
ヴィヴィさん達は、魔法のある練習はここですることになってる。
ヴィヴィさんを含むことを何かしようとすると、日曜日しかできん。
日曜ごとに変化が加わるのは、たぶん、そのせいじゃろうな。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃいませ」
「フーカ？」
「ええ、ワシがフーカですが、何か？」
金髪でストレートのロングヘアなちっちゃな子、というても、ヴィヴィさんたちとそう変わらんが
雰囲気が絵本に出てくる魔法使いっぽい子が籐のバスケットをカウンターに置いた。
サンドイッチでもはいっていそうなバスケットじゃ。
「開けて」
「あ、はい」
びっくり箱じゃろか。
「わあ、なんですかこれは」
中には、ブサかわいい猫がはいっとった。
「君のデバイス、頼まれて作った。仮の名前はウラカン。
抱いてみて」
「ええんか？」
「君のデバイスだから。名前は仮だから、君が好きなようにつけて」
「好きなようにっていわれても、そもそもデバイスなんか持ったことないから
使い方もわからんし」
「インテリジェンスデバイスだから、使い方は知らなくてもウラカンの方で合わせてくれる」
「はあ……」
「クロ、来てたの？」
「あ、ハルさんこんにちは」
「これが頼んでいたデバイス？」
「ええ、そう」
「ハルさんの知り合いなんですか？」
「ちょっとした昔の知り合い、ご先祖様つながりというか……」
「ただの腐れ縁」
「なんにせよ、ハルさんの知り合いなんですね」
「ええ、そう」
ぶっきらぼうな子じゃが、別に悪人ではなさそうじゃ。
「さあ、練習場に行きましょう」
「はい」
ハルさんも来た事じゃし、練習場に向かう。
練習場では、ヴィヴィさんたちおちびさん……いうても、ワシと一つしか違わんのじゃが……
おちびさん達がもう練習をはじめとる。
ワシも練習せんとな。
さすがに一週間鍛えたから、サンドバッグを３セット殴っても、そう息が切れるということはのうなった。
それでも、平然としとるハルさんに比べたら、まだまだじゃ。
「よぉ。みんなそろってるか」
「はい」
会長が練習場に現れた。
和服が似合う女の人と一緒じゃ。
年の頃は、１８前後じゃろうか。
「ミカヤさん、いらっしゃい」
「そうだ、フーカは会うのが初めてだったよな。
こちらが、うちの顧問になってもらってる、ミカヤ＝シュペル。
天瞳流の師範代だ」
「ミカヤ＝シュペルだ、よろしく、フーカ」
「フーカ＝レヴィントンです、ここのアルバイトですが、ウィンターカップの選手になれるよう練習してます」
「ノーヴェから聞いてるよ。筋がいいといっていた」
「ありがとうございます」
「ミカさんが先になったか、こんにちは」
「こんにちは、みなさん」
「こんにちは、ハリーさん、エルスさん」
「こちらの二人は？」
「ああ、やっぱりフーカは初めてだったな。
こちらの赤毛が砲撃番長こと、ハリー＝トライペッカ。
で、こっちのメガネをかけてるのが、エルス＝タミスン。
バインド魔法にかけては超一流だ」
「まあ、魔法戦総合をやってるが、格闘でもそんじょそこらの連中に後れを取るつもりはないぜ」
「あれからフィジカル面も鍛えましたから」
「ちゃーす、両陛下にその他のみんな」
「こんにちは、シスターシャンテ」
「両陛下？」
「あ、気にしない気にしない。で、こっちの茶髪がフーカ？
確か、教会系の孤児院出身だって？」
「ええ、そうですけど」
「教会の孤児院出身なら、あたしらの姉妹みたいなもんだ、よろしくな」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「さて、ウィンターカップに備えて、これから徹底的な特訓をやる。
そのために、強力なスパーリングパートナーに来てもらった」
「っていうか、U-15に見えない人達なんですけど」
「そりゃそうさ。DSAA、U-19の有力選手達だ。
これくらいの実力の持ち主相手でなければ、リンネ相手に勝てる実力は身につかないぞ」
「はい」
「そういえば、フーカはデバイスをもらったんだったな」
「ええ、クロさんからもらいました」
「じゃ、早速使ってみろ」
「使ってみろって、どう使えばいいんですか？」
「デバイスをもって、かっこよく叫べば大丈夫。
ウラカンがあとは導いてくれる」
「ウラカンか……いい名前だとは思うが、ちょっと言いにくいな。
どういう名前がええじゃろ……そうじゃ、ちょいと縮めてウーラでどうじゃ？
フーカとウーラで、いいコンビじゃろ」
「決まったら、デバイスを装着してみて」
「武装！」
ウーラを持って叫ぶ。
バリアジャケットは、師匠のハルさんを参考にイメージする。
体は、前に聞いたとおり、１８歳ぐらいをイメージして成長させる。
「どうじゃろか」
視点は少し高くなってる気がするから、成長はしとるんじゃろう。
服もこんどは大丈夫じゃ。
「なんだか、アインハルトさんみたいな格好ですね」
「師匠のハルさんを参考にさせてもろうたんじゃが、よかったろうか」
「似合ってますよ、……って、師匠？」
「ずっと教えてもらってますから」
「さて、デバイスを装着したら、ひとまずスパーリングをやってみようか。
まずは私からだ」
そう言うと、ミカヤさんは刀を抜く。
「全力で撃ち込んできてみてくれ、君の実力が見たい」
「分かりました、では、全力で」
大ぶりなのは分かってるが、全力でと言われればケンカ流で殴りかからんと調子がでん。
振りかぶったまま一気に間合いを詰める。
ミカヤさんは、それを微動だにせずに待ち受ける。
それなら殴るまでじゃ。
が、ミカヤさんは、殴る瞬間に体を落としてかわした、そしてワシの足下を切りつけてくる。
じゃが、それに類する対応のされ方なら、前にもハルさんとのスパーリングで経験済みじゃ。
ハルさんはローキックじゃったけど、それが刀に変わっただけ。
対処は出来る。
「ほう、少しは練習してるな」
「まだひよっこですけど」
こんな調子でスパーリングを続ける。
まあ、軽くいなされて終わりなのは始めたばかりだから仕方ない。
へとへとになるころに練習が終わる。
「終わったか？ みんな」
「はい」
「じゃ、せっかくだから汗を流しに行くか」
「こんどはなんの練習です？」
「フーカは練習熱心だな。けど、今回は意味が違う。
新しい銭湯が出来たんで、みんなで行ってみようと思ってな」
「あ、はい、ご一緒します」
そういうわけで、ワシらはみんなで新しく駅前に出来た銭湯に行く。
新しく出来ただけあって、いろんな風呂が設置してある。
泡が出る風呂とか、サウナとか、もちろん普通の大浴場とか、いろいろじゃ。
ワシらはひとまず体を洗って湯船に入る。
「ちょっと聞いていいです、フーカさん」
「なんですかヴィヴィさん」
「あの、リンネさんの昔の話を聞いて、なにかないかなと思って……」
「何か、言われても、事情が分からんよりは、事情が分かって良かったです。
ああいう事があったなら、リンネが変わるだけの衝撃になっても仕方ないです。
ただ、あいつがそれで幸せになってるとは、とても思えない。
幸せになってるなら、あんな濁った目はせんはずです。
だから、あいつには、きちっと言うべきことは言わんといかんと思ってます。
ただ、……今のあいつは、弱い奴の言うことは聞かんでしょう。
だから、ワシも強くならんと」
「思いを受け止めるには、本当の力がいりますよ、フーカさん」
「本当の力？ どういう意味ですか、エミーさん」
「高町さんを見てれば、自然と分かってくると思いますわ」
「そういうエミーさんに、私は教えられましたけどね」
「ハルさん、それってどういうことです」
「話せば長いですけどね」
「別に長い話はかまわんです」
「でも、先にエミーさんに話を譲りましょうか」
「そうですね、高町さんと私の話からしましょうか」
エミーさんにも、ハルさんにも、重い過去があったんじゃな。
それを乗り越えて、今のエミーさん、ハルさんがある。
リンネも、それを本当に乗り越えられるじゃろうか。