めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜聖王教会シスター、シャッハ〜
「どうしたんですか、エミー」
「シスターシャッハ、あなたが、どうしてシスターになろうと思われたのか
お聞きするのが、それほど突飛なことなのでしょうか」
「突飛というわけではありませんけど、またどうして
そんなことを聞きたいと思ったのか、それが疑問です」
「アインハルト先輩の思いを受け止める。そのために
必要なことを今探しているんです」
「アインハルト先輩とは、どなたです？」
「すいません、その説明が先でしたね。
ノーヴェさんから紹介された、サンクト=ヒルデの中等部1年生。
私の先輩になりますね」
「先輩の思いをあなたが受け止める、というのは
僭越だとはおもわなかったのかしら」
「お言葉通り、思い上がりかもしれませんわね。
ですけれど、スパーリングを行って感じました。
あの方の拳には、なにか、悲しい思いがこもってました。
そして、ノーヴェさんが与えてくださったヒントから
考えると、その思いは、私が受け止めなければならないことのようです」
「思い過ごしではないの？ 一体、ノーヴェはどんなヒントをくれたのかしら？」
「古代ベルカ時代の、覇王について調べるようにと教えてくれました」
「古代ベルカ時代の覇王といえば
聖王福音書に伝えられる、肉弾戦を得意とした王ですね」
「ええ、その通りです。初等部の本を読んで、ある程度は勉強いたしました」
「聖王福音書でも、確かに、覇王は聖王女と拳を交えたと伝えられています。
だからといって、その、アインハルトという方が、覇王とつながる
何かであるという証拠もないのでしょう」
「ええ、その通りです。ですが、ノーヴェさんが、何の根拠もなしに
覇王について調べるようにともおっしゃらないでしょう」
「そうかもしれませんわね。……さて、私がシスターを目指した理由ですね」
「ええ、そうです」
「全力で来なさい。勝てたなら、お話しすることにいたしましょう」
「全力でというのは、どういう意味なのですか」
「言葉通りの意味ですよ。普段の練習では、私も手加減してますし
あなたも、聖王の能力は封印してますね」
「ええ、そうですわね」
「ですが、今回は遠慮はいりませんよ。聖王の能力を最大限使って
全力で勝ちに来なさい。私も、手加減は一切せず、あなたを
全力で倒すつもりでやります」
「……わかりました。出来ることのすべてを、ぶつけてよいのですね」
「そういうことです」
エミーがミッド式格闘術の基本の構えに入ります。
こちらも、デバイスを起動して構えます。
エミー……AAA級魔導師の全力を、甘く見てはいけませんよ。
１００mmの装甲板をバターのように切り裂くヴィンデルシャフトの
一撃を、エミーは聖王の鎧を纏った左腕でガードします。
さすがは聖王女オリヴィエのクローンというべきでしょうか。
しかし、聖王の鎧も万能とはいえないでしょう。
短距離転送でエミーの背後にまわり、振り向きざまに
右、左と連続で打撃を加えます。
いえ、加えようとした、と言わなければなりません。
エミーは前方に走って私の攻撃を避けたのですから。
振り向いてくると思った私の判断は、間違ってました。
しかし、あの走法は？ あれは私もみたことがありません
甘いですよエミー、振り向きざまにバインドを仕掛けようというのは。
軽く移動してバインドをかわすと、踏み込んで……早い！ あの走法は一体？
一瞬、エミーの姿が消えます。
次の瞬間、エミーの掌底が私のみぞおちに入ります。
体を落とし、全身の力を使って打ち込んできたんですね。
でも、まだまだ私を倒すには力不足……ここでバインド、一体？
ヴィンデルシャフトが待機モードに移行した？ そう、これが聖王の能力
すべてのデバイスの王たる聖王なら、ヴィンデルシャフトに対しても
支配者として君臨できる！
「リボルバー……スパイク！」
魔力のこもった一撃を、バリアジャケットなしでうけては
いくら武装シスターといえども、持ちこたえるなんて無理な話です。
「大丈夫ですか、シスターシャッハ」
「……さすがに聖王の能力を前にしては、私の力では不足ですね」
「アインハルトさんとの闘いの経験が生かせたからですわ」
「アインハルトさんとの闘いの経験が生かせたというのは
あの、見たことのない走法のことですか」
「ええ、私がアインハルトさんに敗れた技を、シスターに
試してみたんです」
「そうだったんですね。道理で見たことのない技だったはずです」
「それで、約束は守ってくださいますね、シスター」
「守りますよ。でも、その前に一つ聞いてみたいことがるけど、いいですか？」
「ええ、かまいません」
「あなたは、私の思いを、その拳で受け止めたと思いますか」
「……正直に言うと、わかりません。シスターが全力を出すようにおっしゃたので
シスターに全力で立ち向かいました。ですけれど、シスターの思いを
受け止めたようのかどうか、まずシスターの思いが感じ取れませんでした」
「そうですか。……エミーにとって、私はそれほどまでに弱いのですね。
わかっていたことですが」
「どういういみでしょう」
「言葉通りの意味です。聖王の能力を最大限に発揮したとするなら
私程度では、勝負にならない。修行にはつきあってますけど
それは、聖王の能力を封印した上での話です。
私にも、それはわかっていたこと、勝てるとは思ってませんでしたよ」
「では、なぜそのような約束を？」
「アインハルトという方の思いを受け止めるつもりなら
その方が、ハンディキャップ戦だと感じないような、そんな
闘いでなければならないということを、わかって欲しかったんです。
覚悟はありますか。もし、そのアインハルトさんが、本当に
覇王の後継者であるなら、あなたは、覇王の拳を、全力で
受け止めなければならないんですよ」
「……覚悟してますわ」
「そう。それならいいんです。
それで、私がシスターを目指した理由でしたね」
「ええ、その通りです」
「大した理由ではありませんよ。子供の時、聖王教会から来た
気品のあるシスターにあこがれて、自分もあんなシスターに
なりたいと思って、サンクト=ヒルデに入学したんです」
「そのシスターは、今何をされてますか？」
「……軌道監獄の中ですよ、エミー。
そのシスターは、あなたを〜あなたと、ヴィヴィオを〜作り出す
ために、聖骸衣についた遺伝子を盗み出した、ドゥーエだったんですからね」
「……そうだったんですか」
「皮肉な話ですね。あこがれたシスターは犯罪者だったんですから。
そして、その娘であるあなたは、同時に聖王の遺伝子を受け継ぎ
聖王の後継者を目指しているのですから」
「……犯罪から生まれた命でも、命にはかわりありませんわ」
「……悪いことを言いましたね、すいません」
「いえ、謝られることはありませんよ。本当の事ですから」
「ふふ、ちょっと、聖王福音書の一節を思い出しました」
「なんでしょう？」
「我は罪人の王なり。罪なき故に王たるにあらざるなり」
「聖王陛下は、世界の人々の罪を、自らの罪として担うことを
自ら宣言なされたお言葉ですね」
「そう解釈するのが普通ですね、エミー。
ですけれど、もしかしたら、聖王陛下は、自らを
もっとも罪深き存在として思し召したのかも、しれないと思ったんです。
生まれながらに罪を背負っているが故に、罪を担う資格があるのだと
おっしゃられたのかもしれないとね」
「……私が、もし、聖王にふさわしい存在になったとしたなら
確かに、生まれながらにして、罪を負っていることになりますね」
「だからといって、自らを卑下しなくてもいいはずです。
聖王は、罪人の王なのですから」
「はい、……参考になりました、シスターシャッハ」
「それはなによりです、エミー」
エミー、あなたが背負おうとしていることは、あなたが
思っているより、よほど重いことなんですよ。
けど、それは、自分1人で背負い込まないで。
聖王も、孤独な存在では、なかったのですから。