めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜歴史少女、コロナ〜
あのスパーリングの後、エミーちゃんはなんだか落ち込んでるように見えました。
いつもと同じ、落ち着いた感じを装うとしているのが、私にもわかります。
私には、エミーちゃんに、何かしてあげられることがあるのでしょうか。
そんなことを思いながら、私はエミーちゃん、リオちゃんと別れました。
私ですか? 私は、サンクト=ヒルデ初等部４年生、コロナ＝ティミルです。
その翌日、学校に行くと、いつもの朝と同じように
リオちゃんが声を掛けてきました。
「よう、コロナ、元気なさそうじゃないか、なんかあったか」
「リオちゃんは、エミーちゃんのこと、どう思ってるの」
「なんだよ唐突に、どうって、友達だろ」
「そういう意味じゃなくて、えと、昨日のこと、エミーちゃん
なんだか気にしてるようじゃなかったかなって」
「そりゃコロナの思い過ごしじゃないか。
エミーが何か考え込んでる風に見えるのは、いつものことだぜ」
「だけど、昨日の闘いの後は、いつものエミーちゃんとは違ってたよ。
なんだか思い詰めたようにも見えたよ。今日は元気になって来てくれるかな」
「元気、っていっても、いつものように物静かな感じだとは思うけどな」
「うん、昨日のスパーリングで、アインハルト先輩から、何か
相手にされてないような感じがしたの、気にしてるんじゃないかって
思ったんだけど」
「けど？」
「けど、……元気になってくれるといいよね、エミーちゃん」
「一週間後に再試合だろ。相手してくれてないってのも考えすぎじゃないか」
「考え過ぎならいいよ。だけど、やっぱり、ちょっと心配」
「心配性なんだな、コロナは」
「リオちゃんが鈍感なんだと思う」
「いったなこら」
「わ、ごめんなさいリオちゃん」
「おはようございます、コロナさん、リオさん」
「おはようエミー、ん、どした、ちょっと明るい顔になってるな」
「リオちゃん、さっきまで、昨日もべつに元気がないわけじゃないように
見えるって言ってたのに、またどうしたの」
「コロナ、突っ込むなよ、黙ってればわからなかったのにさ」
「リオさんにも、コロナさんにも、私が元気ないように見えたのですか」
「うん、エミーちゃん、なんだか寂しそうに見えたよ」
「ええ、確かに、あのスパーリングの後では、すこし落ち込んでしまいました」
「本当に落ち込んでたんだ」
「ええ、私にも感情がありますもの。落ち込むこともありますわ」
「そっか、けど、元気になったんならなによりだぜ。
で、一体立ち直りのきっかけって、なんなんだ？」
「ノーヴェさんからメールを頂きました」
「ノーヴェ師匠から？ どんなメールだったんだ？」
「古代ベルカの覇王について、調べるようにという助言を頂きました」
「古代ベルカの覇王？ それと、アインハルト先輩とどんな関係があるんだ？」
「古代ベルカの王は、みな、遺伝子工学で強化され、自らの肉体と魔法で戦う
戦士だったんだよ。アインハルト先輩は、古代ベルカの覇王の流れをくむ
何かの流派の使い手なのかもしれないね」
「なんだよコロナ、急に明るい声を出して」
「私が明るかったら何か問題があるの、リオちゃん」
「いや、明るいのはいいんだけど、なんか妙に熱がこもってるんだよな」
「古代ベルカの諸王については、歴史と言うより伝説に彩られてる
という方が近いの。けど、それについてノーヴェ師範代が調べるように
エミーちゃんにメールしたんなら、きっと、それについて知ることが
アインハルト先輩にとっても、エミーちゃんにとっても
大切なことになるんだと思うよ」
「コロナさんは、古代のことについて勉強するのが趣味でしたわね」
「うん、そうだよ、エミーちゃん」
きーんこーんかーんこーん
「お、やばい、授業が始まっちまう」
「エミーちゃん、走ろう」
「ええ、そうですわね、コロナさん。リオさん……あら、もう駆けだしてますね」
「ほら、ぼやぼやしてると授業が始まっちゃうぜ」
そうです。急いでホームルームに行かないと、遅刻になってしまいます。
走った甲斐あって、なんとか先生が来る前には、教室に滑り込めました。
滑り込んだっていうのは、オーバーな表現かもです。
先生が入ってこられるまでには、息を整えて、すました顔を
することができましたから。
うふふ、けど、エミーちゃんが覇王について調べるのか。
調べると言っても、エミーちゃんだって、むやみに無限書庫に
行くわけにもいかないだろうから、きっとサンクト=ヒルデの
図書室で調べるんだろうな。
エミーちゃん、無限書庫の司書をやってるぐらいで、検索魔法は
大得意なんだけど、なぜか紙の本を選び出して、そこから
情報を取り出すのは苦手みたい。だったら、私がお薦めの本を
選んで見せてあげなきゃ。
あの本がいいかな、それともこの本かな。
そんな事を考えてるうちに、昼休憩がやってきました。
お昼はいつものように、エミーちゃん、リオちゃんと一緒です。
「エミーちゃん、それで、どうやって調べるつもりなの?」
「コロナさん、どう、といわれても、無限書庫に出かけている
時間はないでしょうから、昼休憩のうちに、図書室に行って
覇王について書いてある本を読んでみようとおもってますわ」
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ、私がいい本を選んであげるね」
「感謝しますわ、コロナさん」
「そんな感謝されるほどのことでもないってば。エミーちゃんに
勉強を教えてもらうこともあれば、エミーちゃんに教える
こともあるだけだよ」
「コロナがエミーに何か勉強で教えることなんてあったっけ？」
「あ、リオちゃん、私、歴史は得意なんだからね」
「確かに、歴史の成績はエミーと張り合えるだけあったよな」
「でしょでしょ。古代ベルカ時代の覇王インクヴァルド。
ちょうど、最後の聖王女オリヴィエと同じ時代に活躍した
古代ベルカの諸王の１人。オリヴィエとも戦ったと
言われているけれど、その勝敗については明らかではない。
何か深い関係があったともされるけれど、その関係についても
今のところ明らかにはなってない。私が知ってるのはそんなところ」
「なんだよコロナ、それってわからないことだらけってことじゃないか」
「聖王でしたら、次元世界を一度は統一してます。ですから、覇王インクヴァルドと
いえども、聖王女オリヴィエに勝ったとは思えませんね」
「そうかもしれないけど、まあ、とりあえず、本を読んでみようぜ。
食べ終わってからの話だけど」
「急いで食べると消化に悪いといいますものね」
「けど、あんまりゆっくり食べてると、本を読む時間がなくなっちゃう」
「なんだコロナ、普段は一番ゆっくり食べてるくせに」
「けど、師範代が調べるようにって言ってるぐらいなんだから
大切なことなんでしょ。だったら、ちゃんと調べておかないと」
「歴史のことになると、目の色が変わるんだな、コロナって」
「歴史はロマンなの」
「ふふ、まるでユーノ司書長をみてるようですわ」
「ユーノ司書長は、尊敬する大先輩です」
「あー、がんばれがんばれ」
「もちろんです」
「皮肉も通じないのかよ」
なんて話しながら食事を終えて、私たちは
図書室へとやってきました。
「えと、覇王インクヴァルド伝に、諸王列伝、あとは難しい本だから
初等部の私たちには、ちょっと手が出ないかな」
「後の難しい本って、どんなのがあるんだ」
「聖王福音書の中にも、覇王について記述されてる部分がありますね」
「あれ、エミーちゃん知ってるの?」
「ええ、福音書については、騎士カリムから毎日講義がありますもの」
「そういえば、エミーちゃんは、聖王になるんだったよね」
「そうですね、それを目指してますわ」
「それはいいから、さっさとひらいてみようぜ」
「ええと、覇王インクヴァルド…生没年不明、最後の聖王女オリヴィエと
同じ時代に現れた。……って、コロナが説明したのと同じじゃないか」
「それは、私がこの本を先に読んでお勉強したからだよ」
「ふーん、じゃあ飛ばして読んでいっていいよな。
ええと、覇王インクヴァルド、父王が謀殺された後、幼少の身で
国を失うものの、その類い希な能力を持って南方の地に再び
王国を再建、聖王女オリヴィエとも戦うが、勝利することが出来ず。
その後、聖王と協力するも聖王女オリヴィエの崩御の頃姿を消す。……か」
「これだけじゃ、どうしてノーヴェ師匠が、エミーに
調べるように言ったのかわからないよな」
「コロナさん、覇王の類い希な能力とは、いったいどのようなものだったのでしょう」
「それについては、インクヴァルド伝より、諸王列伝の方が詳しかったよ。
えと、覇王……と、ほら、ここ」
「ええと、なになに。覇王、ベルカ南方の地より興る諸王時代後期の王。
魔法戦は不得手であったが、流派カイザーアーツを用い
連戦連勝であった。特殊能力として、自らの遺伝子に記憶を組み込んでいたと言われる。
覇王インクヴァルドが幼少時から、その頭角を現して王国を再興してみせたのも
父祖から流れる覇王の記憶と、遺伝子レベルに組み込まれたカイザーアーツの
能力によるものと言われている」
「そうそう思い出した。古代ベルカの王は、それぞれが最強の能力を
得るために、遺伝子工学でいろんな能力を自らの肉体に与えてたんだった。
覇王の記憶の遺伝によって、覇王は不死身の存在とも言われてたんだよ」
「それは、私は始めてききますわ」
「あれ、エミーも知らないことがあったのか」
「もちろんですわ。私は神様ではありませんから」
「……けど、それと、師範代がエミーちゃんに覇王について
調べるように言ったことと、どう結びつくのかな」
「覇王の記憶は、完全に受け継がれるのでしょうか」
「そこまでは書いてないからわからないよ」
「けど、騎士カリムが古代ベルカの王族の血を引いているように
覇王の血を引く誰かがいても、おかしくはないですね」
「そりゃエミーの言うとおりだけど、けど、覇王インクヴァルドは男だぜ。
アインハルト先輩とは別人じゃないのかな」
「ですが、あえて聖王を目指す私に会わせたいとして
アインハルトさんを、ノーヴェさんは紹介してくださいました。
覇王の血を引いているかどうかは別にして、覇王となにか
つながりのある方なのかもしれません」
「だとしたら、どうなんだろうな、エミー？」
「だとしたら、きっと、私と同じように、覇王を目指されてるのかも、しれませんね」
「覇王を目指す? けど、エミーと違って、覇王の目指したものは
力で世界を支配することだろ。時代が違うぜ。カイザーアーツが何者かは
しらないけど、まさか身一つで管理局相手に喧嘩売って
勝てるわけもない。もし勝てるとしたって、次元世界の覇者に
なれるわけでもないんじゃないか」
「ええ、そうですわね。……ですけれど、アインハルト先輩には
なにか、譲れない思いがあるのをかんじました」
「譲れない……思い？」
「ええ、それが、覇王と関係あるのかもしれませんわね」
「……だけど、もしそうだとしても、エミーにはどうしようもないだろ。
一緒になって管理局に喧嘩うって、次元世界の覇者になるわけにも
いかないんだから」
「ええ、そうですわね。ですけれど、聖王を目指すのでしたら
覇王の思いが受け止められる強さもまた、必要なことではないかしら」
「覇王の思いを受け止める力？ エミーちゃん、本当にそんなことができるの」
「出来るようになるためには、まず、拳を受け止められる力を身につけなければ
なりませんわね」
「じゃ、今日から特訓だな」
「ええ、そうですわね」
「ただでさえ、相手は中等部なんだから、必死に練習しないと」
「ふふ、そうですわね。けど、そろそろ教室に戻りましょう。
もうすぐ昼休憩も終わってしまいますわ」
「そうだなエミー、急いで戻らないと」
「あ、まって、本を借りる手続きしてから」
「借りるのか?」
「他に参考になることがあるかもしれないから」
エミーちゃんのためにも、覇王についてもう一度
読み返しておきたくなりました。
私には、エミーちゃんが求めてる力とか、アインハルト先輩の
思いとか、そんなことはわかりません。
だけど、私にも、エミーちゃんの力になりたい、そういう思いはあります。
そのためには、まず、私に出来ることをやらないと。
一週間って、長いようで短いんだから。