めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜防災士長、スバル〜
『ジェットエッジ、起動を確認』
「ジェットエッジが起動?マッハキャリバー、一体何が起きてるの？」
『ノーヴェさんが何者かと戦闘中です』
「それはわかってる。……ノーヴェの事だから、遅れは取らないと
思うんだけど、手当のために行った方がいいかな」
『……ノーヴェさんがリタイア。ジェットエッジより救援を求められました』
「え、ノーヴェがやられたって？」
『Yes,buddy』
「急いで助けに行かなきゃ、相手はどんな奴？」
『今、ジェットエッジより当時の状況の転送を受けてます』
「マッハキャリバー、Set up」
『All right,buddy』
あたしの名前はスバル。スバル＝ナカジマ、防災士長。
今は非番だから家でのんびりしてたところ。
今、話をしていた相手は、あたしのデバイスのブリッツキャリバー。
デバイスだけど、頼りになる相棒ってとこかな。
『データ転送を終了しました、重要事項だけかいつまんで説明します』
「ありがと、で、内容は」
『覇王インクヴァルドを名乗る通り魔と辻試合をして、ノーヴェさんが負けました。
ただ、ノーガードで本気の一撃を加えているので、相手も無傷ではありません。
少なくとも、口を切っているようです。あと、魔力波動のデータを
転送で受け取りました。人物特定に役立つはずです』
「了解、マッハキャリバー」
『人相風体については、こちらでパターン認識を行います』
「お願い」
全速前進、マッハキャリバーの最大速力であたしは
ノーヴェの倒れてる場所へと急ぐ。
通り魔が、のんびりとノーヴェの所にいるとは思えない。
だけど、少なくとも、ノーヴェを助けないと。
「こちらギンガ、スバル、今どこにいるの？」
「あ、銀ねえ、今ジェットエッジの起動を確認して
ノーヴェの所へ向かってるとこ」
ブリッツキャリバーを通じて、銀ねえ〜あたしのお姉さんで捜査官なんだ〜から
通信が入りました。
「こちらも、ジェットエッジの起動を確認して、今ノーヴェの所に来た所よ。
私が見たところ、かなり強力な一撃は受けてるけど、怪我はしてないみたい。
今から、念のためにお医者さんに見てもらってから、うちに連れて帰るわ。
スバルは、どうするの？」
「ありがと、銀ねえ、あたしは、なんとか自称覇王を捕まえてみる」
「無茶はしないでね、相手は、ノーヴェを倒すほどの腕前よ」
「うん、わかってる。だけど、せっかくノーヴェが情報をくれたんだから
なんとしても、今捕まえないと」
「わかったわ。気をつけてね」
「了解、銀ねえ」
銀ねえが先にノーヴェに対応してくれるのなら、あたしは
自称覇王＝インクヴァルドを探すのに全力を使えるということ。
だけど、覇王を捕まえると意気込んでみても、手がかりが少なすぎる。
防護服を着てはいても……
『どうやら、あの覇王も、ヴィヴィオさん同様のオッドアイのようです。
人通りの少ない時間帯ですし、オッドアイの誰かを職務質問すれば
あるいは、当たりを引くかもしれません』
「オッドアイ、か。元々オッドアイでなければ、変身するときに
わざわざオッドアイにしようとは、普通考えないかも。
ありがとう、マッハキャリバー」
『オッドアイに注意を引きつけるために、わざと変身している可能性もあります。
決めつけるのは危険です』
「あんたね、自分で言い出したことでしょ」
『可能性を指摘しただけです』
「魔力波動を拾えれば一番なんだけど、普通は無理か……と、ジェットエッジからの
情報だと、覇王はこっち側に立ち去ったんだよね」
『その通りです』
「んーと、……マッハキャリバー、センサー全力展開。
生命反応確認開始」
『了解です。……ここから３ブロック行った先に誰かいるようです。
他には、反応を感じません』
「本来は生存者捜索のためのセンサーだけど、こういう事にも役立つよね。
行くよ、マッハキャリバー」
『All right』
あたしは、マッハキャリバーが拾い上げた反応に向かって
ローラーブレードを走らせた。
「……時空管理局です。あなた、こんな夜遅くに何をしてるの？」
「何……と言われても、今から家に帰る所なんです」
見つけたのは、中学生らしい、一人の女の子でした。
この子が覇王？ それとも、ただの通りすがり？
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかな？」
「何でしょうか」
「あなた、名前は？」
「アインハルト。アインハルト＝ストラトスです」
「年はいくつ？学校はどこ？」
「サンクト＝ヒルデ魔法学校の中等科一年生です」
「サンクト＝ヒルデの一年生か。けど、こんな夜遅くに
うろうろするのは、感心しないな」
「ちょっと用事があったんです。今から家に帰ります」
「そっか……」
『人相風体がジェットエッジからの情報に似ています。
もしかしたら、彼女が連続襲撃事件の犯人かもしれません』
「うん、私も気がついた」
「インテリジェントデバイスをおもちなんですね」
「そうだよ。この子はマッハキャリバー、大切な相棒なんだ」
『初めまして』
「デバイスは、やっぱり、インテリジェントタイプの方が使いやすいんですか？」
「使いやすいとか、考えたことないよ。インテリジェントデバイスは
そういうものじゃないんだ」
「そうなんですか」
「ところで、ちょっと聞いていいかな」
「なんでしょうか」
「覇王、インクヴァルドについて、何かし知らない？」
「古代ベルカの王の一人と言うことぐらいしか」
「そっか。……さっき、あたしの妹が、自称覇王と戦ったんだけど、何かしらないかな？」
「え、ええと……私は何も」
「何も？じゃあさ、悪いけど、ここで魔法を使ってみてくれる？」
「どうしてですか？」
「あなたが、連続襲撃事件の犯人でないことを、証明するために」
「必要なことなんですか？」
「必要なんだ。ノーヴェが、せっかく手がかりを見つけてくれたんだから
それを、無駄にしたくないからね」
「……」
「どうしたの？」
「……降参です。私が……ハイディ＝アインハルト＝ストラトス＝インクヴァルド。
覇王インクヴァルドを名乗らせてもらってます」
「そっか。……今のところ、君のやってることは、双方合意の上のストリートファイトだから
犯罪っていうわけじゃないんだ。
だけど、犯罪じゃないから何してもいいって言う訳じゃないよ」
「それで、あなたと、私が今戦ったら、どちらが強いか、試してもらえませんか」
「格闘の試合をやったら、君が勝つよ。保証する」
「え？」
「そういう返事をされたのは初めてなの？」
「ええ、格闘自慢の人しか、相手にしてませんでしたから。
あなたも格闘の心得があるように見えるのに、どうしてそうおっしゃるんですか」
「君がノーヴェに勝ったみたいだからね。ノーヴェはあたしより強いよ。
だから、連戦っていう要素を抜きにして考えたら、君があたしに
勝つ可能性の方が高いんだ。
だけど、君をこのまま帰すわけには、いかない」
「……犯罪では、ないんでしょう」
「犯罪じゃないけど、夜な夜なストリートファイトをやってるっていうんじゃ
サンクト＝ヒルデに通報しない訳にもいかないんだよね。
第一、サンクト＝ヒルデは全寮制でしょ、門限はだいじょうぶなの？」
「遅くなると連絡を入れているので、大丈夫です」
「そっか。けど、今日はうちに泊まって行きなよ」
「いえ、寮に帰ります」
「寮に帰るなら、サンクト＝ヒルデに、本当に通報しなくちゃいけなくなるよ」
「……」
「話して、もらえないかな」
「何をですか？」
「一体、どうして、こんな辻試合をやってるの？」
「自分の実力を知るためです」
「それなら、辻試合なんてしなくても、普通に道場巡りでもしてればいいんじゃない？」
「それでは、意味がないんです」
「どうして？」
「古きベルカの王の誰よりも覇王が強いことを証明したいんです」
「……強さ比べかぁ……けど、聖王や冥王の強さは、そういうのとは
全く次元が違うから、比較するだけ無駄だと思うよ」
「聖王や冥王をご存じなんですか」
「一応はね。友達だから」
「友達？」
「ジュエルシードから魔力供給を受け、複数のオーバーS級魔導師を完全にバインドするとか
次元航行艦の制御を乗っ取って魔力供給を受け、アルカンシェルのエネルギーを吸収するとか
こういう強さと比べたら、辻試合で勝つとか負けるとかとは、意味が違うって思うでしょ」
「……そうかもしれません。ですけれど、私はあきらめるつもりはないんです」
「そっか。夢を持つのが悪いとは言わない。
だけど、こんな辻試合で、その夢にたどり着くのは、無理だよ」
「……無理、ですか。ですけれど、わたしには、他に方法がありません。
どのみち、古代ベルカの王と戦うのは、辻試合と大差ないんです」
「どうして古代ベルカの王と戦いたいのかは、わからない。
だけど、ちょっと、あたしの話、聞いてくれるかな」
「なんでしょう？」
「川崎冬美っていう子がいるんだ。格闘家を目指してて、それなりに実力はある。
その子が、こんな事を話してたんだ。
『人をぶん殴っても、強いことにはならない。本当の強さは、思いを受け止める力なんだ』ってね。
辻試合で誰かを倒しても、それは本当の意味で強いことにはならないよ。
確かに、君はそこに、何か思いがこもってるのかもしれない。
だけど、戦う相手には、それに匹敵する、何か思いがこもってるかな。
譲れない、本当の思いがこもった戦いでなければ、強さを決める訳には、いかないんだよ」
「ですけれど、表の世界の戦いには、そういう思いがこもってるんですか？」
「こもってるよ。表の世界でやってみれば、君にもわかるはず」
「……私には、あなたのおっしゃることがわかりません。
ですけれど、何か参考になることはあるように思います」
「そっか、何か参考になることがあるなら、それで十分。
だけど、今からサンクト＝ヒルデに帰るっていっても、遅すぎるんじゃないかな」
「遅いからと言って、他に帰るところなんてありません」
「うちに泊まっていくといいよ。犯罪じゃないとはいっても、事件は事件だから
調書も作らないといけないし、そのために管理局には寄っていくようになるからね。
サンクト＝ヒルデには、あたしから連絡を入れておくから」
「……本当に泊まっていっていいんですか？」
「迷惑じゃないよ。今日はお父さんが夜勤だから、部屋は空いてる」
「あの……男の人の部屋は、避けてもらえませんか」
「あ、もうそういう年なんだ。ごめんごめん。
じゃあ、あたしの部屋でいいよ」
「なおさら迷惑になりますよ」
「へーきへーき、一日ぐらい眠らなくても人間死にはしないって」
「仕事に差し支えますよ」
「鍛え方が違うから大丈夫」
本当は、鍛え方とは全然関係なく、あたしが戦闘機人だから
４，５日眠らなくても平気っていうことなんだけどね。
ありがとノーヴェ、おかげで、覇王事件は、ひとまず解決しそうです。
その、覇王：アインハルト＝ストラトスと、ノーヴェとの会話は
またこんどの話にしましょうか。