めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜ベルカ自治領指導者、カリム〜
私の名前は、エミー。エミー＝シュミット＝スカリエッティ。
第９７管理外世界で起きた、第２JS事件。またの名を
聖王降臨事件に連座して、現在はベルカ自治領で保護観察中の身です。
いえ、この言い方は正しくありませんね。
聖王降臨事件では、中心的な人物でした。
なぜならば、私が、その”降臨”したとされる聖王の１人〜
聖王女オリヴィエ〜のクローンなのです。
保護観察中の身とは言え、今の私は、それほどの束縛は受けておりません。
自分のいる場所はつねに申告しておかなければならないとはいえ、私が
行きたいと思う場所へは、私の身元引受人である騎士カリムが
行くことを許してくださいますし、他の人と同じように学校に通ったり
友達づきあいをしたりしております。
私もまだ１０才。保護者に、居所を申告しなければならないのは
他の、普通の子供と同じですね。
今、私は、ノーヴェさん、リオさん、コロナさん達との
ストライクアーツの道場での練習を終えて、ベルカ自治領にある
騎士カリムの居城に戻ってきたところです。
ここには、炎の冥王と呼ばれた、イクスヴェリアさんも眠っておられます。
いえ、言葉通りの意味で、眠っておられます。
管理局で預かることになっていたのですが、管理局の施設では
かえって人目に付きやすく、安心して眠っていられないだろうということで
人気の少ない、この、聖王教会の中心部である、騎士カリムの居城に
うつされたというわけです。
さて、私は、今から騎士カリム〜聖王教会の指導者にして、
時空管理局の理事のお一人です〜から、聖王になるための
基礎教育を受けさせていただくことになっております。
騎士カリムをお待たせしてはなりませんね。
こんこん。
「失礼します。エミーです」
「どうぞ、お入りなさい」
「はい」
ここは、騎士カリムの私的な応接室です。
騎士カリムのご友人である、クロノ提督や八神捜査官長は
時々、この部屋に招かれておられます。
私の場合は、友人としてではなく、生徒として
騎士カリムの講義を受けるためにここにきているのです。
「新しいデバイスの使い心地はどうでしたか」
「とても気に入りました。ありがとうございます、騎士カリム」
「それはよかった。これからも大切に使ってくださいね」
「はい、そういたします」
「では、早速、今日の勉強に入りましょうか」
「はい、そうですね」
「さて、昨日は、ベルカの歴史について学びましたね」
「はい、そうですね。古代ベルカの群雄割拠と、それを一時
統一した、聖王とゆりかごについて学びました」
「そうですね。次元世界を平定した聖王の中で
最後の聖王女オリヴィエは、聖王として
初めてゆりかごの外に出られたのです。
そのとき、初めてゆりかごよりベルカの地に降臨された場所は
巡礼地として今でも多くの聖王教徒が詣でています」
「はい、シスターシャッハや、セインさんが、よく
付き添いで出かけられている場所ですね」
「よくおぼえてましたね。その通りです。
その後、聖王女オリヴィエは、ベルカの地を行幸なさりました。
しかし、聖王女は、行幸中、殺害されてしまったのです。
そのとき、聖王女の遺骸を包んだ布が、聖骸衣。
これが、大切にこの聖王教会に補完されていたことは、ご存じですね」
「はい、…私が作られたのが、その、聖骸衣に残されていた
血に含まれる遺伝子からですもの」
「ふふ、そうでしたわね。
その後、聖王とゆりかごは、忽然と姿を消しました。
聖王教団の中には、聖王女オリヴィエは死んだのではなく
アルハザードと共に、姿を隠されたのだと説くものもあります。
聖王教団のうち、この聖王教会は最大の信者を持っていますが
他にも無数の宗派があることも、すでにお話ししましたね」
「ええ、覚えてます、騎士カリム」
「では、歴史を続けましょう。
聖王教会の教義では、聖王女オリヴィエは、人々を救うために
自らの身を犠牲になされた、と説かれております。
私たちに、悪と戦うとはどういう事か、自らお示しになられたのですね。
しかしながら、人々は、聖王女オリヴィエが自らお示しになった
手本をまねることはできませんでした。
ベルカの王族達は、聖王の不在によって、自ら野心をたくましくして
争いあったのです。この聖王不在の暗黒期の戦いによって
私たちの文明は、少なくとも１００年は後退してしまいました」
「今現在でも、私たちの文明は、古代ベルカの水準には達してないのですね」
「その通りですよ。現在、ロストロギアと呼ばれている遺産の多くは
古代ベルカ時代に用いられた、魔法兵器なのです。
その後、大規模な文明の退歩がありました。
しかし、ここ、古代ベルカ時代、聖王直轄地であった場所から
新たな統一への機運が生まれることになりました。
次元の海の仲に浮かぶ、一つのロストロギアが発見されたのです。
そのロストロギアが、無限書庫。太古より現在に至るまでの
様々な情報を、自動的に集め込んでいる、まさに次元世界の
あらゆる情報の集まる場所です。
その中にある、次元航行艦の設計図を手に入れたことで
かつてのベルカの中心地は、再び次元世界の中心へと変貌しました。
そうして生まれたのが、ミッドチルダを中心とする
現在の管理局システムですね」
「騎士カリム。一体、ミッド式の魔法は、どのようにして生まれたのでしょう。
ここまで、ミッド式とベルカ式の違いが生まれた理由がわかりません。
古代ベルカ時代には、すべての魔法がベルカ式だったはずなのですが」
「いい質問ですね。現在、ほとんどの魔法使いはミッド式の魔法を使っています。
ベルカ式が近接戦闘重視、個人戦重視であるのに対して
ミッド式の魔法は、遠距離戦闘と、集団戦重視であるのが特徴です。
特に、封印結界の共同展開や、平易な射撃魔法、そして量産の効く
ストレージデバイスといった特徴によって、
”１人のベルカ騎士を１０人のミッド兵で”という、文字通りの
人海戦術で、他の次元世界の魔導師を圧倒したのです。
それに、管理局戦争中には、伝説の三提督や、グレアム元提督が
おられましたもの。彼らは、決して１対１の戦いでも
ベルカの騎士に後れを取ることはありませんでしたよ」
「ですけれど、それはミッド式の利点です。
どこからミッド式が生まれたかの説明にはなってませんわ」
「聖王教会では、聖王女オリヴィエが、魔力資質の低い人たちでも
魔法を使えるように、ということで、新たに魔法をお授けくださったと
解釈しています。
アルハザードで新たに開発された魔法体系であると考える学者もいるようですね。
このあたりは、諸説あって定説になっているものはありません。
ですが、その後、ベルカ式が廃れ、ミッド式が全盛となったことを考えると
ベルカ式とは異なる魔法体系が開発される必然性があったのでは
ないでしょうか」
「わかりました。ともかく、ミッド式の方が、新しい魔法体系なのですね」
「そういうことですね。
さて、話を元に戻しましょう。
現在の管理局体制の元で、次元の海を隔てての争いは
押さえられていることは、もうよく知っていることと思います。
とはいえ、次元の海を越えず、ロストロギアも絡まない争いについては
管理局は実質的に無力なのですけれどもね」
「そうですね。聖王陛下がおられたなら、どうされたでしょうか」
「聖王女オリヴィエ様でしたら、その地にいたって、人々のお手本に
なる振る舞いを自らお示しになられたでしょう。
ですが、それを示して、なおかつ生き残ることは
聖王陛下ご自身にせよ、難しいことだったのです。
それを忘れるべきではありませんね」
「わかります。…聖王たるものは、自らの身を省みてはならないということなのですね」
「それは違いますよ、エミー。過ちを繰り返すことはありません。
聖王を失った後の暗黒時代の事を思い出すべきです。
大いなる力の持ち主は、自らが失われた後の世界の事も考えるべきなのです。
身を捨てて、手本をお示しになるのは、聖王自らが既になされたことなのです。
実例は、二つもいらないのですよ」
「…わかりました。しかし、では、聖王として、何を手本にすればよいのか
私にはわかりません」
「私にも、わかりませんよ、エミー。…焦らないことです。
焦って答えをだそうとするのではなく、物事が自然に見えてくるまで
待つことです。そして、自然に物事が見えてきたとしても
もう一度、それが真実であるかどうか、吟味なさい。
思いつきで何をするかわからない聖王では、みんな困りますものね」
「そうですね、騎士カリム」
「話が長くなりましたね。明日も早いのでしょう、お休みなさい」
「はい、ありがとうございました、騎士カリム」
眠るために、私は騎士カリムの応接室を出て、自分の部屋に向かいます。
しかし、聖王女を殺めるほどの能力を持つ物とは誰なのでしょう。
聖王の鎧を貫くほどの力の持ち主なら、その人物もまた
ベルカの王族であることは、十分に考えられます。
…たとえば、覇王インクヴァルドとか。
そういえば、覇王を名乗る通り魔が現れてるそうです。
その方が、いずれ私の前に現れることもあるのでしょうか。
いえ、わからないことについて、あれこれ悩むのは辞めましょう。
私に、高町さんのような力があるのなら、きっと、私の前に
現れた覇王とも、友達になれると信じるから。