めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜カイザーアーツ正統、インクヴァルド〜
あたしはノーヴェ、ノーヴェ＝ナカジマ。
今は道場から家に帰る帰り道。辺りは真っ暗。
外灯が照らす範囲だけが、視界の中。
町中だから、外灯が照らす範囲っていっても広いけどな。
路地裏にひそみでもしなければ、痴漢も出番がないだろう。
？…殺気？…いや、違う。もっと冷たい何か。
どこだ？影に潜んでるわけじゃなさそうだが…
「ストライクアーツ師範代、ノーヴェ＝ナカジマさんとお見受けします」
上！…見あげると、外灯の上に、誰かが立ってるのがわかる。
外灯って奴は、外灯からしたを照らすように出来てるから
外灯の上の奴は、暗闇の中ってわけだ。
なるほどな、上手いこと考えやがったぜ。
…けど、この声、間違いなく女だな、じゃあ、痴漢ってわけじゃないか。
「確かにそうだが、何の用事だ」
「あなたに、たずねたいことがあるんです」
「人に物をたずねるときには、同じ平面に降りて、名乗るもんだろ」
「…これは失礼いたしました」
飛び降りて奇襲でも来るか?
…いや、普通に飛び降りた。…何者だ、こいつ…
「私の名前は、ハイディ＝E・S＝インクヴァルド。
覇王を名乗らせていただいてます」
「つまり、今売り出し中の通り魔ってわけか」
「否定は、しません」
「…拍子抜けする奴だな。で、聞きたいことってのは、なんなんだ？」
「聖王女オリヴィエのクローンと、炎の冥王イクスヴェリアについて
ご存じ…」
「しらねえな」
向こうが頭をかしげる。…まあ、エミー陛下が
聖王を目指してるってことぐらいは、ちょっとサンクト・ヒルデで
調べればわかることだし、小学生のくせに司書の資格を持っている
ことは、無限書庫に行ったことがあるなら、知っていても不思議じゃない。
陛下自身、自分が聖王のクローンであることを隠そうともしてない。
だけど、…だけど、こいつは、違う。
こいつは、やばい。あたしの第六感が警報を発する。
「あたしが知ってるのは、一生懸命生きてる普通の子供達だ。
オリヴィエのクローンだの、炎の冥王だのといった奴らはしらねぇ」
「そうですか…では、その件については、他を当たるとします」
「そっか、で、話はそれだけか？」
「いえ、これからが本題です」
「へぇ…で、何が本題だって？」
「あなたと、わたしと、どちらが強いのか、それをおたずねしたいと思いまして」
「それが知りたければ、明日、道場にでもくるといいぜ。
ストライクアーツは、他流試合も禁止じゃないからな」
「…そういう強さを求めているわけではないんです」
「じゃあ、どういう強さなんだ？」
「今、私があなたに襲いかかったとしたら、どちらが強いのか、です」
「馬鹿なことはやめとけ」
「私にとっては、重要なことです」
「おまえ、よく見たら、まだ子供じゃないか。
辻試合はもうやめな。ストリートファイターのまねごとじゃなくて、ちゃんとした
格闘技でも習いに行けよ。気に入った道場でも、ジムでも、紹介してやるよ」
「ご厚意痛み入ります」
「わかってくれたか？」
「ですが、私の求める強さは、それとは違います」
「…どういう意味なんだよ」
「言葉通りの意味です。あなたと、私と、今戦ったとしたら、どちらが強いか、です」
…口で言ってもわからないか、こりゃ。
あたしは、着替えを入れたカバンから手を離すと
インクヴァルドを名乗る少女に膝蹴りを加える。
！…完全な不意打ちなのにガードした?…じゃあ、これならどうだ！
スタン系の魔力を拳に乗せて頭を狙って殴る。
…これもガードしやがった。こいつ…。
「防護服と武装をお願いします」
「ずいぶんと紳士的なんだな。え？」
「完全でない状態のあなたと戦っても、意味はないんです」
「なら、管理局にでも入れよ。バトルジャンキーどもがいくらでもいるぜ」
「…私の求める強さは、そういうものとも違います」
「じゃあ、どんな強さだっていうんだい？」
「武装と防護服をお願いします。そうすれば、わかってもらえるはずです」
「・・・後悔するなよ、本気で行くぜ」
「望むところです」
あたしは、ポケットからジェットエッジを取り出す。
「ジェットエッジ！」
『Start up』
ジェットエッジ、あたし専用のデバイスだ。
ハチマキやギンガ姉のデバイスの姉妹品。
あたしのISに合うようにチューンしてある。
はっきり言って、ストリートファイトなんかに持ち出すような代物じゃない。
こんなもん、ガキの喧嘩に戦車を持ち出すぐらいに場違いだぜ。
「ありがとうございます」
「礼を言われるようなことじゃねえよ。
で、やるんだろ。さっさと始めようぜ」
「はい、そうですね」
構えた？この距離で…一体何を仕掛けるつもりなんだ？
射撃？それとも飛行？…
速い！、なんだもう間合いに入りやがった？
くそっ、なんだあれは、見たことがない走法だぞ。
これがカイザーアーツだってのかよ。
がっ！…ストマックブローをまともにくらいこんだ。
防護服がなければ完全にやられてたぜ。
こいつ…確かに、強い。
「…確かに、天狗になるだけのことはあるな。けど…
その程度で、聖王や冥王に挑むのは、自殺行為だぜ」
「天狗ですか。…まだまだ、私は強くならなければならない、ということですね」
「強くなってどうするつもりなんだ」
「列強の王をすべて倒し、ベルカの地を統一する。
それが私の為すべき事です」
「…！」
く、狂ってる、…狂ってやがる。
こいつ、…一体何を言ってるんだ。
「馬鹿なことを言ってるんじゃねぇ
ベルカなんて国はとっくになくなった。
ベルカの王族の末裔だって、普通に暮らしてるんだ。
ベルカの王を倒したところで、ただのテロリストでしかねえ。
第一、ベルカの地なら、とっくにミッドチルダが制圧した！
なにもかもが終わったことなんだよ！」
「…終わってないんです」
「？」
「私にとっては、まだ何も終わってないんです」
「…で、聖王や冥王を探して、どうするっていうんだ」
「強さを、知りたいんです」
「アルカンシェルの直撃に耐えるような化け物と、本気でやりあおうってのかよ」
「その通りです」
「ドクター以上に狂ってるぜ、あんた」
「ドクター？」
「しらなきゃしらないでかまわねぇよ。
さあ、続きと行こうぜ」
「そうですね」
「？何がおかしい」
「いえ、やっと、やる気になっていただけましたので」
…こいつは、絶対にここで止める。いや、止めなければやばい。
聖王と覇王の激突は、ただ二人の戦いってだけじゃ終わるはずがない。
確実に周りを巻き込む。JS事件みたいな大騒ぎになるに決まっている。
「IS発動！ジェットエッジ、フルドライブ！」
『All right! 』
相手が特殊な走法で加速するっていうんなら、あたしはウィングロードで
三次元戦闘に持ち込んでやる。
一旦間合いをひらき、それからスピードを落とすことなく反転。
ローラーブレードを使って加速、カイザーアーツの走法より
こっちの方が早い。相手が身構えるのを見るともう一度目の前で
反転する。
「！」
「よし、掛かった」
バインドが入った。これで勝負ありだぜ。
急反転から首筋をめがけて全力で蹴りを入れる。
「リボルバー＝スパイク！」
！？…振り抜け…ない？
手応えは確かにあった。確実に何かを蹴ってるはずだ。
それなのに、一体…。
「それが、あなたの全力なのですね」
「…防御を捨ててのカウンターバインド…か」
「その通りです。…では、私のターンですね」
くそっ。全力を出してるのにバインドがほどけやしねえ。
インクヴァルドの奴は、あたしのバインドを命中する寸前に
バインドを外してたっていうのによ。
バインドブレイクの結果、すこしねらいがそれて顔に当たったって訳だが
それでほおがはれてるってわけでもない。…いや、口は切ってるようだな。
それだけで済んでる…って、どんな化け物だよ。
あたしが全力の本気を出せば、装甲車ぐらい一撃でスクラップだぞ。
それなのに…
「覇王断空拳！」
がぁ…背中に、インクヴァルドのチョップをまともに食らった。
…だめ、だ…あたしじゃ…こいつを…止められ…ない…
「弱さは、罪です。弱い拳では、誰も守ることが出来ないから」
…あんたの言うとおりだぜ。あたしは…エミー陛下も…
イクスヴェリアも…全く、守れなかった…