めりかるうぃっしゅ う゛ぃう゛ぃっど
〜ストライクアーツ師範代、ノーヴェ〜
あたしの名前はノーヴェ、ノーヴェ＝ナカジマ。
管理局に勤めてるナカジマ三佐の５女になる。
ハチマキ…てか、スバルの方がお姉さんになってるのは
少し納得いかないんだが、チンク姉がギンガ姉の妹ってことに
なったから、一応、納得はしてる。
けど、ゲンヤの親父とは、血がつながってるわけじゃない。
詳しい話はプライベートだから端折るけど、あたしは
元々ドクター〜ドクター・ジェイル・スカリエッティ〜が作り出した戦闘機人なんだ。
戦闘機人だから、なみのやつよりはちっと強いぜ。
オレンジ頭…いや、ランスター執務官には、昔遅れをとったことはある。
あるけどな、だけど、あれからあたしもストライクアーツの道場に通ったり
管理局の奴らと模擬戦やったりで、あの頃より実力はずいぶん上がってる。
クロスレンジで、振動破砕抜きのハチマキ相手なら６：４で勝てるレベル。
正式じゃないが、管理局式に換算してAAA-だと、自分では思ってる。
そんなあたしの日常のアクセントになってるのが、…と、ついたぜ。
ここ、ストライクアーツの道場に来てる、３人の娘さん達だ。
いや、あたしも子供だけどよ、一応１７歳って設定なんだぜ。
１０歳相手なら、子供呼ばわりしたって許されるだろ。
「こんにちは、ノーヴェさん。今日もお手合わせ願いますね」
「あ、ノーヴェさん、こんにちは」
「ちわっす、ノーヴェさん」
「よう、コロナ、リオ、そしてエミー陛下」
「陛下はやめてもらえませんか。私はまだ、陛下と呼ばれるにふさわしい
実力でもなければ、立場でもありません。
私の今の立場は、保護観察中の犯罪者なのですから」
エミー陛下…エミー＝シュミット＝スカリエッティ。
あたしを作ったドクターが作った、最後の聖王女オリヴィエの
自然生成型クローンだ。
今は第９７管理外世界で暮らしてる、ヴィヴィオ陛下と同様
あたしら戦闘機人の王として作られてる。
いや、話は逆だな、聖王の守護騎士、それがあたしら
戦闘機人の作られた本当の目的だ。
表向き、てか、スポンサーの期待はまた別だったんだけど
その話は、また別の機会にでも話すことがあるだろう。
「では、まずは基本の型からお願いします、ノーヴェさん」
「ああ、いいぜ」
コロナも、リオも、そしてもちろんエミー陛下も
素直で筋がいい。…って、ひねくれもののあたしが言うことでもないか。
けど、あたしだって、強い奴には相応に素直なつもりなんだぜ。
そうでなければ、この道場で師範代をまかされるわけないもんな。
「よし、なかなか筋がいいぞ、ただ、リオはつかれてくると腕が下がる傾向があるな。
もう少し意識したほうがいいぞ」
「はい、ノーヴェさん、気をつけます」
「よし、じゃあ次は組み手に行くか」
「ノーヴェさん、私と組み手をしてもらえませんか？」
「エミー陛下、まずは３人の中でやってからではいけませんか」
「すいません。時間が限られてますし、私、今日は試したいことがあるのです」
「試したい事って?」
「今日、騎士カリムより、デバイスを頂きました」
「陛下もデバイス持ちですか。保護観察中でデバイスも持たせられないと聞きましたが」
「半分はお目付役ですね。私の行動を記録する機能もある、ストレージ系デバイスですわ」
「ストレージ系？ストレージではなくて？」
「私にも詳しい意味はわかりません、ですが、騎士カリムはそう説明してくださいました」
「ストレージ系ですか…それで、そのデバイスは?」
「これですわ」
「うさぎ？」
「ええ、うさぎのぬいぐるみ型デバイス、名前はクリス。セイクリッドハートというのが
正式名称だそうです」
「だからって、こんな大きなデバイスでは、取り回しも難しいでしょう」
「ええ、ですから、無為にデバイスを使うことが無くて、よいそうです」
「それで、デバイスを使った模擬戦を、やってみたいということなのですね」
「ええ、概ね、そんなところです」
「いいですよ、では、…それなりの力でやらせていただきます」
「…時間がないので、全力でお願いしますね」
「大丈夫なんですか？」
「ええ、ノーヴェさんが、ISを使われないのでしたら」
「了解です、エミー陛下」
エミー陛下は、さっそくデバイスを起動します。
このあたり、しっかりしてるように見えても、まだまだ子供です。
新しくもらったおもちゃを試してみたくてしかたがないのだということは
あたしにもわかります…って、エミー陛下の口調がうつったな。
「…」
「…えと…エミーちゃん…」
「エミー…それって…」
「あら、言ってませんでしたか？格闘をするときの
リーチ差を埋めるために、クリスを使ったなら
概ね１６歳時程度の体形に変身することもできるんですよ」
「陛下が試してみたくなった気持ちがわかりますよ」
「では、よろしくお願いします、ノーヴェさん」
「こちらこそ…エミー陛下、おてやわらかに」
周りでも、あちらこちらで組み手をしてる奴らがいる。
まあ、あたしからみれば、基礎からしてなってないんだが
基礎がきっちりできて、組み手もすごければ、師範代になってるよな。
「…どうぞ、エミー陛下から」
「そうですね。では、参ります」
そういうと、エミー陛下はストライクアーツの基本的な
構えのまま、間合いを滑るようにつめてくる。
あたしの方はといえば、構えたまま、エミー陛下の次の動きに
意識を集中する。
しゅっ。
いや、実際にはこんな音はしてない。
けど、エミー陛下のパンチは、こんな風きり音を立てても
おかしくないぐらいに鋭く、あたしの目の前をよぎった。
それから、踊るようなステップでさらに間合いを詰め
あるいは開き、あたしの構えを崩そうとしてくる。
あたしの方は、ストライクアーツの基本通りに
エミー陛下のパンチを受ける。
エミー陛下がさらに間合いを詰めるようにして近づく。
そろそろあたしのターン、反撃の突きをエミー陛下に入れる。
いや、エミー陛下はそれを予測していたようだった。
間合いを詰めると見せた次の瞬間、飛び下がりながらの
回し蹴りを放ってきた。
あたしは、体を落としてエミー陛下の回し蹴りをかわす。
突きの方はお預けだ。
「さすがはノーヴェさんですわ。今の回し蹴りが見えられたのですね」
「見えたっていうか、感じた。けど、一応あたしのほうが師匠なんだぜ」
「これは失礼しました、ノーヴェさん」
「なら、ここからはあたしの方から行かせてもらおうかな」
「どうぞ、ノーヴェさん」
ここからあたしのターン。ストライクアーツは総合格闘技だ。
だから、パンチだけじゃなくてキックもある。
まずは基本のローキック。足払いだ。
エミー陛下はこれを難なくかわす、けど、ここからが
師範代をやらせてもらってるあたしの真骨頂だ。
切れ目のない連続した突きに膝蹴りを取り混ぜる。
普通の奴らなら、２，３発は受けることが出来ても
５、６発目になると目がついていかなくなって
まともに入るって代物だ。
けど、エミー陛下は違う。
冷静にあたしの動きを感じ取って、ガードしていく。
いや、ガードさせてるだけ、あたしが押してるって
いう言い方もある。
けど、…
「…ノーヴェさん、まるで、漫画みたいですね」
「あたしも、狙ったって言っちゃあねらったんですよ、エミー陛下」
クロスカウンターがお互いの頬にヒットする。
本来のエミー陛下…10歳の腕の長さだと起こりえないことだけど
今のエミー陛下の１６歳の腕の長さであれば、あたしと互角ってわけだ。
「…今日はこれくらいにするか」
「ええ、そうですね、ありがとうございました、ノーヴェさん」
気がつくと、周りの連中が組み手の手を休めて、みんなこっちを見てる。
どうやら、周りの連中も、エミー陛下の組み手のレベルがわかってるようだ。
よそ見せずに組み手を続けろ、なんていうわけにはいかない。
いい勝負を見るのも、練習のうちだからな。
「ノーヴェさん、では、今日は失礼しますね」
「ノーヴェさん、じゃあまた明日〜」
「ノーヴェさん、今日はありがとうございました」
「コロナ、リオ、エミー陛下、お気をつけてお帰りを」
「はい、ありがとうございます、ノーヴェさん。
ノーヴェさんも、お気をつけて」
「あたしは大丈夫、痴漢がきたら返り討ちにしてやるよ」
「ふふ」
「笑わないでくださいよ、エミー陛下」
そう、まだあたしは予測してなかった。
あたし自身の帰り道、あんな奴に遭遇するなんてことは。