私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことを呼ぶ時は、ヴィヴィオだよ。
私は今、海鳴市に帰ってきてます。
本局に居ても危ないのなら、むしろなのはママと一緒に海鳴市に居る方がかえって安全じゃないかという判断です。
それに、あまり学校も休んでられません。
「通信教育は受けてたから、その分は出席日数に足してくれるって、ヴィヴィオちゃん」
「うん、それは先生から聞いたよ」
「あー、やっぱ道場はいいな」
「冬美ちゃんはまず道場のことなんだね」
「まあな、ヴィヴィオ。師範目指すんだから、魔法にばっかり頼ってられねえ」
「ヴィヴィオも通信教育じゃない桃子おばあちゃんのレッスンを受けてるんだよ」
「私は帰ってきても不思議と感慨が湧かないかな、なんだかどこも同じような気がする」
「でも、おうちには帰ってきたんでしょ」
「うん、だけど、パパもママも夜遅く帰ってくるから大抵一人なの」
「そっか、月光ちゃんとこの家は、お父さんもお母さんも仕事が忙しいんだよね」
「うん、その分、休みの日には甘えたいんだけど、休みは休みで疲れてるみたいだし」
「うちは仕事が道場だから、そういうのはわかんないんだよな。
だけど、一人でさみしくないか、ゲッコウ」
「その分習い事とか、宿題やったり、それに冬美ちゃんやヴィヴィオちゃんと遊んでるから大丈夫」
「で、学校終わってからなにするんだ」
「とりあえず宿題やらないと、なのはママが遊びに出してくれないんだよ」
「じゃ、宿題が終わってから集まろうか」
「うちでお勉強会しようよ、みんな一緒の方が捗るよ」
「そうかもしれないな、ゲッコウはどうする？」
「うん、二人がそれでいいなら、私は大丈夫」
「なら決まりっ！」
そういうわけで、三人そろってヴィヴィオのおうちでお勉強会です。
お勉強会が終わってから、何をするかは、またそのとき考えるんです。
「あー、とはいえなんかかったりーなー、お袋は勉強しろっていうけど、親父は勉強する暇があったら体鍛えろっていうんだよな。
あたしとしては、勉強してるより体鍛えてる方が性に合ってるんだけどさ」
「でも、道場を継ぐにせよ、お勉強は出来たようがいいよ、冬美ちゃん。
学生大会に出るなら、やっぱり、強豪校に入れた方がいいと思う」
「川崎流の大会なんてないんだよな、格闘技の大会はあるだろうけど、川崎流ありってわけにいかないし」
冬美ちゃんの道場は、門下生はそれなりにいますけど、支部が日本全国にあるというほど大きくはありません。
実戦的な格闘を教える道場ですから、門下生には純粋に強くなりたい人が集まってます。
だけど、川崎流はそんなに大きな道場じゃないので、川崎流でオリンピックに出たりは、無理です。
「空手とか柔道とかレスリングとかはやらないの？」
「それやると、そっちをメインにしなきゃならなくなるだろ、ヴィヴィオ。
あたしは川崎流の後継者になりたいんだから、それじゃダメなんだよな」
「そんなものなんだ。お菓子作りには国境が無いって桃子おばあちゃんは言ってるんだけどね」
「格闘技はそういうわけにもいかないんだよな」
「そういえば、冬美ちゃんにはお兄ちゃんがいたよね、お兄ちゃんは道場を継がないの？」
「あー、あの兄貴か。兄貴は格闘に興味ないってさ。
親父に言わせりゃ才能もないらしいけど、それは努力だろ。
好きなら苦手でもやってるだろうからさ。
お袋は、兄貴は勉強でやってくタイプって言ってる」
「いいな、お兄ちゃんがいるって」
「いたらいたで煩わしいだけだぞ」
「だけど、家に一人ってわけじゃないんでしょ」
「兄貴以外に門下生とかいるから、あんま一人になることがないんだよな」
「なんかアカリちゃんと冬美ちゃんって、対照的だね」
そうそう、月光ちゃんは、月光とかいてアカリって読みます。
月とかいてライトよりは普通なので、それはそれでかまわないと思います。
「やー、やっと終わった〜」
「お疲れ様〜」
「そういうヴィヴィオは終わってるのかよ」
「うん、終わってるよ」
「ゲッコウも終わってるみたいだな。なんだよ、あたしが最後か」
「お話してる間、手が動いてたか止まってたかの差なんだよ」
「ヴィヴィオに言われるとなんか……まあいいや、とにかく終わったんだ。
遊びに行こうぜ」
「遊ぶって何するの？」
「とりあえず道場に来いよ、魔法抜きの格闘やろうぜ」
「アカリちゃんが退屈しないかな」
「じゃ、なにやるんだ」
「えと……何やろうかな」
「私は道場に行くのでいいよ。
ヴィヴィオちゃんと冬美ちゃんがやってるのを見てるだけでも楽しいし」
「そうか？ ゲッコウがかまわないって言ってるけど、ヴィヴィオはどうする？」
「月光ちゃんがかまわないのなら、それでいいよ」
「よし、じゃあ出発」
そういうわけで、ヴィヴィオ達は冬美ちゃんの道場へ向かいます。
途中海鳴公園を通ります。
「ここって、割と事件が起きるよな」
「そうだね、なのはママがユーノパパと出会ったのも、最初にガジェットが現れたのも、ここだったよね」
「フッケバインが人殺しをやってたのもここだったよね」
「そうだなゲッコウ。けど、さすがに立て続けにはおきな……」
『我が主、魔法的反応を感じない存在が会話してます、ミッド語です』
「まさか、フッケバイン？」
今話しかけてきたのが、私のインテリジェントデバイス、ライチェントゥークスです。
ライチェントゥークスは、魔法的生体反応感知では対応出来ない存在を感知するために
音響分析能力を高められています。
『分かりません、こちらに気づいてるかどうかも不明です』
「用心に越したことはないよ、ライチェントゥークス、魔法使用許可を。
あと、なのはママに緊急連絡」
『了解です、我が主』
「ヴィヴィオ、来るぜ」
「冬美ちゃん、どうして分かるの？」
「銀十字が教えてくれた」
「あ、そか」
銀十字は冬美ちゃんのデバイスです。
フッケバインに冬美ちゃんが付け狙われることになった原因でもあります。
だけど、魔法的に感知できない存在を感知したって一体……
ライチェントゥークスのような、高度な音響分析は出来ないはずなのに。
「旦那、こう早く見つかるってのは運がいいっスね」
「まあな、仕事が早くて済む」
男の二人組がこっちに近づいてきます。ミッド語で話し合ってます。
こっちにはミッド語が分からないとでも思ってるんでしょうか。
「二人とも、そこで止まって。ヴィヴィオ達に何か用なの？」
ヴィヴィオは戦闘モードに入って、二人に声を掛けます。
二人とも、アラウンド２０ってとこでしょうか。
おじさん呼ばわりするには、やや若い気がします。
旦那って言った方は、なんかちゃらちゃらした雰囲気があります。
旦那って呼ばれた方は、どことなく情緒不安定な凶暴さを感じます。
いずれにせよ、出会って楽しい相手ではありません。
「ミッド語？ 何者だおまえ。第97管理外世界でミッド語が使えるなんて。
念話でもないって、どういうことだ」
「私は、戦技教導官高町なのはの娘、高町ヴィヴィオだよ。説明はこれで十分だよね。
もう連絡したから、すぐになのはママが来るからね、観念しておとなしくしてれば
弁明の機会はあるよ」
「つまり、手っ取り早くやる必要があるってこったな、クライアントの希望だ。
高町ヴィヴィオ、川崎冬美、二人ともこっちに来てもらうぞ」
「クライアントって、フッケバイン？」
「答える義務はないんだな、これが」
軽いのりの方が、軽いのりのままこっちに近づいてきます。
「冬美ちゃん、冬美ちゃんは月光ちゃんを守ってて」
「ヴィヴィオ、お前一人で二人相手にする気かよ」
「ヴィヴィオにはこれがあるんだよ」
ヴィヴィオの得意技、分身です。
魔力が二分されるので、実力者相手には不利なのですが
それでも1人で2人相手にするよりはましです。
「クライアントからの説明通りだな。
まあいい、高町ヴィヴィオも連れてこいとなると、ウィルスは使えん。
力ずくで行くぞ」
「了解なんだな」
二人で了解されてもこっちは了解していません。
「弱っ！」
不用意に近づいてきたちゃらい男をフラッシュムーブで間合いを詰めて殴り飛ばします。
いきなりちゃらい男は吹っ飛ばされていきます。
「よし、これなら……」
『油断は禁物です、我が主』
「だけど、一人は片付け……」
「片付いてないんだな、これが」
「え？ あんだけ吹っ飛んで木にたたきつけられたのにノーダメージ、まさか……」
「こっちのターンなんだな」
「そうはいかないんだよ」
魔力が二分されてるので、魔力損耗の大きな砲撃などは避けたいところです。
ちゃらい男を普通に殴ります。
「効いてないんだな、これが」
「体が異様に柔らかいんだね、手応えで分かったよ」
「まあ、そういうことなんだな」
これはこれでやっかいな相手です。
でも、ヴィヴィオには切り札があります。
時間さえ稼げればこっちのものです。
「ちょろちょろとしやがって」
「鬼さんこちら、なんだよ」
こっちの旦那と呼ばれた方は、ヴェイロンと同じ雰囲気を感じます。
どうやら、二人とも接近戦が得意で、この旦那、力自慢のようです。
捕まったら、やっかいなことになりそうです。
だから、ヴィヴィオはちょこまかと動き回って
捕まらないように相手を攪乱します。
「ちょこまか動くなら、あっちを先に片付けるまでだ」
「あ、冬美ちゃん、危ない！」
私が冬美ちゃんと旦那とのライン上に居なくなったすきに
旦那って呼ばれた男は、一気に冬美ちゃんの方へ接近します。
「これでも食らえ！」
冬美ちゃんがディバイダーを旦那にたたき込みます。
この射撃は、旦那にとって意外だったらしく、直撃します。
そこへヴィヴィオの側面からの体当たりをヒットさせます。
「ちぃ……クライアントの説明と違うじゃねえか。
こいつら……強い」
「そっちが弱すぎるだけだろ……」
フッケバインとは段違いの弱さです。
これなら、ヴィヴィオ達だけでも捕縛出来るかもしれません。
とはいえ、油断は禁物です。
捕縛はあくまでなのはママに任せて、ここは時間稼ぎです。
あれ？ みすぼらしい格好をした女の子が現れました。
どういう事でしょう。
「そこの子、危ないよここは、離れて！」
「フィフス、お前なにとろとろしてた、さっさとしろ、リアクトだ」
みすぼらしい格好をした女の子……小学5年生のヴィヴィオから見ても子供です……は
旦那の命令に一瞬おびえますが、すぐに旦那と融合します……って、融合？
「まさか、あの子、融合騎？ だけど、それにしては大事にされてない感じが……」
「やかましい、俺はあいつを見てるとむかつくんだよ。
だが、貴重な戦力じゃある。
リアクトの効果、見せてやるよ、たっぷりとな」
「雑魚は強化されても雑魚だぜ」
冬美ちゃんが銀十字から無数の魔法弾を発射します。
それが、すべて旦那に降り注ぎます。
「リアクトした俺には、そんな豆鉄砲通用しないんだよ」
次々と直撃する弾をものともせずにこっちに近寄ってきます。
でも、油断大敵ってこと、ヴィヴィオが教えてやります。
「ディバインバスター！」
旦那にディバインバスターを直撃させます。
スターライトブレイカーほどの破壊力はありませんが
直撃させれば、インターミッドの選手ぐらいノックアウトする威力はあります。
「効かないって言っただろ」
「うそ、直撃したはずなのに……」
「リアクトした以上、俺は無敵なんだよ」
「それなら、ヴィヴィオ達ももっと頑張らないといけないってことだよね」
なのはママはもうすぐ到着します。
そうなればあいつらなんて一撃です。
それまで、アカリちゃんを守って、生き延びればヴィヴィオ達の勝ちです。
楽勝ではありませんが、理不尽なほど難しいことでもありません。
「お前らに何が出来るってんだ？ え？」
「こういうことが出来るんだよ！」
「え？」
ロケット弾が私達と旦那達の間に降り注ぎます。
これはなのはママではありません。
一体だれが来たというのでしょうか。
「へっ、サイ姉を倒した割にはざまねえな。
まあ、リアクトした感染者相手じゃ仕方ないか」
「そういうなアル、本気であいつらを倒そうという姿勢も見えなかった」
「ヴェイロンにアル……一体何しに来たの？」
「今はお前らに用事はねえよ、用事があるのは、あっちの男二人にだ」
「フッケバインか。何しに来た」
「てめえらに聞きたい事があるんだよ。ちょいと答えてもらおうか」
「冗談は顔だけにしとけ」
「ほざけ」
どういうことでしょう、あの、旦那達とフッケバインとは無関係ということでしょうか。
いや、無関係どころか、敵対関係にさえ見えます。
ということは、あの、旦那達は第三の勢力に属してるということでしょうか。
ともかく、なのはママが来るまで生き延びる、という目的には近づいてるかもしれません。