「ユーノパパ、無限書庫で捜し物をしていい？」
「いいけど、危険区画には行っちゃダメだよ」
「分かってるよ、ユーノパパ」
ここは、無限書庫です。
ユーノパパは忙しくお仕事をやってます。
本当は、ユーノパパにも手伝ってもらって、エクリプスウィルスのことを調べたいんですけど
お仕事で手一杯なので、ヴィヴィオ達が探さないといけません。
「ヴィヴィオさん、私もお手伝い致しましょうか」
「ありがとう、リリィさん」
「では、参りましょうか」
「そうだね、エミーちゃん」
「あたしらはお留守番か？ 行っても手伝えることないけどさ」
「冬美ちゃん達も一緒に行こうよ。待ってても退屈だろうし」
「そうだな。行ってみるか」
「大丈夫？ 邪魔にならない？」
「大丈夫だよ、危険区画ははっきり分かるし、そこに行かなければ危険はないから」
「ありがとう、ヴィヴィオちゃん」
「お礼を言われるようなことでもないけど。じゃ、一緒に行こうか」
「うん」
そういうわけで、私たちは無限書庫の中へと入ります。
無限書庫は、説明するまでもなく、管理局最大のデータベースです。
情報を無限に収拾するロストロギアでもあります。
ここでなら、エクリプスウィルスについての情報もきっと手に入ります。
「じゃ、私がおおざっぱに検索を掛けるから、エミーちゃんは精査をお願いね」
「分かりましたわ」
「ライチェントゥークス、魔法支援。
エクリプスウィルスで検索」
『了解しました、我が主』
「クリス、高町さんとライチェントゥークスが収集した情報をこちらに回して。
確度の高いものを精査」
クリスがうなずきます。
「じゃ、検索開始！」
数秒後。
「え？ こんなに少ないの？」
「古代ベルカ時代の情報が大半のようですね。
新暦に入ってからの情報はほとんどありませんわ」
「おっかしいなあ、書類どころかデータ自体を収集する無限書庫だから
情報が入らないってことはないはずなんだよ」
「無限書庫の検索をキャンセルする方法があるのかもしれませんわね」
「確かにあるよ。情報が暗号化されてたら、暗号解読しないかぎり
情報を取り出せないし、無限書庫には暗号解読能力はないもんね。
けどけどけど、暗号解読すればいいのなら、ヴィヴィオにも考えがあるんだよ」
「その前に、古代ベルカ時代の情報を知るべきではないかしら」
「あ、そか、ありがと、エミーちゃん」
「で、エミー、一体どんな情報があるんだ」
「その前に、リリィさん、データ記録をお願いしますわ」
「あ、はい。今準備します」
「では、準備が終わり次第……終わったみたいですわね。
エクリプスウィルス、古代ベルカ時代に実戦投入された殺人ウィルス。
本来の目的は、人間の能力向上であったが、適合者以外を殺すため
殺人ウィルスとして投入された禁忌兵器」
「殺人ウィルスなんだ……けど、あたしは平気だぜ、どういうことなんだ？」
「もう少し詳しく情報を調べてみますわね……適合者は偶然適合する場合があるが
古代ベルカ時代の科学者が、適合因子を組み込む方法を発見。
この人為的適合因子者により、使用した国は滅亡。エクリプスウィルス技術も散逸、とありますわ」
「……人為的適合出来るんなら、つまり、超人が作れるってことだろ。
なんで散逸させたんだろうな？」
「そこまでは記録に載ってないようですわね。もう少し違った検索を掛ければ分かるのかもしれませんが」
「検索を掛けてみるよ、エクリプスウィルス、副作用で検索」
「……副作用、超人間的能力の獲得……って、それ作用じゃないの？」
「作用で検索してみては」
「そだね。副作用がそっちなら……って、作用が殺人なんだ。何これ、情報がわけわかんないよ」
「地道に調べるより他ないということですわね」
「そうだね。ごめんね、冬美ちゃん、ろくな情報集められなくて」
「しかたねーよ。けど、これでモルモット確定か。なんかやだな」
「あの、ヴィヴィオちゃん、考えがあるってどういうことなの？」
「あ、そだ、新暦時代の情報を探してみようっていうんだったね。
資料には、収集場所の情報も含まれてるし、それは機密じゃないから
ウィルス関係の資料のうち、暗号がかかってるものを……」
「それだけでは莫大なものになるのではないかしら。
企業秘密は暗号がかかってるのが普通ですわ」
「けどけどけど、暗号の鍵さえ見つければ大丈夫だよ」
「どうやって見つけるんだよ、ヴィヴィオ」
「それも無限書庫に落ちてるはずなんだよ。暗号鍵とその暗号で解読できる情報を組み合わせ
解読した情報からエクリプスウィルスを探せば……」
「演算能力が莫大必要になりますわね」
「あ、そか。それで情報を当たろうとするとものすごい時間がかかるんだった。
冬美ちゃん、月光ちゃん、時間かかるけど、いい？」
「ものすごい時間ってどのくらいなんだよ」
「えと、検討も付かないぐらいたくさん」
「ものすご過ぎるだろ、ていうか、当てずっぽうと何が違うんだよそれ」
「当てずっぽうそのものなんだよ。それを力業で破ろうっていうだけ」
「どれくらい時間がかかるか、本当に分かったものじゃないな」
「うん……」
「嘆く必要もありませんわ。とりあえうず、管理局で分かってる情報だけでも取り出してはどうかしら。
こちらは暗号が関係ありませんもの」
「あ、そだね、偉いエミーちゃん。じゃ、管理局医務部の情報を検索するよ」
「すでに出てますから、精査するだけですわね」
「精査は？」
「もう出来てますわ」
「さっすがエミーちゃん、すごい」
「高町さんが情報をもれなく集めてくださったからですわ。
さて、……エクリプスウィルス。大抵の人を殺すウィルスだが、まれに超人を生み出すこともある。
その超人集団の一つがフッケバイン。それ以外にもエクリプスウィルス感染者による犯罪と
思われるものがある」
「エクリプスウィルス、犯罪で検索。特にそれ以外の犯罪者について」
「了解ですわ、高町さん。……それ以外の犯罪者を含めて、殺人が行われている。
……詳細は管理局でも分かってないみたいですわね。管理外世界での殺人も多いようですから
情報が十分に集まってないのかもしれませんわ」
「あの、エミーちゃん。ヴィヴィオちゃん。管理外世界の殺人も、殺人なら殺人事件として情報があるんじゃない？
エクリプスウィルス感染者による殺人で、管理外世界の情報は集められないの？」
「何がエクリプスウィルス感染者による殺人か、特徴があればいいのですけどね」
「特徴は皆殺しってことかな？ じゃあ、それで検索掛けるよ」
「……多すぎて整理に困りますわね」
「あはは、戦争犯罪とかで埋め尽くされてるね」
「あんま笑い事でもないけどな。けど、こっち方向じゃ無理か」
「そだね……」
「行き詰まったかな」
「けど、エクリプスウィルスが、殺人ウィルスっていうことは分かったよ。
それに、情報が散逸したっていうけど、封印したのかもしれないし」
「そうだな」
「あの、みなさん、気晴らしはいかがでしょう」
「リリィさん、気晴らしって？」
「ちょっと居住区画へ遊びに行きませんか」
「行くのはいいけど、何があるの？ おいしいお菓子屋さん？」
「ふふ、高町さんはお菓子屋さんに目がないですものね」
「残念ながら、お菓子屋さんではありませんが……」
「けど、リリィさんのお勧めなんでしょ、行ってみようか」
「はい、私も行くのは初めてですけど、噂ではすごい人気の占い師さんだそうですよ」
「占いかぁ、占いって、当たるも八卦って奴だろ。大丈夫なのかな」
「だから、気晴らしですよ、冬美さん」
「そか、気晴らしにはいいかもな」
そういうわけで、私たちは、その、良く当たる占い師さんのところを目指します。
「占い師さんの所に行くのはいいけど、割と占いって高いよね」
「ちゃんとした占い師ならな。手相見だって２０００とか３０００とかするし」
「そこは行ってみないと。冷やかしはお断りでしょうが、代金を聞いてから
見てもらうかどうか決めればいいわけですから」
「そだね、リリィさん」
その、良く当たる占い師さんは、居住区画の街角に水晶球をおいて客待ちをしてました。
いえ、客待ちというのは正確ではありません。占い師さんは大人気で、客の方が
順番を待ってます。
「うわあ、すごい人だかりだな」
「それだけ人気があるってことだよ」
「当たるのかなあ」
「それより、お金足りるかな……」
「なんだ、ゲッコウ、見てもらう気になったのか？」
「う、うん……占い、嫌いじゃないし」
「あたしは好きじゃない」
「まあ、並んでみてはどうでしょう」
そういうわけで、私たちは1時間ちょっと並んでました。
「はいはい、次の方……」
「あの、私たち、お小遣い少ないんで、代金を先に聞いてから、占ってもらうかどうか決めたいんですけど……」
「お代は座ってからのお楽しみ」
「それ、ぼったくりってことだろ」
「占い師は伊達じゃないってところを見せますよ、お客さん。ぼったくりと思えばそのまま返ってもらって結構。
けど、払えない金額を言ったことはないですよ。けちな人はそのまま帰りますけどね」
「あの、私をお願いします」
「はいはい、んーと、お代は３０００ね」
「相場通りですね」
すると、後ろから声がします。
「おいおい、俺の時は10万って言ったじゃないか、なんでそんな格差があるんだ」
「あたしの見料はお財布次第。この子は財布の中身が全部で３０００だから３０００。
あんたは50万からあったでしょ。この子の方がよほど一杯払うってこと、理解出来ないかな？」
後ろから言った男の人は、びっくりしたように占い師さんを見つめます。
月光ちゃんも、びっくりして占い師さんを見つめます。
「えと、なんで財布の中身が分かるんですか」
「そりゃ占い師なんてそれも仕事のうちですからね。
で、３０００払うの？ それともやめる？」
「い、いえ、いまので見てもらう気になりました、お願いします」
月光ちゃんは、財布をはたいて３０００出します。
「これでこっちのお金に両替したぶん全部……」
あ、そうそう、当然ミッドチルダと海鳴市では使うお金は違います。
違いますけど、普通に両替が本局で出来ます。
日本円だろうがアメリカドルだろうが、偽造通貨じゃなくてれっきとしたお金です。
管理外世界相手でも、管理局の存在に気づくことが出来る程度に文明が進歩してる世界とは
接触ぐらいはしています。だから、お互いに話ぐらいはしますし
人間の交流があれば、お金の交換も出来るようにしてるんです。
「それだけ真剣な悩みってことね。じゃ、手を出してまずは手相を拝見……
ふむふむ、健康の悩みじゃないわね。体は至って健康っと
学業はそれなり、友人関係も問題なし……」
「そんな事まで分かるんですか」
「友達と一緒に来てて、その雰囲気から友人関係はね。
これは占い以前の問題。学業は言葉使いから、体は手相から見ただけよ。
それで、占って欲しいなやみはなに？ 少なくとも、恋の悩みじゃなさそうね」
「だからどうして……」
「小学5年生ぐらいでしょ、あなた。恋の悩みで占い師を頼るっていうんじゃちょっとませてるわ。
そうなると、大体悩みは想像が付くけど、あえてここは自分の言葉にしてもらおうかな」
「あの、私、将来が不安なんです。大人になってどんな風になるかまるで想像が付かなくて。
ヴィヴィオちゃんは、お菓子屋さんになるって決めてるし、冬美ちゃんは、道場を継ぐって
決めてるんだけど、私はなにになるかまったく決められなくて……」
「そうね。それぐらいの年頃だと、そういうのってすごく悩むのよね。
けど大丈夫。少なくとも、あなたはいいお嫁さんになるわ。それは間違い無い」
「お嫁さん、って、相手が要りますよね」
「そうね。けど、就職するのも、起業するのも、相手が必要なことに違いはないわよ。
それに、お嫁さんだって立派なお仕事になるの。なにも社会に出てばりばり働くだけが仕事じゃないわ」
「どんな人と出会えるでしょうか」
「さすがにそこまで未来を見通せたら、占い師辞めて予言者やってるわ。
ただね。人は自分に似合った人を呼び寄せるの。
だから、自分を磨けば、自ずと自分に見合った人と巡り会えるはずよ。
特に、女の子はね。むしろ、ゴミをより分けるのに苦労しそうね」
「見合った人が来るんじゃないんですか」
「見合った人だけくるなら、詐欺師なんて職業成り立ちませんて。
それはともかく、今は自分を磨いて、いろんな人とつきあう事よ。
男の子って決めてかからずに、女の子でもいいから、いろんな人とね。
それがあなたの財産になるの。今の友達を大切にして、別れないようにするなら
きっとたくさんのいい友達にも恵まれるわ」
「ありがとうございます。なんか元気が出てきました」
「それは良かった。で、次のお客さんは誰かな」
「あの……私をお願いしてよろしいでしょうか」
「リリィさんも占って欲しいことあるの？」
「ええ、……ちょっと、気になることがありまして」
「はいはい、あなたは５０００ね。仕事してるんでしょ。
それぐらいの余裕はあるわよね」
「ええ、その程度でしたら……けど、どうして私は財布をはたくように言わなかったんですか」
「仕事をしてるって分かったとか、財布の中身をどうして分かったのかとか聞かないの？」
「そういうことを全部見通す方だと思ったんです」
「ま、確かに、相手の財布の中身を見通すのは私の大切なお仕事だからね。
で、まずは手相を拝見……！」
「……どうしたんですか？」
「……まさか、そんな……こんな偶然って……」
「あ、あの……」
「あ、ごめん、こっちの話。それで、悩みって……」
「あの、私の選択は間違ってたんでしょうか、間違いではなかったんでしょうか」
「間違ってないわ。うん、間違ってない。けど、今居る場所は間違ってるわ、そう、間違ってる。
あなたはここに居るべきじゃないし、あなたの友達も、ここに居るべきじゃないわ」
「おいおい、リリィは選択って言っただけだぜ、それなのに、なんで正しいか間違ってるか分かるんだよ」
「それは簡単。私は手相から体の事が分かるからよ。それも、その人以上にね。
リリィさんは普通の体じゃないわ。だから分かるの」
「普通じゃないって……ま、あたしは普通じゃなくなったらしいけどさ」
「その原因なんでしょ、リリィさんは」
「だからなんで分かるんだよ」
「体のことは分かるって言ったでしょ。だからよ」
「ここに居るべきじゃないとしたら、私はどこへ行けばいいんでしょう」
「それは、いずれ迎えが来るわ、私から言えるのはそれだけ。
ごめん、今日は店じまい。占いはここまでよ」
そう言うと、占い師さんは水晶球を鞄にしまい込みます。
それから、いすをたたみ、机を折りたたんでしまいます。
後ろからブーイングが聞こえます。
「はいはい、お客さん、私は逃げませんからね。
でも、今日はおしまい。また明日いつもの時間に」
そう言うと、占い師さんはさっさと帰ってしまいました。
「なんだったんだ、今のは……」
「さあ、分からないです。私には検討もつきません」
ヴィヴィオにも検討がつきません。
占い師さんは、リリィさんを見た時、間違いなく動揺してました。
何が占い師さんを動揺させたのかは分かりません。
けど、何か、悪い予感がします。
良くない出会いがあるような、そんな予感がするんです。