「アル、あまり手荒なまねをしてはいけませんよ」
「サイねぇを負傷させた奴らだぜ、手荒なまねすんなっていわれてもな」
「力尽くで連れてきても、私たちの目的は達成されませんよ。
あくまで、私たちの仲間になってもらうのが目的ですからね」
フッケバインにはフッケバインの都合があるようです。
でも、私たちには私たちの都合があります。
冬美ちゃんは友達です。友達を殺人集団の仲間なんかにする訳にはいきません。
「ずいぶんと紳士的ですわね」
「我々は、必要な時には人殺しもやりますが、望むところではないのですよ」
「フォルティスさん、それはどういうことなのですか」
『我が主、にらみ合っていても救援は来そうにありません』
「え？ どういうこと、ライチェントゥークス」
『彼らの通信妨害は完璧です。ここの騒ぎも、回りには伝わってないでしょう。
私もジェットエッジなどに通信を試みましたが、まったく反応がありません』
「反応がなければ、反応がないことをおかしいと思うんじゃないの」
『私達のデバイスと同じ反応を擬似的に作り出して、異常が無いように見せかけてます。
これでは、他者が私たちの状況に気づくのは無理かと』
「……こういうとき、なのはママならどうするかな」
『考えても始まりません、我が主』
「そだね、考えても始まらないよね」
戦略のミスを作戦や戦術でカバーするのは不可能とはよく言われます。
戦略は完全に相手のペースなのかもしれません。
しかし、作戦のミスを戦術でひっくりかえした例なら戦史に事欠きません。
奇襲から立ち直って、逆転勝利の例ならいくらでもあります。
不意打ちを受けたのは事実です。
しかし、私たちはもう混乱はしていません。
やるべき事は、火を見るより明らかです。
「行くよ、ライチェントゥークス」
『分かりました、我が主』
「相談はそれぐらいか？ じゃ、そろそろ本気で行くぜ」
「大丈夫だよ、ヴィヴィオも本気だから」
この状況、私たちにとって冬美ちゃんが玉です。
取られたら負けです。
それは冬美ちゃんにも分かっててくれるといいんですけど。
「冬美ちゃん、距離を取って戦ってね」
「どうしたんだヴィヴィオ」
「ヴィヴィオに考えがあるからっ！」
「分かった、おまえはどんくさいけど、頭は悪くないもんな」
「どんくさいだけ余計だよぉ」
そうはいっても、冬美ちゃんのようにきびきびとしてないのは事実です。
それでも、今、頑張らなければならないのは、ヴィヴィオです。
「魔法の遠距離射撃戦なら勝てるつもりか？
俺は銃を使うのが下手なわけじゃないぜ」
「分かってるよ。でも、接近戦を挑んだからって勝てるわけじゃないよね」
「分かってるじゃないか、降参するか？」
「ううん」
「虚勢は怪我の元だぜ」
ヴェイロンは、正確にこちらを撃ってきます。
こちらはこちらで、相殺するのがやっとです。
でも……
「ライチェントゥークス、ブリッツアクション」
『了解、我が主』
ランダムな揺らぎを入れて高速近接戦を挑みます。
ブリッツアクションは、速度がフラッシュムーブより速い代わりに
自分の意志で動きを変えることが出来ません。
普通は直線的な動きになるのですが、あらかじめランダムな動きをプログラムすることで
揺らぎをつけることは可能です。
ただ、これは通常、ブリッツアクションの利点を殺します。
それだけ接近速度が落ちますし、第一、ランダムな動きではこちらも狙いをつけにくくなります。
ただ、私が考えてる作戦をやるには、これで十分なんです。
「考えてることは見え見えなんだよ」
そう、考えてることは見え見えです。
接近戦を再度挑もうというわけです。
ヴェイロンは、私との接近戦には自信を持っているみたいです。
それが油断につながれば……
「そらよ」
ブリッツアクションを切った瞬間を捕らえて、ヴェイロンが私を捕まえに来ます。
素晴らしい判断です。ヴィヴィオの想定通りです。
だけど、ヴィヴィオの想定通りなんです。
ジャブを放つとみせかけ、拳を途中で引っ込めます。
その拳を捕らえようとしたヴェイロンの手が宙を切ります。
「ん？」
ヴィヴィオは至近距離でしゃがんで、ヴェイロンの視界から一瞬だけ消えます。
そこから全身のバネを使ってアッパーをヴェイロンのボディにたたき込みます。
「ライチェントゥークス！」
『ディバイン バスター バースト！』
魔力回収プログラムで改修しておいた魔力を、第五世代になったライチェントゥークスが
物理的打撃に変換して、至近距離で、態勢の整ってないヴェイロンにぶつけます。
完全ノーガードの所に入りました。これならヴェイロンだって。
私は距離を取り直します。
腕力は相手の方が上です。捕まったら終わりなのに変わりはありません。
「ちぃ……久しぶりにいい気分だぜ。気持ちいいのいを食らった」
「えー、ノックアウト出来なかったの〜完全に入ってたと思ったのに〜」
「完全に入ったぜ。やっぱおまえは気に入ったわ」
気に入ってもらっても困ります。
ていうか、殺人集団からは嫌われてるぐらいでちょうどです。
「ヴェイ兄ぃが膝をついてる？ どんな手品を使ったんだよ」
「ヴェイロンが膝をつくなんて……なんという子供なんですかね」
「ヴィヴィオは天才なんだよ。さすがに格闘なら天賦の才があるな、ヴィヴィオ」
「クリティカルヒットで膝をついてるだけってそっちのほうが化け物だよぉ。
インターミッドなら絶対LP０になってるだけの打撃を入れたのにぃ」
「クリス、バースト」
クリスが黙ってうなずきます。
あれ？ エミーちゃんは何をする……いや、何をしたんでしょう。
「アル、ヴェイロン、撤退ですよ」
「な？ 戦いはこれからだろ」
「どういうことだ、フォルティス」
「通信妨害を破られました。さっきの魔力バーストで、すぐにヴォルフラムが駆けつけてきますよ」
「返り討ちにしてやるまでだ」
「だから、私たちの目的を忘れないでください。返り討ちにしてはいけないんです」
「わーったよ。この場のリーダーフォルティスだ。指示には従うよ。……気に入らないけどな」
「気に入らないのは俺も同様だ。が、フォルティスの判断には従うしかないな」
「え？ 逃げるって……まだ私たちはなにもしてないよ」
「ヴェイロンに膝をつかせ、私の通信妨害を破る。それで何もしてないと言われてはね。
ともかく、また会いましょう。手遅れにならないうちに」
「あ、待って、まだヴィヴィオの話は終わって……」
転移で３人は逃げました。
たぶん、サイファーも逃げてると思います。
三十六計逃げるにしかず。
逃げ足の速さが、彼らの生き残りを支えてるのかもしれません。