ここは、無人世界にあるルーちゃんち。
ルーちゃんとメガーヌさんが住んでいるから、厳密には無人世界じゃないけど
無人世界で通ってるんだよ。
危険な原生生物とかは、ルーちゃんちの回りからは排除されてるから、
ルーちゃんちに滞在するのは、基本的には安全です。
「例外はあるよな、ヴィヴィオ」
「そうだね、冬美ちゃん」
今は例外です。
ヴィヴィオ達は、あえて殺人集団フッケバインに付け狙われるために、わざとここに来てるんです。
「付け狙われるというか、襲撃を待ち受けるためですね」
「そうだね、エミーちゃん」
「けど、まだフッケバインは影も姿も見えないぜ」
「リオちゃん、きっと、忘れた頃に現れると思うよ」
「それはあるかもな、コロナ」
「つか、あたしらがここに居るっていう情報がフッケバインに通じてないと
フッケバインが現れる事は無いし、たとえいるって分かったとしても
絶対に口封じに来るとも限らないだろ。
作戦にちょっと無理があるのかもしれないぜ」
「それならそれで一安心だよ、冬美ちゃん」
「どういう意味だよ」
「フッケバインが、冬美さんやヴィヴィオさんを重視してないと言うことですわ。
それなら、安心して元の世界に戻ることが出来ますわ」
「なるほどな、エミー。
だけど、安心出来るまでどれくらい居ればいいんだよ」
「なのはママは、二週間もいれば結論が出るだろうって言ってたよ」
「二週間か……長いような、短いような……」
「どっちつかずなら、適正なんだよ、たぶん」
「だといいけどよ」
冬美ちゃんの心配も最もです。
だけど、はやてお姉ちゃんは、一週間経たないうちに現れると思っています。
まだこちらに来て3日です、慌てるような時間ではありません。
「それで、他のみんなはトレーニング場へ行ってるのか？」
「うん、ルーちゃんの案内であっちに行ってるよ。
ミカヤさんと、メガーヌさんは調べ物をするって」
「調べ物ね。何を調べるんだろう」
「ここにも、パパが用意した書物が並べられているから
それを調べようというのではないかしら」
「不思議なんだけど、エミーちゃん」
「何かしら」
「なんで、ルーちゃんちにドクター・スカリエッティの書物が集められてるの？
管理局が管理するのが普通だと思うんだけど」
「管理局の管理下に、ここへ隔離されてるのですわ。
それに、ここの書物のすべては、無限書庫にもありますもの」
「それもそうか」
無限書庫、それは全次元世界のあらゆる書物を収めるロストロギアです。
文字通り、あらゆる書物のデータを収集する存在なので
スカリエッティが集めた書物も、探せば無限書庫にあるはずです。
問題は、探し方がうまくないと、何が入ってるかも分からないということです。
ユーノパパが開発し、日々錬成している検索魔法がなければ、とても情報を調べ出すなんてことは出来ません。
「ヴィヴィオ、おまえ、あのドクターの話題が出ても、割と平気になったんだな」
「うん、ピーマンの次に嫌いだったけど、今はピーマン同様平気だよ」
「おまえのピーマン嫌いも病気の域だったけどな」
「それはもう言わないでってば」
「こうやってお話しているのもいいけど、そろそろ体を動かそう」
「そうだね。みんなが居る場所へ行こうよ」
「そうするか」
「ええ、いいですわね」
「じゃ、出発〜」
私たちは、一同連れだって、みんなが鍛錬しているアスレチック場を目指します。
そこには、ミウラちゃん達も居るはずです。
「とはいえ、割と離れてるな」
「そうだね、家の隣がアスレチック場って言うわけじゃないみたいだね」
「やっぱ、破壊魔法とかも使う用事があるからかな」
「ふふ、家が壊れては大変ですものね」
『伏せて下さい！我が主』
ライチェントゥークスが警報を叫びます。
徒やおろそかに警報を出すライチェントゥークスではありません。
「伏せて、みんなっ！」
緊急事態です。ヴィヴィオはとっさに伏せます。
緊張が緩んでいる来る頃ですが、まだそんなこともあろうかと備えるだけの
気持ちは残ってました。
冬美ちゃん、エミーちゃん、リオちゃん、コロナちゃん、みんなヴィヴィオと一斉に体を低くします。
熱いエネルギー弾が、遙か頭上を通り過ぎて行きます。
「？」
「当てる気のない、単なる警告射撃だ。けど、相変わらずいい反応だな」
「あー、あのときのおじちゃん」
「おじちゃんとはご挨拶だな」
「何しに来たかは分かってるけど、むざむざやられる予定は立ててないよ」
「いや、おまえらが、俺たちの目的を知ってるとは思えないな」
「現れたってことは、私と冬美ちゃんに用事があるんでしょ。
それなら、何しに来たかは自明じゃない」
「おまえに用事はねえよ。用事があるのはただ一人だ」
「ヴィヴィオには用事がないって？」
「そう、川崎冬美。俺たちが用事があるのはおまえ一人だ」
「あたしに用事だって？ ヴィヴィオに用事じゃなくて？」
「そうだ。おまえ、エクリプスに感染しただろう？」
「それがどうかしたのか」
「迎えに来た」
「何に？」
「俺たちのファミリーに」
「はあ？ なんであたしが殺人集団の迎えを受けなきゃならないんだよ」
「事情は付いてくれば分かる」
「断るって言ったら？」
「おまえは、この申し出を断れない」
「なんでそう言える」
「……おまえ、エクリプスウィルスについて、何も知らないんだな」
「悪魔の力を与えるという事ぐらいは知ってる。だけど、それとフッケバイン一家となんの関係がある」
「なぜ悪魔の力って言われるか、本当に知っているのか？」
「それは……」
「エクリプスウィルスの保有者は、遅かれ早かれ殺人衝動を抑えきれなくなる。
超人的力を得る副作用みたいなもんだ。
っていうか、おまえ、適合者だったのか？」
「適合者？ なんのことだ？」
「ヴェイロン、無駄話が過ぎる。
時間もあまりない。力尽くで連れて行って、追々説明すればいい」
「サイファー、おまえ、俺のお株を奪ったな」
「ヴェイロンは本当に子供好きだな」
「ガキは嫌いだ」
「そうか？」
「ごちゃごちゃうるせえよ。あたしはおまえらについて行くつもりは毛頭無い」
「そうだろうな。けど、手遅れになる前に付いてこい。
友人を殺める前に、俺たちのファミリーの一員になれ」
「なったところで、人殺しの一団に加わるだけじゃねえか、何が違う」
「少なくとも、友人は襲わずに済む」
「他人なら殺していいってか？」
「エクリプスウィルスの保有者は自殺もままならない。
殺人は、エクリプスウィルス保有者が生きるには、必要なことさ。
おまえらだって、動物性タンパク質は嫌いじゃないだろ」
「それとこれとは話が違う」
「変わらねえんだよ。……っと、まあいい、おまえが来る気になれねえっていうなら
今おまえの友達の安全は保証出来ないぜ」
「殺人集団はそうこなくちゃな」
「誤解の無いように言っておくが、我々は無益な殺人は行っていない。
必要最小限度の食事と、世直しだけだ」
「必要最小限度が、あの海鳴市の虐殺か」
「一人が一人殺しただけだ。俺たちのファミリーも、大所帯なんでな」
「だとすれば……」
「飲み込めたか？」
「あたしらも甘く見られたもんだな」
「そう言うな、一人で来なかっただけ注意してるんだぜ」
冬美ちゃんが何を考えてるかは分かります。
この状況で必要なことは、可能な限りの時間を稼ぐこと。
フッケバインの捕獲は私たちの仕事ではありません。
それは危険ですし、たぶん、ヴィヴィオ達の手に余ります。
出来ることは、可能な限り生き延びること。
そして、なのはママ達の到着を待つことです。
あれ？ だとすれば、フッケバイン達は、なぜ冬美ちゃんの時間稼ぎにつきあってるんでしょう。
フッケバイン達にとっては、時間は敵のはずなのに。
『ヴォルフラムと全く連絡がとれません、我が主。
それどころか、メガーヌさん、ルーテシアさん達とも連絡不能です』
「どういうこと？ ライチェントゥークス」
「簡単な事です、通信妨害ですよ。
ヴォルフラムには、偽情報を送ってますから、気づくのは当分先のはずです。
他のメンバーは、うちのファミリーが足止めの配置についてます。
気づいたところで、どうにか出来るものではありません。
そんなことより、冬美さん。私たちの所へ来る気にはなってもらえませんか。
まだあなたは初期感染の段階だから、殺人衝動を感じてないでしょう。
けど、エクリプスウィルスについて調べるなら、私たちの言うことが間違ってないと分かるはずです。
そうなれば、否が応でも、私たちのファミリーに加わる以外の選択肢がないと分かるはずです」
「誰だあんたは」
「フッケバインファミリーの一員、フォルティスと申します」
「その、フォルティスさんも、ファミリーに加われっていうのかよ」
「ええ、他に方法がないからです。
私も勧誘を受けて、ファミリーに加わったんですよ。
最初は私も半信半疑でしたが、中期感染者になる頃には、加盟する以外の選択肢がないことが理解出来ました」
「中期感染者になるまでに、どれだけの時間があるんだよ」
「分かりません。人によるとしか」
「そうか。で、それを信じろと」
「信じる信じないではありません。動かしがたい事実なんです」
「悪魔の力、か……」
冬美ちゃんが考え込み始めました。
どうもまずい感じがします。
だんだん、フッケバインのペースです。
「冬美、なんで悩むんだよ。
いつもの冬美なら、こう言うだろ
『あたしはおまえらを信用しない。話はそれですっかり終わってる』って」
「そうだったな。フッケバインが本当の事を言っているっていう……」
「私は本当の事を言っているんですよ。信じようと、信じまいとね。
もっと詳細にエクリプスウィルスの事について知れば、
私が嘘を言っていないことが分かるでしょう」
「で、それを今決断しろってか？」
「今とは言いません。考えてくれるというのなら、我々はこれで……」
「……誰が退散させるかよ。
はやておばさんが言ってた。エクリプスウィルスについては、管理局でも分からないことが多いって。
どうやら、おまえ達はエクリプス感染者で、管理局よりエクリプスウィルスについて詳しそうだ。
それならなおさら、捕まえないわけには行かないよな」
「我々を捕まえるですか。冗談がきついですよ」
「おまえらのファミリーの人数は、おまえ達が嘘を言ってないないなら、海鳴市の虐殺で確定してる。
ここにいるメンバーの方が、おまえ達の人数より多いぐらいだ。
あたしらより腕の立つメンバーを隔離するのに人員を割いてるなら、あたしらにこれるのは
おまえらぐらいだろ。
人数じゃ勝ってるし、あたしが連れ去られない限り、あたしらの負けじゃない」
「おまえ達、命は惜しくないのか？」
「命は惜しみますわ。けど、命乞いをしてどうにかなるものでもないでしょう？」
「それ以前の問題として、与えられてる選択肢がないよね」
「ええ、選択肢はただ一つ……」
「戦って勝った方が勝つんだよ。
ライチェントゥークス、魔法使用許可を」
『了解です、我が主！』
ヴィヴィオが号砲を放ちました。
時間稼ぎが無駄に終わるとすれば、ここで勝つ以外の選択肢がないんです。