「こんにちは、ルーちゃん、メガーヌさん」
「こんにちは、ヴィヴィオちゃん。それに、たくさんのお客さんね」
ここは、ルーちゃんが暮らしている無人世界です。
ルーちゃんは、JS事件のほとぼりが冷めるまでこの世界で暮らすことになってます。
無人世界に隔離、ということになってますけど、時空航行船で他の次元世界に出かける事由があるので
島流し、と言うわけではありません。
「済まない、しばらく世話になる」
「堅苦しくしなくて大丈夫ですよ、ミカヤさん」
「堅苦しいこと抜きなら、とりあえず、遊ぼうよ」
「ヴィヴィオ、おまえ、何しにここへ来たか分かってるか？」
「分かってるよ冬美ちゃん。だけど、フッケバインはいつ来るか分からないんだよ。
フッケバインが来るまでは、普通に生活してて大丈夫だよね」
「そうは思うけど、絶対に一人にならないことよ。
各自常に2人以上の団体行動、これは鉄則ね」
「それはなのはママにも言われたよ。大丈夫、ひとりぼっちはさみしいもんね。
ね、ライチェントゥークス」
「私に同意を求められても困ります。とにかく、集団行動を維持することです」
「うん、だからさっそくみんなで遊びに行こうよ」
「済まないが、私は鍛錬がしたいのだが」
「ミカヤさんは修練に余念がないのですね」
「もう私も20が近い、インターミッドに出られる機会もすぐに無くなってしまう」
「たかぴーお嬢はつきあわなくていいのか？」
「私は日々鍛錬を怠っておりませんわ。
それより、あなたこそ、遊んでいていいのですか。
去年だって……」
「去年は去年、今年は今年。
つか、手の内そう簡単に見せられるかよ」
「みんなまじめなんだ。じゃ、ヴィヴィオもまじめにパティシエさんの練習する〜」
「ヴィヴィオ、おまえもせっかくだからインターミッドの練習につきあえよ」
「えー、今年は冬美ちゃんが出ればいいよ〜。冬美ちゃんもデバイス持ちになったんだし」
「ヴィヴィオさん、今年は出場されないんですか」
「前回は地球代表で出たけど、今年は別にヴィヴィオでなくてもよさそうだし」
「そんな、せっかくなんだから出ましょうよ。ヴィヴィオさんほどの実力者が出ないなんて
もったいないですよ」
「そういうものかな、でも、ヴィヴィオはパティシエさんになるんだよ」
「それはそれ、これはこれ。出るだけは出ろよ。
あたしは出られるかどうかわかんないし」
「デバイスがクラス３以上に相当するかどうかの判定がまだだったよね」
「そうだよな、リオ」
説明がいるかもしれません。冬美ちゃんは銀十字という新しいデバイスで
魔道の力が使えるようになりました。
ただ、その銀十字がどんなデバイスかというのは、今ひとつ不明な点があります。
いつ、誰が、どうやって作ったのか分からないのだから仕方ないんです。
それで、このデバイスが、インターミッドの規定を満たしているかどうかの
判定が必要なんです。
必要とされる申請書類は出してあるので、いずれ答えが返ってくると思います。
「リオちゃん、こんどは試合場で冬美ちゃんと当たれるかもね」
「そうなるといいな」
「それは銀十字が合格設楽の話。それに、あたしはノービスからのスタートだから
当分当たることはないかもな」
「あの、玄関先で立ち話もなんですし、そろそろ……」
「そうですわね、アインハルトさん。
高町さん、そろそろ移動した方がよいのではないでしょうか」
「うー、本当はパティシエさんの練習がしたいけど、単独行動不許可みたいだから
みんなと一緒にいく〜」
「決まりだな。それで、ルーテシア。鍛錬出来る場所はどこになる？」
「んーと、どんな練習がしたいかにもよるけど、模擬戦とかやるの早そうだから
とりあえず、基礎ということで、川に行こうか」
「川？」
「水の中で動くことで、持久力を高めるってことだろ。
そういう話を去年リオから聞いた気がする」
「そうですね、ハリーさん。その節はお世話になりました」
「い、いや、お世話っていうほどの事はしてねーよ。
たまたま会って話をしただけだし」
「じゃ、話が決まったところで出発」
ルーちゃんの先導で、私たちは、メガーヌさんも一緒に川へ向かいます。
ここは常春の国なので、別に夏でなくても泳げます。
「夏っていう気候がないから、いつでも水はちょっと冷ためだけどね。
まあ、そういう細かいことは言いっこなしにして、準備運動が終わったら泳ごうか」
「はーい」
準備運動をせずに冷たい水に入ると、心臓発作を起こすかもしれません。
それはオーバーにしても、こむら返りとか、つるとか、いろいろと障害が起こりえます。
基本は何事も大事です。
「じゃ、ひとまず対岸まで前進〜」
「お、ヴィヴィオ、乗り気だな」
「やると決まったら楽しむんだよ」
「クリスは、ここで待ってますか？」
エミーちゃんのデバイス、クリスは首を横に振ります。
どうやら、ついてくるつもりのようです。
「そうですね、いつ何時、フッケバインが来るか分かりません。
デバイスは肌身離さず持っている方がよいでしょう。
行きますよ、ティオ」
「にゃあ」
そういうわけで、みんなデバイスを携えて泳ぎにかかります。
対岸までは普通に泳ぐつもりだったのですが、やっぱりというか、
競争になります。
「無茶して大丈夫か、タカピーお嬢」
「あなたこそ、冷たいのは大丈夫なんでしょうね」
「普段の鍛え方が違うから大丈夫だぜ」
「それにしても、あの子達は我々に遅れをとってないな」
「そう言われれば、そうだな」
「鍛え方が違うんだよ♪」
水の中で動く訓練も、冬美ちゃんに連れられて月に１，2回はやってます。
ヴィヴィオは割と泳ぐのは好きなので、簡単に慣れました。
「ヴィヴィオさん達は本当に速いですよ」
そういうアインハルトさんも、去年より速くなってます。
水の中で動く訓練も取り入れたと聞いてます。
そのためなのかもしれません。
でも、先頭を切って対岸についたのは、チャンプでした。
「だからチャンプはやめて欲しいんよ。
今年は今年で、チャンプが決まるんやから」
「でも、てっぺん取ったんだからすごいよね。
ヴィヴィオもお菓子作りでてっぺんとる〜」
「お菓子作りかよ」
「だから、ヴィヴィオはパティシエさんになるんだよ」
「今から将来を決めなくてもいいだろ。いろいろと可能性は広い方がいいぜ」
「でも、冬美ちゃんは道場を継ぐんでしょ」
「まあ、その予定じゃあるけどさ。一人っ子だし。
けど、ヴィヴィオはなにも跡継ぎになる義務はないんだろ」
「義務はないけど、やりたいんだよ」
「いつもの会話ですわね」
「そうだね、エミーちゃん」
「じゃあ、水遊びでもしようよ。
新しいことを覚えたんだよ」
「コロナちゃん、新しいことって？」
「見てて……ブランゼル、あれやるよ」
ブランゼルをコロナちゃんが起動します。
コロナちゃんが何をするのか分かりませんが
水に関係ある何かなのは間違いなさそうです。
ざっと水が動くと、ゴーレムの形をとりました。
「水で作ったゴーレム、ウォーターゴーレムなんだ。
今までは土でしか作れなかったけど、他のものも利用できるようにって思って」
「うわあ、すごい。これって流れる水だよね」
「もちろん、ヴィヴィオちゃん。
インターミッドでは全然意味はないんだけど、こんどの文化祭には出してみようかなって」
「それ、絶対みんな驚くよ」
「そうだといいな」
「泳ぎに行くっていうのがやたら多いと思ったら、こんな練習してたのか」
「えへへ、黙っててごめん、リオちゃん。だけど、完成するまでは秘密にしておきたかったから」
「ま、そりゃそうか」
「じゃ、今年も水切りやるよ」
「水切りか。私も若い頃は刀で水を切る訓練をしたものだ」
「いや、ミカヤさん年寄りっぽい事を言う年でもないはずだし……」
私たちは、水切りをしたり、泳いだり、水の中でバレーボールをしたりして過ごしました。
平穏な時間が流れていきます。
だけど、その時間がいつまでも続くわけがないことは、はっきりと分かってました。
管理局の情報がフッケバインに漏れてるのなら、近いうちにフッケバインが現れるはずです。
それがいつになるのかは分からないにせよ、必ず、いつか。