「ユーノパパ久しぶり〜」
「こんにちは、ユーノさん」
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃい、ヴィヴィオにそのお友達だね」
「そだよ。それで、今日はユーノパパに無限書庫を案内してもらいたいんだけど」
ここは、無限書庫の入り口です。
無限書庫、それは次元世界のあらゆる書物をコピーして収拾するロストロギアです。
探せばどんな情報でも見つかりますし、どんな本でも手に入ります。
ただ、問題は、あまりに乱雑に書物が入ってるために、適切な検索魔法がなければ
目的の書物が見つからない上に、無限書庫自身が自分の論理で再配置をしてしまうために
なかなか目的の情報にたどり着けないことです。
でも、ユーノパパなら、優秀な検索魔法で、本を見つけ出すことが出来ます。
だから、ユーノパパは、無限書庫の司書長さんです。
「うん、せっかくのヴィヴィオの頼みだから聞いてあげたいんだけど、
管理局から探してくれって言われてる資料が山積みなんだ」
「そうなの？ じゃあ、ヴィヴィオが手伝った方がいい？」
「いや、それには及ばないよ。せっかく友達もいるんだろう。
退屈させちゃ悪いよ」
「別に、あたしはかまわないです、ユーノさん」
「ヴィヴィオちゃんが手伝った方がいいのなら、それでかまわないです。
私は、持ってきた本を読みますから」
「いや、それも悪いよ」
「あの……ユーノ司書長、執務官長から連絡してほしいと……」
「ああ、リリィ、ありがとう。今手が離せないけど、すぐに行くから」
「ユーノさん、本当に忙しそうですね」
「そうだ、ヴィヴィオ、リリィに司書の仕事を教えてあげてよ。
僕が教えることが出来ればいいんだけど、ごらんの通りだから」
「いいけど、新しい司書さんなの？」
「新入りのリリィ・シュトロゼックと申します」
「私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことを呼ぶ時には、ヴィヴィオだよ」
「川崎冬美、清祥小学校５年生」
「中島月光です。月の光と書いて、アカリって読みます」
「そうですか。ヴィヴィオさんは、私の先輩の司書さんになりますよね」
「そうなるかな。ねえ、新入りって、どのくらい新入りなの？」
「つい一週間前に配属になりました」
「そうなんだ、ねえユーノパパ、リリィさんって、どういう経緯で司書さんになったの？」
「それについては、本人に聞いてよ。あんまり執務官長を待たせても悪いからね。
リリィ、ヴィヴィオ、後は任せたよ」
そういうと、ユーノパパは急いで、無限書庫の入り口から、無限書庫の司書長室へと向かいました。
本当に、ユーノパパは忙しそうです。
「それで、リリィさん、一週間前から司書をしてるって聞きましたけど、その前は何をしてたんですか」
「何って……」
「何か、悪いことを聞きましたか」
「いえ、冬美さん、そういう訳ではありません。
ただ、犯罪者組織に捕まってただけです。
そこを管理局の人に保護していただいて、いろんな検査を受けた後
身寄りがないので、何かできることはないかということで、こちらに配属になりました」
「犯罪者組織に捕まってたって、大丈夫だったんですか？」
「あまり詳しいことは覚えてないんです。実験動物の一種としてとらえられたのは分かるんですが……」
「実験動物の一種って、それで無事に帰れたんですか？」
「無事だったみたいです、検査の結果普通の人間で、異常はないって結果が出ましたから」
「それはよかったですね、リリィさん」
「ありがとうございます、月光さん」
「ねえ、リリィさん、せっかくだから無限書庫に入ろうよ。これから司書さんのお仕事をするんでしょ」
「ええ、そうですけど……」
「じゃ、さっそく無限書庫に出発〜」
ヴィヴィオが先頭で無限書庫に入ります。
「うわあ、広い空間ですね」
「来るたびに度肝を抜かれるよな」
「さすが世界中の書物を集めた空間ですね……」
「書物というか、データベースが本の形をしてるんだけどね。
実態はなくって、情報がそのまま存在してるのが本来なんだよ」
「へえ、そんなもの、どうやって検索するんだよ」
「ユーノパパの検索魔法を使えば簡単至極」
「でも、まともに使えるのは、エミーとヴィヴィオとユーノさんだけなんだろ」
「うん、そだよ。だけど、ユーノパパはあれから検索魔法の改良を重ねて
ある程度なら、普通の司書さんでも検索出来るようにしたんだよ」
「すげえな、ユーノさんは」
「天才だってクロノおじちゃんも言ってたよ」
「その、改良された検索魔法を、リリィさんに教えるんじゃないのか？」
「うん、そだけど、リリィさんは検索魔法を使ったことある？」
「いえ、検索魔法とか以前に、魔法もあまり練習したことがなくて……」
「じゃ、今から練習すればいいよ。何事も最初は初心者なんだよ」
「おまえが言うかヴィヴィオ」
「えへへ……まあ、司書としては先輩だから」
「よろしくお願いします、ヴィヴィオさん」
「うー、年上の人にこうかしこまられるとなんか変な気持ちなんだよ」
「でも、先輩ですし……」
「まあ、気にするなよヴィヴィオ、あたしだって年上から師範代って呼ばれてはいるんだぜ」
「そりゃ冬美ちゃんは師範代で間違いないけど、私はただ司書として古参ってだけだよ」
「それだけで十分立派だって」
「そっかな、まあいいや、じゃあ、ユーノパパが改良した検索魔法の基本を教えるね」
「はい、よろしくお願いします」
「そだ、リリィさんはデバイス持ってる？」
「いえ、まだ支給されてません」
「んー、デバイスを持ってれば、デバイスに魔法を転送すれば済むんだけど
そうじゃないなら、ちょっとずつ覚えていかないといけないね」
「そうなんですか。では、ちょっとずつ覚えていきます」
「じゃあ、まずは……何から検索しよう」
「何も考えてないのかよ」
「えと、ここにはなんでもあるんですよね」
「そだよ、月光ちゃん」
「ええ、そう聞いてます」
「じゃあ、地球の本も探せば見つかりますか？」
「あ、そうだ、地球の本を探すっていうのはいいかも。
じゃあ、魔法を教えるから、地球の……どんな本を探そうか、月光ちゃん」
「そうですね、じゃあ、歌の本がいいんじゃないかなと」
「歌の本……日本の歌？」
「ええ、出来れば」
「じゃ、決まり。日本の歌の……そだ、教科書でいいよね。
清祥小学校五年生の歌の教科書を呼び出してよ」
「呼び出してって言われましても……」
「魔法はヴィヴィオが教えるから」
「あ、はい……」
ヴィヴィオがマジックイメージを作ります。
「ライチェントゥークス、魔法支援を」
『了解です、我が主』
「リリィさん、心を開いて」
「心を開くとは、どうすればいいのでしょうか」
『これから、我が主が使う魔法をそのまま念話でリリィさんに送ります。
そのイメージをそのまま素直に受け取って、使ってください』
「あ、はい、分かりました」
リリィさんと精神を同調させます。
？
リリィさんの精神の領域に、何かプロテクトされたものを感じます。
プライバシーなのでのぞいてはいけないとわかりますが
気にはなります。でも、今は検索魔法です。
「これで大丈夫だよ。
さあ、使ってみて」
「はい、分かりました、ヴィヴィオさん」
リリィさんが魔法を発動します。
リリィさんの回りに本が乱舞します。
「えと……」
「今、歌で検索された本が収拾されてるんだよ。
その中から、清祥小学校五年生の教科書を選び出すんだよ」
「どうすればいいんでしょう」
「本来は、そこから検索ワードで絞りこむんだけど、今はずるしちゃおう」
「ずるって……」
「ヴィヴィオが、教科書のイメージを送るから、それを選び出して」
「どうやって……」
「さっきと同じようにマジックイメージを精神に送るから」
「あ、はい……」
魔法をもう一度送ります。
「こうですね……はいっ！」
乱舞する本のなかから、一冊の本がリリィさんによってつかみ取られます。
それ以外の本は自然と元の場所へ戻っていきます。
「これでしょうか」
「うん、それでいいよ、大成功！」
「ありがとうございます。ヴィヴィオさん」
「いや、全部ユーノパパの検索魔法のおかげだよ」
「じゃあ、ちょっとうたってみようよ」
「うん、いいよ」
「地球の歌ですか？」
「うん、そうだけど……ああ、リリィさんは日本語わからないよね」
何語で会話してるのか？ というと、簡単な話で
日本語とミッド語の自動翻訳装置があるんです。
ただ、歌となると、自動翻訳装置の能力の限界を超えてしまいます。
「歌で仲良くなろうとしたけど、失敗だったのかな」
「うーん、だったら、詩にしようか」
「そうですね」
「リリィさんの検索魔法の練習になってるな」
「退屈ですか？」
「いや、あたしはそれなりに楽しんでるからいいよ」
「私も別に苦になってないから……」
「でも、私のお勉強だけでしたら、みなさんの手を煩わせるのも悪いです」
「そういう問題でもないけどな」
「うーん、じゃあ、無限書庫の冒険に行こうか」
「危険区画に行くのか？」
「そうするとユーノパパに怒られちゃうから、安全なところだけだよ」
「でも、そこは無重力なんですよね」
「まあ、そうだよね。
リリィさんは、無重力は大丈夫？」
「ええ、一応は……」
「じゃ、冬美ちゃんを誘導してあげてよ。冬美ちゃんは比較的大丈夫だから。
私は月光ちゃんを連れて行くね」
「あ、はい、お願いします」
「こちらこそ」
「ヴィヴィオちゃん、冒険って、何をするの？」
「安全な区画を見て回るだけだよ」
飛行魔法で月光ちゃんを抱えて飛びます。
冬美ちゃんは、リリィさんと一緒に出発です。
「無限書庫はデータが乱雑に入ってるように見えるけど、無限書庫自身にとっては
データが整理された状態で入ってるんだって。
無限書庫にとって検索しやすいようにデータが並んでるんだよ。
だから、危険区画とかがあるんだけど」
「つまり、危ない本は……」
「そだよ、ちゃんと無限書庫自身の機能で、隔離されるんだよ」
どうやって、危険な本を無限書庫が見分けてるのかは謎ですが
危険な本は危険区画に集まるようになってます。
おかげで、私たちは安全な区画を見学して回ることが出来るわけです。
「ねえ、ヴィヴィオちゃん」
「なに？」
「ここって、いろんな情報が入ってるんだよね。一般人が入って大丈夫なの」
「じょぶじょぶ、検索魔法抜きで機密情報に当たるなんて、
それこそ隕石に当たるより難しいよ」
「それならいいんだけど……」
月光ちゃんの質問はよくあります。ここは機密情報も勝手に収拾するので
見ようと思えば見ることは不可能ではありません。
ただ、検索魔法をきっちりと組まないと、情報は手に入りません。
そして、機密情報を検索すれば、マジックサーチで分かってしまいます。
偶然機密を見つけない限り、機密が漏れる心配はありません。
そして、偶然機密を見つけたところで、それが本当の情報なのか、それとも
憶測か、間違いかを知るには、やはり検索魔法が必要です。
だから、問題ないんです。少なくとも、ユーノパパはそう説明してくれました。
「それにしてもすごいよな、ヴィヴィオは」
「どうしたんですか、冬美さん」
「いや、魔法使いで、優秀な無限書庫の司書で、そしてお菓子作りをやってる。
あたしは川崎流しか取り柄がないのに、それもヴィヴィオにかなわない気がする」
「川崎流の師範代さんでしょう？ 冬美さんは」
「いや、まあ、そうなんだけど。
言い方が悪かったよな。川崎流を覚えたいのも、何も家を継ぎたいってだけじゃない。
スバルさんのように、思いを受け止められる強さがほしい。
大切な何かを守れる力がほしい。
だけど、そういう大事なことは、ヴィヴィオにしか出来ないんだよ。
エミーの時だってそうだった。フッケバインに襲われたときも
あたしは出しゃばったけど、本当は全部ヴィヴィオに任せた方が安全だったはずなんだ。
……そして、これからヴィヴィオは危険な目に遭うことを自分で志願した。
あたしらは、安全なところで見てるだけだ。
そういうのはいやなんだよ」
「ですけど、無鉄砲に危険に身をさらさなくても……」
「分かってるよ。魔法使いですらないあたしらが出しゃばったらむしろみんなの足をひっぱるだけだってことは。
だけど、それが口惜しいんだよな」
「でも、力には代償が伴いますよ」
「だけど、ヴィヴィオはひとりでそれを背負おうとしてる。
脳天気なことを言ってるけど、背負ってるものは重いんだ。
友達なら、それをすこしでも分かち合いたい。
あたしはゲッコウみたく励ますとかむりだからさ」
「強く、なりたいんですか？」
「もちろん」
「代償は大きいですよ」
「方法あるのか？」
「あります。ですけど、それは悪魔の力ですよ」
「それは正しく使える力なのか？」
「分かりません。ですけど……」
「だけど？」
「あなたなら、きっと……」
「どういうことです？」
「私を救ってくれますか？」
「唐突に言われても困るけど、あたしに出来ることなら力になるよ。
でも、救うって、何をすればいい？」
「それも分かりません。けど、あなたならきっと……」
「きっと？」
「いえ、なんでもありません」
「いや、そこまで言ってそれはないよ、リリィさん。
心に悩みがあるならあたしでよければ聞くよ。
力になれることなら力になる。
スバルさんのようになるって決めたときから、相手が誰であれ
そうするって決めたんだ」
「そうですか」
「そうだよ。あたしじゃ力不足だっていうなら、仕方ない。
だけど、そうじゃないかもしれない。
だから、話すだけでも話してくれないかな」
「お話は、出来ません。
ただ、あなたなら、力を正しく使えるような気がします」
「そうなりたいとは思う。まあ、あたしは今、力すらないけどさ」
「力はここにあります」
「ここに？」
「そう、ここに」
冬美ちゃんとリリィさんは、なにやら話をしているようです。
私は、月光ちゃんをつれて先行しすぎて、何を話しているのかわかりませんでした。
分かっていれば、また違ったことができたでしょうか。
いえ、たぶん無理だったでしょう。リリィさんが何をしようとしているのか
その時点で知ることは不可能だったでしょうから。
「リリィさんに、力があるのか？」
「いえ、そういう訳でもないのですが、力を与える力なら……」
「よく分からない」
「これは、神に見放された悪魔の力。それでも、手にしますか？」
「大切な何かを守れる力なら」
「自分を滅ぼすかもしれない力ですよ」
「それはかまわない。今ヴィヴィオは命がかかってる。
そんなときに、あたしだけのうのうとしてはいられないんだ」
「では、力を求めるのですね」
「正しく、使えるんだろ？」
「あなたなら、きっと……」
「堂々巡りですね」
「そうですね、では、私も覚悟を決めます。
すべては定められていたがごとく」
『エンゲージ』
「何が起きたんです？」
「この本を手に取ってください」
「手に取ったけど、これは？」
「これは、銀十字、デバイスの一種と思ってください」
「一種って言われても、あたしは魔法使いじゃないから使えないよ」
「もう使えるはずです」
「分かった、信じるよ」
ここで、私はあまりに冬美ちゃんたちに対して先行しすぎたことに気づきました。
急いで月光ちゃんを抱えて、冬美ちゃん達の所へ戻ります。
「冬美ちゃん、ごめん、先行しすぎた、でも、一体何をやってたの？」
「わかんない、リリィさんが力がなんとか……」
「力？」
「すいません、一旦無限書庫の外へ戻ってもらえますか、皆さん一緒に」
「いいけど、何かあるの、リリィさん」
「ええ、お話しなければならないことがあるんです」
その、お話しなければならないこと、は、また次のお話にしたいと思います。