「ごめんね、ヴィヴィオ、ごめんね……」
「いや、なのはママ、そんな謝られても困るし、っていうかなのはママはお仕事だったんだし」
ここは、管理局の本局です。
ヴィヴィオと冬美ちゃんと月光ちゃんは、フッケバインに遭遇したということで、こちらで事情聴取です。
「こんなこともあろうかと早手回ししたつもりやったんやけど、後手に回ったなぁ。
ヴィヴィオ達には、どう謝っても謝り切れへんわ」
「なあ、ヴィヴィオ、あのフッケバインって、何者なんだ？
魔法が効かない相手とかいう話だったけど」
「それは、私から話をした方がええやろな」
話を引き取ったのは、八神はやて指令です。
レアスキル持ちの階級は飾り、とはいえ、JS事件完全解決の功績を認められてさらに出世です。
将来を嘱望されている提督さんだと言えます。
いや、今でも十分大活躍かもしれません。
「フッケバインっちゅうんは、ここしばらく、管理世界内外で殺戮をやってる犯罪者集団や。
魔法が通用せえへん相手で、その犯行は冷酷無情。殲滅すると決めた相手は
猫の子一匹残さず皆殺しや。
管理局としても重要犯罪者として追ってるんやけど、あいつらの乗ってる飛空挺がまた魔法力で捕捉不可能な上に
攻撃も魔法が一切通用せえへん。
いわば、管理局の天敵やな」
「でも、早手回しに手を打とうとしたんですよね。何か対策があるんですか？」
「月光ちゃんは鋭いな。管理局も手をこまねいていたわけやあらへん。
フッケバイン対策班は作ってるし、そのための装備も開発した。
まだ、試験段階やけど、AMFを使った疑似フッケバイン戦では、良好な結果が出てる」
「疑似フッケバイン戦？」
「まあ、フッケバインといえど、純粋に物理的な攻撃が通用せえへんわけやない、ちゅうことや。
とはいえ、シミュレーション結果やから、本物相手に通用するかどうかはわからん」
「それと、なのはママが本局に呼ばれたのは、どういう関係があるの？」
「簡単な話で、レイジングハートを対フッケバイン用に強化しようっちゅう話や。
一足先にバルディッシュは強化してある。
リイン達にも組み込んだし、レイジングハートはやや後回しになったんやけどな……」
はやておねえちゃんは顔を曇らせます。
理由は分かります。けど、ヴィヴィオ達は、取り合えず無事に帰ってきました。
まずは、それを喜んでほしいと思います。
「はやておねえちゃん。そうは言っても、ヴィヴィオ達は無事に帰ってきたよ」
「それや。よく無事に帰れたな。相手が悪すぎたはずなのに。
どうやって帰ってきたん？」
「それは前に説明したとおりだよ。相手が追ってこなかっただけだって」
「追ってこなかっただけ、ちゅうんがおかしいわ。相手はあのフッケバインや。
目撃者は確実に消しにかかると思って間違いない」
「それで、あたしらは本局に呼ばれてるってわけですか？」
「まあ、有り体に言うと、それもある。
事情聴取だけなら、何も地球でしたらあかん、ちゅう決まりはないからな。
ここは、いくらフッケバインでも手出ししてこんやろ」
「けど、フッケバインが捕まるまでここにいるわけにも行かないですよね」
「別に、本局はいつまでいてもらってもええんよ。
ただ、事情を冬美ちゃんや月光ちゃんの家族に説明するのが難しいわ。
まさか、次元の海を越えて移動する犯罪者集団に娘さんが襲われようとしてるから保護します、
なんてことは言えへんしな」
「なのはママはそれで納得してくれるし、桃子おばあちゃん達も、それで理解してくれうると思うよ」
「ヴィヴィオの家族は問題ないんよ。冬美ちゃんや月光ちゃんの家族が問題なんや」
確かに、それは難問です。
まず、次元の海の説明が難しいでしょう。
「本局以外で安全なとこないのかよ」
「基本的にはないやろなあ……攻められたときに対応出来る人がおらへん。
まあ、せいぜいベルカ自治領ぐらいか？
あそこなら、教会騎士団のシスター・シャッハが第五世代デバイス持ってるわ」
「エミーちゃんのクリスとかは、第五世代じゃないの？」
「まだ改装してへん。それ以前に、エミーちゃん達のデバイスを改装する理由はないしな」
「理由は出来たよ、はやてお姉ちゃん」
「どういうことや？」
「フッケバインは、誰でも、いつでも、どこでも襲ってくるんでしょ？」
「基本的にはな。フッケバインはフッケバインで基準があるみたいやけどな」
「基準？ 基準ってなんですか？」
「基本的に殺戮は管理外世界でやってるみたいや。管理世界での殺戮は、何かのお仕事でやってるっぽいな」
「お仕事？」
「フッケバインの資金源や。絶対魔法が通用せえへん、殺戮集団の手を借りたい人は、残念ながら
管理世界にもおるんよ」
「ヤクザとか暴力団とか？」
「にたようなものやけど、もしかしたら、表の世界の住人もかんでるのかもしれへん。
その辺は調査中や」
「いつでもい、どこでも、誰でも襲われるのなら、第五世代デバイスは可能な限りの人が持たないと、危ないってことじゃないの？」
「それはそうやけど、エミーちゃん達を巻き込む気はないしな」
「巻き込むかどうかを決めるのは、はやておねえちゃんじゃなくて、フッケバインだよ」
「それもそうやけど……私の一存で決められることでもないしな」
「誰に言えばいいの？」
「ヴィヴィオ、本気で言ってるの？ フッケバインがどれほど危険な相手か分からない？」
「分かってるよ。一度対戦したし。だから言ってるんだよ。
本局に籠もって、事件が解決するのを待ってるのはいいかもしれない。
だけど、フッケバインが、今度はベルカ自治領や、クラナガンを攻撃しないっていう保証、ないんだよ。
そんなとき、誰でも、自分達を守れないのは、いやだよね。
逃げたくても、逃げられない、戦うしかない相手。それが、フッケバインなんだよ」
「……ヴィヴィオは私が守る、って言えればいいけど、ヴィヴィオが見てるのは、そういうことじゃないね」
「うん。私たちは、ここにいれば安全かもしれない。だけど、フッケバインが本当に冷酷無情な相手だとしたら
次は……」
「そうやな。なるほどな。分かった、みんなに第五世代デバイスを配れるよう私も努力するわ」
「ほんと、はやておねえちゃん」
「はやてちゃん、それ、どういう意味か分かってる？」
「分かってて言ってる。フッケバインが冷酷無情な相手と想定して、ヴィヴィオ達に手が出せないとしたら、
なのはちゃんがフッケバインの立場になったら、どうすると思う？」
「人質を取って……あ」
「そうなるやろ。その一歩先をいかな、後手後手に回ってしまうわ」
「どうするの、はやてちゃん」
「クラナガンには、一足先にシグナム達を送り込んでる。
これは前々からの予定で問題ない。
なのはちゃんは、フェイトちゃんと一緒にベルカ自治領へいってや。
エミーちゃんらは、ひとまず本局に呼んで……、いや、それは危険やな。
なのはちゃん達がベルカ自治領についたら、すぐになのはちゃん達の護衛で
エミーちゃんらを、本局に呼んできてや。
フッケバインに先手とられたら終わりや」
「うん、分かった。
すぐにベルカ自治領に行って、直ちにエミーちゃん達を本局に連れてくればいいんだね」
「せや、それまでに、第五世代デバイス装備に関する許可をもらっとく」
「私たちはどうするの？」
「本局でエミーちゃん達を待っててや。当分本局を離れられへんと思うんよ」
「分かった。エミーちゃん達と出会うの楽しみだね」
「確かにそうだけどよ、ヴィヴィオ、おまえ、状況分かってるか？」
「状況は簡単だよ。フッケバインが捕まれば問題ないし、フッケバインは
なのはママがすぐにやっつけるから問題ないよね。
そうなる前にエミーちゃん達が襲われない対策が必要なだけだよ」
「エミーの友達、またその友達、っていう風に襲われない可能性はないと思うの」
「それはそうだけど……」
「だけど？」
「それは考えてなかった、月光ちゃん、鋭い」
「私は別に鋭くないよ。だけど、そうなったらどうしよう……」
「なのはちゃん、ヴィヴィオを危ない目にあわせたないよな」
「それは当然だよはやてちゃん。どうしたの？」
「けど、それは無理や思うわ。
そういう事態への対策は、ある。
けど、それをやると、今度はヴィヴィオ達を危険にさらす。
二者択一や。ヴィヴィオとその友達が危険になるか
それとも、私らはしらへんけど、どこかの誰かが危険にさらされるか」
「……ある意味、究極の選択だよね」
「もしかしたら、二択ですらないのかもしれへん。せめてヴィヴィオ達だけでも安全を確保した方がええんかもな。
けど、ヴィヴィオ達を危険にさらせば、あるいは第三者を巻き込むことはないかもしれん。
なのはちゃん、保護者として、どうするんや？」
「そりゃ、ヴィヴィオに危険な目には遭わせたくない。だけど、そのために、どうしても第三者が犠牲になるって
考えたくはないよ」
「どうしても、そうなるんや。フッケバインが冷酷な相手なら、絶対そうする。
そして、あいつらに情がないのは、今までの振る舞いからはっきりしてる」
「けど、それって、はやてちゃん以前のシグナム達と同じで、誤解かも……」
「希望的観測にすがるのもな」
「はやておねえちゃん、はっきり言えば、ヴィヴィオ達がおとりになって、フッケバインを捕まえるってことだよね」
「……理想はな。けど、明確に危ないで。相手が相手や。JS事件みたく、不殺の相手と違うからな」
「それは分かってるよ。けど、ほかにいい手が、ないんでしょ」
「神出鬼没で冷酷非情、実力のほどは折り紙付き、やりにくい相手や。
管理局の一般部隊じゃ、正直、かかし同然に殺されてしまうわ」
「つまり、なのはママ達じゃないと、対処出来ないってことだよね」
「そうや。けど、ヴィヴィオ、本当にええんか？
友達まで巻き込むことになるかもしれへんのやで」
「冬美ちゃんと月光ちゃんは本局にいてもいいでしょ。
ヴィヴィオだけがおとりになるよ」
「……ごめんな、ヴィヴィオ、あたしらが頼りにならなくて」
「そういう問題じゃないよ、冬美ちゃん」
「……強く、なりたいな」
「冬美ちゃんは魔法抜きでの戦いじゃ、十分強いよ」
「そうじゃねえよ。あたしが求めてるのは、守れる強さだ。思いを受け止められる力だ。
けど、エミーんときも、今回も、あたしはヴィヴィオに頼ってばっかりだ。
それじゃ川崎流になんの価値がある」
「それは仕方ないってば、冬美ちゃん。
冬美ちゃんは魔法使いじゃないもの」
「それはわかってるよ。分かってるけど、悔しいんだよ。
やりたいことがあって、絶対かなわないっていうのが」
「はやておねえちゃん、ライチェントゥークスも第五世代デバイスに改装できないの？」
「許可をもらえば出来るわ。けど、覚悟はできてるんか？」
「もちろん。それに、こんどはなのはママも一緒だよ。負けっこないって」
「冬美ちゃんは自分を責めすぎだと思う。
こういうときに力になれなくても、それは冬美ちゃんのせいじゃないよ」
「ゲッコウ、それは分かってるんだよ。あたしは魔法使いじゃない。
けど、あたしだって天才の端くれなんだぞ、小学生で師範代なんだぞ。
だけど、肝心なときにあたしはいつでも役に立ってない。
ゲッコウには学校の勉強もあるし、ピアノもある。
けど、あたしには川崎流しかないんだよ」
「ヴィヴィオちゃんが特別過ぎるだけじゃないかな」
「私はそんなに特別じゃないよ」
「いや、聖王の血を引いてるだけで十分特別だろ」
「あはは、まあ、そうだけど、それを言ったらエミーちゃんも一緒だよ」
「何やっても、ヴィヴィオにはかなわないんだよな」
「それは私も一緒だよ」
「……やっぱ、悔しいな」
「悔しがっても仕方ないよ。実力は受け入れないと」
「うん……」
「まあ、無駄に危険に身をさらすのは勇気やない、無謀や。
二人は本局にいるのが一番や」
「分かってるよ。けど……」
「強くなりたいんか？」
「単に人をぶちのめす力ならいらない。けど、守れる強さがなきゃ、格闘を学ぶ理由がない」
「地球じゃヴィヴィオちゃんをたくさん守ってるやろ」
「そりゃ地球じゃ魔法が使えないですから。
けど、肝心な時にあたしは力が足りない。
いつでもそうなんだ」
「……なんとかしてあげられればええけど、そういうのは無理やからなあ」
「分かってます。すいません、愚痴につきあってもらって」
「かまへんよ」
「じゃあ、はやてちゃん、次の便でベルカ自治領に行くから。
ヴィヴィオ、すぐにエミーちゃん達と帰ってくるからね」
「はい、なのはママ、行ってらっしゃい」
「行ってきます、ヴィヴィオ。
それから、冬美ちゃん、月光ちゃん、行ってくるからね。
大丈夫、かならずエミーちゃん達は無事に連れてくるから」
「それは心配してないです、なのはおばさん。
なのはおばさんがいれば大丈夫ですよね」
「大丈夫だよ冬美ちゃん。なのはママがいれば大丈夫」
「なのはおばさん、気をつけて」
「うん、月光ちゃん、ありがとう」
そう言うと、なのはママはレイジングハートと一緒に部屋を出て行きました。
ヴィヴィオ達はというと、本局で手持ちぶさたです。
「ねえ、はやてお姉ちゃん。無限書庫に行っていい？」
「別にかまへんけど、どうしたんや」
「暇だから、一緒に読む本を探しにいく〜」
「それはええ考えやな」
「ユーノパパとも会いたいし、エミーちゃんに会うまでに
フッケバインについて調べたいことあるし、時間は十分つぶれるよね」
「あんまり無理したらあかんよ。危険地区もあるんやから」
「はーい」
こうして、ヴィヴィオ達は、本局の中心、無限書庫を目指します。
そこで起きる事件は、ちょっとしたものではなかったんですけど
それはまた次のお話に。