私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことを呼ぶ時には、ヴィヴィオだよ。
私も清祥小学校の5年生になりました。お菓子作りの腕はまだまだだけど、パティシエさん目指して勉強中です。
冬美ちゃんと月光ちゃんも、ちゃんと進級です。留年なんて出席日数が足りてないかぎりありえないから当たり前です。
エミーちゃんはサンクト・ヒルデ初等科の最上級生です。コロナちゃんやリオちゃんも一緒。
そういえば、サンクト・ヒルデって留年はあったかなあ。
「なにぼんやりしてるんだよヴィヴィオ」
「あ、冬美ちゃんおはよう」
「おはようじゃねーよ。ほら、ゲッコウもなんか言ってやれ」
「おはようヴィヴィオちゃん。だけど、もう2時限過ぎてるのにおはようもないと思うよ」
「あは、そうかも。だけど、こんにちはって言うには早いよね」
「いや、そうじゃなくてだな。なにぼんやりしてるんだって言ってるんだよ」
「えとえとえと、それはね、エミーちゃん達のことを考えてたんだよ」
「エミーか。元気してるかな。古風に手紙を書いて送ってはくれるんだけど、月一なんだよな」
「こっちはビデオレターだよね」
「そうだ、今日は道場にこいよ」
「何かあるの？」
「なんもないけど、そろそろ次のインターミッドがあるだろ。練習するぞ」
「え〜あんなの一回出れば十分だよぉ」
「前回は残念な負け方したからな、今度はしっかりと練習して、確実に勝ちに行くぞ」
「残念なっていうか、あれは単にミウラちゃんが強かっただけだし」
「強かったのは事実だし、油断もしたけど、そこはこれからの練習で埋め合わせるんだよ」
「ヴィヴィオはパティシエさんになるのに。っていうか、地球で魔法使った格闘が強くても
格闘家には間違ってもなれないんだし」
「それはそれ、これはこれ。別にヴィヴィオはずっと地球にいなくていいんだろ？」
「パティシエさんが出来ればどこでもいいけど、なのはママは管理局のお仕事があるし
出来たら、翠屋を継ぎたいなって」
「まあ、出来ることは多ければ多いほどいいって」
「そういう冬美ちゃんは、道場を継ぐんでしょ」
「まあ、川崎流の師範代だからな、師範は目指してる」
「ヴィヴィオも翠屋を継ごうっていうのは一緒だよ」
「二人とも、自分が何になるか決めてかからない方がいいかも」
「ゲッコウは将来考えてるか？」
「将来って言われても、ピアノは練習してても、専門家になるつもりはないし
どうしようかな、って思ってる」
「思ってるって、５年後にはいやでも進路を考えないといけなくなるんだぞ」
「冬美ちゃんって、先のことを考えてるんだね」
「いや、あたしはほかに取り柄がないだけだから」
「いろんなことが出来るヴィヴィオちゃんと違って、私はあんまり取り柄もないから」
「月光ちゃんは月光ちゃんのいいところがあるよ」
「たとえば？」
「おっとりして優しい所とか……」
「それ、進路にはあんまり関係ないよね」
「成績もいいし」
「突出していいところがあればいいんだけど、平均的にそれなりの点だから……」
「学校の先生とかどうかな。ピアノが弾けた方がいいし、成績が必要だし、優しい先生の方がいいよ、絶対」
「でも、生徒からなめられたら終わりだぜ。ちょっと厳しく見える方が向いてるかもな」
「あんまり厳しくするのは苦手……」
「まあ、脅かしたけど、中学生になってから考えればいいのかもな。今はいろんな経験をするのが大事」
「冬美ちゃんいいこと言う」
「だから、ヴィヴィオはインターミッド出ろって。そうすりゃエミーと直接会う機会も増えるし」
「あ、そか、インターミッドにはまたエミーちゃんも出るよね」
「そういうこと。だからがんばれ」
「……なにか丸め込まれた気がするけど、エミーちゃんに会うのは楽しみだし
リオちゃんやコロナちゃんも、ストライクアーツの練習はしてるよね」
「きっと練習はしてるよ、ヴィヴィオちゃん」
『我が主、そろそろ休憩時間が終わります』
「ありがとう、ライチェントゥークス、じゃあ、次の休憩まで」
「ああ、次の休憩までな」
清祥小学校でも、3人は同じクラスです。5年生と6年生はクラス替えがないので
きっと、小学校を卒業するまでは、同じクラスだと思います。
？
「ライチェントゥークス、どうしたの？」
『我が主、なのはさんからメールです』
「メールって、どんな？ 急ぐの？」
『割と急ぎます。なのはさんが管理局のお仕事で本局に呼び出されたそうです。
今日は寄り道せずに早く帰るように、と』
「えー、冬美ちゃんと道場に行く約束しちゃったよ。それもだめなの？」
『分かりません、なのはさんと連絡を取ってください』
「メール出してよ、ライチェントゥークス、今授業中だし」
『分かりました、我が主。レイジングハートに連絡します』
なのはママは、管理局の教導官さんなので、時々本局に呼び出されます。
本局でのお仕事は、大抵教官として、後進の指導に当たることですが
まれに現場に出なければならないこともあります。
急用なので、現場のお仕事かもしれません。けど、なのはママが呼ばれる現場のお仕事ってなんなんだろう？
考えてても始まりません。まずは、ヴィヴィオのお仕事、お勉強です。
そんなこんなで放課後がやってきます。
『我が主、道場には行ってもいいそうですが、日が暮れる前には帰るようにとのことです』
「了解、ライチェントゥークス」
「よう、ヴィヴィオ、どうかしたのか？」
「あ、冬美ちゃん。なのはママから連絡があって、お仕事で本局に行くから、日が暮れる前には帰るようにって」
「そっか、じゃ、密度の濃い練習をしないとな」
「あはは、お手柔らかに……」
「手柔らかにやってちゃ勝てないだろ。インターミッドに出てくる連中は、それに人生賭けてるんだぜ。
ヴィヴィオは二足のわらじだろ、その分練習は必死にやらないとな」
「それ、パティシエさんとは関係ないよ〜」
「いろんな経験を積むんじゃなかったのか？」
「それはそうだけど……」
「ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃん、そろそろ行こうよ。時間は貴重だよ」
「そうだな、ゲッコウ。行こうか、ヴィヴィオ」
「うん、冬美ちゃん、月光ちゃん」
あ、月光ちゃんは、月光と書いて、アカリって読むんだよ。
蛇足だったかな。でも、普通は読めないよね。
「近道するか」
「近道って言っても、海鳴公園をつっきりだけだよね」
「まあな」
なのはママがユーノパパと出会った海鳴公園の人気のないところを通って行きます。
人気がないので、変質者とか出るかもしれません。一応気は配ります。
とはいっても、ライチェントゥークスのセンサーを全力で使うだけですけど。
『全力で使えば、公園の中のねずみまで発見しますよ』
「誰もいない？」
『誰も見つかりません、少なくとも、この道には』
「じゃ、安心だね」
『そうですね』
「ヴィヴィオ、ゲッコウ、ちょっと待った」
「どうしたの？ 冬美ちゃん」
「人の話し声がした」
「人のはなしごえ？ あり得ないよ、ライチェントゥークスのセンサーには何も反応が……！」
『我が主、音響センサーに反応。ミッド語です』
「誰もいないんだよね」
『不思議です。この近くに生物反応はないのに、音響センサーには反応があります』
「……静かに」
それは、唐突にやってきました。
『エネルギー反応！』
「ふせて、冬美ちゃん、月光ちゃん！」
二人をつかんで地面に倒れ込みます。
その上を、熱波が通り過ぎます。
「ライチェントゥークス、魔法使用許可を」
『もちろんです、我が主！』
魔法でステルスをかけてる？
けど、ライチェントゥークスのセンサーは魔法でのステルスにもかなりの所まで対応できるように
マリエルさんが調整してあります。まったく魔法で気配を感じさせないって、一体何者なんでしょうか。
『我が主、エネルギー反応の方向より接近するものがあります』
「ライチェントゥークス……」
『時間がないので先回りして。音響センサーに反応。生体反応などはまったくありません』
「二人とも、ふせたままで、ライチェントゥークス、カートリッジロード！」
「消し炭に変わったと思ったのに、無事なのか。
ていうか、まだ子供じゃねーか。おまえら、一体……」
「いきなり砲撃してきて言うことはそれなの」
「おれらに気づいたみたいだからな」
「ら？」
「ってか、ミッド語がわかんのか、おまえ、何者だ？」
「人にものを尋ねるときには、自分から名乗るのが当然だよ」
「ははは、そいつはそうかもな。俺はヴェイロン。おまえは何者だ」
「私の名前は高町ヴィヴィオだよ」
「そっか、だが、ミッド語が分かる……高町だって。あの高町なのはの関係者か？」
「なのはママの関係者だよ。っていうか、ヴェイロンって、誰？」
「ははっ。聞いてもしかたねえだろうが、冥土の土産に聞いておけ。
俺はフッケバイン一家のヴェイロン。ちょっと管理外世界に食事に来たわけだ」
「食事ならレストランでも喫茶店でもあるよ。翠屋に来る？」
「調子狂う奴だな。恐れないのか？」
「なのはママに連絡……って、そういえばママは本局だった！
どうしよう、ライチェントゥークス」
『それ以前に、このあたり一体に通信妨害がかかってます。外部と連絡がとれません』
「ヴィヴィオがやるしかないってことだよね」
『フッケバイン一家が何者か、知らないのか？』
「おおざっぱには知ってるよ。魔法の通用しない犯罪者集団だってことぐらいは」
「それだけ知ってて、命乞いもしないとは、良い度胸だな」
「命乞いしたって無駄な相手だってこともしってるし」
「違いねえ。っていうか、おまえは気に入ったわ」
「気に入っても、見逃しはしないんでしょ」
「まあな。おいしくいただくまでだ」
「ライチェントゥークス、2人を逃げられるようにして」
『我が主はどうされるおつもりです』
「おとりは、いるよね」
「ああ、気に入ったついでに、良いことを教えてやるよ。
逃げようったって無駄だぜ。なにせ、こっちは魔法で姿を消しても完全に見えるからな」
「そっか。……じゃあ、戦って勝つしかないってことだよね」
「ヴェイ、なにやってるんだ？」
「サイファーか、そっちは終わったか？」
「終わった。っていうか、子供相手になにをやってる」
「子供は子供でも、ただの子供じゃねえ、あの高町なのはの娘だ」
「いつまでも結界は張っていられん。さっさと片付けるぞ」
「そうだな」
『ブリッツ・アクション』
「！」
全力で、後から現れたサイファーという女剣士を殴ります。
完全な奇襲でボディブローが入りました。これは効いたはずです。
「ぐっ。……おまえ……」
「子供だと思って甘く見た？ けど、本番はこれからだよ。
ライチェントゥークス、大人モード」
『了解です、我が主』
すかさず間合いを開きます。
２：１、相手は殺人集団のフッケバイン。正直勝負になるとは思えません。
けど、逃げても死にます。戦わなければならないんです。
「成長すれば対抗できるつもりかよ」
「本番はこれからって言ったでしょ」
4人にとりあえず分身します。
質量のある残像が必要な場面です。
「ヴィヴィオ、どうするつもりなんだよ」
「１：１で戦って、二人はヴィヴィオが守るっ！」
「無茶過ぎだろ、あたしは大丈夫、守るならゲッコウを守れよ」
「そんな、相手が悪いよ」
「川崎流師範代は伊達じゃないって」
「そうは言っても……」
「ははは、普通の人間がエクリプス感染者相手に戦うってか？
何を使うつもりだ？ 銃か？ ナイフか？ そんなもの
感染者には通用しないぜ」
「今のヴィヴィオの一撃で弱点は見抜いた。やれる」
「何をどう見抜いたってんだか」
「わかった、援護するよ、冬美ちゃん」
冬美ちゃんは一度言い出したら聞きません。押し問答するより、援護するほうが早いでしょう。
『我が主、分身は……』
「分かってる。短期決戦で行く」
分身すると、魔力値が4分割されてしまいます。
さらに、分身それ自体を維持するのにも魔力が必要となります。
はっきり言えば、多人数を相手にするときに、数的劣位を埋め合わせるのに使うのが基本で
1対1の戦いで使って有利になれる、というものではありません。
実力伯仲の相手であれば、普通各個撃破されてしまいます。
しかも、相手はフッケバイン、分身しなくても互角に戦えるかどうかは分かりません。
けど、やるしかないんです。
「短期決戦じゃなかったのか？ じっとしてるじゃないか」
「そっちから来ないの？」
「行ってもいいのか？」
高温のエネルギー反応があります。それをぎりぎりでかわします。
熱遮蔽のためのシールドがなければ、至近距離を通っただけでもやけどです。
『直撃は避けてください、我が主』
「どういうこと」
『魔法の防護が効きません、シールドもバリアも通用しないエネルギー体です』
「分かった。当たらなければどうということはないよね」
「あたらねえ訳があるか」
分身の一人は、月光ちゃんを抱えて射撃を避けます。
もう一人は、射撃をかいくぐって接近戦を挑みます。
ヴェイロンという、銃使いに対峙する方は、接近戦に持ち込むのが吉でしょう。
一方、サイファーという女剣士には、冬美ちゃんが果敢に挑みます。
「勇気だけは認めてやるが、これで終わりだ」
袈裟懸けに冬美ちゃんを切り捨てようとします。
これを、一分の見切りでかわすと、素早くサイファーにタックルをかけます。
「そんなへなちょこなタックルが通用すると思うかっ！」
「目的が倒すことだったらなっ！」
至近距離に近づいた冬美ちゃんを、払いのけようと、サイファーが平手を冬美ちゃんとサイファーの間に入れようとします。
「そう来ると思った。読み通りなんだよ」
冬美ちゃん、自信満々ですけど、何を……あれ？
サイファーが苦痛に顔をゆがめます。
「間接技は何も全身にかけるだけが脳じゃないってね」
「指に関節技か……」
指4の字です。あの一瞬にやってのけるのだから、冬美ちゃんは大したものです。
けど、致命傷には……あ、そうか。
「歯が痛むのと同じで、力が出せないだろ」
「ふざけるな！」
サイファーが刀を自分自身に向けて振り上げます。
自分ごと冬美ちゃんを片付けるつもりです。阻止しなければなりません。
「冬美ちゃんのタックルは効かなかったかもしれないけど、これはどう？」
ヴィヴィオ流の手刀で、サイファーの手首を打ちます。
冬美ちゃんに集中してたサイファーは、ヴィヴィオの動きが見えてません。
これで一瞬、刀を動かす手がゆるみます。
「冬美ちゃん、離れてっ！」
「ヴィヴィオ、待ってたぜ」
冬美ちゃんを、もうひとりの分身が引きはがしてサイファーから逃げ出します。
一方、本命の分身の方は、サイファーにチョークホールドをかけます。
「このための大人モードだよ。手足が長くないと、てこの原理が働かないからねっ！」
「考えてた訳か」
「そだよ」
もう一人の分身が、サイファーの刀を奪い取ります。
さて、不条理殺法の出番です。
「え、嘘っ！」
この結果、ヴェイロンの押さえはいなくなってます。
その一瞬をついて、ヴェイロンは、サイファーをホールドしてた分身を射撃します。
過激な不条理殺法です。少々のダメージは問題ない、ということでしょうか。
連続射撃にサイファーは身をさらし、結果、分身は全滅してしまいました。
こちらに本体を置いていたら危ない所でした。
「無事か、サイファー」
「手荒いやり方だな。だが、助かった」
「ちょいと油断したな。が、もう……」
「ヴェイ、サイファー、あの3人が結界を突破しました。待避しますよ」
「逃がしたのか？」
「手の施しようもないでしょう。あなた方二人がこうまで苦戦する相手ではね」
「それは言い訳しねえよ。だが、やっかいなことになりそうだな」
「とっさに感染者相手に戦える普通の人間と、高町なのはの娘……娘？
聖王ヴィヴィオですか。こりゃ、やっかいごとを抱えたかもしれませんね」
「二度とここには来ねえよ。やっかいごともなにもないもんだ」
「まあ、ひとまず帰りますよ。食事は終わったんでしょう」
「まあな、食い足りないが、仕方ない」
「贅沢は敵ですよ」
「違いねえ。欲を出した結果がこれだ」
3人は、転送で姿を消しました。
ヴィヴィオ達は、海鳴公園から脱出した後です。
「なんだったんだ、今のは……」
「わかんない、とにかく、なのはママに連絡しないと」
これが、ヴィヴィオ達と、エクリプス事件との関わりの最初でした。
最後にはならなかったんですけど、それはまた次のお話で。