めりかるうぃっしゅ えくす
〜正義の反対〜
ここは、海底洞窟。イクスヴェリアと、エミー＝シュミット＝スカリエッティが
ある意味道に迷う形で取り残されている。
「ここは海底遺跡です。私には、遺跡内部での位置でしたらわかりますよ」
「けれども、地上との相対関係はわからないのでしょう」
「そうですね、エミーさん。いえ、聖王陛下」
「まだ私は聖王ではないわ。けど、転送で地上へと出ることは出来る」
「私が地上に出れば、すべてのマリアルージュがこちらに向かってくる。
そうなったらどうするつもりなのですか」
「だからこそ、私の友人の、お菓子職人を目指す、パパの最高傑作の
助けが必要なのよ」
「パパの最高傑作？」
『我が主、エミーさんから転送魔法陣を同期させてくれるように依頼がありました』
「了解ライチェントゥークス。ここにはマリアルージュもいないみたいだし、
転送魔法を実行しても問題ないよね。魔法陣の形式も指定通りで…
…全力全開！転送魔法実行！」
市街地の外れ、マリアルージュの自爆により一般人が避難した後の
廃墟に近い場所に、転送魔法陣が描かれると、やがてその中に
２人の人影が現れた。
言うまでもなく、エミーと、イクスヴェリアである。
「紹介するわ、こちらは、冥王イクスヴェリア陛下」
「イクスヴェリアです。イクスと呼んでください。
私は…冥王に生まれたくはなかったのですから」
「私は、聖王に生まれて悪かったとは思ってないよ。
あ、自己紹介が遅れたね。私は高町ヴィヴィオ。
ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことを呼ぶときは、ヴィヴィオだよ」
「川崎冬美、格闘家見習いの小学４年生」
「中島月光です。ゲッコウっていうあだ名もあります。
けど、ふつうはアカリって呼んでもらってます」
「ねえ、エミーちゃん。イクスと和解したんだったら、この事件も
終わりじゃないの？」
「残念ながら、そうはならないみたいね。詳しい説明は本人から」
「ええ、残念ながら、今活動中のマリアルージュは、私のコントロールを
離れた、変異株であるようです。けれど、変異株でも、コントロール中心になる
変異体はいるはず。その変異体が私を見つけ出す前に、なんとか
変異体を排除できれば、他のマリアルージュは組織的な活動が出来なくなるはずです」
「なあ、それって、元々はマリアルージュはイクスの統一指揮で行動するように
なってたってことか」
「…そうなります。イクスヴェリア因子の持ち主自体、本来は１人ではありませんでした。
聖王との戦いで、命を落としたものもあるんです」
「…もしかして、あなたが最後のイクスヴェリア？」
「それすらわかりません。ただ、私が最初のイクスヴェリアではあるんです。
私からイクスヴェリア因子を受けた騎士達が、実際にマリアルージュを指揮して
戦ったイクスヴェリア達なのですから」
「そっか…けど、今はこれからどうするべきかだな」
「ティアナ執務官。君たちは、偽りの平和に安住するつもりかね」
避難誘導もほぼ終わった市街地で、マリアルージュとなったトレディア氏に
ティアナとルネッサが対峙している。
「トレディアさん、あなたは何をしているか本当に理解しているのですか。
いえ、あなたは既に人間ですらなくなっている。そうまでして、一体
何を始めようというのです」
「かんたんなことだ、革命だよ。管理局システムを革命で変えるのだ。
南オセチアで私が見た物は、クラナガンで想像出来る以上に悲惨な
ものだった。秩序そのものが崩壊し、管理局のわずかな援助すら
軍閥が奪い合って必要なところには届かない。
彼らが尊重する物といえば、せいぜい血縁ぐらいだが、それすら
自らの利益につながると思えばこそだ。
こんな状況に、何も手出しできない管理局に、どんな意味があるというのか。
私は、クラナガンの市民に、南オセチアの風を吹き込むのだ。
こんな悲惨な世界があることを、知ってもらいたいのだよ。
人々は、目覚めるべきなのだ。真の平和は、罪無き者の犠牲の上に成り立ってはならないと」
「そのために罪ななき人を殺すというの？」
「南オセチアでは普通のことだ。クラナガンだから珍しいことのように聞こえるだけだよ。
戦闘機人もマリアルージュも基本は同じだ。ルネッサ、おまえにはわかるだろう。
南オセチアに秩序をもたらすには、十分に強力な管理局が必要だと。
…冥王イクスヴェリアとマリアルージュになら、それが出来るのだ。
十分に強力で、死を恐れない、いな、すでに死んでいる兵士達によって
南オセチアや、他の紛争世界に統一をもたらすのだ」
「それは幻想よ。力で何かを押さえつけても、反発を招くだけだわ」
「それは管理局の弱腰だよ」
「…トレディア…アスティア氏、あなたを反乱罪で逮捕します」
「マリアルージュを逮捕するなど不可能だ。可能なことは、私を倒すことだけだよ」
「やってみなければわかりません」
トレディア氏は、自らの指を銃のように構えると、そこから魔法弾を撃ちだしてくる。
一発一発が、対戦者ミサイル級の威力で地面をえぐる。
「どうしたのかね？反撃はしないのかね？」
「クロスファイア＝シュート！」
ティアナは、回避しながらトレディア氏に射撃を加えるが、
トレディア氏の的確な迎撃によってことごとく阻止されてしまう。
「センターガードの基本がなってないな。センターガード同士の戦いは
どちらの手数が多いか、それで決まる物なのだよ」
「なのはさんの教え、これさえやっておけば大丈夫なんて戦法はほとんど無い」
「だが、あらゆる攻撃を迎撃し、あらゆる防御を打ち砕く射撃を加えれば、
負ける要素はまったくない。どうした、だんだん動きがにぶくなってきたのではないのかね？」
足場がトレディア氏の射撃で悪くなっていくのだ、動きも悪くなろうというものである。
だが、ティアナには、まだ何か勝算があるようだ。それは一体？…
「そろそろ、大丈夫かな…」
「ルネッサ、今だ、ランスター執務官を撃つのだ。そうすれば革命への扉が開く。
思い出すのだ、ルネッサ。」
「ルネッサ、援護射撃をお願い、３秒だけ時間を稼いで」
ルネッサは、シルバーダガーをどちらに向けるべきか少し悩んで、それから
決然として射撃した。
「…ルネッサ！」
「パパ、あなたは間違ってる。…確かに、管理局システムは不完全かもしれない。
南オセチアの現状を救うには、マリアルージュの力が必要なのかもしれない。
だけど、…だけど、そのために、クラナガンの人たちの命を奪っていいことには
ならない。訴えるなら、もっと他の方法があるはず！」
「…ルネッサ…」
「なのはさん直伝、スターライト＝ブレイカー！」
「馬鹿な、このために魔力をあたりにばらまいたのか…見事だ、見事だランスター執務官」
トレディア氏は、スターライトブレイカーの光の中で爆発した。
辺りが再び炎につつまれる。
「…パパ…」
「ルネッサ、逃げるわよ。私のバリアじゃこの熱には５分程度しか持たないわ。
クロスミラージュ、アルトに連絡、私とルネッサの収容をお願いして」
『roger』
こうして、マリアルージュ事件は、ひとまず幕を閉じた。
トレディア氏の指揮をはずれたマリアルージュは、スバルとエリオ・キャロの
３人の連携攻撃や、ヴァイスとギンガの共同作戦に対抗できるほどの
戦闘経験の持ち合わせはなかったのだ。
もっとも、その被害は甚大だった。
自爆したマリアルージュによる火災は、完全に鎮火するまで丸一日を要したのだから。
マリアルージュから自由になったイクスヴェリアと、エミー達とのお話は
またべつの話になる。