めりかるうぃっしゅ えくす
〜王の義務、子供の宿命〜
「くそっ。叩いても叩いても次が現れる」
「なんか、誰かに統制されてるみたいだな」
「こちら本部、状況は決して悪くない、臨海公園のマリアルージュはナカジマ妹が
市街地のマリアルージュはランスター執務官が排除した。
マリアルージュの数自体は減っている、延焼による被害を食い止めればなんとかなる。
各班は各持ち場の避難誘導と消火活動に従事すること、以上」
「ったく、かんたんに言ってくれるよな本部は」
マリアルージュによる攻撃は、クラナガンの臨海地域だけではなく、全体を
混乱に導いていた。何しろ、どこからマリアルージュの攻撃があるのかわからないのだ。
これでは、いくら人手があっても、対処しきれるものではない。
その頃、聖王見習い、エミー＝シュミット＝スカリエッティと冥王イクスヴェリアは
海底洞窟の中にいた。
「…それで、お友達の助けがどうなるのですか」
「それより、先にお聞きしたいことがあるの」
「なんでしょう」
「マリアルージュの存在をあなたは感知出来るの？」
「ええ、それは出来ます。見えない所にいるマリアルージュの指揮が
可能であることは、冥王として必要な能力の一つですから」
「そのマリアルージュの中で、マリアルージュ全体を制御しているのは
一体だれなのか、見分けることが出来るかしら」
「それは…私にはわかりません」
「けど、あなたが感知するのは、マリアルージュの因子でしょう」
「ええ、それは、その通りです」
「なら、…ここに紙と鉛筆があるわ。あなたの感知しているマリアルージュの配置を
書いて欲しいの。それだけでも、時空管理局の対処は楽になる」
「時空管理局とは、なんですか」
「あなたが眠っている間に出来た、次元世界のロストロギア＝世界を滅ぼす力のある
兵器を管理するために出来た組織よ。
マリアルージュの暴走から、今は、人々を守るために活動しているわ。
海で、陸で、空で」
「………わかりました、やってみます」
イクスヴェリアは、紙に感知した限りのマリアルージュの様子を書いていく。
「さて、あとは、ここがどこかさえわかれば、あとの話は簡単になるわね」
「でも、どうやってこの場所を知らせるんですか」
「私の全魔力を使って念話を彼女に送るわ。きっと、彼女なら答えてくれる」
「彼女って、だれなんです？」
「もう１人の、…聖王になるはずだった、お菓子職人さんよ」
「お菓子職人さん？」
「くそぉ。エミーの奴、どこへいったんだよ」
「普通に捜索魔法を使って見つからないなんて、ちょっとへんだよね」
「エミーさんだから、遠くへは行かないと思うんだけど…」
「ヴィヴィオとは違って、エミーは優等生だもんな」
「ヴィヴィオだって悪さばかりしてるわけじゃないよ…え？今エミーちゃんの声が聞こえた」
「どうしたの？」
「弱いけど、エミーちゃんの声が聞こえた。
エミーちゃんの念話…うん・・・うん、わかった、座標を出せばいいんだね。
けど、ヴィヴィオ、その魔法知らないよ。…エミーちゃんが教えてくれる？
わかった、エミーちゃんに合わせて詠唱していくからね…ささやき…詠唱…祈り…念じろ！」
ヴィヴィオの回りに巨大な魔法陣が現れると、魔法陣から光の矢が市街地を突き抜け
海底に向かって一直線に走る。
「見えた、エミーちゃんの居所」
「ここをランスター執務官に教えてあげて、マリアルージュの配置がわかるわ」
「わかった、ライチェントゥークス、沿岸警備隊本部に連絡、冥王イクスヴェリアと
マリアルージュの配置についての情報を送るって」
こちらは、沿岸警備隊本部である。
「…こちら沿岸警備隊本部。なに？マリアルージュの配置と冥王…イクスヴェリアを確保した？
眉唾だが、調べてみる必要はあるな。ランスター執務官にデータを転送する。
こっちは、出てくるマリアルージュ対応で手一杯だぜ」
場面は変わる、ランスター執務官は、今、ヘリに乗って全体の状況の把握を行うつもりだ。
戦闘は、ヴァイスとギンガに任せ、自分はアルトの操縦するヘリの中で、ルネッサと
作戦の打ち合わせだ。
「とにかく、相手がどこにいるかわからない以上、モグラ叩きみたいになるのは仕方ないわね」
「そうですね」
「…ルネッサは、念話は使えなかったわね」
「ええ、私には魔力資質がありませんでしたから」
「…それでも、管理局入りした理由、まだ聞いてなかったわね」
「南オセチアの孤児として管理局に拾われた。だから自然に管理局員を目指した。
それだけです」
「本当にそれだけなの。…なら、どうして鑑識を目指したのかしら」
「自分に向いていたものですから」
「そう…それならいいわ。…クロスミラージュに情報…！マリアルージュの配置がわかる。
これで、…マリアルージュをしらみつぶしに出来る。とりあえず調査するわ。
アルト、進路を北北東へ」
「了解、ランスター執務官」
さて、再び場面は海底洞窟である。
「状況がわかったのはいいんですけど、これで、本当に事件が解決するんでしょうか」
「私は、仲間を信じてるわ。１人１人が、自分の為すべき仕事をしてくれることを」
「…１人１人が…」
「変異体のマリアルージュもあなたは感知できるの」
「一応、出来るつもりです。変異体からも姿を隠すために移動してました」
「なら…問題は、早く解決するかもしれないわね」
「どういうことです？」
「マリアルージュについて、多少は調べたわ。マリアルージュはそれぞれ直属のボスがいて
そのボスの指示で動いている。だから、中心の頭を潰してしまえば
あとは十分に各個撃破出来る」
「理屈はそうですけど、本当にそんなことが…」
「仲間を信じるとは、そういうことよ」
ランスター執務官とルネッサを乗せたヘリは、市街地のまん中を目指していた。
「こんなところにマリアルージュが潜んでいるとは…」
「けど、マリアルージュが普通の人間と同じ姿に変装していたら？」
「そのような知恵のあるマリアルージュは確認されてません」
「可能性はあるわ。…行ってみましょう」
ティアナに抱きかかえられてルネッサは地上へ降下する。
地上の人々は、まるで飛び降り自殺でもあったかのように驚くが
ティアナのバリアジャケット は、ルネッサを含めて、柔らかく着地させた。
「…この中からマリアルージュを探す。…」
「私に少し考えがあります」
「なにかしら？」
「みつけたっ！」
ルネッサが急に叫ぶ。
その声に反応して、１人の人物が急に逃げ出した。
「ランスター執務官、あの男を追いましょう」
「その必要はないわ」
「え？」
「いま、クロスミラージュで麻痺弾を撃ち込んだわ。
丸一日動けないはず」
「…平気で逃げてますが」
「な、…もしかして、あれが本命！」
「全力で走りましょう」
「当然」
男は人混みをかきわけるように走る。
しかし、こう言うときは体が小さい方が人をかわすには便利だ。
特に、ティアナのように、訓練された執務官にとっては、
通行人は三角コーナーよろしく、静止した障害物に過ぎない。
「そこの男、私は執務官ティアナ＝ランスター。任意での事情聴取を求めます」
「…もうここがわかってしまったのか。だが、まだあきらめるわけにはいかん」
「一体何をあきらめるわけにいかないというの」
「ここは、平和だよ。平和になれきっている。
だが、人々は目覚めるべきなのだ。…争いは、すぐそこの世界に存在することを。
今の管理局ではだめなのだ。真に平和を作る管理局を産むためには、荒療治が
必要なのだよ」
「今の管理局システムが完璧ではないことは認めるわ。だけど、こんなやりかたで
…人を殺しまくってまで、一体なにを変えるというの」
「紛争は、その火種から断たなければならない、それを実感させるのだ」
「…パパ？」
「ルネッサか？」
「一体どういう事」
「…ルネッサ、おまえなら、私の言うことがわかるね。
管理局システムの限界を超えるために、この世界、クラナガンにも
南オセチアの空気の一端でも、持ち込まなければならないのだということが」
「…ぱぱ…パパは、私を管理局に入れるときに、そういう言い方はしなかった。
パパは、たとえ全員を救えなくても、１人を助けることに意味がないわけじゃない。
そういって私を助けてくれたじゃない」
「…私が間違っていたのだよ。全員を救う方法を考えなければ、平和は、訪れない」
「パパ…それで、マリアルージュにまでなって…」
「そうだ。私のボスになるマリアルージュは既に管理局によって排除されている。
他は、私のマリアルージュだ。あとは、冥王イクスヴェリアさえ手に入れれば
革命は完成する。聖王すら止められなかった、冥王軍の誕生だ。」
「パパ、目をさまして」
「…ルネッサ、援護して」
「ランスター執務官」
「あそこにいるのは、トレディア氏じゃないわ、マリアルージュの１人。
反乱したマリアルージュよ」
「陸戦AA級に負けるほど、私は弱くはないよ、特に、実体弾を使えるときにはね」
「気をつけてくださいランスター執務官、パパは火器の使用では超一流の戦士よ」
「わたしは、魔法弾の使い方を、なのはさんから学んだ」
「…話し合いでは、決着がつきそうにもないね」
「…この話をしているうちに、回りの避難が終わったわ。…始めさせてもらうわね」
「いいだろう、受けて立とう」
ランスター執務官と、マリアルージュ事件の首謀者にしてマリアルージュ自身の
コントローラーとなったトレディア氏の戦いは、また別のお話といたしましょう。