めりかるうぃっしゅ えくす
〜聖王と冥王〜
魔力波動を感じました。
偵察用の魔力波動です。
発信源を探します。 …サーチ魔法も無限書庫での検索魔法も
基本は同じ、特にステルスを掛けてるとしても、何もないことが
不自然な場所であるなら、同じ事です。
戦闘特化、物量戦タイプのマリアルージュに、この魔法が
使えるのなら、もっと早くイクスヴェリアが見つかったでしょう。
今、高町さんがマリアルージュを抑えてくれています。
ですが、戦いが終わるのを待っていては、イクスヴェリアを
見失ってしまうかもしれません。
時間が貴重です。
私は、だれの了解を得ることもなく〜はっきり違法です〜転送魔法で
イクスヴェリアの所へ飛ぶ事を決意します。
それが、この悲劇を止める、最良の方法と信ずるから。
『転送魔法発動座標…』
その頃、スバルとエリオ達は、マリアルージュとの戦闘に入っていた。
「エリオ、左翼の援護をお願い」
「はい、スバルさん」
「フリード。ブラストフレア」
「くきゅー」
左右からの揺さぶりをエリオとキャロで封じたスバルは
マリアルージュめがけ一直線に突撃していく。
「うりゃぁ！」
「そんな力業で倒されると思うとは、マリアルージュを甘く見ているな」
「甘く見てるのはそっちの方」
スバルの一撃は軽くマリアルージュに防がれる。だが…
「一撃必倒！ディバイン…バスター」
「馬鹿な！」
一撃離脱の振り向きざまに至近距離からディバインバスターを打ち込む。
さらに垂直反転してウィングロードで身動きを封じる。
「今はこれまで…」
「キャロ、物理障壁召喚」
「は、はい！」
覚悟を決めたマリアルージュは自爆して果てた。
その炎が町中へ向かわないよう、キャロは物理障壁を召喚する。
「…とりあえず一人」
「ナカジマ姉が１人足止めしてる、そっちの援護にはティアナ執務官が向かった。
おめーらは、とりあえずそこで待機して遊撃に廻ってくれ」
「了解、司令」
当のランスター執務官は、ヘリコプターで現場に到着していた。
「拳銃が通じる相手じゃないわ。ルネッサは全体の把握をお願い」
「わかりました、ランスター執務官」
「ヴァイス陸曹、援護射撃お願いします」
「おう、任せとけ」
「アルトさん、ヴァイス陸曹をお願いします。…ギンガさん、援護射撃、入ります！」
「助かるわ、ランスター執務官」
A級のギンガといえど、複数のマリアルージュが相手では防戦一方。
ランスター執務官の加入で、やっと反転攻撃に入れるというものだ。
「…とりあえず連携を切る！ファントム…ブレイザー！」
ティアナが使えるオリジナルの最強火力魔法、ファントムブレイザーをまず
マリアルージュの一方に放つ。もちろん、回避されるのは計算の上だ。
「そこっ！」
回避先へギンガが回り込む。マリアルージュもそのまま受け身に入る。
「クロスミラージュ。ダガーモード」
『roger』
ダガーモードのクロスミラージュを使い、素早くマリアルージュへ走り込むティアナ。
もちろん、そのかんぼんやりともう一方のマリアルージュが見ている理由はない。
「ルネッサ、弾幕張ってくれ」
「了解です、ヴァイス陸曹」
移動を制限するために、ルネッサとヴァイスが連続射撃を加える。
この射撃で、マリアルージュはもう一体への援護が遅れた。
「シールドを切り裂いて…クロスファイア、シュート」
「一撃必殺！」
ティアナとギンガの攻撃が同時に命中する。
そして、２人とも自爆にそなえて飛び下がる。
この、自爆して炎を上げるというのは、マリアルージュのやっかいな点である。
「ギンガさんは、市民の誘導に廻ってください。
もう一体のマリアルーズは私とルネッサで対処します」
「俺の出番がねーぞ」
「ヴァイス陸曹は回りの見張りを」
「了解した」
ここは、どこだろう。
地下、おそらくは海底のどこかの空洞。
なぜか風の流れがあって呼吸が出来る場所。
「…あなたは、だれ」
転送魔法陣から現れたエミーに問いかけたのは、オレンジのショートヘアが
印象的な、１人の少女だった。
「…それは私も聞きたいこと。だけど、私から名乗るのが礼儀でしょうね。
私の名前はエミー＝シュミット＝スカリエッティ」
「エミー…私の名前は、イクスヴェリア」
「思った通り。あなたが、冥王イクスヴェリアなのね」
「私の正体を知っているあなたは、一体だれなのですか？」
「聖王の見習い、現在修行中よ」
「聖王陛下…では、マリアルージュの反乱は、鎮圧されたのですか？」
「マリアルージュの反乱？」
「ええ、マリアルージュは、本来冥王である私の命令に従うはずでした。
しかし、イクスヴェリア因子の突然変異により、一部のマリアルージュは
私の制御を離れて人々を襲うようになったのです。
私には、聖王陛下と戦いながら、同時に無差別な殺戮装置と化した
マリアルージュに対処することは出来ませんでした。ですから…」
「だから、自らを封印したのね」
「ええ。…聖王陛下なら、マリアルージュの起こした混乱を収められると思って…」
「でも、それは間違いだった」
「間違い、だったのでしょうか」
「私は、かつて、パパやママと一緒に、アルハザードへと旅立とうとしたことがあるの」
「アルハザード。…アルハザード魔法研究都市ですね」
「アルハザードは実在するの？」
「ええ、実在します。…聖王陛下はご存じないはずがないのですが」
「見習いだと言ったはずよ。それに、私はオリジナルの聖王ではなく
聖王の能力をコピーしたクローン。真の聖王になるための勉強中の身です」
「そうなのですか。私は、永遠に封印されるはずでした。
冥王は自らのイクスヴェリア因子によって不死なのです。
そして、イクスヴェリア因子を抹殺する死に方をしても、すでにまき散らされた
イクスヴェリア因子はのこる。…封印によって姿を消すのが、一番の
解決策に思えたのです。」
「だけど、それは決して最良の解決策では無かった。
主を失ったイクスヴェリアは主を求めてさまよった」
「それは…聖王陛下がなんとか」
ぱちん！
「…何をするんですか、陛下」
「あなたも王の１人であるなら、臣下に対しては責任を持つ物よ。
今、イクスヴェリアが暴走している、あなたに出来ることは
また新しい封印先を探してさまようことではないわ。
自分で、自分の中のイクスヴェリア因子と向き合う事よ」
「ですけれど、私に何が出来るでしょう」
「暴走したイクスヴェリアと、あなたに忠実なイクスヴェリアとがいるのなら
あなたに忠実な、突然変異していないイクスヴェリアの暴走を止める
ことはできるわ」
「…私は、王とは名ばかりの生物兵器イクスヴェリア…」
「高町さんも、パパから同じように扱われたわ。だけど、これだけは
信じて欲しいの。あなたを作り出した誰かは、けっしてあなたを
ただの殺戮兵器として作った訳じゃないっていうことを。
だって、あなたには、立派に心があります。
それは、あなたが、人間の１人だということなの」
「人間の…１人…」
「だから、自分の中の勇気を出して。マリアルージュの暴走を止めるために
自分に出来る範囲で、自分の出来ることをしなさい」
「…ですけど、聖王陛下」
「私はまだ聖王ではないわ。だけど、あなたとちがって、自分の
運命から逃げるつもりも、ないわ。
自分が聖王としての能力を持って生まれたのなら、聖王として
最善を尽くすつもりよ」
「…聖王として、最善を…」
「あなたにも、きっと出来るはず。自分で自分を封印するぐらいに
覚悟を決めているのですからね」
「ですが、ここからどこへ行けばいいのでしょう」
「それは、たぶん、私のお友達が誘導してくれるはずですわ」
「お友達が？」
その、お友達の手助けと、マリアルージュ事件の真相についての話は
またこんどいたしましょう。