ここは、とある隔離世界。
とはいえ、全くの無人世界というわけでもない。
かつて、流刑地だったオーストラリアをイメージしてもらえれば
そんな感じの世界だ。

 

もちろん、人はまばらだが、軌道監獄送りになるような、根っからの
犯罪者ではなく、少しどこかで道を間違った、そんな犯罪者が送られる世界である。

 

そんな、流刑世界の一軒家では、かつてスカリエッティの一味として
レリックでブーストされた召喚能力を発揮していた、今はごく普通の魔力の
召喚術師、ルーテシア・アルピーノが、母のメガーヌと共に暮らしている。

 

「…ママは今街に買い出しに行ってるけどね」
「なールールー。何で今日は特別に料理を作るっていいだしたんだ」
「…アギト、それはお客さんが来るから」
「お客さん？お客さんってだれが来るんだよ」
「ティアナ執務官と…ヴィヴィオとそのお友達」
「お客さんっていっても、なんか微妙だな。エリオとか来ないのかよ」
「…アギトはエリオが好き？」
「ん、いや、べつにあたしが好きかどうかじゃなくて、ルールーが
　どう思ってるかだけなんだけどさ」
「…エリオくんも、キャロも、大切なお友達。
　それからアギト、つまみ食いはよくない」
「けど、ルールーの料理は一級品だからつい手が出ちゃうんだよな」

 

ぴんぽーん。

 

「アギト、お客さん」
「わかった、今迎えに行くよ」

 

アギトは、お客さん…言わなくても誰が来たかはわかる…を迎えに玄関へ行く。
ルーテシアは、料理を手早く並べていく。どうやら来る時間に合わせて
ぴったりと料理してたらしい。

 

「お久しぶりです、ルーテシアさん」
「ルーテシアちゃんこんにちは」
「初めまして、あたしは冬美、で、こっちのちょっとおとなしそうなのがゲッコウ」
「ゲッコウじゃなくてアカリちゃんだよ」
「ま、これはお約束の挨拶みたいなもんだ」
「そういうわけで、私が中島月光です。でも、漢字のない世界だと
　どうしてゲッコウって呼ばれてるかは、わからないですよね」
「…私も漢字は知らない…」
「そりゃ管理外世界の一部でしか使われてない文字なんてルールーにわからないのが当然だぜ」
「…初めまして、ルーテシアさん。私はエミー＝シュミット＝ スカリエッティです」
「…初めまして、エミーさん。エミーさんのことは、ドクターから聞いてました」
「え？それは本当なのルーテシアさん」
「…ええ、ドクターは言ってました、鍵は二本ある、一本は管理世界に
　もう一本は、管理外世界に用意してあるって」
「それは初めて聞くわね。どうして今まではなしてくれなかったのかしら」
「…だれも聞かなかった…」
「それもそうね。それで、イクスヴェリアの事について、ドクターから
　あなたに聞くように言われて、来たのよ」
「そんな話も、ルールーの作った料理を食いながら話そうぜ。
　ルールーの料理は絶品だからな」
「ごめんねルーテシアちゃん、お菓子を作らずに来ちゃった」
「…こんど来るとき忘れなければいいよ」
「ルールーもちゃっかりしてるな」
「いただきます」

 

月光がまず手を合わせて食事の開始を宣言すると、しばらくは
事件の話とは無関係な会話が続く。

 

「…でね、冬美ちゃんはこんどスバルお姉ちゃんに会いに行くんだよ」
「…そうなの…」
「スバルがミッドチルダに居てくれて助かるわ。
　ルネッサも、現地で調査を続けてくれてるし
　休暇で、エリオとキャロもいる。戦力的には、マリアルージュに
　十分対抗できる。だから、あたしが調査に回れるんだけど」
「…マリアルージュは聖王が勝てなかった相手…甘く見すぎじゃない…」
「ルーテシアちゃん。ルーテシアちゃんはマリアルージュについて何か知ってるの？」
「ドクターから聞いてる。自分の趣味には合わない最低な兵器だって。
　ドクターに接触してきた誰かがマリアルージュに殺されたのも自業自得だろうって言ってた」
「ドクターに接触してきた誰かって、名前は思い出せない？」
「名前は…忘れた」
「…マリアルージュ…ねえ、ルーテシアさん、この碑文に見覚え無い？」
「見覚えは無くても、意味はわかる…」
「…どういう事？」
「古代ベルカ語については、ドクターから少し習った」
「…私も古代ベルカ語については教会で学んでますわ。
　ですけれど、この碑文は意味がよくわかりません」
「滅多使わない単語が使われてるから、教会だと無理…
　…死人の王イクスヴェリア、マリアルージュを用い
　その力を増す。聖王といえどイクスヴェリアを捕らえることを得ず。
　されど冥王イクスヴェリア、自ら姿をくらましその後の行方知るものなし。
　マリアルージュ、イクスヴェリアを求めてさまよう。
　その姿、女王を失いし蜂のごとくなり」
「…古代ベルカじゃ詩的表現を正式文書で使ってるから
　意味の解釈が難しいですわね」
「けど、これで事件の全体像は見えてきたわ。
　イクスヴェリアが自発的にか、誰かの手によってかは知らないけど
　イクスヴェリアが姿を消したことで、聖王はマリアルージュを
　押さえ込むことが出来た。
　だけど、マリアルージュの生き残りが存在していて、彼らは
　 未だに冥王イクスヴェリアを探しているのよ。
　トレディア氏が見つけたのは、イクスを探しているマリアルージュ」
「けど、ティアナお姉ちゃん。どうやってマリアルージュを
　トレディアおじちゃんは制御するつもりだったのかな」
「…制御出来なかったからトレディア氏は死んだ…イクスヴェリアによって…」
「…！」
「どうしたの、月光ちゃん」
「イクスヴェリア因子って、死者でも増殖出来るんでしたよね」
「たしか、スカリエッティからの情報では、そうだったわ」
「なら、トレディア氏が死んだとしても、存在しなくなった、というのとは
　意味が違うのではない？」
「トレディア氏がマリアルージュを動かしてる？」
「…その可能性は否定できないと思いますわ。ティアナ執務官」
「もしそうだとしたら…」
「いずれにせよ、マリアルージュ事件を解決するつもりなら
　マリアルージュを押さえ込む必要があるわね」
「…イクスヴェリアを４年間マリアルージュが探し続けて
　その上で、クラナガンで事件が多発しているんだぜ。
　もしかして、イクスヴェリアの居所って、連中は
　ずいぶん詳しくわかってるんじゃないのか？」
「…！その可能性もあるわね。それに、一度はルネッサと直接会って
　報告を受ける必要があるわ。ありがとうルーテシアさん」
「…どういたしまして」
「ごちそうさまでした、ルーテシアちゃん、こんどはお菓子を持ってくるからね」
「ヴィヴィオちゃんの手作りでお願い…」
「おいしかったぜ。じゃあな、ルーテシア、アギト」
「お、あたしのことも忘れなかったな、冬美」
「では、おいとまします」
「…聖王の加護あらんことを」
「聖王を目指すエミーちゃんが言うと、なんか変だよ」
「ですが、私が一番聖王の加護を必要としているはずですわ。
　真の聖王の加護がなければ、私は聖王になれないはずですから」
「そうかも」
「あたしは、直接クラナガンに行くけど、みんなはどうするの？」
「最初からの予定通り、クラナガンに行くよ。
　冬美ちゃんはスバルお姉ちゃんに会いたいだろうし」
「ま、最悪、首都航空隊にはシグナムもいるし、なんとかなるだろ。
　いざとなったらこのアギト様が、ルールーの転送魔法で飛んでって
　シグナムとユニゾンしてやるよ」
「期待してるわ。…けど、そうならないように願いたいわね」

 

期待は裏切られるためにある。
だが、まだティアナ達はそれを知るべき立場には無かった。

 

 

 

 

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