めりかるうぃっしゅ えくす
〜パパやママは相変わらずです〜
ここは、次元世界間の平和を守る、時空管理局の本局である。
「ねえ、エミーちゃん。本局でのお仕事が終わったんだから、そろそろ
ミッドチルダに帰ろうよ。冬美ちゃんや月光ちゃんに案内したいところとか
紹介したい人、いっぱいいるんだよ」
「ふふ、そうですわね。ですけれど、時空管理局本局にも、民間の方が暮らす棟もありますわ。
そちらの方を案内してあげるのも、よいのではないでしょうかしらね」
「民間の人が暮らす棟もあるのかよ」
「これだけおっきな所なんだから、きっとスペースコロニーみたいに、工業区とか
商業区とかと同じように、居住区もあるんだよ、きっと」
「ふふ、居住区と商業区はある意味一体になってますわ」
「すげえな、それ。本当にSFの世界みたいだ」
「ミッドチルダを見たときには、なんとなく地球っぽかったけど、こっちに来たら
突然SFの世界のお話みたい」
「ミッドチルダの物質文明のレベルは、確かに、地球とそれほど変わらないかもしれないわ。
けれども、その生産力となると、地球よりもはるかに巨大ですね」
「そりゃ、複数の惑星を支配してるんだろ。地球一個をもてあましてるあたしらの
世界とは、文字通り桁違いだよな」
「だけど☆おいしいお菓子は次元世界共通だよ。有名なお店があるんだって
早く行こうよ、エミーちゃん、冬美ちゃん、月光ちゃん」
「そんな焦るよヴィヴィオ、お店は逃げたりしないんだろ」
「だけど、有名店だと並んでも買えないかもしれないよ」
「ふふ、やっぱり、高町さんはお菓子には目がないんですのね」
「桃子おばあちゃんのお菓子は一番だけど、他の人のお菓子も食べてみるのも
パティシエさんのお勉強〜」
「ま、それもそうだけど、食べ過ぎないようにな」
「お小遣いの範囲で…あれ、ライチェントゥークス、どうしたの？」
『我が主、ティアナさんからメールです。至急扱いなので今読み上げます』
「それほど急ぐことなの？」
『急ぐことです。では読み上げます
至急；エミーちゃん、ヴィヴィオちゃんへ。
ティアナ＝ランスターです。執務官として…そして、できれば
二人の友達として、捜査に協力してもらえないかしら。
マリアルージュ事件の手がかりを得るために、どうしてもスカリエッティと
ウーノ達からの情報が必要になったの。
だけど、普通に話をしても、あの人たちが、管理局に協力してくれるとは
限らない。だから、あなたたちもいっしょに来て、私のみかたを…いえ、
あなたたち自身で考えて、協力してもらえるように説得して欲しいの。
可能な限り最速の便で本局に戻ります。協力してもらえるのなら返信をお願いします。
時空管理局執務官 ティアナ＝ランスター』
パパ達の助けが必要だというのなら、それはよほどの重大事件でしょう。
ですけれど、それが一体何を意味するのか、私にはまだよくわかりかねます。
「エミーちゃん、ティアナお姉ちゃん、困ってるみたい」
「そうですわね。ですけれど、パパやママの計画は、あくまで
アルハザードを目指す次元跳躍だったはず。
けっして、パパもママ達も、人殺しが目的のことはしなかったわ」
「うん、それは知ってるよエミーちゃん。ヴィヴィオに変なことはしたし
ガジェットを使って危ないこともやったけど、JS事件そのものでの死者は
まったくなかったはずだもんね」
「死者０なのかよ。あたしはもうちょっとで殺されかけたぜ」
「あの婦警さん、結構つよかったよね」
「何の話かしら、川崎さん、中島さん」
「ちょっと、ヴィヴィオを誘拐しに、エミーちゃんの、たぶんママが来たときの話だよ」
「殺意はなかったはずですわ。…それに、ガジェットはすべて
非殺傷設定だったったはずですわ。あの、次元跳躍直前の洋上決戦の時でも」
「それはわかってるよエミーちゃん、だけど、今は、ティアナおねえちゃんの
ことを決めないと」
「協力しない選択肢は、保護観察中の私にはありませんわ。ですけれど
高町さんや、中島さん、川崎さんは、無理につきあわなくてもいいんですよ」
「いや、エミーがいくならあたしも行くよ。来るなっていわれるなら話はべつだけど」
「居てもらった方が心強いよ、ヴィヴィオは。エミーちゃんはどう？」
「そうね、私も、お二人が一緒の方が気が楽になりますわ」
「はい、決まりだね。じゃあ、ティアナお姉ちゃんにはそういって返信するね。
ライチェントゥークス、返信文の変換お願い」
『かしこまりました、我が主』
えとえとえと、ちょっとだけ補足説明です。
ライチェントゥークスっていうのは、ヴィヴィオのデバイスです。
携帯電話のストラップの形をしています。一見携帯電話本体が
デバイスに見えるかもしれませんが、あくまで、ストラップなんです。
携帯電話は…普通の携帯電話です。
地球だと、ライチェントゥークスではなく、携帯電話で連絡をとりあってるんです。
『送信終わりました、我が主』
「ありがとう、ライチェントゥークス」
「４人とも、協力に感謝するわ」
「お礼は、パパやママ達から情報が得られてからでよろしいですわ、ランスター執務官殿」
「そんなに堅くならなくててもいいわ」
「…あのさ、ヴィヴィオ」
「なに、冬美ちゃん」
「あのスカリエッティや、ドゥーエの尋問っていうか、事情聴取するんだろ。
ここは、何か通信室みたいだぜ。直接会いにいくんじゃないのか？」
「んーと、スカリエッティおじちゃんやドゥーエお姉ちゃん達は
みんな、軌道監獄に別々に収監されていて、普段は執務官でも近づけないんだって。
脱獄を防ぐための工夫だよ」
「それで、必要に応じて通信回線を使って事情聴取なんかをするんだね」
「そうだよ、月光ちゃん」
「…ランスター執務官、要請のあった各監獄との通信回線をひらく準備が出来ました」
「では、双方向回線、ジェイル＝スカリエッティ、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロ、セッテ
各々をこちらにつないでください」
「わかりました、執務官殿」
空中に、画面が浮かび上がります。
双方向回線なので、こちらの様子も、向こうに全部伝わっているはずです。
「やあ、今日は一体なんの用事だい。全員同時に双方向回線をつなぐなんて
重罪を犯した広域次元犯罪者に対しては、異例じゃないか」
「ドクターが管理局に協力を約束したという話ではないようですね」
「私たちの手を借りなければならないほど、管理局は追い詰められたのかしら」
「あーら、逆に、管理局を私たちに引き渡すって話しかもしれないわよ」
「まて、クアットロ、エミーお嬢様やヴィヴィオお嬢様が一緒だ。
もしかしたら、二人の養育にかんする話かもしれん」
「…たまには親子の対面でしょうか…」
「そういう配慮もしてあげたいところだけど、全然違うわ。
すでに何十人という被害者が出ている、連続殺人事件の捜査に協力してもらいたいの」
「連続殺人事件だというなら、私の管轄じゃないよ。
人体改造や、アルハザード関連の事件についてなら、少しは協力できることがあるかも
しれないけれどもね」
「…時間の猶予がないので、単刀直入に聞きます。
マリアルージュについて、何かご存じではありませんか？」
「ごぞんじではありませんか、か。よほど管理局は追い詰められてるんだねえ」
「そーねえ。ただじゃ、教えられないわ」
「代償ですか？ですが、私には…」
「なに、大した代償を求めてるんじゃないよ」
「ドクターは、管理局の尋問には答える気がないことぐらい、理解してください」
「…では、協力はしていただけないのですか？」
「パパ。パパは、たとえ次元犯罪者として管理局の法に触れる事はしても
決して人殺しの仲間なんかじゃないはず。
だけど、今、大量殺人事件が起きていて、高町さんのお世話になった
ランスター執務官や、ナカジマ士長が困ってるの。
お願いだから、協力してあげて。管理局に協力するんじゃなくて
高町さんを助けると思って」
「…ああ、かわいい娘の頼みだ、聞いてあげたいのはやまやまだが、
私にもプライドというものがあるのでね」
「…わかってます。質問は、すべて、エミーちゃんかヴィヴィオちゃんから
するようにします。あなたの”娘”の質問に答えるという形でなら
直接管理局に協力したことにはならないでしょう」
「最初からそのつもりだったのかね。少しは知恵を使ったようだね」
「私が逆の立場でも、きっと、そういうと思いますから」
「元気そうなヴィヴィオやエミーの姿を見せてもらったんだ、少しぐらいは協力するよ。
それで、マリアルージュについてだったね、…それについては
私より、クアットロの方がくわしいんじゃないかな」
「そーねー。あの、古代ベルカが生み出した、史上最低の生物兵器のことね」
「クアットロおばさま。それは一体どういう意味なのかしら」
「エミーちゃんも、聖王になるつもりなら、マリアルージュと、冥王イクスヴェリアについては
多少知識があったほうがいいわよ。
マリアルージュ、史上最悪の生物兵器。冥王イクスヴェリアによって生み出される
死者の軍団。その増殖能力は疫病のごとく、その戦闘力は一流魔導師に匹敵する。
聖王の支配に対し、ゲリラ戦で対抗し、一度は聖王の支配そのものを揺るがせた」
「…ですけれど、聖王は一度、次元世界に平穏をもたらしたはず。どうやってそれを達成したの？」
「冥王イクスヴェリアが、マリアルージュから姿を隠すことによって、らしいわね。
詳しいことなら、トレディア氏に聞くといいわ」
「トレディア氏って、誰のことなの？」
「南オセチアの高等弁務官だよ。変人といっていいね」
「だが、彼は一流の戦士であった。魔法は使えないが銃の使い手としては
おそらく、陸士隊のだれに対してもひけをとらなかったろう」
「戦士であるのと同じぐらい、夢想家でもあったみたいですけれど」
「ウーノおばさま、それは一体？」
「ドクターの目的は、あくまでアルハザードへの到達。そのための聖王の復活。
ですが、トレディア氏の目的は、管理局体制への反逆、そして革命」
「愚かなやつって、ほんとどこまでも愚かなのよね〜」
「クアットロおばさま？」
「マリアルージュの正体についても、ある程度調査は出・来・て・る・の」
「それは教えてくれないの？」
「それはね〜いくら、かわいいエミーちゃんのためでも、聞いてあげられないわ」
「ねえクアットロおばちゃん。どうしてエミーちゃんのお願い、聞いてあげられないの。
ねえ、スカリエッティおじちゃん、スカリエッティおじちゃんからも教えるように
言ってあげてよ」
「残念ながら、私にもそれは出来かねるね」
「だが、ヒントぐらい出してもいいだろう」
「…答えをそのまま言えばよろしいかと…」
「そうね。じらして困った表情をされても、そこがまたかわいいんだけど
時間の無駄よね。そこでいらいらした顔してる執務官殿が、面会を
うちきっちゃうかもしれないし」
「エミー、私の事は”ママ”でいいけど、他の私の姉妹を呼ぶときには
”おねえさま”と呼んであげてね」
「……わかったわ、ママ。…クアットロおねえさま、マリアルージュについて
どの程度の調査が出来ているのか、教えてくれないかしら」
「それならかんたんよ。マリアルージュは一種の細菌兵器。
増殖力はそれほど強くなく、通常の免疫があればかんたんに撃退できる。
だけど、その細菌には特殊な能力があるの。…それは、死体に対しても増殖できるということ。
そして、マリアルージュが十分に増殖した死体は、それ自体がマリアルージュとなる。
あと、極めて高い濃度のマリアルージュ因子を送り込まれると、生きている人でも
体の一部がマリアルージュ因子化することも、まれに起こりうる。
それが私がマリアルージュについて知っていること。
ドクターもあたしも、生きてる人間にしか興味ないから、それ以上詳しくは調べなかったわ」
「ありがとう、クアットロお姉さま」
「どういたしまして、エミーお嬢様」
「だということは、いま事件を起こしてるのは、イクスヴェリアってことなの？」
「いや、むしろ事件を起こしているとしたら、トレディア氏だろう。
彼は、古代ベルカについても、アマチュア研究家だった。
聖王を苦しめた冥王イクスヴェリアについても、多少の知識は持っていた。
それが、生物兵器であるということも含めてね。
だから、彼はイクスヴェリア因子に対する抗体が作れるんじゃないかとも
考えていたようだよ」
「ありがとう、パパ。それじゃあ、トレディア氏にについて調べれば
この事件の事もわかってくるということね」
「ああ、もし彼が今でも生きてるのだとしたらね」
「どういうこと？」
「彼は死んだよ。イクスヴェリア因子について調べている最中に
マリアルージュによってね」
「それ以来、マリアルージュについての情報は聞いていない」
「………エミーさん、一つ、スカリエッティに聞いてもらえないかしら」
「何をですか、ランスター執務官」
「この碑文について、スカリエッティに解釈をお願いしたいの」
「…直接の質問には答えないよ。それに、それを読むのなら、むしろ
ルーテシアに頼んではどうかね」
「ルーテシア？ルーテシア、アルピーノ？」
「そうねえ。ドクターが古代ベルカのことについても、ルーテシアお嬢様には
いろいろ教えてたわねえ」
「エミー達が遊びに行くと、あの子も喜ぶだろう、よろしく頼むよ。
ランスター執務官」
「わかりました、…ところで、この碑文は、捜査に役立つものなのでしょうか」
「さあ、それは行ってみてのお楽しみ」
「…了解です」
パパが、もったいぶった言い方をするときは、大抵びっくりするような事実が
隠されているものです。
今回も、もちろんその通りだったのですが、その内容については、また別のお話で。