めりかるうぃっしゅ えくす
〜フォワードチームは仲良しです〜
ここは、辺境の未開世界。
人の手の加わらない大自然が、人の手を加えられないよう
自然保護官達に寄って守られている、そんな世界。
自然保護官が必要だと言うことは、もちろん、非合法に
自然に関わろうとする輩が存在する、ということ。
この世界にも、高額で取引される珍獣の毛皮を求めて、密猟者がやってくることがある。
それを早期に発見、摘発するだけの能力は、普通、自然保護官達にはない。
質量兵器で武装している密猟者相手に、生身の人間が立ち向かうのは自殺的冗談だ。
だから、高度な技能を持つ、特殊な自薦保護官は、自然そのものを用いて
対抗するために、様々なトラップを用意して、密猟者に備えている。
だが、それは密猟者も計算の内、どうしても、手段を選ばない密猟者に対して
手段を選ぶ必要のある自然保護官は後手に回りやすかった。
「へへっ。自然保護官どもより先に群れを見つけたみたいだな」
ほら、ここにも密猟者が、ライフルを持って待ち構えている。
明らかに質量兵器なのだが、質量兵器禁止は管理局限定の話。
ミッド人でも、狩猟が趣味、という理由でライフルを所持している人は少なくない。
まして、ミッド外の世界では、質量兵器禁止など、禁煙を呼びかける看板ほども
尊重されてないのが現実だ。
「…そこでライフルを構えてるあなた！ここは狩猟の全面禁止区域です。
一体何をするつもりですかっ！未開世界生物保護法の違反容疑で緊急逮捕します」
「な、なんだとっ！」
上から声が聞こえる。
驚いて空を見あげる。
空には、…
「ど、ドラゴン……」
白龍と、白龍にのった少女〜キャロ・ル・ルシエ〜がいた。
「ちっ、転移だってやすかなかったんだ、この程度であきらめてたまるかよ」
密猟者は森の中に素早く逃げ込む。深追いしてくる所を逆襲するつもりだ。
目が狩猟者のそれから、殺人者のそれへと変わっている。
「無駄な抵抗は止めて武器を捨ててください。
抵抗しなければ、あなたに弁明の機会が与えられます」
「ああ、い、いったいどこから現れた。…て、子供？
坊主、死にたくなければそこを…」
「無駄な抵抗は止めてください。AA級…」
「しねっ！」
たたたーん。
「１トリガーで一カートリッジ全弾発射ですか。
今のは、殺人未遂と言われても仕方ない行為ですよ」
「な、なんで…無事…なんだ」
「ストラーダで弾丸をそらせただけです。それほど驚くことでもないでしょう。
公務執行妨害、未開世界での無許可発砲…まあ、殺人未遂はつけずにおきましょう。
この程度でやられるエース級魔導師なんていませんから」
「え、エース級魔導師だと！」
「エリオ・モンディアル一等陸士です。あなたを、逮捕します」
「エリオくん、終わった？」
「ああ、密猟者を逮捕したよ。…ふぅ。それにしても、なんで
こう密猟者が多いんだろう」
「高値で売れるから、って言っても実感が湧かないよね。
あんなにかわいいのに、殺したりするなんて」
「…？ストラーダに通信？：
「ケリュケイオンにも、一体なんだろう」
『はーい、エリオ・キャロ、元気してる？
今、ミッドチルダにティアナが捜査のために来てるよ。
そっちの仕事も忙しいとは思うけど、休暇は溜まってるんでしょ？
息抜きだと思って、こっちに来ない？
用件はそれだけ。じゃあ、返事待ってます。スバルより』
「スバルさんからのメールなんだ」
「エリオくん、どうする？」
「どうするって、せっかくの招待だし、行かないのも悪いんじゃないかな」
「そうだよね、エリオくん。
けど、捜査って、一体何を調べてるのかな」
「さあ、そこまでは…だけど、スバルさんが僕らを呼ぶぐらいだから
きっと、かんたんに解決するような事件なんじゃないかな」
「うん、そうだよね、エリオくん。
じゃあ、隊長に言って、明日からミッドに行けるようにお願いしようか」
「そうしようか。…この密猟者の護送っていう、大義名分もあるし」
密漁も、末端の密猟者はそれほどの利益を上げられるわけではない。
次元航行艦を使っていては、管理局にあっさり察知されてしまうし
第一、密漁した得物を運ぶのに、まさか税関をごまかすこともできない。
転送魔法で送り込まれ、転送魔法で得物ごと帰るのが普通のやり方だ。
もちろん、安くはない費用をあらかじめ払う必要がある。
もし、管理局に見つかって捕まれば、むしろおとなしく逮捕されておくのが身のためだ。
なまじ脱走でもしようものなら、転送費用が払えずに身ぐるみ剥がれるか
さもなければ、原生生物の餌である。
もちろん、今回エリオとキャロが逮捕した犯人も、そのくらいのことは自覚していた。
逃げ切れないと観念した後は、おとなしく逮捕されているのは、 そういう事情なのである。
同じ頃、ヴィヴィオ達は、騎士カリムとお茶会をしていた。
「ヴィヴィオちゃんも大きくなったわね」
「ヴィヴィオもやっと二桁年齢になったんだよ」
「誕生日のマジックじゃねーか。生まれた年がわからないって理由で
拾われた日を誕生日登録したんだろ」
「それでも誕生日は誕生日だよ。変態顔芸博士に聞いたら正確な日が
わかるのかもしれないけど、あんまり深くこだわることないよね」
「ヴィヴィオちゃんがこだわらないのなら、こだわらなくていいと思うよ」
「ありがと、月光ちゃん」
「ゲッコウはいつでもヴィヴィオに甘いんだから」
「クッキー作りも上達したわね」
「毎日桃子おばあちゃんに教わってるからだよ。
それで、エミーちゃんの様子はどう？
変な魔法覚えさせられてない？」
「変な魔法ではなく、正当なベルカ式の魔法ですわ。
シスターシャッハからは、体術についてもまなんでおりますし
騎士カリムからは、古代ベルカ式の魔法と、古代ベルカ語について
学んでおりますわ。ユーノ司書長から無限書庫の検索術を
学んでからは、時々、無限書庫での司書としての仕事もしております」
「うわー、すっごくハードな毎日なんだね。
ヴィヴィオじゃとても出来そうもないよ」
「毎日学校に通って、その後宿題をこなして、さらにパティシエになる
勉強をしている高町さんや、学校と道場を掛け持ちしている
冬美さんとくらべて、 特に大きなことをしているつもりはありません。
聖王の能力を使えば、一度覚えた魔法は使えるではないですか」
「そうだけど、聖王って、たくさんの人の未来をひらくんでしょ。
ヴィヴィオにはとてもまねできないよ」
「パティシエさんも、本当の笑顔の魔法が使えるのではありませんでしたか？」
「ふふ、おいしい紅茶と、ひとつまみのクッキーが、場を和ませるようにですわね」
「そうですね、騎士カリム」
「エミーちゃんも、変わりないようで安心したよ」
「ありがとうございます、月光さん」
「あれ？エミーちゃん、どうしてアカリちゃんのこと、名前で呼ぶようになったの？」
「ナカジマさんでは、オットーさん、ディードさんのご姉妹と混ざるように
なったからですわ」
「あ、そういえば、チンクお姉ちゃん達は、ナカジマ家の養子になったんだよね」
「ええ、次女にチンク、三女にディエチ、五女にノーヴェ、末妹にウェンディでしたね」
「スバルさんは四女なのか、なんか納得いかないけど、スバルさんのことだから
きっと遠慮してみんなに年長を譲ったんだな」
「5女にノーヴェお姉ちゃんっていうのが、スバルお姉ちゃんなりの
こだわり何じゃない勝って思うよ」
「スバルさんにノーヴェさんが譲ったんだよ。きっとそうだよ」
「ふふ、冬美さんも相変わらずですわね。スバルさんとゆっくり
話す機会は、あるのでしょう？」
「それが、ティアナさんが来てるから、そんなに時間もとれないかもって。
あたしらは、夏休みで来てるから、一週間や二週間、どうにでもなるけど
宿題の事を考えると憂鬱だぜ…」
「夏休みの宿題は、毎日計画的に済ませていけばそんなに手間じゃないよ」
「そりゃ、ゲッコウは優等生だからそんなこと言えるんだろ。
あたしはその毎日計画的ってのがかったりーんだよな」
「冬美ちゃんだって、川崎流の修練は毎日してるでしょ。同じだよ」
「川崎流の練習は、好きでやってること。宿題はやらされること。
全然違うだろ」
「…学校の勉強って、それをやって何の役に立つかわからないっていうのが
あるから、身が入らないのかな」
「うん、それはあるかも☆。ヴィヴィオも、宿題は一体なんのために
やってるのかわからないことがよくあるよ」
「無意味に見えること、だけど、それが本当は大切なことだったりする。
そんなことが大人になるとわかるようになるそうですわ」
「エミーちゃんは、そういうことが理解できるの？」
「私にもわかりませんが、父はそう教えてくれました」
「父って…あの変態顔芸…あ、ごめん、エミーちゃん。
パパって呼んでる人の悪口みたいなこと言って」
「かまいませんわ。父は、それをほめ言葉に受け取ってるようですから」
「変態顔芸博士っていうのは、さすがにほめ言葉にはならないんじゃ」
「アインシュタインだって、顔芸でしたし、変態呼ばわりはむしろ
常人の理解を超えていることの証明だそうですわ」
「なんでミッド人のDr.スカリエッティが、アインシュタインなんて知ってるんだよ」
「私は、地球生まれで、地球育ちですわ」
「あ、そういえばそうだったよね」
こんな、他愛のない会話は、ティアナお姉ちゃんからの連絡で途切れてしまいました。
「失礼します」
「どうぞ、オットー。何か用事かしら？」
「騎士カリム、ランスター執務官よりの要請です。
古代ベルカの事について、無限書庫での調査が必要になったので
エミー陛下に司書としての仕事を依頼したいと」
「わかりました。…騎士カリム。みなさんと一緒に
本局無限書庫へ向かってよろしいでしょうか」
「みなさん、というのは、ヴィヴィオ達を含めて、ということですか」
「ええ、高町さん達の手助けを借りることもあるでしょうから」
「そうね、私としてはかまいませんよ。
本局には連絡を入れておきます」
「お願いします、騎士カリム」
その、無限書庫で明らかになる事実は
当然、この段階ではわかるはずのないことです。
そして、それが意味する、ミッドに迫る危機についても。
その話は、また章を替えてお話いたしましょう。