めりかるうぃっしゅ えくす
〜現場百回は操作の基本、です〜
「ティアー〜久しぶり〜」
「スバル、あんたわざわざ出迎えに来たわけ？仕事はどうしたのよ」
「スバル＝ナカジマ士長のお仕事は、ティアナ＝ランスター執務官殿の出迎えであります」
「あ、お、お久しぶりです、スバルさん」
「こんにちはすばるお姉ちゃん」
「スバルさん、こんにちは。地球でお会いしてからお変わりなさそうですね」
「ま、あの事件解決に助力したってことで、士長に昇進したぐらい」
「あたしもあの事件の解決の後で、執務官試験に合格したんだっけ。
試験用の勉強が出来るだけの休暇がもらえたのが大きかったわ」
「スバルさん、あ、あの…」
「ごめん、冬美ちゃん。あたし、今から仕事でティアを現場に案内しないといけないから」
「は、はい。いえ、こちらこそ勤務時間を割いていただいてありがとうございます」
「裂くっていっても、ティアの出迎えのついでだから」
「それで、スバル。犯人はまだ捕まってないの？」
「残念ながら、見つかってないんだよね。
デパートを封鎖したときには、もうデパートの外に逃げ出してたみたい」
「今でも中に潜んでる可能性は？」
「皆無じゃないけど、百貨店だって、全く無防備ってわけじゃないし
監視装置を増設したから、まず、中には残ってないと思う」
「ルネッサ、あなたの考えを聞かせて」
「まずは現場に何があるか検証するべきでしょう。
推理を行うにせよ、今のところ情報が少なすぎます」
「…その通りね、ルネッサ。気づかせてくれてありがとう。
あ、紹介が遅れてごめん。こちらが執務官補佐のルネッサ＝マグナス」
「ルネッサです。噂はかねがねランスター執務官からうかがっております。
天才的才能のある格闘魔導師だそうで」
「天才的才能の持ち主はティアだって。なんてったって、執務官だもの」
「…ベルカ自治領行きのトラムがもうじき到着します。発車時間には遅れないようにしてくださいね」
「うん、ありがとルネッサおばちゃん」
「ヴィヴィオちゃん、ルネッサはまだ18歳なんだから、おばちゃんは酷いよ」
「え、なのはママより年下だったんだ。ちょっとびっくり」
「ルネッサは落ち着きがあるから、実年齢よりは上に見られることが多いみたいね」
「スバルさんよりは年上だと思ってました」
「…人それぞれです」
「…ヴィヴィオ陛下、お迎えに上がりました」
「あ、ディードお姉ちゃんだ。エミーちゃんは元気？」
「はい、エミー陛下も、ヴィヴィオ陛下とそのお友達の到着をお待ちになっておりました」
「だから、ヴィヴィオは陛下なんて呼ばなくていいってば。
聖王陛下を目指してるのは、エミーちゃんなんだよ」
「ですが、我々の王となるべく作られたのは、ヴィヴィオ陛下です」
「ヴィヴィオ、まあ、呼びたいように呼ばせてやれよ。
名前なんて失礼に当たらない呼び方ならなんでも同じだって」
「そんなんだから冬美ちゃんはアカリちゃんのこと、ゲッコウなんて呼ぶんだよ」
「私はどう呼んでもらってもかまわないかな。
大切なのは、心だと思うよ」
「そうかも」
「陛下、そろそろトラムの発車時間が参ります」
「あ、そだ、エミーちゃんを長く待たせる訳にもいかないよね。
じゃ、スバルお姉ちゃん、ルネッサお姉ちゃん、ティアナお姉ちゃん、
お仕事がんばってね」
「スバルさん、では、失礼します」
「失礼しますみなさん」
・・・・
「さて、子供達を無事送り届けたところで、早速仕事に取りかかりましょう」
「それよりティア、こっちで泊まる場所は確保してあるの？」
「一応、本局からホテルの手配はしてもらってるわ」
「ねえ、せっかくだからあたしの部屋に泊まりなよ。
本来は相部屋なんだけど、今は、あたし一人しか使ってないからさ」
「けど、そうしたら、ルネッサの泊まる場所が無くなるわよ」
「ランスター執務官。私でしたら一人でも一向にかまいませんが」
「……そうね。ルネッサには、むしろ独自行動を取ってもらうことが
多くなると思うわ。それに、ルネッサが監視器用に使う資材を
部屋に持ち込むなら、二人部屋を一人で使う方が合理的かもね・
わかった、じゃ、あたしはスバルの部屋に泊めてもらって
ルネッサは、一人で泊まるようにお願いするわ」
「はい、わかりました、ランスター執務官」
「…とはいっても、死体が見つからないじゃ、ルネッサの出番もないか。
スバル、ルネッサと一緒にまずは現場検証を行うわ、案内して」
「了解、銀姉が車を用意してるから」
「これが、その現場ね」
「そうね。犯行当時の状況を可能な限り保存してあるわ」
「…防犯カメラの情報からすると、犯人はここに立って被害者を釣り上げていた。
ここの場所にあるのは…この展示品は？」
「古代ベルカ語で書かれた碑文みたい。今のところ解読は出来てないわ」
「クロスミラージュ、碑文の記録を」
「roger」
「古代ベルカ語の碑文ね。古代ベルカじゃ、公式文書が全部詩の形式で
記録されていたらしいから、解釈に困ることが多いのよね」
「私的文書では、散文形式のものも見られます」
「ルネッサは古代ベルカ語が読めるの？」
「固有名詞の発音程度なら」
「…固有名詞の発音が拾えるだけでも助かるわ。ここの中にある
固有名詞が何かわかる？」
「………イクス・ヴェリ・ア…あと、マリア…ルージュ……イクス…
…これぐらいですか」
「イクス・ヴェリ・アと、イクスは同一の存在かしら？」
「そこまでは私にもわかりません」
「了解、詳しい解析は、後で本局に碑文を回して解読してもらいましょう」
「聖王教会の予言解読グループは使えないのですか？」
「どうかしらね。それは本局で判断すると思うわ」
「そうですか」
「ティア、せっかくだから、エミー陛下に頼んでみようよ。
エミー陛下は、古代ベルカ語の勉強もしてるんでしょ」
「そりゃ、確か聖王になるための勉強の一貫で、古代ベルカ語の韻文の
勉強もしてたはずだけど、けど、こういう事件のことで
手を借りていいものかしら」
「…こういう事件の事だから、出来ることは何でもしたいんだ。ティア。
出来ることはなんでも」
「…ごめん、あたしが間違ってた。
マリアルージュに襲われたのは、スバルの同僚達…だよね」
「…ティア、あたし、言い過ぎたかな」
「…むしろ、あたしが気を遣わなさすぎだったわね。
ギンガさん。聖王教会への連絡はお願いします。海の執務官から言うより
陸の捜査官から話をする方が、たぶん、通りはいいでしょうから」
「わかったわ」
「…ルネッサ、監視カメラの映像から何かわかることはない？」
「とくにこれといっては…。ただ、マリアルージュの戦闘力は
陸戦AA＋かAAA-か、その程度はありそうだと言うことぐらいです」
「あたしと互角、ってとこか。かなりやっかいな相手ね」
「そうですね」
「…ここで見ておくべき事は、これだけかしらね」
「他の展示品も一応確認したら？」
「…防犯カメラを見ると、マリアルージュは迷うことなく特定の人物を
襲ってるわ。それも、この碑文の前で」
「ティア、それがどうかしたの？」
「防犯カメラに音声記録から、マリアルージュはイクスヴェリアをさがしている。
そして、この碑文にも、イクスヴェリア、マリアルージュの二つの固有名詞がある。
もしかしたら、これは、マリアルージュからイクスヴェリアへのメッセージかもしれない」
「メッセージって、どんな？」
「そこまではあたしもね。とにかく情報が少なすぎるわ。
手がかりになりそうなものはまったくなし。その上、パニックを避けるために
犯人についての情報公開も控えざるを得ない。一般市民の通報が
当てにならないと辛いわ」
「この顔に、ぴんと来たらって言いたくても、まず相手が仮面つけてるし」
「ルネッサ、被害者について調査をお願い。管理局員ではない被害者と
古代ベルカとの接点があったら、それを重点的に」
「了解しました、ランスター執務官」
「私たちは、今から湾岸警備部に行くわ。各自自分の荷物は持っていくことにしましょう。
こちらの準備が終わったら、クロスミラージュから通信を送らせるわ」
「わかりました、ランスター執務官」
「ティア、堅苦しい話はこれで終わり？」
「一応はね。映像で見る限り確実に殺害されたはずの被害者達が
一体どこへ消えたのか。…マリアルージュに死体を運ぶ仲間がいたとすれば
防犯カメラの別の映像に映ってるかもしれない。…そういった情報の
洗い出しは、人間よりデバイスが得意かも。クロスミラージュ、お願いね」
「roger」
「すいませんが、この百貨店の防犯カメラの全データをクロスミラージュに転送
お願いします。…必要なんです」
「…わかりました、執務官殿」
「さて、これでここで見るべきものは終わりね。
さ、一緒に行きましょ、スバル」
「ティアと相部屋になるのも久しぶりだね」
「そうね。訓練校時代、そして機動六課、４年はずっと相部屋だったんだっけ」
「そうそう。それに、ついこないだも相部屋だったし」
「あれは相部屋というより雑魚寝でしょ」
「あは、そうかも、翠屋に雑魚寝してたよね」
「…あれが、半年前のこと」
「そっか、あれからもう半年経ったんだ」
そう、聖王教徒が分裂しかねない大事件から、まだ半年しか経ってないのに
もう十年以上も昔の事のような気がします。
それは、たぶん、自分の生活が、１０年分も大きく変わってしまったから。
執務官試験に合格して、あこがれの執務官になって、そして、自分で最終責任を負う
その意味を心に刻んで仕事をするようになったんです。
「ティア〜はやくはやく〜」
「こら、スバル、あんたが早く行きすぎ。あたしは湾岸地区は詳しくないんだから
そんなはやくちゃついて行けないってば」
「ティアは荷物も多すぎだよ、半分持つから」
「そう、ありがとう。遠慮せずに甘えさせてもらうわ」
「そうそう、それがいいって、いくよ、マッハキャリバー」
「変身してまで急ぐことでもないでしょ。スバルの宿舎に行くまで
話を聞くわ」
「話っていっても、毎日デバイスでメールのやりとりしてるから
あんまり変わった話もないよ」
「そうね、機動六課卒業してから、毎日メールのやりとりをしてたわね」
そう、スバルとは、毎日メールや、直接の会話をしている。
だから、スバルと二人で居るときには、時間が何か巻き戻された気がする。
ランスター執務官ではなく、執務官にあこがれる一人、ティアナ＝ランスターとしての時間が。
マリアルージュが、あれほど矢継ぎ早に行動してくるとは、未熟な私には
まだ想像もついてませんでした。
ですけれど、その話はまたこんど。