めりかるうぃっしゅ えくす
〜友遠方より来たるあり、また楽しからずや、です〜
私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオだよ。
今私は、定期巡礼船の桟橋に来ています。
聖王降臨の地第９７管理外世界海鳴市の海は、今や聖王教徒にとっての聖地になりました。
巡礼のために、ここを訪れる人も少なくありません。それもあって
結構大型の次元航行客船が、本局とこことを結んでいます。
私が今日ここに来てるのは、巡礼に来る人を出迎えるためではなく、ミッドチルダへ
里帰りをするのが目的です。なのはママは、巡礼者の警備のお仕事があるので
代わりの誰かが配備されるまでミッドチルダには出かけられません。
それで、私と、アカリちゃんと、冬美ちゃんの３人がまずは先行して
ミッドチルダに行くことになりました。
「ヴィヴィオさん、お久しぶりね」
「ヴィヴィオお嬢様お久しぶりです」
「えと…誰だったっけ？」
「私はシャッハ・ヌエラ。こちらがシスターセインです」
「あ、思い出した、壁抜けの名人コンビだったよね」
「無茶苦茶な理解の仕方ですねヴィヴィオお嬢様」
「あながち間違ってもないでしょう。…さあ、シスターセイン。
巡礼の方々の下船が始まりますよ、ちゃんと誘導なさい」
「へーい。けど、なんでこんな桟橋使うんだよ。
ぱぱっと転送で目的地に降りちゃえば、そっちの方がはやいじゃないか」
「管理外世界に聖地が生まれると、何かと気をつかうことがあるのですよ」
「こっちの世界の船から下船してるように見せるために、幻影の船を用意して
わざわざ軌道上からステルスで着水するとか、無茶苦茶手間じゃないですか」
「そうすることで、この世界との調和を保つのです」
「…あの、お話中失礼ですけど」
「ヴィヴォオさん、こちらの方は」
「お友達のアカリちゃんだよ」
「アカリですか、いい名前ですね」
「ゲッコウと書いてアカリと読むんだけどよ」
「神秘的な名前ですね。それで、今日はお見送りですか？」
「３人でミッドチルダに遊びに行くんだよ。
エミーちゃんともあえるし、久しぶりにサンクトヒルデの友達とも会えるかも」
「ヴィヴィオの出身世界って、強い奴がいっぱい居るって聞いたぜ。
てか、スバルさんの住んでる世界には、一度行ってみたかったんだ」
「旅行はあんまり好きじゃないけど…だけど、なんだかわくわくするね」
「ゲッコウが最初に言い出したんだろ、みんなで一緒に行こうって」
「うん、…だって、エミーちゃんに会うの、久しぶりだもの」
「そろそろ出航の時間です、では、聖王の祝福あらんことを」
「エミーちゃんの加護があらんことを、シスターシャッハ、シスターセイン」
「ヴィヴィオ殿下の加護もあらんことを」
「セインさんそれはちょっとふざけすぎだよ」
「そっかな？けど、ヴィヴィオ殿下だって、聖王の血を引いてるんだろ」
「ヴィヴィオは、立派な拳王になるんだよな」
「パティシエさんだよ冬美ちゃん」
「無駄話してる場合ではありませんよ、もう船が出ます」
「あー、これに乗り遅れちゃったら大変、明日の船になっちゃう〜」
そういうわけで、ここは巡礼船のラウンジです。
地球の船のラウンジとあまり変わりません。
変わっているのは、窓の外に見える景色が、次元空間であることぐらいでしょうか。
「十分変わってるぜ。で、これからどうなるんだ？」
「あのね、管理外世界と管理世界を結ぶ定期船だから、この船は
一旦本局に行って、それからクラナガン…ミッドチルダの首都に行くんだよ」
「そこが、スバルさんの世界なんだな」
「うん、スバルお姉ちゃんはクラナガンのレスキュー隊員さんなんだよ」
「どうして一旦本局に寄り道するの？」
「どうしてって…ヴィヴィオもよくわかんない。管理世界と管理外世界との接触は
制限されてるから、違法なものが持ち込まれないよう、一旦本局で検査するのかも。
それに、地球とクラナガンの中間地点に本局があるからってのも理由かな」
「本局がちょうどハブ港の役割をしてるってことだろ」
「ハブ港って？」
「ヴィヴィオって、時々常識を知らないことがあるんだよな」
「あのね、ハブ空港なら聞いたことあるでしょ、ヴィヴィオちゃん」
「あ、それでわかった、いろんな方面に行く次元航行艦が一カ所に集まって
乗り換え出来るようになってるんだ」
「はい、ヴィヴィオ正解」
「わーい」
「…ねえ、ヴィヴィオちゃん、さっきのシスターセインやシスターシャッハっていう人は
ヴィヴィオちゃんとどういう関係なの？」
「なのはママの知り合いだよ」
「そうなんだ、なのはおばさんって、顔が広いんだね」
「なのはママがヒロインの映画も出来るんだよ」
「いや、そのヒロインじゃねーよ」
「え、そういう話じゃなかったの？」
こんな、他愛のない話をしているうちに、船は本局へと到着しました。
本局と地球は、そんなに離れてないんです。
本局でも、ヴィヴィオ達は、本局には入らずに船の中にいました。
ユーノパパがいたら、会いたかったんですけど、パパは調査旅行に
出かけていて留守なんだそうです。
他の司書さん達と挨拶してもよかったんですけど、今回、ヴィヴィオは
冬美ちゃん達の引率です。離れるわけにはいきません。
それに、この巡礼船、本局には３０分程度しか停泊せず、すぐに
ミッドチルダに向けて出港です。あまりいろんな事は出来ません。
おみやげだって、翠屋から桃子おばあちゃんのお菓子と、ヴィヴィオの
手作りケーキがあるので、買う必要はないんです。
けど、本局からミッドチルダに行く船内で、ヴィヴィオ達は
知り合いと、思いがけず出会うことになりました。
「…こんにちは、お久しぶりですね、ヴィヴィオちゃん、それから
月光ちゃん、冬美ちゃん」
「あ、ティアナお姉ちゃんこんにちは」
「ティアナさんは、またどうしてこの船に？」
「ランスター執務官は、地上本部の要請でクラナガンで発生した
事件を単得することになりました。」
「あ、ティアナさん、こちらの方は？」
「ルネッサ・マグナス、私の執務官補佐よ。専門は鑑識」
「ルネッサ・マグナスです、お見知りおきください」
「私はヴィヴィオ。高町ヴィヴィオ、高町なのはの娘だよ」
「川崎冬美、格闘家見習い、小学４年生」
「中島月光です。月光って書いてアカリって読みます」
「ここで出会ったのも何かの縁ね。少し、話でも…」
「ランスター執務官、今そういう時間はないはずですが」
「…だけど、事件の詳細は現場でなければ手に入らないわ。
今は、嵐の前の静けさを、味わいましょう」
「は、執務官がそれでよろしければ」
「あと、…ヴィヴィオ達の前では、ティアナって呼んでくれないかしら。
執務官ってルネッサが呼んでたら、堅苦しくなりすぎるから」
「わかりました、執務官…いえ、ティアナさん」
「…O.K.ルネッサ」
「えと、嵐の前の静けさって、ティアナさん、なにかまた事件があったんですか」
「事件があったっていうか、事件担当の執務官だから、いつでも何かしら
事件は抱えてるのよ。
けど、今回は、クラナガンで起きた事件だから、ちょっと特別」
「クラナガンで？」
「…クラナガンのデパートで、殺人事件が起きて犯人が逃走中なのよ。
それで、本局執務官が事件担当として派遣されることになったの。
元々、マリアルージュについて調べてた私に、白羽の矢が立ったってわけね」
「マリアルージュって、一体なんなんですか？」
「私が説明するより、それはルネッサの方が詳しいと思うわ。
ルネッサ、説明してあげて」
「はい、わかりました。ティアナさん。
マリアルージュが何者であるかは、まだはっきりとわかっていません。
わかっていることは、マリアルージュと名乗る一種の生物兵器が
各地で殺人事件を起こしている、ということだけです。
奇妙なことに、殺人が行われたにもかかわらず、死体が発見されません。
このため、事件の手がかりになる物も少ないのです」
「ありがと、ルネッサ」
「死体が見つからないだったら、殺人なんてしてないんじゃないかな」
「単に誘拐してるだけっていう可能性もあるわね、確かに」
「…なあ、ヴィヴィオ。使い魔って、確か、死体から作るんだよな」
「うん、アルフお姉ちゃんやロッテお姉ちゃん達も使い魔だよ」
「…人間で、使い魔って、作れないのかな？」
「その可能性は考えました。ですが、使い魔だとすると、つじつまが合わないんです」
「どういう事？」
「使い魔を作るには、リンカーコアを分ける必要があります。
さらに、使い魔の維持のために一定の魔力供給が必要です。
A級魔導師で１人、AAA級で２人、５人以上作るには
SS級以上の能力が必要でしょう。ですが、ここまで
マリアルージュが関係したと思われる事件での失踪者数は１０人を超えてます。
使い魔では説明が付きません」
「何が説明できることで、何が説明出来ないことかも、まずは現場を
調べることではっきりすると思うわ。
憶測をたくましくして先入観を作るより、今は頭を白紙の状態にして
あるがままの現場の状態が頭に入るようにしておきましょ、ルネッサ」
「はい、ティアナさんがそれがよいとおっしゃられるのでしたら」
「それで、ヴィヴィオちゃん達は、どこへ行くつもりかしら」
「最初にベルカ自治領に行くつもりだよ。
そこで、エミーちゃんとその友達に会うんだよ」
「それで安心したわ。クラナガンには、事件のめどがたつまで、近寄らない方が安全よ」
「ヴィヴィオなら大丈夫だよ」
「お友達のことも考えなければだめじゃない」
「あたしは、…スバルさんに会いたいんだ。
ティアナさん、早く事件を解決してくれよな」
「ええ、わかったわ。出来るだけ早く解決したいって思いは、みんな同じよ」
「？…クロスミラージュに入電？なにかしら…ええと、あ、スバルからだ。
出迎えに行くからよろしく、って」
「え、スバルさんが来られるんですか？」
「休暇がとれたんでしょ、ちょっとしか話す時間はないと思うけど
冬美ちゃんにとっては、良かったんじゃない」
「は、はい。スバルさんにこんなに早くあえるとは思ってませんでしたから」
「…スバル士長とは、それほどの方なのですか？」
「スバルは、冬美ちゃんのあこがれの人。なにがどうあこがれかは
本人に聞いたらどうかしら」
「そうします。冬美さん、スバル＝ナカジマ士長とは、一体どういう関係なのですか？」
こんな会話を続けながら、船はクラナガンを目指します。
その、クラナガンでエミーちゃんとヴィヴィオ達が出会って起きたこと。
そして、事件捜査のため、クラナガンでスバルお姉ちゃんと出会う
ティアナ執務官さんの遭遇した事件。それはまた別のお話です。