めりかるうぃっしゅ えくす
〜始まりはいつも唐突です〜
ここは、第一管理世界こと、ミッドチルダの首都クラナガン。
地平線の彼方まで市街地が広がるメガロポリス。
そのメガロポリスにある、一つの百貨店。
その最上階では、今古代ベルカの秘宝展が開かれている。
指定ロストロギアも展示されているため、管理局陸士隊が念のため警備に
入っているが、そもそも、クラナガンの繁華街にある百貨店だ。
それなりの警備会社と契約もしている。
万引き、強盗、その程度の相手なら、十分対処出来る。
しかし、通り魔的に現れる凶悪犯を未然に防ぐ事は、さすがに無理だ。
たとえば、こんな風に。
「…イクスはどこだ？」
「し、しらん！」
「おまえはイクスの居所を知っている」
「知らないっていってるだろ！」
仮面をつけた女が、１人の男を片手で胸ぐらをつかんで持ち上げている。
持ち上げられている側は、自分の服で首が絞まりかけている。
明らかに苦しそうだ。
「本当に知らないようだな」
「し、しらん、しらんから…」
「ならばおまえに用事はない」
「用事がないなら…」
「…イクスヴェリアの名の下に生きよ」
声を出す暇もなく、彼女のもう一方の手が刀のように、 男の頭を貫通した。
脳幹を一撃で破壊されては、どんな人間も生きているわけにはいかない。
「…外れだったか」
「時空管理局だ！そこの女、一体何をしている」
「時空管理局？」
「無駄な抵抗は止めて直ちに投降しろ。
抵抗しなければ弁明の機会は与えられる」
「…抵抗すれば、どうなるというのだ？」
「生命の保証すら、出来かねる」
「…敵と認識、直ちに排除する」
「総員全力射撃！」
「た、隊長、全弾直撃のはずなのに…」
「…マリアルージュがこの程度の魔法弾で倒れると思うか」
「う、うわあああああああああ」
時空管理局の警備隊を殲滅した女〜マリアルージュは、そのまま姿を消した。
百貨店の防犯カメラは、ただその光景を録画し続けていた。
「と、以上が今のところ判明している事実です、ナカジマ捜査官」
「ありがとう。…死体は見つかってるの？」
「いえ、それが奇妙なことに、防犯カメラが破壊された後、死体も綺麗さっぱり
姿を消しているんです。燃やした形跡もありませんし、一体どうなったんでしょう？」
「展示品の中で無くなった物は？」
「無くなった物はありません。これは主催者に確認を取りました」
「手がかりになるものといえば、イクスヴェリアという言葉、イクスをさがしている
自称マリアルージュという女に見える存在が犯人だと言うことぐらいね」
「そうですね…」
「…いずれにせよ、一般陸士ではまるきり歯が立たない相手となると、陸の捜査では
限界があるわ。本局から、武装執務官を回してもらうべきね。
つきあいやすい相手だといいんだけど」
「はい、私もそう願いたいです」
説明が遅れたが、ここは、惨劇が起きた、同じ秘宝展の会場である。
この地区の保安担当、クラナガン湾岸警備隊の捜査官であるギンガ＝ナカジマ捜査官が
百貨店の警備担当から事情聴取している最中だ。
ここの警備に派遣されていた陸士も、所属部署こそ違え、同じ湾岸警備隊の同僚である。
少なくとも行方不明、おそらくは死亡しているであろうと考えると、胸が痛む。
「…司令、こちらギンガです。湾岸地区全域に第一級警戒態勢の発動と
本局への執務官の派遣要請を願います」
「おー、ナカジマ姉か。先にかいつまんで状況説明しろや。
第一級警戒態勢に執務官派遣要請っていうのは、尋常じゃねーぜ」
「マリアルージュを名乗る女性体形の何者かが、民間人一名を殺害
湾岸機動隊一個分隊を壊滅させ、死亡した民間人と機動隊を含めて行方不明です」
「…わかった。すぐに本局から執務官を回してもらうことにする。
けど、第一級警戒配備はなしだ」
「どうしてです？危険な殺人犯が野放しになっているんですけれど」
「危険すぎる殺人犯だからさ。
一個分隊が１分持たずに壊滅だぜ。そんな、最低でもAAランクありそうな化け物相手に
俺の部下をむざむざ死なせる気はねーよ。こういう化け物相手にするために
海の連中はいるんだ。…みんながみんな、おめーさんみたいな実力の持ち主じゃない。」
「…わかりました」
「全員に、特別警戒態勢を取らせる。本局執務官が到着ししだい、転送魔法の
使用許可を本部に依頼する」
「了解です、司令」
「…どういうことになるんです？」
「…この百貨店全体を、管理局の捜査官権限で封鎖します。
館内の全員は、管理局による身元確認の後、退出してください。
もしかしたら、まだ、犯人が館内に残ってるかもしれませんから」
「わかりました。ナカジマ捜査官」
それが、後に、マリアルージュ事件と呼ばれることになる事件の発端でした。
私はその時、サンクト・ヒルデ魔法学園の授業を受けている最中でした。
申し遅れました。私の名前は、エミー＝シュミット＝スカリエッティ。
サンクト・ヒルデ魔法学園の４年生です。
「陛下、騎士カリムがお呼びです」
「陛下と呼ぶのは時期尚早です、オットーさん」
「オットーとお呼びください。それから、聖王の座は今までが空位なのですから
第一後継者たるべきエミー様は、すでに聖王陛下ではありませんか」
「その話は後にいたしましょう。騎士カリムを待たせる訳にいきませんね。
直ちに騎士カリムの執務室へ向かいます」
「はっ、陛下、ただ今ご案内いたします」
騎士カリムから私が伺った話が、マリアルージュ事件とつながるとは
神ならぬ身の私には、知るよしもありませんでした。
それは、もっと楽しい出来事を約束してくれるはずのことでした。
ですが、それがどんな話であるかは、次のお話といたしましょう。