ヴィヴィオには、ちょっとだけ秘密があります。
オッドアイを持って生まれた聖王のクローン、っていうことじゃありません。
そんなことは、もう、清祥小学校の友達だって知ってます。
だけど、あんまり特別な事だとは思われてないみたいです。
半分は、ただの冗談だと思われてるからだと思います。

ヴィヴィオの本当の秘密は、エミーちゃんとの文通です。
エミーちゃんは、あれから、昼はベルカ自治領のサンクト・ヒルデ魔法学園で
普通の小学４年生としてお勉強をして、夜は本局でユーノパパと一緒に
無限書庫からデータを取り出す練習や、歴史についての講義を受けてます。
その上に、エミーちゃんは、聖王になるための帝王学を騎士カリムや
シスターシャッハからスパルタ式にたたき込まれてます。
正直、エミーちゃんの立場にヴィヴィオがなると思ったら、うんざりです。
だけど、エミーちゃんには、どうしてもやりたいこと、本当の意味で聖王になって
みんなを、こんなはずじゃない未来ではなく、こうあって欲しい未来へと
導ける存在になりたいっていう、おっきな夢、それがあるから
ヴィヴィオだったらとても耐えられないような、そんな生活を続けているんです。

「独り言は終わりかヴィヴィオ」
「独り言っていうか、第三者への説明だよね、ヴィヴィオちゃん」
「うん、そうだよアカリちゃん」
「たく、いつでもゲッコウはヴィヴィオに甘いな」
「冬美ちゃんが厳しすぎだよ。それより、ヴィヴィオちゃん、エミーちゃんから
　お手紙が来たんだって」
「うん。ビデオレターのお礼だって。
　だけど、ビデオレターじゃなくて、普通の手書きのお手紙が来たんだよ」
「普通の手書きっていうのは珍しいよな。最近は全部ワープロだろ」
「ワープロっていう言い方も古いと思うよ冬美ちゃん」
「うっせー。文字が打てたら全部ワープロだって親父がいってんだよ」
「コンピュータで年賀状を作る時代が来るなんて、士郎おじいちゃんだって
　全然思ってなかったって」
「翠屋は、常連さん１人１人に、ちゃんと手書きのメッセージを添えて
　年賀状を出すんだよな」
「うん。だから、なのはママや恭也おじちゃんも動員して大忙しなんだよ」
「ヴィヴィオは何かしてんのか？」
「ヴィヴィオは、住所録を作るお仕事があるんだよ。
　ユーノパパ直伝の魔法でささっと整理して、間違いがないか士郎おじいちゃんに
　確認してもらうんだ」
「そっか。ヴィヴィオも足手まといじゃないんだな」
「そうだよ、冬美ちゃん」
「それより、そろそろヴィヴィオちゃん、手紙を読んでよ」
「うん、いいよ。お昼休みも終わっちゃうし。…:」

　　ビデオレター、ありがとうございました。
　高町さんは、お菓子作りの腕と学年が上がったこと以外、大きく変わったことが
　無かったようで、何よりです。
　　私は、毎日、サンクト・ヒルデ学園と、無限書庫と、修道場の３カ所以外には
　出かけることのない日常を送っています。　保護観察の解けていない身ですから、
　他の所に行くことは出来ないのですが、もし、私の保護観察が解けて、自由な時間が
　出来たとしても、私は、やはりその三カ所のどこかで、聖王になるための勉強を
　しているだろう。いえそういう勉強を続けたいと思っています。
　　高町さんが、たとえ、自由に出かけることが出来るとしても、やはり、パティシエに
　なるための勉強の出来るところに居たいと思われるように、冬美さんが、たとえ
　自由になる自艦が出来たとしても、やはり、拳法の修行をされたいと願うように
　私もまた、聖王になるために、最大限の努力を続けたいのです。
　　ですが、私はまだ未熟です。時々、みなさんと過ごした時間を思い出します。
　単に聖王という称号を得るだけなら、かんたんなことなのでしょうが、聖王という
　称号にふさわしい何かになるためには、そのようなことで満足してはいけないのでしょう。

　　高町さんには、私の近況ばかりではなく、ナンバーズのみなさんの身の振り方についても
　多少は興味がおありだろうと思います。ですが、私も、ナカジマ家に引き取られた
　　チンクさん、ディエチさん、ノーヴェさん、ウェンディさんの事については、詳しく知りません。
　ノーヴェさんは、相変わらずカルシウムが足りないことや、ウェンディさんが末娘になったことぐらいです。

　冬美さんには、スバルさんが、機会があったなら、冬美さんに、”私と同じように元気でね”と
　伝えて欲しい、と、はなしていた事を、お伝えください。
　　パパやママは、裁判の最中ですが、独房の中で暮らしています。私は会いに行きたいのですが
　保護観察中の身なので、裁判でお互いの証人として召喚されたとき以外、顔を合わせる機会すら
　ありません。パパもママも、裁判自体には協力的です。クロノ提督は、犯罪内容が内容だけに
　減刑は甘利期待できないとおっしゃっておりましたが、少なくとも、極刑は回避されそうです。
　　オットー、ディードの２人とは、今、良く顔を合わせています。
　オットーは、騎士カリムの秘書官の一員になりました。ディードは教会騎士団入りです。
　保護観察期間も終わり、どちらも、正式に任命になっています。オットーは無限書庫の
　司書の資格も持っています。私とその点は同じですね。ヴィヴィオさんも、おもちですし
　ヴィヴィオさんを貶める気持ちはないのですが、それほど難しい試験ではないように感じました。
　探索魔法が苦手な方には、かなり難関なのは間違いありませんけれども、私たちには
　その程度のことは、難関と呼ぶに値しないでしょう。

　　シスターセインは、騎士カリムとよく巡礼に出かけています。
　シスターセインが本気で逃げだそうとしたなら、捕まえられるのは、透過型短距離瞬間転移の
　レアスキル持ちである、シスターシャッハだけですし、そのシスターシャッハは、巡礼の
　引率係りを仰せつかる事が多いので、シスターセインもそれについていかされる事が自然と増えるのです。

　　ルーテシア様は、母のクイント様と一緒に、人里離れた場所で暮らしておられます。
　ほとぼりが冷めるまではそちらにいて、十分ほとぼりが冷めたら、ミッドチルダに
　お戻りになられるのではないでしょうか。クイント様は、管理局にとって、貴重な
　戦力なのですし、ルーテシア様も、いつまでも、人里離れたところへ、隔離しておかねば
　ならないほどの悪事をされたはずはありません。

　　最後になりましたが、一緒に送られたゼリーは、皆でおいしく頂きました。
　宝石のように輝くゼリーの向こうに、それを作った、高町さんの顔が浮かびます。
　そのゼリーを見て、私にも、少しだけ、高町さんの語りたかったこと、伝えたかった気持ち
　それがわかったような気がします。
　　言葉では伝わらない心というものも、あるのですね。
　そして、お菓子でしか伝わらない気持ちというものも。

「エミーちゃん、スカリエッティの姓を名乗ることにしたんだ」
「うん、エミーちゃん、パパの子だっていうのをはっきりとさせたいんだって」
「だけど、血のつながった親子じゃないんだろ」
「ヴィヴィオもなのはママと血がつながってないよ」
「だけど、ヴィヴィオの場合は、自分で選んだママだし、なのはおばちゃんだって
　ヴィヴィオを受け入れてくれたんだし、何より、なのはおばちゃんは犯罪者じゃないんだろ。
　どうして、自分を突き放した奴を、父って呼ぶんだ？」
「わかんない。だけど、フェイトママが、今でも、テスタロッサっていう姓を
　大事にしているのと、同じ理由なんじゃないかなって、思う」
「どんなことがあっても、親子の血って、切れないっていうことかな、ヴィヴィオちゃん」
「わからないよ、ヴィヴィオにはそんな難しいこと。
　だけど、親子の血って言い出したら、ヴィヴィオもスカリエッティの姓をいれなきゃいけなくなっちゃう」
「あー、そういえばそうだったな。あの変態、ヴィヴィオのことを最高傑作だなんていってたっけ」
「最高傑作の割に、扱い無茶苦茶だったね」
「フェイトママも最高傑作って言われてたけど、プレシアママにはむち打たれたりしてたって。
　愛情の裏返しなんだよ、きっと」
「ヴィヴィオぐらい楽天的になれたら、あたしも幸せかもな」
「ヴィヴィオちゃんと一緒にいたら、それだけで明るくなれるよ」
「そっかな」
「ばかっぽいってだけだ、胸張るな」
「えー、そんなぁ。」
「…誰かに笑顔を届けられるなら、道化師になればいいよって、おじいちゃんが言ってた」
「アカリちゃんのおじいちゃんって…」

めりかるうぃっしゅ

～エミーちゃんからのお手紙なの～