私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオだよ。
今、ヴィヴィオは、生まれて初めて、どうしても負けることの出来ない
本気の勝負を、出来る限りではない、本当の、全力で、やることになりました。
目の前にいるのは、ヴィヴィオのお友達で、クラスメートで、ヴィヴィオと同様に
聖王の資質を持っていて、スカリエッティの切り札、アルハザードへのナビゲーター
エミーちゃんです。

 

「高町さん。勇気と無謀は違うわ。あなたは、ジュエルシードの持つ力を知ってるのかしら？」
「知ってるよ。ユーノパパからも、なのはママからも、フェイトママからも
　ジュエルシードについては聞いてるもん」
「そう。なら、ジュエルシードは、正しいやり方で解放することで、願いを
　かなえる力を持っていると言うことも、知ってるわね」
「知ってる。間違ったやり方で解放してしまうと、暴走を引き起こすことも
　物理的な打撃で、次元震を引き起こしてしまうことも。
　エミーちゃん、そんな危ない物、使わない方がいいよ」
「マッチや自動車だって、使い方を知らない人にとっては危険よ。
　だけど、使い方をわきまえていれば、便利な道具。
　聖王にとって、ジュエルシードは、魔力を高めるための道具に過ぎないわ」
「…エミーちゃんには、制御できるの？」
「もちろん。セッテをリカバリーしたのも、ナンバーズをパワーアップさせたのも
　ジュエルシードの力の解放によるもの。
　そして、余った魔力は、アルハザードへの扉を開くための、エネルギーとして
　使うことになるわ」
「エミーちゃん。どうしてそんなにアルハザードにこだわるの？
　アルハザードなんて、あるかどうかもわからないものじゃない。
　たとえアルハザードがあって、そこへ行けたとしても、帰ってこれるかどうか
　わからないじゃない。そんなもののために、危険を冒すなんて、間違ってるよ」
「高町さん、やっぱり、あなたは不完全体なのね」
「…エミーちゃん、その、不完全体って、どういう意味なの。
　ヴィヴィオ、全然わからないよ」
「それは、あなたが、聖王の力を持って生まれてきたのに、すこしも
　聖王の力を本当に活かして使おうとはしないからよ。
　聖王の力は、人々を導く力。こんなはずじゃない未来ではなく
　こうなるはずの未来をもたらす。それこそ、聖王の為すべき事。
　そのために、私は、永遠の地、アルハザードへの扉を開く」
「えと…ヴィヴィオだって聖王の力を活かしてるもん。
　えとえと、無限書庫で検索魔法使ったり、お菓子作りを覚えるのに使ったり
　学校で教わった事を忘れてないためにも使ったりしてるし…」
『我が主、言いたくありませんが、たいしたことに使ってないのは事実では…』
「えー。使える能力は全部使わなきゃ落ちこぼれちゃうよ〜」
「はぁ……どうして、パパはこんな子を、最高の作品なんて呼ぶのかしらね。
　やっぱり、あなたは不完全体ね。どうして、自分の能力を最大限に生かそうとしないのかしら。
　どうして、聖王の力を持って生まれてきながら、お菓子作りなんかに
　自分の人生を使おうと思うのかしら。
　聖王なら、もっと大切なことがあるはずなのに」
「エミーちゃん、それは違うよ。今はまだヴィヴィオが未熟で、本当のお菓子が作れないから
　エミーちゃんには、ヴィヴィオがやってることが、つまらないことに見えるだけだよ。
　本当のパティシエさんは、本当のお菓子が作れるんだよ。
　本当のお菓子には、人を幸せにする魔法が詰まってるんだよ。
　涙を笑顔に変える魔法。悲しみの中から元気を取り出す魔法。幸せな気持ちを分けてあげる魔法。
　キューピットの矢の魔法だよ。過去を取り戻すんじゃなくて、未来を作り出す魔法だよ。
　ヴィヴィオは、そんな魔法が使えるパティシエさんになりたいんだよ。
　いつか、エミーちゃんにも、ヴィヴィオが、本当の魔法、見せてあげるからね」
「………やっぱり、あなたのこと、嫌いにはなれないわ、不完全体。
　こんな出会い方をしなければ、違った未来があったのかもしれないわね。
　あなたがお菓子の魔法を信じるように、私も、アルハザードの魔法を信じているの。
　こんなはずじゃない未来を変えることのできる、アルハザードの魔法を手に入れようとしてるの。
　私は、本当の聖王になりたいのよ。…あなたが、パティシエになりたいように」
「エミーちゃん……未来は、いつでも、こうなるはずなんだよ。
　こんなはずじゃない未来なんてないよ。未来がこんなはずじゃないなんていうのは
　ママのオムライスに、ピーマンが入ってるって文句を言うような物だよ。
　本当は、ピーマンも、にんじんも、タマネギも、みんな入ってるから、ママのオムライスなんだよ。
　そこからピーマンを抜いちゃったら、それはママのオムライスじゃないんだよ」
「…どこまで行っても平行線ね、高町さん」
「…そっかな？…ヴィヴィオは、エミーちゃんのこと、今までより
　もっともっとよくわかるようになったと思うよ」
「そうかしらね？…まだ高町さんが知らないことはあるわ。
　私は、あなたのこと嫌いじゃないけど、…嫌いじゃないからといって
　戦えないわけじゃないのよ…ジュエルシードXIIIからXVI解放…」

 

エミーちゃんがジュエルシードを一気に４個も解放します。
エミーちゃんの魔力が増大していくのがわかります。
今までだって、なのはママに匹敵する魔力だったのに
今やはやてお姉ちゃんの魔力値すら軽く凌駕してます。
これで、まだジュエルシードは５個残ってます。
一体、全力全開のエミーちゃんは、どれほどの魔力を発揮するんでしょうか。

 

「けど、ヴィヴィオだって負けられないんだよ。
　ヴィヴィオは、エミーちゃんを連れて帰るって、冬美ちゃんや月光ちゃんに約束したから。
　だから、…ヴィヴィオも、エミーちゃんと同じように、聖王の資格があるって
　証明するっ！」
『しかし我が主、あの圧倒的な魔力差は、技術でカバーできる範囲を超えてます』
「わかってる。はやてお姉ちゃんがかすむほどの魔力に張り合えるとしたら一つしかない！」
『それは一体？』
「レイジングハート、スターライトブレイカー準備」
『Yes,my lord』
「ライチェントゥークス。魔法式を送るから、結界破砕後直ちに
　その魔法式を使ってヴィヴィオに魔力供給を。
　レイジングハート、ブラスタービット展開、エミーちゃんをバインドして
　すこしでも時間を稼ぐ」
「無駄よ。私にバインドなんて通用しないわ」
「バインド自体が聖王の鎧で砕けた？ずるいよエミーちゃん」
「これくらい、聖王なら当然出来るはずでしょう？こんな風に」
「ヴィヴィオは正直に受けたりしないもん」

 

エミーちゃんのバインドは、ヴィヴィオの幻影の方をとらえます。
ヴィヴィオは、フェイトママのブリッツアクションを発動して
素早く回避します。エミーちゃんは、魔力は高いですけど、戦いにはなれてないみたいです。
おかげでヴィヴィオは、シグナムお姉ちゃんとヴィータお姉ちゃんの二人を相手に
戦ってるときよりは楽に回避出来てます。

 

「ふふ、でも、もう覚えたわ。セッテの魔法弾攻撃の応用なんかもね」
「えーっ、まだ早いよエミーちゃん…」

 

もう回避しきれません。聖王の鎧を目一杯に発動してエミーちゃんの魔法弾に耐えます。
Ｓ級魔法の直撃ぐらいは楽々弾く聖王の鎧が震えます。
じっと守っているだけではじり貧です。けど…戦いは、まだ始まってさえいません。

 

「川崎流奥義、一分の見切り！」

 

魔法弾も拳も基本は同じです。
スバルお姉ちゃんの教えと、冬美ちゃんの川崎流拳法を組み合わせて応用して
エミーちゃんの誘導魔法弾をかわします。
スバルお姉ちゃんの教え、それは誘導弾には高速で突っ込んでいけっていうこと。
相対速度を上げれば、誘導弾も無誘導弾も全く同じ、まっすぐ自分に向かって飛んでくる
高速弾でしかなくなります。まっすぐ飛んでくる物なら、かわすのはそんなに難しくない。
それがスバルお姉ちゃん、というか、シューティングアーツの流儀です。
ヴィヴィオは、シューティングアーツではなく、川崎流の方でかわしていきます。
一分の見切り、相手の動きを把握し、ぎりぎりまで引きつけ、風を感じられるほどの
至近距離でかわします。そして、エミーちゃんの懐に飛び込んで…

 

「なのぱーんち」
「聖王の鎧に素手で来て、貫けるつもりかしら？」
「無理でも通すのっ！」

 

聖王の鎧にヴィヴィオの拳は弾かれます。
ですが、これで、エミーちゃんに接近することが出来ることはわかりました。
それに、ヴィヴィオが本当にやりたかったことをやるまでの、時間も稼げました。

 

「レイジングハート、…スターライトブレイカー、発射っ！」

 

スターライトブレイカーで、はやてお姉ちゃんが張っている結界を破ります。

 

「ライチェントゥークス、アースラのメインコンピュータと接続。
　制御を乗っ取って」
『ファイアーウォールが抜けるはずが…』
「そこはヴィヴィオが破る…轟天爆砕！ディバイン＝バスターっ！」

 

ヴィヴィオのマジックイメージを、アースラのメインシステムのファイアウォールにぶつけます。
ファイアウォールといえども、魔法が直撃すればひとたまりもありません。
ファイアウォールを崩壊させたなら、直ちにライチェントゥークスが
アースラのメインシステムの支配権を握ります。

 

『我が主、あの魔力量では、アースラから動力供給を受けても対抗しきれませんが 』
「わかってる。魔力炉のオーバードライブ開始、リミットタイム３６００。
　総員退艦！」
『了解しました。オーバードライブ開始、リミットタイム３６００。
　アースラ乗員へ、アースラは我が主ヴィヴィオの制御下にあります。
　現在アースラの魔力炉は暴走的オーバードライブ中。魔力炉が制御不能となり
　自爆するまであと一時間です。直ちに全員退艦してください。
　繰り返します、直ちに全員が退艦してください。
　再制御の努力は不可能です。直ちに退艦してください』

 

ヴィヴィオの体に、魔力が充ちるのが感じられます。
３年前、なのはママと対決したときより、はるかに大きな魔力です。
これだけあれば、エミーちゃんの魔力とも、正面から対決できます。

 

「エミーちゃん…ヴィヴィオだって、魔力でエミーちゃんと張り合うこと、出来るんだよ」
「次元航行艦の魔力炉から魔力供給を受けるところまでは、パパの想定通りだったわ。
　だけど、いきなりオーバードライブを開始…それも、独自の魔法式、あなた
　一体どこからそんな方法を覚えたの」
「わかんない。魔力炉から魔法を取り出す方法なんて、ヴィヴィオ、全然
　勉強したこと無いけど、エミーちゃんに対抗できるだけの魔力を求めたら
　自然に魔法式が頭の中に湧いたんだよ」

 

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「さすがは私のヴィヴィオ。すばらしい、すばらしすぎる。
　追い詰められた状態で、ついにヴィヴィオの中に仕込んでおいた
　彼女が目覚めたようだね」
「彼女？スカリエッティ、ヴィヴィオについて何をしってるの」
「ああ、高町なのは、君には心から感謝しているよ。
　私の最高傑作に磨きを掛けてくれたのだからね」
「レリックを埋め込んで、ゆりかごを起動しただけ。
　それでどうしてあなたの作品なんて言えるの？」
「それはもちろん、ヴィヴィオを作ったのが私自身だからだよ。
　ヴィヴィオに、ベースになる記憶を埋め込んだのも私だ。
　しかし、さすがは、天才魔道炉技術者、プレシア＝テスタロッサだ。
　アースラの魔道炉の構造から、即座にオーバードライブシステムを構築するとは。
　はーはっは、ゆりかごでの経験が生かされてるようだねぇ」
「プレシアの記憶をベースにした？」
「おや、気づかなかったのかね。フェイトがいて知らなかったのもおかしな話だ」
「フェイトちゃんがいて？どういうこと？」
「ピーマンが嫌いだったろう？」
「ピーマン嫌いとプレシアと何の関係が？」
「欠点らしい欠点のない、天才プレシアの、ただ一つの弱点とも言えるのが
　ピーマン嫌いだったんだよ。いやぁ。懐かしいねぇ。よく助手連中が
　やったものさ、料理にちょっとだけピーマンを入れて、プレシアが
　びっくりした声を出すのを。…普段落ちついてるだけに、あの落差は
　見た物でなければわからんだろうね」
「…つまり、スカリエッティ、あなたはプレシアと面識があるのね」
「ああ、あるとも。…プロジェクトＦで、プレシアの助手だったのはドゥーエだよ。
　もちろん、ドゥーエに、技術指導をしていたのは、私だ」
「……それで、フェイトちゃんを、お嬢様って呼んでるんだね。
　フェイトちゃんを作ったのは、間接的には、Ｄｒ．スカリエッティだって理由で」
「あれほどの技術が、私以外の誰かに備わっているなどと思われたら、そちらのほうが心外だね。
　フェイトも、エリオも、ヴィヴィオも、ウーノ達も、みんなみんな、私の子供達だよ。
　エミーは少し違う。あれは本当に、普通に聖王のクローンとして生み出された子だよ。
　ふふふ〜あはははは、傑作じゃないか、アルハザードを求めたプレシアの目の前で
　彼女を置いて、我々が、アルハザードに旅立つというのは。
　さあ、エミー、もっとだ。もっとヴィヴィオの力を引き出しておくれ。
　そして、私たちはアルハザードへと行こう。彼らには、私の最高傑作を残して行こう。
　私たちの夢は、終わらないんだよ」

 

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衝撃の事実です。ヴィヴィオのピーマン嫌いは、なんとプレシアおばあちゃん譲りでした。

 

『もっと別なことに衝撃を受けてください我が主』
「別なことって？ヴィヴィオが人造人間なのは前から知ってたし
　誰かの記憶が移植されてるってことだって、ヴィヴィオ、エリオお兄ちゃんから
　聞いて知ってたよ。今更驚くことって他になにもないよ」
『…そうですか。…わかりました。まずは、目の前の戦いですね』
「うん。ヴィヴィオのルーツがなんだろうと、ヴィヴィオは、ヴィヴィオだよ。
　エミーちゃんが、聖王のクローンっでも、エミーちゃんなのと同じように」

 

戦いは、まだ、始まったばかりです。
ヴィヴィオは、確かに、アースラから魔力供給を受けることが出来るようになりました。
けど、エミーちゃんは、ジュエルシードを５個も残してますし、ジュエルシードの
持っている力自体、まだすべてを引き出してないかもしれません。

 

でも、ヴィヴィオにとって、そういうことは大したことじゃありません。
エミーちゃんの身柄を確保して、なのはママを助け出す。それが
ヴィヴィオの、やりたいことで、やらなきゃならないことなんです。

 

 

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