「リオさんの道場は、かなり大きな所だとお聞きしていますが」
「んー、おじいちゃんが有名人だから、それにあわせて、ね」
「なあ、リオのおじいちゃんって、どんな人なんだ？」
「どんな人って、修行じゃ厳しくて、普段は優しい人だよ」
「えとえとえと、冬美ちゃんが聞いてるのはそういうことじゃなくて
プロフィールとか、そういうことだと思うよ」
「レイ・タンドラ老師。若い頃から春光拳での戦いはのみならず、
異種格闘戦でも負け無しとうたわれた、伝説の拳仙。
魔法ありだろうがなしだろうが、学ぶことは多いだろう」
「うん、まあ、そんな感じ」
「ミカヤさん、そうなんですか？」
「なんだ、アインハルトは知らなかったのか？
異世界在住の冬美達はともかく、管理世界で格闘をやっている
おまえが知らないとは意外だな」
「ベルカ式以外は詳しくないもので……」
「世界は広いぞ。いろんなものを見ておくのも悪くない」
「ええ、しっかりと学んで帰りたいと思ってます」
「私も楽しみにしている。様々な武道書があると聞いているからな」
管理世界ルーフェン。風光明媚で自然の多い世界だ。
まだ行ったことはないが、下調べはしている。
「そういえば、ミカヤさん、刀はどうされたんですか？」
「ああ、コロナ、刀は手荷物で持ち込みは禁止になっているから
別梱包で道場まで輸送を頼んである」
「うちは刀術も教えてるから、刀もあるんだけど、ミカヤさんは自分の刀がいいって」
「自分の相棒だからな」
「そうなんですか」
そんな会話をしながら次元航行船は進む。
次元港から、鉄道を使って道場の最寄り駅へ。
そこから歩いて道場へと向かう。
「かなり歩くんですね」
「さすがに駅前に道場は作れないよ。
やっぱある程度の広さがないといけないし」
「うちは町中の道場だけどな。
ある程度の広さがないとって、どんだけ広いんだよ」
「100人以上の門下生が寝泊まりできるぐらいの大きさはあるよ」
「……うちも道場だけど、広さが全然違うな」
「おじいちゃんを慕ってくる人が多いから、それなりの広さがいるんだよ」
「リオちゃんのおじいさんって、とてつもなくすごい人なんじゃない？」
「拳法じゃとてつもなくすごい人だよ。年齢は重ねたけど、今でも第一線で
門下生を鍛えてるからね」
殺気でもあれば、誰か気づいたのだろう。
「ミウラちゃん！」
いきなり、草むらから虎とおぼしき動物が飛びかかってきた。
「わっ」
「大丈夫だよミウラちゃん、この子はシャオ。うちで飼ってる子だよ」
「飼ってるって、体長2メートル以上あるよ」
「可愛い子ですね」
「アインハルトさんは驚かないのかよ」
「ティオも、それくらいの大きさはありましたから」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「こら、ティオ、お客さんを驚かせたらだめだろ」
「あ、リンナさん、こんにちは」
現れたのは、地球風にいうと、チャイナドレスに身を包んだ
長身の女性だった。
「紹介するね、こちらは、うちの道場の師範代、リンナ・タンドラさん。
私のいとこなんだ」
「こんにちは」
「みんな荷物は多くて大変でしょ、この子達、力持ちだから
荷物を運ばせようと思って」
「いいんですか？」
「大丈夫だよ」
「リオちゃんがそういうなら……」
私も、言葉に甘えて、巨大な虎に荷物を預けて進むことにする。
とはいえ、そこから道場まではそう遠くもなかった。
「じゃーん、これが私のおじいちゃんの家、春光拳道場だよ」
「うわあ、道場っていうか、もはや館だよ」
「エミーちゃんが住んでた洋館も広かったけど、それ以上だね」
「私が住んでた家は、借り物だから、たいしたことありませんわ」
「いや、そういう問題じゃねえだろ」
「みんなが宿泊する建物は、もうちょっと先だからね」
そう言うと、リオが先頭を歩いて道場内を進んでいく。
みんな、見るものすべてが珍しいようできょろきょろしながら歩いて行く。
かくいう私も同様だ。
「あ、おじいちゃん」
道場の奥にたたずむ、白髪の、物腰の柔らかそうな老人に
リオが声をかけた。
「おお、リオとその客人じゃな、いらっしゃい。
リンナ、出迎えご苦労じゃったな」
「いえ、出かけたのが遅かったみたいで、駅まで迎えに行くことは出来ませんでした」
「いや、あの巨大動物を町中に持ち込んだらそれはそれで大変だと思うから」
「ほっほ、町の人はシャオにはなれておるよ。
そこまで気にせんでもええ」
「はあ……」
「ノーヴェ師範代、リオがお世話になっておるの」
「総師範、とんでもないことです」
「そちらは、ミカヤ師範代じゃな、リオから話を聞いておるよ」
「光栄です、総師範」
「そうかしこまってもらうとこちらが困る。
道場生も、わしには遠慮がないからの。
練習の時でもあるまいし、普段から総師範と呼ぶのも堅苦しかろう。
気軽にじーちゃんとでも呼んでくれればええがの」
「そんなとんでもない」
「リオやリンナはそう呼んでおるぞ」
「別に血縁関係があるとか、そういうのではありませんから」
「ほっほっほ」
レイ総師範は、気さくな人柄でした。
「それで、総師範」
「じーちゃんでよいと言っおるのに」
「呼びやすいように呼ばせてください」
「そうかの。じゃが、折り目をつけるときでもあるまいの。
しかし、無理強いは良くあるまい。
その方が呼びやすいなら、それでかまわんよ」
「こちらには、武術書や剣術書も豊富にあると伺っておりますが」
「豊富かどうかはしらんが、わしがこの道場を継いだ時から、さらに蔵書は増やしておるよ。
見せられぬ本は、わしの個人部屋にしかないから、書庫の本は自由に見てもらってかまわんよ」
「ありがとうございます、総師範」
道場での手合わせも楽しみだが、武術書も楽しみの一つだ。
それがかなうというだけでも、ここに来たかいがあるというものだ。
「あの、お客様、荷物が届いておりますが」
「おお、タオか、伝言すまんな」
「私の刀ですね、受け取りに行ってまいります」
「そうか、まずは、刀か」
「ええ、私の分身みたいなものですから」
「大事にしておるのじゃな」
「はい、では、失礼します、総師範」
「おお、気をつけてな」
気をつけて？
私は、それを聞き流したが、レイ総師範の言葉は、そのすべてを聞き流しては
いけないことに、まだ気づいてはいなかった。
「タオちゃんも春光拳の使い手なのかな」
「いえ、私は全然、家事用人ですから」
「そうなのか」
「イェンさん、シェエさん、それはお客様の大切な……」
「いーじゃん別に減るもので無し」
「減ることはなくても、汚れが増えてるじゃないですか。
あー、食べ散らかしながら触っちゃ失礼じゃないですか」
なるほど、ここにはいろんな門下生がいるらしい。
行儀の悪いのも。
「それは私の刀なんだ、返してくれるかな」
「イェンさん、謝って返してください」
「いやだって言ったら」
「なるほどな。どうやら、お仕置きが必要なようだ」
私の刀を持って構えて一戦やるつもりらしい。
こんな形で初手合わせになるとは。