サンクト・ヒルデの学園祭は終わりました。
フィナーレはお約束のキャンプファイヤー。
朝から夜まで、出し物をする方達は大変だと思います。
そして、お祭りの後は日常がやってきます。
ボクの日常は、学校と道場と家の間を移動すること。
インターミッドの試合は終わったわけではありません。
ヴィヴィオさん達の分も、がんばれって言われました。
その期待にこたえられるようがんばらないといけません。
練習は、いつも通りです。インターミッドだからといって、特別に何かはやりません。
相手の選手の戦い方を頭に入れることはしますが、ボクは不器用なインファイターです。
戦い方を相手に合わせて変えるような、エミーさんみたいな器用なまねは出来ません。
自分のスタイルが、どこまで通用するかやってみるだけです。
そんなわけで、試合の当日がやってきます。
「ミウラちゃん、リラックスしてる？」
「あ、ヴィヴィオさん、こんにちは」
「エミーちゃんは試合があるからこれなくてごめんって言ってたよ」
「いえ、気にせず、自分の試合に集中してくださいと伝えてください」
「うん」
「相手が何様でも、おまえはあのヴィヴィオに勝ったんだ。
あのときのような戦い方が出来れば、相手が誰でも負けるわけがない。
頑張れよ」
「あれは自分でもできすぎだと思いますよ。あんなの二度三度は無理ですって」
「一度あることは二度あるっていうし、自分を信じていいと思うよ」
「月光さん、ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「コロナちゃんとリオちゃんは、エミーちゃんの応援に行ってるから
これなくてごめんって言ってた」
「いえ、気持ちだけで十分です」
「ミウラ、そろそろ試合の時間だ」
「はい」
ザフィーラさんがボクを呼びに来ました。
いよいよ試合です。
試合相手のデータも頭に入ってます。素晴らしい火力と手数を持ったシューター。
エリー・スタウト選手。
ボクとは正反対の相手ですね。
でも、自分の戦い方と、戦う方法を覚えてれば勝てない相手じゃないってザフィーラさんは言ってました。
都市本戦にも出たことのある、実力は折り紙付きの方なんですが、大丈夫でしょうか。
「がんばれ、ミウラちゃん」
「ミウラ、負けるんじゃないぞ、おまえはやれば出来る子なんだから」
「ミウラちゃん、ファイト」
エリー選手の方が声援は大きくなってます。
仕方ないです、でも、知らない人からもボクへの声援が送られてるのも分かります。
その声援にも、ボクはこたえたいと思います。
第1ラウンドが始まりました。
ボクの戦い方、それはあくまで接近して叩くこと。
接近できなければ話になりません。
でも、エリー選手の方もそれは頭に入ってるようです。
手数も多いし、動きも速い、全然踏み込むタイミングがありません。
魔法弾の威力自体は、ガードしてれば耐えられないことはない程度なので
これなら4ラウンド持ちこたえることも出来そうですが、それでは勝てないのです。
試合は、第3ラウンドまで、一方的なものになりました。
こちらは魔法弾をガードするだけ。
インファイトを挑もうにも相手は間合いを空けたままで捕まりません。
「ねえ、冬美ちゃん、ミウラちゃん、大丈夫かな」
「LPもかなり減ってるし、あの戦い方を続けられたら、そのままポイント差で終わっちゃうよ」
「あの戦い方を続けられるほど、エリー選手が無欲なら、ミウラは厳しいかもな。
でも、この勝負、ミウラの勝ちだ」
「冬美ちゃん、なんで断言できるの」
「試合展開が一方的すぎるから」
「なにそれ？ ヴィヴィオにはわかんない」
「ヴィヴィオみたく、逃げながらの収束魔法みたいな、隙のない一撃必殺の技が
エリー選手にはない、それがエリー選手が世界に出ることの出来ない理由だってこと」
「冬美ちゃん、だけど、一撃必殺しなくたって、一方的に撃ちまくれる分エリー選手の方が有利じゃない？」
「ゲッコウにはそう見えるか？」
「そう見えるけど、ヴィヴィオちゃんの時も、展開は一方的だったよね」
「安心しろ、エリー選手はヴィヴィオほど強くないって」
「ヴィヴィオもそんなに強くないよ」
「第4ラウンドが始まるぞ、ま、見てろって」
ギャラリーの声は、聞こえません。
ただ、自分が追い込まれてるように見えることは自覚してます。
とはいえ、エリー選手の魔法弾の重さがだんだん減ってるのは分かります。
明らかにヴィヴィオさんほどの重さのある魔法弾は撃てないんです。
ザフィーラさんの言葉、そして、今までの練習の積み重ねの真価が問われます。
第4ラウンドも、防戦一方です。
だけど、3ラウンドひたすら受け続けたことで、おおむね、エリー選手の魔法弾を「覚える」ことが出来ました。
その軌道の癖とか、重さとか。
ガードするだけなら、だいぶ楽に出来るようになります。
しかし、ガードするだけでは勝てません。インファイトに持ち込む必要があるんです。
つまり、自分の間合いで戦う必要が。
「第4ラウンドも2分経過だよ、大丈夫かな？」
「ミウラは30秒あれば相手をノックアウトできるって」
「とは言っても、さすがは本戦出場経験のある選手だよ、隙がない」
「隙はないかもな、そう思ってくれれば、ミウラが勝てるんだけど」
「どういう意味？ 冬美ちゃん」
「見てれば分かる」
ギャラリーの声はやっぱり聞こえません。
でも、重さと、軌道は、覚えました。
自分の残りLPから考えて……ザフィーラさんが、残り一分の声をかけてくれれば……
「ミウラ、残り一分だぞ」
ボクの収束魔法、抜剣は長時間使えません。
見せれば覚えられる危険があります。
ヴィヴィオさんの時には、抜剣を試してから戻すということをしましたが
抜剣は必殺の技でなければならないんです。
一瞬、ザフィーラさんの声を聞いてエリー選手の動きが止まります。
普通の人には、分からなかったでしょう。たぶん、エリー選手にも。
だけど、ずっと相手の魔法弾を見続けてきた、ボクには分かります。
「点火っ！」
スターセイバーはボクの意図を完全に読み取って、抜剣を発動してくれます。
魔法弾に切れ目はありません。だけど、残りLPと、エリー選手の魔法弾の重さから考えて
一発食らってもLP切れになる心配はありません。
そして、相手はこちらが食らい打ちしてくることは想定外のはずっ！
LPはぎりぎりまで減りました、でも、それはボクの計算通り。
魔法弾をまともに直撃させて、反撃に出るのは、エリー選手の計算外。
慌てて魔法弾を集約して迎撃しようとしますが、動きは全部分かってます。
そして、ボクの手の内は一度も見せてないことも。
一気に間合いに飛び込みます。
ヴィヴィオさんなら、きれいなカウンターを打てるような直線的な突っ込みですが
そんなものがないことは、事前の情報で分かってます。
ボクの一撃の重みも、見せてません。
……もし、ボクの飛び込みを誘い込めるほどの実力があれば、結果は違ったかも。
だけど、エリー選手はボクの飛び込みを封じることに専念してて
飛び込まれたらどうする、とは考えてなかったようです。
きれいにストマックブローが決まります。
あとは連打するだけ。
相手がよろめいたところで空牙を放ちます。
これで、K.O.です。
「な」
「冬美ちゃん、この結果が分かってたの？」
「分かってたっていうか、ヴィヴィオに勝てるなら、あの程度の相手倒せないことないって」
「だからヴィヴィオはそんなに強くないってばあ」
ギャラリーの声は聞こえません。
ボクの方も気抜けして、リングにへたり込みます。
だけど、こんどは勝てました。ヴィヴィオさんと戦ったときのように、計算外の勝利ではなく
ザフィーラさんと練習した通りの戦い方で。