私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
清祥小学校4年生。
今日は友達の冬美ちゃん、月光ちゃんと一緒にサンクト・ヒルデの学園祭に来ています。
「お、なんかあそこ異様に盛り上がってるな、行ってみようぜ」
「あれは、アインハルトさん達のクラスですね、スポーツバーをやってるって書いてあります」
「アインハルトさんにも挨拶して行こうよ」
「って、廊下は走るなよヴィヴィオ」
「走らないとイベントに乗り遅れるかもしれないよ〜」
「走らなくても出し物は逃げないっての」
「でも、なんか盛り上がってるみたいだし、一番のイベントかも」
「ヴィヴィオちゃん、人混みに紛れたら迷子になるかも」
「うー、地球の携帯じゃはいんないからおとなしくする……」
月光ちゃんにまで言われては仕方ありません。
おとなしく3人一緒に歩いて行きます。
幸い、歩いて行ってもなんとか間に合ったようです。
「ハリー選手とアインハルトさんの腕相撲対決みたいだね」
「腕相撲対決はいいけど、体格差絶対じゃねえか、勝負になるのかよ」
「魔力使っていいみたいだから、体格差だけが決定的な差にはならないそうです」
「魔法有りかよ、それ腕相撲っていうのか？」
「魔法で腕力を強化するだけだからありだよ、きっと」
「始まるよ、ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃん」
司会の人が合図すると、勝負が始まります。
「すげえ、魔法お互い一歩も譲ってない」
「……魔力をお互い高め合ってるよ、一歩も譲らないのはいいけど、
魔力がバーストしたら危険じゃないかな」
「何が起きるの、ヴィヴィオちゃん」
「何が起きるって……、周りの人が怪我するかも……」
「止めなくていいのかよ」
「たぶん、そういうことに対する防護措置ぐらいは、考えてると思うんだけど」
そういえば、保護魔方陣とか、この辺に描いてあるのを見てませんでした。
これは本格的に危ないのかもしれません。
「ライチェントゥークス、大丈夫かな」
「介入しますか? 我が主」
「介入したらまずいんじゃない?」
「私もそう思います」
でも、決着はあっさりとつきました。
「あ」
「あ」
二人が対決している、競技台が魔力に耐えられずに崩壊したんです。
審判が引き分けを宣言します。
「引き分けか、まあ、競技台が壊れたらしかたないよな。
またやろうぜ」
「はい」
「アインハルトさん、こんにちは、ハリー選手、こんにちは」
「こんにちは、アインハルトさん。こんにちは、ハリー選手」
「あの、こんにちは、アインハルトさん、ハリー選手」
「こんにちは、ヴィヴィオさん、冬美さん、アカリさん」
「よう、ヴィヴィオに冬美に月光じゃないか、どうした」
「エミーちゃんに招待されたんだよ」
「そっか、地球の様子はどうだ、元気してるか」
「元気にやってるよ。ハリー選手も次の試合がんばってね」
「たりめーだ、ちゃっちゃっと勝ち上がって、こんどこそ世界にいかねーとよ」
「アインハルトさん、可愛い衣装ですね」
「え、ええ、まあ……」
「競技台が壊れたし、アインハルトさんは休憩してていいよ。
ほかの出し物を見てきて」
「いえ、私は……」
「友達も来てるんでしょ、行ってらっしゃい」
「あ、はい」
「うん、じゃあ、エミーちゃんのクラスに行ってみようよ」
そういうわけで、ハリー選手、アインハルトさんと一緒に、エミーちゃんのクラスに出かけます。
「コロナちゃん、リオちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「可愛い、人形のダンスだ、これってコロナちゃんの力でやってるの？」
「コロナとクラスの有志でやってるパペットなんです」
「そうなんだ、すごいね」
「えへへ……」
「あれ？ エミーちゃんはどこへ行ったのかな」
「エミーちゃんなら、隣のクラスにかり出されてるよ」
「隣のクラスに?」
「隣のクラスは、ストライクデビルっていう出し物をやってるんです」
「ストライクデビル？」
「要するに、ハンドボールですよね。ゴールキーパーをかいくぐってボールをゴールに入れたら勝利っていう」
「へえ、それで、エミーちゃんがゴールキーパーなんだ」
「そう、エキストラハードのキーパーがエミーちゃん」
「そっか、じゃあ、エミーの勇姿も見てこようかな」
「そうですね、ついでに出し物もやってみるといいですよ」
「うん、じゃあ行ってみるね」
隣のクラスに行ってみると、先客がありました。
「あ、ミウラちゃんこんにちは」
「ヴィヴィオさんこんにちは」
「ヴィクターさんに、はやてさんにルーテシアさんもいらっしゃいますね」
「こんにちは」
「今から挑戦ですか」
「まあ、そんなところや。先鋒はミウラやけどな」
「がんばります」
「ミウラ、あれやってみ」
「あれですか？」
「何をやってもらっても結構ですよ」
「エミーちゃん、なにそのかっこう？」
「ウサギさんですよ」
「いや、そうじゃなくて、なんでウサギ……」
「意味はよくわかりませんわ。隣のクラスの方の趣味でしょう。
クリスともあってますし、それでかまわないのではないでしょうか」
「まあ、エミーが納得してるんならいいんじゃないか。
とりあえず、お手前拝見と行こうぜ」
「ボールって蹴っていいんですか？」
「ラインより後方からであれば、手段は選びませんわ」
「じゃ、行きますよ」
ミウラちゃんがボールを蹴ります。
ボールはカーブしてゴールを狙います。
ゴールは9つに分割されています。どうやら、その分割されてるマスに応じた景品があるようです。
が、楽々とエミーちゃんはボールをキャッチしました。
「本気を出してもらわなければ困りますわ、エキストラハードモードですもの」
「なあ、気になったんだが、なんでボールが複数おいてあるんだ」
「同時に投げることが出来るからですわ」
「それ、かなりエミーにとって不利なんでないか？」
「ちょうど良いハンディキャップではないかしら」
「相手見ていえよ、はやてさんに、ヴィクターさんに、ルーテシアさんに、ミウラさんだぞ」
「なんでミウラちゃんがさん付けなの？」
「仮にも年上だからな」
「そうなんだ」
「あら、冬美さんはやらないんですか？」
「あたしは、後からやる、とりあえず先客優先でいい」
「では、遠慮なくやらせてもらおうかな」
「前も本気でしたけど、今度は本気の本気で行かせてもらいますね」
「同時でもいいと言ったこと、後悔させてあげますわ」
「魔法ありでボールを使えるってこと、忘れないでよね」
「こちらも魔法有りですわ」
果たして、同時に放たれた４つのボールを、エミーちゃんは見事にはじき返しました。
「ふえー、あり得ないよ……」
「さすがエミーだな」
「エミーちゃん、ここまでとは思わなかったね」
「再戦を希望しますわ」
「受けて立ちますけど、その前にヴィヴィオさんたちが先ではないかしら」
「よし、じゃあ、あたしの番だな」
「3人で来られますか？」
「なんで3人なんだよ、あたし一人だ」
「え？ 大丈夫冬美ちゃん、冬美ちゃんは魔法抜きだよ」
「こんなのは間合いと気合いだ」
冬美ちゃんはボールを握ると、大きく振りかぶります。
でも、それじゃ完全に軌道を読まれるとおもうんだけどなあ。
冬美ちゃんの投げたボールは、縦に変化しましたが、エミーちゃんは足で蹴ってなんとかクリアしました。
「ちぇ、通用しなかったか」
「フォークボールですね。低めの速い球なので、ちょっと見切るのに苦労しましたわ」
「苦労してねえだろ、お世辞はいいっての」
「最後はヴィヴィオちゃんでいいよね、次私が投げるから」
「一人で行くの? さすがに無理じゃ……」
「こういうのは挑戦することに意義があると思うから」
「そういうものかな」
さすがに、普通の女の子の投げるボールではエミーちゃんに楽々ととられてしまいます。
「最後はヴィヴィオさんですわね」
「ねえ、これ、一人一個？」
「ルールではそうですわね。同時に何人かで投げることは許されてますけど」
「分身魔法有り?」
「禁止ですわ」
「消える魔球は？」
「禁止ですわ」
「えー、それってむちゃくちゃこっちが不利じゃない」
「ヴィヴィオ、無茶言いすぎだろ、どんだけ勝ちたいんだよ」
「だって相手はエミーちゃんなんだよ。使えること全部使わないと勝てるわけないよ」
「ヴィヴィオちゃん、だからエキストラハードなんだと思うよ」
「そっか、条件厳しいからか……って納得できないよぉ」
「だだっ子ですか我が主、制限の範囲で全力を出して、負けたらそこであきらめてください」
「うー、しょうがない、あれやろう、あれ」
「あれ、って……また……つまらないことを考えますね、我が主」
「ねえ、エミーちゃん、これは禁止?」
念話でエミーちゃんに、やろうとしてることを伝えます。
「……思いついた人がいないから、ルールに規定がありませんわ。
禁止ではないと思います。物理的に相手を魔法攻撃するわけではないですもの」
「うん、じゃ、行くね」
「なんや、なにを始める気や」
「ヴィヴィオ、また何つまらないことを思いついたんだよ」
砲丸投げスタイルでボールを構えます。
「砲丸投げって、このボールはゴムまりでそんな重くないですわ」
「そうだよヴィヴィオちゃん」
「！……そうか、逆転の発想、ヴィヴィオちゃん、まさか……」
「ルーテシア、どういうことや？」
「行くよ、エミーちゃん、えーい！」
魔法力で質量を高めたボールをエミーちゃんに向かってたたきつけます。
これが私の考えたエミーちゃん攻略法。
どうやってもエミーちゃんに防がれるなら、エミーちゃんごとゴールにボールをたたき込めばいい。
私のありったけの魔力で質量を高め、その質量を推進力に転換しながら進むボールが
エミーちゃんに向かって前進します。
エミーちゃんはこのボールを正面から受け止めるしかありません。
ずるずるとエミーちゃんが後退します。
「この発想はなかったわ。ボールが軽いからはじき返される。
ボールが重くなればはじかれることはないわけや。けど、たぶん次からは禁止になるやろなあ」
「はやてさんがやれば必勝ですもんね」
ずるずるずる、エミーちゃんがずるずると押し込まれていきます。
もすこしあとちょっと、あとちょっとでゴールにエミーちゃんごとボールがねじ込まれます。
エミーちゃんはゴールの中にすっぽりと入りました。あとはボールがゴールの中に入れば私の勝ちです。
そして…… ボールの中心がゴールを通ったところで、ボールは停止しました。
「……これってどうなるの？」
「サッカーじゃ、ゴールマウスを完全にボールが通過しないと、得点として認められないよな」
「じゃ、やっぱり私の負けってこと？」
「こういう事態はルールに規定がありませんわ。ゲートにある板を落としたら勝ち、っていうことになってますから。
ちょっとクラスの方と相談してきますから待ってくださいね」
エミーちゃんは隣のクラスの人と相談しに行きました。
「なあ、ヴィヴィオ、これって反則負けなんじゃないか？」
「そっかな、エミーちゃんはルールに反してないって言ってたよ」
「けど、それはエミーの判断で、主催はあくまで隣のクラスだぜ」
「それはそうなんだけど」
「あ、エミーちゃんが帰ってきたよ」
「ルールに規定がないことだから、ノーカウントにしてほしいそうですわ。
ただ、ルールの穴を見つけてくれた、ということで、景品を一つ差し上げます、って」
「なんだか素直に喜べないんだよ」
「それで、結局これはやっていいのか？ 悪いのか？」
「次からは禁止だそうですわ」
「やっぱ禁止か」
禁止にされちゃいました。
けど、柔らかい発想が出来たということで景品がもらえて、ヴィヴィオはちょっとハッピーです。