「んー、なんかセンサーに反応があったから見てこいって、人使いあらいなあ」
「イクスを安全に見守ることも、聖王教会の大切な仕事ですよ、シャンテ」
「分かってますよシスターシャッハ、けど、あの部屋になんかあるってことないですよ。
センサーも外部からの侵入者の反応は全然ないんですからね」
「だから見に行くんじゃありませんか……失礼します、イクスヴェリア陛下」
「失礼します……って、寝てらっしゃるから、わからないですよね……って、あれ？」
……あたしが見たものは、眠ってるイクスヴェリア陛下、と、そのイクスヴェリア陛下から現れた
ちっこいイクスヴェリア陛下の……スタンドというか、ペルソナというか、分身というか
妖精というか、そんな存在でした。
妖精といっても、羽は生えてませんけどね。
「なんでしょうか、かわいらしいですね」
「悪いものでも食べてない？ イクスヴェリア陛下、大丈夫ですか？」
「ともかく、何が起きたのか調べてみましょう。イクスヴェリア陛下、何が起きたか説明できますか？」
このイクスヴェリア陛下のちっちゃな存在、しゃべることは出来ませんが、字を書くことは出来るようです。
枕元の状差しから、ペンを取って器用に字を書き始めます。
「えっと……なになに、自分はイクスヴェリアの意識体であって、怪しいものではありません……
イクスヴェリア本体が目覚めると、まだみなさんにご迷惑をおかけするでしょうけれど
イクスヴェリア因子を広げることのない、意識体でしたら、みなさんとご一緒できると思います」
「……うん、陛下もひたすら寝てるだけじゃ退屈だもんね。意識体でも一緒に遊んだ方がいいよ、絶対」
「では、みなさんにお披露目しないといけませんわね。とりあえず、服の準備からいたしましょうか」
そういうと、シスターシャッハは、服を用意しに出て行きました。
この教会、人形とかもいろいろ飾ってあります。服には困らないでしょう。
「はい、準備できましたよ、陛下。では早速出かけましょう」
まだ、ヴィヴィオ陛下も帰りの船に出かける時間ではないはずです。
ヴィヴィオ陛下達にもお披露目できるでしょう。
「じゃ、行ってきます〜」
「あ、シャンテ、廊下は走ってはいけません」
「ヴィヴィオ陛下が戻られる前に伝えないと」
「ライチェントゥークスに連絡を入れれば済むでしょう、まったく……」
シスターシャンテはデバイスを起動すると、ライチェントゥークスに連絡を入れます。
けど、あたしは、廊下を突っ走っていち早く抱えたイクスヴェリア陛下の意識体を
みんなの所へお披露目にと急ぎます。
「みんなは、どこかな〜」
「あ、来た来た、おーい、シャンテ、ここだよ〜」
「へ？ みんな待ってた？」
「教会の中は走るなって、シャッハに怒られなかった？」
「それは後から怒られる、けど大ニュースだから急いで……」
「それ、シャッハから聞いたよ。ライチェントゥークスに連絡が入った」
「……シャッハも気が利かないなあ、驚かせようと思ったのに」
「気が利いてるよ、連絡が入ったから、みんなを呼び集めてシャンテを待ってたんだよ。
それで、イクスヴェリア陛下は？」
「じゃーん、これがイクスヴェリア陛下だよ」
手のひらにのせて、抱えたイクスヴェリア陛下を披露します。
「わぁ、かわいい」
「この方が、イクスヴェリア陛下ですね、お初にお目にかかります」
「目覚められたのですね、お久しぶりです、陛下」
「久しぶり、イクス」
適当にあいさつが進む中、アインハルトは、なんかばつが悪そうな顔をしてます。
「どうしたのアインハルト、なんか気まずいことでもあったか？」
「いえ、直接はないのですけれど」
「なら挨拶ぐらいしとけばいいじゃん。減るもんじゃ無し」
「……そうですね、私、アインハルト＝ストラトスと申します。
覇王クラウスの記憶継承者です、それで……昔……」
「ストーップ、そっから先はなし、今はあたしらの仲間、それで十分。
過去を言い出したら切りがないだろ、な、陛下？」
イクスヴェリア陛下がうなずきます。
「ありがとうございます、陛下」
「陛下、この姿はどうされたのですか？」
「どうされたかはしらないけど、精神体なんだって。
イクスヴェリア因子を持たないから、この格好だったら
外に出ることが出来るらしいよ」
「そうですか、では、学園祭にもお越しいただけるかもしれませんわね」
「学園祭？ エミーちゃん、それなに？」
「あ、ヴィヴィオちゃんは知らないんだ、学園祭って、うちの学園最大のお祭りだよ。
いろんな出し物があるんだ、ヴィヴィオちゃんも来てよ」
「いや、それぐらいはヴィヴィオも分かるし」
「学園のお祭りなんだ、都合がつけば行かせてもらうよ、ありがとう」
「イクスヴェリア陛下もお招きいたしますわ。是非お越しくださいませ」
「あたしは？ あたしは？」
「シスターもどうぞ」
「やったあ、シャンテにいっとこ」
「おつとめがあいたらですけど」
「釘打つなよ」
何はともあれ、精神体のお披露目は無事に済んだようで。
学園祭にも招かれたし、なんか楽しいことがこれから続きそうだ。