「行きます」
危険は承知の上です。アインハルトさんは、決して弱い方ではありません。
いえ、十分に強い方です。その方に勝つためには、出し惜しみなどしていられません。
積極的に攻めに回ります。アインハルトさんはガードを固めて守りに入ります。
カウンター狙い？ 聖王の鎧がない今となっては確かに有力な手ではあります。
しかし、カウンターとはいっても、高町さんから学んだ防御を破れなければ、意味がないはずです。
どうするつもりなのでしょう。
考えていても仕方ありません。私は、ガードを固めているアインハルトさんの上から強引に攻めに入ります。
魔力をすべて攻撃に回します。これで攻撃をかけるのですから、アインハルトさんが守りに専念して
ガードを固めているその上からとはいえ、打撃は多少なりとも加わっているはずです。
そして、堅いガードをこじ開け、その隙間に打撃をたたき込む。
それでもアインハルトさんは反撃してきません。
一体何を……。
それは、一瞬の出来事でした。
少し大きめの打撃を与えようと身構えた大ぶりになってしまった私のパンチに合わせたクロスカウンターが
私のボディに入ったのです。
私の反応速度を超える一撃。これは、攻撃に魔力をすべて振り向けていた私にとって致命的ともいえる一撃になります。
私はたまらずダウン。意識を持って行かれなかったのは、クリスがとっさに反応してくれたおかげかもしれません。
私には見えませんでしたから。
「古武術一拍子、あれがハルにゃんのわざやね」
「ていうか、相打ち上等の技かよ、これだから体と魔力に恵まれてるやつは」
「そうでもないわシスター、被弾は覚悟でしょうけど」
ギャラリーの声は耳に届きません。
アインハルトさんは、これで決まりと思ってるようです。
カウントは今６ぐらいでしょうか。10カウントまでに立たなければ……
「まだ、やれます」
「まだやれると言っても、足下がふらついてます、エミーさん。
これ以上やるのは……」
「大丈夫です」
「エミーちゃん、本当に大丈夫？ 怪我とかしてない？」
「大丈夫ですわ。高町さん。心配しなくても、ちゃんと次のラウンドでは私が勝ちますから」
「ほんとかよエミー。なんか顔色も悪くなってるぜ」
「インターバルで休めば回復する程度ですわ」
「だといいけどよ……」
「エミーちゃん、なんか普段のエミーちゃんっぽくないよ。
どちらかというと、ヴィヴィオちゃんっぽい感じがする。
どうしたの？」
「褒め言葉ととっておきますわ。月光さん」
「ていうか、練習試合でそこまでやる理由はなんなんだ？ エミー」
「……なんとなくわかるけど、エミーちゃんだけが背負うことじゃないと思う」
「でも、私が望んでしていることですもの。コロナさんが負い目に感じることでもありませんわ」
「どういうことだコロナ」
「どういうことって、それはエミーちゃんに説明してもらった方がいいと思う」
「説明といっても難しいですけど、言葉だけでは伝わらないおもいがあるということ。
それを、昔高町さんから教わりました。そして、今、言葉だけでは伝わらない思いを
伝えるべき時だということです」
「それって？」
「時間だ、ラウンド２開始」
「はい」
それは昔の話。高町さんと出会って間もない頃。いえ、間もない、というには時間が経っていたでしょうか。
パパとママがアルハザードを目指していて、私がそのためにジュエルシードを解放していたとき
高町さんは、自分の身も顧みずに私を引き留めてくれました。
そのとき、私は教わったのです。言葉だけでは伝わらない思いというものが本当にあるのだということ。
そして、力とは思いを伝えるためにこそあるのだということを。
私たちは、今、アインハルトさんの力になれていません。
確かに、アインハルトさんは私たちより年長者で、その分
自ら背負っているものも多くなってしまうのかもしれません。
ですけれども、私たちはアインハルトさんの荷厄介になりたいのではないのです。
友達になりたいのです。ですけれども、アインハルトさんは自らに何かを課していて
私たちに心を開こうとはしていません。
だから、私はアインハルトさんを倒さなければなりません。
アインハルトさんに勝つことも出来るのだということを証明しなければならないのです。
それで、初めて、アインハルトさんに、私たちも何か力になれるのだということを
アインハルトさんに知ってもらうことが出来るでしょう。
第2ラウンドはたたき合いになりました。
たたき合いならアインハルトさんに分があります。
防御と攻撃に魔力を振り分けあえば魔力の絶対量の少ないこちらには勝ち目がありません。
でも……。
「エミーちゃん、攻撃に魔力を全部振り分けたっ！」
当たれば即死です。
でも、当たらなければ問題ありません。
「あれは、一分の見切りじゃねーか、いつ覚えたんだエミーのやつ」
「きっとビデオレターだよ冬美ちゃん」
ビデオレターで見て覚えた川崎流一分の見切りでアインハルトさんの攻撃をかわして
魔力を拳に集中し、アインハルトさんのボディにパンチをたたき込みます。
これがアインハルトさんにどこまで通用するのか……