「陛下、お時間です」
「もうそんな時間なのですね。では、出かけるといたしましょうか」
「練習試合の前というのに修練ですか？」
「軽いウォーミングアップですわ」
「軽い、というのは外された方がよろしいかと」
「人それぞれの評価でしょう」
「そうかもしれませんけどね」
「行きましょう、オットーさん。アインハルトさんをお待たせしても悪いですわ」
「そうですね」
私は、エミー＝シュミット、サンクト＝ヒルデの初等部４年生です。
ストライクアーツをたしなんでいて、今日はアインハルトさんとの練習試合です。
「気合いの入り方は、練習試合というようなものではないですけどね」
「そうですね。……伝えたい、伝えなければならない、思いがあるからでしょうか」
「思い？」
「こういうのは、高町さんの方が適任なのかもしれません。ですけれど
私の避けては通れない仕事ですわ」
「私にはよくわかりません。どういうことなのでしょう」
「試合の中でわかることだと思います」
「そうですか」
「その高町さん達もお呼びしてますわ」
「そうですか、高町さんたち、最近は日曜日ごとにミッドチルダに顔を見せてますね」
「そうなりますわね」
練習試合の場所までは、すこし距離があるので歩いてはいけません。
オットーの運転する車で会場に向かいます。
ウォーミングアップが必要な理由でもあります。
「よーっす」
「おはようございます、ノーヴェさん」
「おはよう、エミー、オットーもおはよう」
「おはよう」
「アインハルトさんはまだお見えではないのですね」
「ま、時間まで十分ゆとりがあるからな」
「アインハルトさんをお待たせすることがなくて幸いでした」
「ん、けど、ちび達はもう来てるぜ」
「あ、エミーちゃんおはよう」
「エミーさんおはようございます」
「おはようエミー。けど、ちび達、って言い方なんか引っかかるけどな。エミーとは同い年なんだし」
「気にするな、あたしから見ればちび達だろ」
「まあな、そりゃ否定しないけどよ」
「がんばってね、エミーちゃん」
「ええ、それはもちろんですわ」
「……」
「あれ？ 魔女っ娘、補導されたんじゃなかったっけ？」
「特別に見てほしいっていうんで連れてきた。エミー陛下のご指名」
「で、見物はあたしらだけ？」
「いや、インターミッド組はアインハルトを迎えに行ってる。そろそろ来る頃じゃないかな」
「噂をすればだよ。ほら、見えてきた」
「そうですわね。あれがアインハルトさんたちですわね」
「すいません、遅くなりました」
「いや、定刻よりはまだ１０分早いぜ。エミー達が格段早いんだ」
「おはようございます、アインハルトさん」
「エミーさん、おはようございます」
「では、定刻までアップしましょうか」
「いえ、私は今からでも大丈夫です、アップなら道すがらやってきましたから」
「ん、ギャラリーもそろってるし、準備が出来たら始めるか」
「ええ、私もいつでもいいですよ」
「でも、まあ定刻までアップしておけ。怪我があっちゃ大変だからな」
「わかりました」
そういうわけで、ノーヴェさんの指示もあるので、１０分間アップをします。
練習ならしているので、柔軟から入ってかるく体を温めるだけですが。
アインハルトさんも変わらないみたいです。どうやら、お互い
試合の準備は家で済ませてたみたいですね。
「よし、定刻になったし、試合を始めるぞ。
試合は２ラウンド１本勝負、ライフのカウントはなし。
KOかギブアップのみでやる。
準備しろ」
「了解です」
「はい」
私も、ヴィヴィオさんと同じように大人モードを展開します。
アインハルトさんも大人モードを使うようです。
「エミーも大人モードがあるんだ」
「ええ、ヴィヴィオさんの大人モードに触発されて練習してみました」
「その形態、どっからもってきたの？」
「どこから、というわけでもありませんわ、ヴィヴィオさん」
「それ、昔私が使ってたのにそっくり」
「そうなんですか、これはちょっとした思いつきですわ」
「ちょっとした思いつき？……」
「どうされました？ アインハルトさん」
「いえ、別に……」
（あのバリアジャケット……オリヴィエの戦装備に似てる……）
「よし、準備出来たな、始めるぞ」
「はい」
「わかりました」
「Ready Go！」
私の戦闘スタイルは、相手の出方を見て、分析し、対応し、翻弄して崩していく。
それはアインハルトさんも知ってます。
当然アインハルトさんはそういうスタイルに対応すべく練習してきたでしょう。
だから……
「エミーのやつ、いきなり前に出たっ！」
「普段のエミーちゃんとは違うんだよ」
「けど、アインハルトさんの意表は突いた、アインハルトさん、まだ気持ちが対応出来てない」
強打の連続で崩れるほどアインハルトさんは弱くはないでしょう。
それでも……一撃入れることが出来れば、戦いの主導権は握れるはずです。
！……アインハルトさんのカウンターがボディに来た？……けど
これはライフカウントなし、聖王の鎧が発動します。
きわどいところでした。
逆にこれでアインハルトさんに隙が出来ます。
顔面に一撃入れると見せてアッパーをアインハルトさんに入れます。
これが初めてのクリーンヒットになりました。
アインハルトさんをダウンさせることに成功します。
「……言葉では届かない、そんな思いがあることを、私は高町さんから学びました。
だから、私も届かせます。必ず」