「さてと、一旦ラウンジに戻ろうか」
「せやな、けど、その前に……」
「なにしてるんですか、はやてさん」
「ん？ エレミアの書のコピーとってるんよ。
禁帯出やいうても、コピーとったらあかん、とはユーノくん、言うてへんかったし」
「そうなんですか」
「はい、コピー完了。コピーいる人は後でいうてな」
「わかりました」
「せやたら、帰ろうか」
「は〜い」
一同は危険区画を抜け、一般書庫を通ってラウンジへと戻ります。
ここまで来れば一安心です。
「今日はいろんなことがあったなあ」
「いろんなことがあってヴィヴィオおなかぺこぺこ〜」
「そういえばお昼抜きになってもうたな」
「まあ、適当に食ってから家に帰ればいいだろ、本局と地球との定期便の時間もあるだろうし」
「あ、そだ、時間確認しないと」
「そうですわね。ミッドと本局の定期便はいくらでもありますけど、本局と地球の定期便はそんなにはありませんわね」
「えとえとえと……あと一時間後に出港だって」
「じゃ、あんまりのんびりできないな、ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオちゃん、お昼は定期便の中で食べる？」
「んーと、ファーストフードをみんなで食べよ。今日のことお話ししたいよ」
「せやな、なら、そうしようか。みんなはそれでええか？」
「賛成！」
「別にかまいませんわ」
「ヴィヴィオ、出港まで一時間しかないんだろ、大丈夫か？」
「港そばのお店にすれば大丈夫だよ、今から移動すればいいって」
「私もそのつもりなんよ。ファビアもその後でつれていくからな」
「……」
「それにしても、いろいろ驚くことがかいてあったよね、アインハルトさん」
「そうですね。私の記憶を補強することも書いてありましたが、記憶とは
違った角度から見えることも書いてありましたね」
「ご先祖さんがはるにゃんと一緒やったなんてびっくりやなあ」
「そうですね。それには驚きました」
「……見捨てたって、どういう意味だったんでしょうね」
「王が見捨てたって意味？」
「防衛に力を尽くさなかったって意味なのか、それとも……」
「……」
「話したくないことなんかな」
「わからないのかもしれないですね」
「ミウラちゃん、次の試合がんばってね」
「はい、ヴィヴィオさん、がんばります」
「なんだよヴィヴィオ、唐突に」
「いや、ちょっと重い空気に耐えられなくて」
「重い空気っていうか、本来そういう集まりだろ」
「でも、謎解きのはずのエレミアの書探しだったのに、あんまり謎が解けた気がしないんだよ」
「しかたないよヴィヴィオちゃん、一冊の本で古代ベルカの謎が全部解けるなんてことはないよ」
「うー、でも、もっとなにかもやもやが吹き飛ぶようなことが書いてあるってのを期待したんだよ」
「オリヴィエの書も必要だったかもしれないですわね」
「さすがにそれを期待するのは無理というものかもしれないですわね」
「そうかなエミーちゃん、探せばあるかもしれないよ」
「いくら無限書庫でも、ないものは蒐集できないだろ」
「ないのかな、そういうものって」
「書いてないとおもうよ、ヴィヴィオちゃん」
「そっかな」
「日記ならあるかもしれませんわね」
「んー、日記を蒐集してないかな、無限書庫」
「人の日記をのぞき見るなんて趣味悪いぞ」
「土佐日記とか文学作品としてあるよ」
「あれは公開用の日記だろ」
「そなの？」
「そうなの」
「うつしが出来たで、いる人はもって帰りや」
「ありがとうございます、はやてさん」
「うつしと言っても古代ベルカ語だよね。ヴィヴィオは読めないからいいや」
『私が読めますよ、我が主』
「あ、そか。でもいいや、読んでる暇ないし」
「あんま興味ないんだな、ヴィヴィオ」
「うん。今日読んだので大体覚えた」
「大体でいいんだ」
「私は持って帰ります。もっと詳しく知りたいんです。リッドのこと、そして、クラウスやオリヴィエの生きた時代のことを」
「古代ベルカ語が読めるんだ、アインハルトさん、すごーい」
「辞書を引きながらですけど」
『我が主、そろそろ定期便の時間です』
「あ、もうそんな時間なんだ、じゃあ、冬美ちゃん、月光ちゃん、行こう」
「そうだな、じゃあ、みなさん、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「こちらこそありがとう。では、また」
こうして、定期便に乗って３人は地球へと帰っていった。
「……アインハルトさん、大丈夫かな」
「大丈夫って、冬美ちゃんどうしたの？」
「ヴィヴィオって時々鈍いな」
「どこか寂しそうだったよ、アインハルトさん」
「アインハルトさんが、どこか寂しそうなのはいつも通りだよ」
「いや、それじゃ問題だろ」
「うーん、いつもと変わらない感じはしたんだけど、どうなんだろ」
「雰囲気がいつもにもまして寂しそうに見えたぞ」
「そっかなあ……ヴィヴィオにはいつものアインハルトさんに見えたけど……」
「ヴィヴィオちゃんのいういつものアインハルトさんが偏ってるんじゃないかな
ヴィヴィオちゃんのいうアインハルトさんのイメージって、どんな感じ？」
「どこかはかなげな感じがするんだよ。なんていうか……ひとりぼっちで
雨の中立ってるっていうか……」
「それじゃまずいだろ。傘をさしかけるとかしてやろうって気になれよ」
「ん……それをかたくなに拒んでる雰囲気があるんだよね」
「それは感じるけど、だからって放っておくのも友達じゃないと思うよ」
「そうだけど……だけど、出来ることってあるのかな」
「それを考えるのも友達じゃないかな」
「そうだね……」
『我が主、エレミアの書の写しがいりますか？』
「どうしたの、ライチェントゥークス」
『こんなこともあろうかと、夜天の書から一応写しはもらっておきましたが』
「別にいらないけど……でも、気を遣ってもらってありがと、ライチェントゥークス」
「いらないのかよ」
「まあ、学校の宿題が残ってるし」
「そういえば宿題が残ってたな。帰ったら片付けないと」
「いやなこと思い出しちゃった……」
「帰ってからの話だよ。帰るまでは忘れよ」
「ヴィヴィオは脳天気でいいな」
「思い出したって、どうせここじゃ出来ないよ」
「そりゃそうだけどよ」
「でも、アインハルトさんのことは、今話が出来るよ」
「そうだね……」
「話ができるとしても、何が出来るかな」
「エミーちゃんは、いきなり友達になったんだよね。すぐにエミーちゃんの方から話しかけてきてくれて」
「そういえばそうだったよな」
「けど、アインハルトさんとも、友達は友達だよ」
「そうはいえるけど、何か壁を作ってはいるんだよな。なんだろう」
「エミーちゃんも壁は作ってたよ。あのときまで」
「不完全体ってやつか。けど、アインハルトさんは別にアルハザードを目指してるわけでもないんだろ」
「そうだよね」
「じゃあなんなんだろう」
「うーん、なんなのかな……」
「相手の立場にたつっていうのも、難しいよね」
「そうだね」
「あたしらは、アインハルトさんじゃないからな。当たり前だけど」
「ヴィヴィオちゃんは、過去の記憶とか残ってないんだよね」
「ほとんど思い出すことはないよ。まれに断片的な映像とかフラッシュバックすることがあるけど」
「映像が出るぐらいなんだ」
「まあ、それだけでも普通の人とは違うけどな。
けど、アインハルトさんは、完全に記憶があるらしいよな。
それって、どんな感じなんだろうな」
「わかんない。ヴィヴィオってプレシアおばあちゃんの記憶もあるらしいけど、それは思い出さないんだよ」
「能力だけあるってこと？」
「そうらしいんだよ」
「一つ謎が解けると謎が二つ増えるっていうけど、本当に問題がふえちまったな」
「どういうこと、冬美ちゃん」
「最初っからアインハルトさんの心配事が減ればいいっていうんでエレミアの書を探しに行ったはずなのに
アインハルトさんの心配事はちっとも減らずに、過去の謎だけが増えちまったな」
「だけど、知識も増えたよ。行って良かったんじゃないかな。ヴィヴィオは楽しかったよ」
「そっか。時間が無駄にならなくて良かったな」
「うん」
「いくら考えても、アインハルトさんにどう接するかっていう話に結論が出てこないね」
「そうだな。ヴィヴィオ、なんか考えろよ」
「なんか考えろ、っていわれても、ヴィヴィオも困るんだよ。ヴィヴィオだってアインハルトさんには普通に接してるつもりなんだよ」
「特別気を遣っても、それがかえって負担になるだろうからなあ」
「だからって、普通に接してるだけじゃ、いつまで経っても解決にはならない気がする。
どこかでアインハルトさんには向き合ってもらわないと」
「でも、それってあたしらの出る幕なのかな」
「あたしらの出る幕じゃないにせよ、ヴィヴィオの出る幕かもしれないな」
「え、私？」
「そう、ヴィヴィオ、オリヴィエの血を引くおまえの出る幕かもしれないな、とは思う」
「え〜エミーちゃんだって出る幕だよ〜」
「エミーもだけど、おまえもなんだよ」
「うー」
「ま、そう悩むなよ。まだ出来ることも決まってないんだからさ」
「うん……」
悩むな、と言われても、ヴィヴィオも困ります。
でも、ヴィヴィオに出来ることがあるなら、アインハルトさんには何かしてあげたい、とも思います。
それが何か、ヴィヴィオにはまだわかりませんけど。
次元航行艦が海鳴市に到着します。
「到着だな」
「とーちゃーく」
「行こう、ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃん」
そういうわけで、家にたどり着きます。
家に着いたときには、すっかり夜も更けてます。
本局から地球へは、そんなに近くありません。
「ただいま〜」
「おかえり、ヴィヴィオ」
「ただいま、なのはママ」
「今キャラメルミルク作ってあげるからね」
「わーい」
ヴィヴィオは、えとえとえと……夜遅くなりましたが、宿題をしなければなりません。
楽しい時間の後は、つけが待ってます。
なのはママの作ったキャラメルミルクを飲みながら、宿題です。
「ライチェントゥークス、少しは手伝ってよぉ」
『自力でやらなければ身につきませんよ、我が主』
「うー、やっぱりぃ」
眠い目をこすりながらの必死の努力です。
もっとも、漢字の書き取りをライチェントゥークスに手伝ってもらう、というのも
おかしな話なので、自力でやらなければ仕方ありません。
「ヴィヴィオ、宿題が終わったらお風呂にはいりなさい」
「はーい、なのはママ」
翠屋の営業時間も終わったようです。なのはママは後片付けの最中。
ヴィヴィオは宿題……も終わってお風呂です。
「いちにさんしごろく……」
「早口に数えずに、ちゃんとつからなきゃだめだよ、ヴィヴィオ」
「え〜ちゃんと数数えてるのに〜」
「いいからもう一回つかりなさい」
なのはママがお風呂に入ってきました。
今日はママと一緒にお風呂の日のようです。
「ママがいいというまで上がったらだめだからね」
「でも、ママが数えるとあまりにゆっくりだもん」
「ヴィヴィオが早口にすぎるの。ひとーつ、ふたーつ」
「うー」
「ゆっくりつからないと、体が温まらないよ」
「別に暖まらなくても〜」
「暖まらないとゆっくり眠れないし、ゆっくり眠れないと疲れが残るよ」
「うー」
「はい、もうあがっていいからね」
「わーい」
「じゃ、体を洗いましょう」
「はーい」
ごしごしごし。
「ヴィヴィオ、背中を流してあげようか」
「ヴィヴィオもう背中も自分であらえるもん」
「そうなの、じゃあ自分で洗う？」
「うんっ！」
ヴィヴィオはちょっとだけ反抗期なのでママの手を借りたくなかったりします。
だから背中も自力で洗います。ごしごしごし……。
「頭は洗ってあげようか」
「自分で洗えるから平気だもん。シャンプーハットもいらないし」
「そうなの？ えらいねヴィヴィオ」
「えへへ」
髪も自分で洗います。普段は一人でお風呂に入るので当然です。
シャンプーして、シャワーで流して、タオルでふいて終わりです。
「なのはママは一人で大丈夫？」
「大丈夫だよヴィヴィオ」
「そうなの？ えらいえらい」
「うん、えらいでしょ、ヴィヴィオ」
最後に一緒に湯船につかってからお風呂を上がります。
こうして、いつもの日常が帰ってきました。
波瀾万丈の一日が終わったけど、ヴィヴィオは今日も元気です。