「さて、みんな服もとってきたことやし、さっそく本を取りにいこか」
「そうですね、はやてさん」
そういうわけで、みんなでエレミアの書を取りに出かけます。
危険区画の本は、お取り寄せ、というわけにはいきません。
実際にそこへ出かけていってとる必要があります。
そうは言っても、ヴィヴィオさん、エミーさんの指し示した場所は
ここからそんなに遠くはありませんでした。ちょっとすすめばすぐにたどり着きます。
「ここやな」
「そうですね」
「これが、エレミアの書か。見つかってしまえば、あっけないもんやな」
「検索がちゃんと通ればすぐに見つかったんだよっ」
「……ごめんなさい」
「いや、そこで謝られても……」
「ちょっとは素直な気持ちになったんや。こっちも素直にうけとっとき」
「そんなものなのかな」
「ま、それはそれとして早速読んでみようぜ」
「そうですわね」
「……思い出しました」
「ハルにゃん、どないしたん？」
「クロゼルク……シュトゥラの森の魔女ですね。
オリヴィエがかわいがってたいたずら好きの子でした。
ただ、オリヴィエやリッドがいなくなり、クラウスが出征するようになってからは
会うこともなくなりましたが……」
「そんなことがあったんか」
「ええ、そうですね」
「そういえば、ヴィヴィオたちは、ハルにゃんみたく、過去の記憶とかよみがえることはあるんか？」
「私は基本的にはないよ」
「私も、あまり思い出すことはありませんね」
「基本的に、とか、あまり、ということは、たまにはあるのでしょうか」
「まれにはあるかな。アインハルトさんとジークさんとの戦いの最中の時から後ぐらいから」
「そうですわね。過去の記憶、といっても、夢のような思い出し方で、アインハルトさんのように
きちんとした言葉に表せるような形では思い出せませんわ」
「そうですか」
「ですけれど、こういう事件が起きるのだとしたら、私も、過去ときちんと向き合わなければならない。
そう思いますわ」
「エミーちゃんほど殊勝な考えじゃないけど、私も、昔何があったのかは純粋に知りたいかな」
「ま、なにはともあれ、ヴィヴィオ、ここは危険地帯なんだろ、安全なところに移動してから
ゆっくり本を読もうぜ」
「そうも行かないんだよ冬美ちゃん。ここの本は禁帯出なんだよ」
「なんだよそりゃ」
「危険地区の本は持ち出し禁止、だから出したところで読まないといけないんだよ」
「あぶなっかしいなぁ」
「そのために全員できたんだろ。あたしら全員がそろってるんだ。冬美、心配するなって」
「……まあ、言わずにおく」
「なんだよ、奥歯にものがはさまったような言い方だな」
「一度あることは二度あると言いたいのでしょうね」
「なんだよ、あれはちょっと油断しただけだって。二度目はねえ」
「まあここでけんかしてもはじまらんやろ。早速読もうやない」
「そうですね、ジークさん」
「ええと……ゼーゲブレヒト及びシュトゥラ滞在時の記録を手記にて残す。
エレミア−あるいはヴィルフリッドもしくはリッド」
「ビンゴやな」
「間違いないですね」
「ええと……。その日、夜盗に襲われた馬車を助けたのが縁の始まり。
現れたのはまだ幼い女の子。
彼女はお礼を言ったが、自分が出られなかったから遅れをとったと言った。
まずは奇妙なことをいう子だと思った。
それから、彼女の紅と翠の瞳に気がついて、その後、彼女の腕のない袖に気がついた。
それにしても、王族、あるいは貴族筋の娘が何故こんな場所にいるのか、どういった子なのか
そのわずかな困惑の合間に、木の上に隠れていた狙撃手がこちらを狙った。
彼女はそれに気づいて矢を蹴返すと、石を蹴って狙撃手を撃ち落とした。
あっけにとられるこちらにかまわず、彼女は賊の捕縛を依頼し、名を名乗った。
彼女の名はオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。
礼儀としてこちらもなのった。 エレミア、旅をしながら学問を修めていると。
こんな出会いが、その後当分続く縁になるとは、このときには夢にも思っていなかった」