めりかるうぃっしゅ
〜ヴィヴィオの弱点はピーマンなの〜
私の名前は高町ヴィヴィオ。ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけどみんなが私を呼ぶときには、ヴィヴィオだよ。
はやておねえちゃんがティアナおねえちゃんと一緒に帰ってきてから
さらに数日が過ぎました。
変態顔芸博士の切り札がエミーちゃんだっていうお話でしたけど、ヴィヴィオには
未だに信じられません。エミーちゃんはヴィヴィオのお友達です。
変態顔芸博士に育てられたら、絶対に性格のゆがんだ眼鏡おばちゃんみたいな
生き物になると思います。
『我が主、はやてさんの話でも、育ての親がスカリエッティだとは限りませんが』
「だけど、顔芸の娘が育てたら絶対性格ねじ曲がるよ〜」
『なのはさんに育てられたら、絶対冥王になるというぐらいの偏見では、我が主』
「そんなことないもん。なのはママは優しくって強くって…優しくって強くって…」
『我が主、優しくて強いで十分です』
「うん、そうだね、ライチェントゥークス」
「ようヴィヴィオ、今日も元気に独り言か？」
「独り言じゃないよ〜携帯電話に録音中だもん」
「あの、ヴィヴィオちゃん、携帯電話に録音するのも独り言だとおもう…」
「おはよ〜月光ちゃん。あ、忘れてた、おはよ、冬美ちゃん」
「おはようヴィヴィオちゃん」
「ったく、なんで毎朝おまえが一番遅いんだよ。すこしは早起きしろっての」
「だって、ヴィヴィオが一番学校から遠いんだもん」
「その分考えて早く出ろよ。大体おまえ、べつに朝はすることないんだろ」
「えっと、朝起きて朝ごはん食べて、歯を磨いて、顔を洗って、制服着て…」
「あたりまえだっての。あたしがいってんのはそういうことじゃなくて
店の手伝いとかしなくていいんだろ」
「うん、それは学校から帰ってからでいいんだよ」
「あたしは、道場の掃除して朝練してから来てるんだぜ。ヴィヴィオだって
早く来ようと思えばこれるんじゃねぇか」
「うう…冬美ちゃんぐらい早起きしたら…これるかも…」
「私も冬美ちゃんほどは早起きしてないよ」
「だからそれぐらい考えろっての。大体パン屋さんは毎朝２時に起きるんだぞ」
「冬美ちゃん、たぶんそれお豆腐屋さん…」
「そうだっけ？でも、パン屋さんは朝早いだろ」
「うん、桃子おばあちゃんも朝は早いよ」
「だったらヴィヴィオもそれぐらい早起きしないと、立派なお菓子屋さんにはなれないぞ」
「うー。今は修行中だもん」
「あたしだって修行中だ」
「あの、冬美ちゃん、ヴィヴィオちゃん、立ち話してると遅れちゃう」
「おっくれっちゃう。おっくれっちゃう」
「三月うさぎかおまえはっ！」
「いつものねた〜」
「…同じ９歳だとはおもえねーな、ったく…」
「冬美ちゃんが大人びてるんだとおもうよ…」
学校〜。
「おはようございます、高町さん、川崎さん、中島さん」
ちょっとだけ説明を付け加えておきます。
高町っていうのがヴィヴィオで、川崎さんっていうのが冬美ちゃんで
中島さんっていうのが月光ちゃんです。
スバルお姉ちゃんと姓は同じです。偶然の一致ですけど
スバルお姉ちゃんの先祖が第９７管理外世界からミッドチルダに移住してたそうですから
もしかしたら、月光ちゃんとスバルお姉ちゃんは遠い親戚かもしれません。
あと、毎回言わないとわからないかもしれないけど、月光とかいてアカリちゃんです。
ゲッコウちゃんじゃありません。
「おはよーエミーちゃん」
「おはよ、エミー」
「おはようございます、エミーさん」
「おはよう。昨日はよく眠れましたか」
「エミーちゃん、なんだか寝不足みたいな言い方〜」
「変に語尾をのばすなよ」
「う゛ー。ヴィヴィオ語だもん」
「日本語使え！」
「ま、まあ…ヴィヴィオちゃん帰国子女だからなまりがあるのかも」
「月光ちゃんフォローになってないよそれ」
「ふふ。毎日いろんなレッスンがあると大変なんです」
「レッスンって、ピアノとかそんなの？」
「ええ、そういったこともありますね」
「ピアノって毎日練習しないとすぐ下手になるんでしょ」
「何事も、毎日の練習が必要ではないかしら」
「お菓子作りも毎日やってないと勘が鈍るって桃子おばあちゃんもいってたよ〜
だから、ヴィヴィオもお菓子は最低一個毎日作ってるんだ」
「へー。こんど食わせろよ」
「こんどと言わず今でも大丈夫だよ。持ってきたんだ」
「お菓子を学校に持ってきていいの？」
「お弁当のデザートはいいって士郎おじいちゃんが言ってたから大丈夫〜」
「いや、そこは先生に聞くべきだろ」
「じょぶじょぶ。屋上で食べたらわからないよ☆」
「わからなければいいというものでもありませんよ。私が先生に聞いてみましょう」
「え？エミーちゃん、いいの？」
「ええ、私も今日はちょっとお菓子を持ってきましたから」
「エミーちゃんもお菓子作りするの？」
「私が作ったわけではなくて、母が頼んで作ってきてもらった物ですけどね」
「頼んで作ってきてもらったって、本職のパティシエさんに頼んだんだ」
「ええ、そうみたいです」
「わー、たのしみ〜。お昼が待ち遠しい〜」
きーんこーんかーんこーん。
『ホームルームが始まります、我が主』
「ホームルームが始まるからまた休憩時間にね」
「ええ、また休憩時間に」
昼休憩〜。
『いい加減、一言で情景説明を終わらせるのはやめませんか我が主』
「長々やっても、読者がつかれるだけだよ〜」
待ちに待った昼休憩です。特別に二段重ねのお弁当箱には
下に今日のお昼御飯のサンドイッチと、ヴィヴィオがつくったクッキーが入ってます。
クッキーの方はみんなに配るぶんですから、ちゃんと小分けしてあります。
「へー、冬美ちゃんのお弁当って思ってたよりかわいい」
「み、みんなよ。見たからってべつにやらんからな」
「無理に隠さなくてもいいのに…」
「見られて困るようなお弁当じゃないよ冬美ちゃん」
「そんなにいうならゲッコウも見せろよ」
「私は隠してないよ」
冬美ちゃんのお弁当は、卵そぼろと挽肉のそぼろとケチャップで絵が描いてある
そぼろ御飯です。お野菜なんかもつかって、かわいらしいねこさんの絵になってます。
「いや、猫じゃなくて虎だから、一応は」
「かわいらしくってねこさんみたい〜」
「ヴィヴィオちゃんのが一番スパルタンだよね」
「ただのサンドウィッチだよ」
「ゲッコウのは、…なんかコンビニ弁当みたい」
「御飯だけママが入れてくれて、あとは冷凍総菜の詰め合わせだから」
「冷凍総菜って大丈夫？ガリウム砒素とか入ってない？」
「ヴィヴィオ、おまえどんな間違え方してるんだよ」
「えー、でも、砒素って毒なんでしょ？」
「ガリウム砒素は半導体の材料。農薬じゃないっての」
「農薬っていうと…ホスゲンとかダブンとかソマンとかVXとか…」
「アウシュビッツでも開く気かよ…」
「えと、違うの？」
「むしろどこでそういう知識を覚えてくるのかが不思議ですね」
「えっとね、スバルお姉ちゃんやティアナお姉ちゃんが教えてくれるんだよ。
実戦救助隊だと、こういう有毒ガスがあることもあるから、あらかじめ防護しておくんだって」
「スバルさんって、そんな危険な所で救助活動してるのか。
やっぱりスバルさんってすごいんだな」
「そんなにすごいことなの？」
「そんなのが充満してたら間違いなく戦場じゃないか」
「亜硫酸ガスとか高濃度窒素酸化物のある所にも救助に行くことがあるんだって。
凶悪次元犯罪者はいろんな武器を持ってるから、救護隊もいろんな防護が必要なんだよ」
「…どんな対策をとってるのか、想像もつかない…」
「”危害を加える存在”かどうかを魔法的に判断して遮断するバリアがあるから
これで身の安全を守るんだってなのはママが教えてくれたよ。
そういうバリアの作れる人が、レスキュー隊で、作れない人が一般部隊なんだって」
「スバルさんも、ティアナさんも、魔法使いなのですか」
「えと…エミーちゃんは友達だから話すけど、みんなには内緒にね」
「ええ、いいですわ。お話ししても、誰も信じてくれませんものね」
「えへ、そうだよね、エミーちゃん」
「あら、私のお弁当には誰も興味をもたないんですのね」
「ヴィヴィオちゃんと同じで説明が終わっちゃう」
「そうですね」
そうなんです。エミーちゃんのお弁当もサンドイッチです。
ヴィヴィオとおそろい〜。
「お弁当を食べたらデザートの時間〜。今日はマンゴープリンを作ってきたんだよ〜」
「マンゴープリンか。 また混ぜると出来るって奴なんだろ」
「そんなことないもん。ちゃんと本物のマンゴーと卵から作ったんだよ〜」
「へー、まるでお菓子屋さんみたいだな」
「でしょでしょ。はい、エミーちゃんの分に、月光ちゃんの分に、冬美ちゃんの分」
「ヴィヴィオの分は？」
「えと、入りきらなかったからヴィヴィオの分がないんだよ」
「そうなの？じゃ、私が半分あげる」
「いいよ、遠慮せずに食べて月光ちゃん」
「作ったんなら責任持って毒味ぐらいしろよヴィヴィオ。ほれ、口明けろ」
「あーん…ぱく」
「…どうだ？心拍数が上がったりしないか？動悸は？目が充血したりしないか？」
「…う・うう・ううううう…」
「ヴィヴィオちゃん…」
「おいしい。ヴィヴィオもこんなプリンが作れるんだぁ」
『今朝自分の分を試食して持ってきたから自分のがないのではありませんか。
今知ったような演技をしなくてもよろしいのでは、我が主』
えへへ。ライチェントゥークスの言うとおりです。
味見をしてあるから大丈夫です。
『お昼までにいたんでなければですね、我が主』
「誰の味方だよライチェントゥークスは…」
「ヴィヴィオちゃんおいしいよこれ」
「ほんと、ありがと月光ちゃん」
「確かに、ヴィヴィオが作ったにしてはまともだな」
「えー、ちゃんと桃子おばあちゃんの言ったとおりに作ったんだよ〜」
聖王の特殊能力、一度覚えた技は忘れないのおかげで、桃子おばあちゃんの作り方を
覚えたら全く同じようには出来るんです。
だけど、材料の方が全く同じではないから、あまり意味はありません。
毎日材料に合わせて、微妙に加減を変える。これは経験を積まないと出来ないことなんです。
「まるでプロのパティシエが作ったみたいね」
「えへ、ありがとエミーちゃん」
「私もみなさんのために用意してもらったお菓子がありますよ、遠慮せずにどうぞ」
「ほんと、ありがとエミーちゃん」
「はい」
「………」
「ん？どうしたヴィヴィオ。なに凍り付いてるんだよ」
「エミーちゃん、これピーマンのスナック？」
「ええ、そうみたいですね。あとこちらがピーマンのクッキーで
こちらがピーマンの砂糖漬け。高町さんがピーマンが苦手だというので
ピーマンが嫌いな人でもおいしく食べられるようなピーマンのお菓子を
作ってもらえるように母が依頼して作ったんですよ」
「…………」
「全然苦くない、よくできてるね、これ」
「・・・・・・・」
『我が主、どうなさいました？』
「うわーーーん、わー」
「ちょ、ヴィヴィオ、何やってるんだよ」
「ピーマンが、ぴーまんがー」
「だから、これはピーマンだって思っちゃだめだってヴィヴィオちゃん」
「あらあら、なにか悪いことをしましたか」
「エミーはわるくねーよ。悪いのはヴィヴィオだろ。ほら、食う前に嫌がるなって」
「わーん、わーんわーーーーー」
『我が主、すこしは落ちついてください。無理に食べろとは言ってないわけですし…』
「わーん、ピーマン嫌い、ピーマンやだぁー」
・・・・・・・・
どうやら、我が主は完全に幼児退行してしまったようです。
我が主とは一年以上のつきあいになるのですが、なぜここまで
ピーマンを毛嫌いするのか、私も理由はわかりません。
ですが、今は解説をするどころではない事は、私にもわかります。
幼児退行を起こして泣きわめいてますが、とりあえず、我が主は今日も元気ではあるようです。
まだ続きますよ。
我が主が泣きわめいているうちに、他の状況の説明を簡単に済ませておきましょう。
まずは、脱獄しなかったナンバーズの方から参りましょう。
「ちわー、お昼っスよー」
「すまんな、ウェンディ」
「ったく、なーんで廃棄都市を壊しまくらなきゃなんねーんだよ。
いくらでも地面なんてあるんだから、ほっときゃいいじゃねーか」
「仕方ないッス。あたしらが暴れまくったせいで、廃棄都市も区画整理することに
なったんスよ」
「なぜ火薬を使わない」
「管理局では物理兵器使用が禁止だオットー」
「だからといって、我々のISで破壊するのも非効率だディード」
「姉のISは大規模破壊にこそ向く」
「安全確認はセインさんにお任せ〜」
「ったく、物をぶっ壊すならハチマキとか機動六課の連中の方が
よっぽど向いてるっての」
「民間人に被害を出さない破壊」
「あはは、言い得て妙ッスね」
「笑い事ではない。ウーノ達が脱獄したという話を聞いた。
我々がいつまで外に出られるかもわからないぞ」
「また管理施設に逆戻りッスかぁ。ドクターも意地張らずに協力すれば良かったっスよ」
「クアットロは何かまだ考えがあるらしいな。管理局もドゥーエを殺らなければ
まだ説得の方法もあった」
「ボク達と違って、直接会って知ってると、また違った想いがあるんでしょうね」
「殺ったのはゼスト。管理局とは違うだろう」
「…いやな予感がするな」
「チンク姉どうしたんだよ。管理局だって、一度捕まえた奴に好き勝手やらせるほど
とぼけてないだろ。…そりゃ、かなり甘い連中だとはおもうけど」
「そういう意味ではない。何か、我々が見落としていることがありそうだ」
「ドクターはウーノ姉やクアットロと、ボク達とは一線を引いて接してたね」
「だから姉もドクターの意図については知らないことが多い。
姉がおまえ達の戦いに参加できていれば、あの戦いは勝てたはずだ」
「あー、そりゃあたしも思うッス。けど、修理が間に合わないんじゃ仕方ないッスよ」
「間に合わないように調整すれば、間に合うわけがない」
「どういう意味ッスか？」
ここで、一旦状況を説明するために軌道監獄に話を飛ばします。
スカリエッティを尋問するナカジマ三佐の話です。
クロスミラージュよりティアナ執務官補佐が所持しているデータの転送を受けてます。
「おまえさん。そろそろ本当の事を話したらどうだい？」
「本当のこと？そんなことは全部研究室にあっただろう？
プレシアは私の成果を元にプロジェクトFを成功させたじゃないか」
「ま、おまいさんの研究成果は管理局がおいしく頂いたみたいだな」
「ついでにうちの娘もおいしくいただいたみたいだな」
「妙な言い方はよせよ。あいつらだって人間だぜ。
社会復帰させようと思ったら、今から教えておくこともあるわな」
「手取り足取りか」
「そいつはギンガがやってるよ」
「そうか。それで、チンクは目を入れる気になってくれたかね」
「いや、今のままでいいそうだ」
「そうか…それは残念だ。せっかく新しい目が出来たんだよ」
「ねこみみ帽子とセットになってビームが出る目はいらんそうだ」
「まったく、親の言うことに反抗して。育て方を間違ったようだな」
「いや、それは正しく育てたと言うべきだろう」
「それで、なんのはなしだったかな？」
「だから、おまえは一体何を考えてゆりかごを復活させたんだ。
なんのためにうちの娘をさらおうとした？わからないことだらけだ」
「それが楽しそうだったからじゃないか。
君たちの艦隊が、あと３０分遅く来てくれれば、楽しいショーが見られたんだよ」
「わざわざ間に合うように、ご大層に時間調整までしていう台詞でもないな。
研究室の自爆システムも、ありゃなんだ？解除してくれといわんばかりじゃないか」
「作ったのはクアットロだからな。私も知らないよ」
「そうかい。ま、それはいい」
「尋問は終わりかね」
「いや、始まってもないね。なんでそう強情を張るんだ？
今の管理局の提案は、レジアスや評議会の提案と何も変わってないんだろう？」
「ああ、変わってないさ。変わらない以上、私の答えも変わらないね」
「一体何がのぞみなんだ？そもそも、あのデモンストレーションの後、一体何を期待してた？」
「さてね。私は忘れっぽくてね、あの当時何を考えてたかなんて忘れたよ」
「そうか…だが、おまえが意地を張るのはいいが、おまえの娘達まで強情を張らせることもあるまいよ」
「私は何も強要したつもりはないよ。取り扱いが悪かっただけではないかな。
やはり朝は御飯と味噌汁がいいね。トーストにコーヒーでは気分が盛り上がらないじゃないか」
「なんの気分だ。…それで、何も話す気にはならないのか」
「ああ、今日はすこしのらないんだ。アイディアはあるんだが、発表する機会もなくてね」
「協力すれば研究の自由は保障するらしいぞ」
「人間がつかえんだろう。つまらんな」
「そういう実験がやりたかったのかい」
「いや、人間を使う実験がしたいだけなら、何も地上本部を襲撃することもないさ」
「じゃあ一体何を考えてたんだ？」
「昨日考えてたことは今日忘れているし、明日考えるだろう事は今日予測するなんて無理だね」
「それじゃあ研究にならんだろう」
「適当な思いつきもウーノがまとめてくれるさ」
「そのウーノはドクターの指示通りと言っているぞ」
「そりゃそうさ。指示してるのは私だからね」
「適当な思いつきをまとまった指令に変換か。ずいぶんと酷い仕事をやらせたもんだな」
「わかるのかい？」
「中間管理職なんてそんなもんだ」
「宮仕えは大変だねぇ」
「おまえがちょろっと自供してくれれば、楽になるさ」
「苦労も給料のうちじゃないかね」
「おまえが言うな」
「ざっとドクターはこんな感じのようだ」
「チンク姉、ドクター、ほんと何考えてるんスかね。
ねこみみ帽子かぶってビームが出るキャラはハンマー娘ッスよ」
「いや、中の人ネタはいい。みんな人のことが言えた立場ではない」
「ボクもそう思うよ」
「気にすることはねーよ」
「ノーヴェ、おまえがいうな」
総つっこみが入ったところで、そろそろ視点を
ヴォルケンリッターの今にうつしてみましょう。
「今のところ異常はない」
「こっちも異常はねーよ」
「そうか」
「シグナム。すこし替わりましょうか」
「ああ、シャマル、頼む」
ここは、軌道監獄の重犯罪者隔離地区です。
管理局で重犯罪者に指定されるのは、刑期より寿命の方が短いと見なされる人たち。
簡単に言うと実質終身刑の囚人ですね。
裁判所と検察と警察と、実は弁護団をも兼ねている管理局では
取り調べ中の拘置と有罪確定後の収監とにあまり大きな差がありません。
管理局態勢に批判的な人たちが、戦時体制と呼ぶ理由です。
実際、世界の一つや二つ吹き飛びかねない大事件が毎年複数発生しているのですから
戦時体制になるのも無理のない話です。
「シグナムもあんま根を詰めないほうがいいぜ。
どうせあたしらの出番は、なんか起きてからだ」
「主はやての希望は、いずれ救出に来るだろうナンバーズを、ここで捕獲することだ。
そのためには、気を緩めるわけにはいかんな」
「それで、想定される侵入ルートや襲撃計画の練り直しか。
ま、向こうは幻術使いに変装の名人、普通にやったら、むしろ
警備しきれねーよな」
「その点、私たちなら、はやてちゃんと特殊なリンクがありますものね」
「そうだ。主を監視担当として、我々が警備を担当する。
これなら幻術も変装も通用はしない」
「だが、別な方法ならある」
「別な方法？」
「ティアナちゃんもはやてちゃんも、もっともありそうな脱獄方法として
正面からの強襲を考えてます」
「正面からねえ。そんなことすりゃ、あたしらだけじゃなくて、軌道監獄中の警備員を敵に回すぜ」
「だが、その応援の警備員の中に、ドゥーエやクアットロがいても、見分けがつかない」
「…あたしらだけでやるしかないってことか」
「そうだ。だから応援は全く来ない。我々４人と主はやて以外は
すべて敵と見なして排除する。これが主はやての指示だ」
「わかってるけどよ、かなり不利な条件じゃないか、それ」
「クラールヴィントが、何か起きる前に見つけてくれるといいんだけど」
「シルバーカーテンとの正面対決になるな」
「ちょっとだけ、有利な要素もある。
お互い、人数は同じだ」
「戦闘要員は３番トーレと７番セッテのみ。１番ウーノは全体指揮でしょうから
前線に来るのは、攪乱要員としての４番クアットロと、脱獄後の逃走支援の
２番ドゥーエと考えてよいでしょうね」
「…とりあえず、シグナムはやすんどけよ。なんかあったら、即全力がいるぜ。
アギトはつれてこれねーんだから、ユニゾン抜きの戦闘になるぜ」
「わかっている」
第一級警戒態勢が全軌道監獄に発動されます。
お約束ですね。ナンバーズの襲撃です。
「な！一体どこから」
「クラールヴィント、走査開始…………………」
「どっちだ、シャマル」
「みつけた！軽犯罪棟より高速で重犯罪者隔離地区に２名侵入中」
「２名か。…ヴィータは待機しろ。行くぞ、ザフィーラ」
「心得た」
「あたしは留守番かよ」
「これが陽動ではないともかぎらん。すぐに対処して戻る」
「本命だったらどうするよ」
「刺し違えてでも、阻止する。安心しろ」
「あんしんできねーよ。けど…頼んだぜ」
「任せておけ」
「！…侵入者分裂、全部で８名！？４方向より侵入中」
「少なくとも２名、クアットロ込みと見るべきだな」
「どうします、途中で阻止は…無理ですよね」
「スカリエッティの部屋の前で待機する」
「ええ、わかったわ」
「…行くぜザフィーラ」
ここは、スカリエッティの独房前です。
重犯罪者収容のための独房とはいえ、より奥に配置されているという以外
特に他の犯罪者収容施設と変わったところはありません。
セッテのスローターアームをぶつけられたら、壁を破壊されることは間違いないでしょう。
緊急事態用のAMFも、ここには配置されてません。
攻撃を仕掛けてくる相手が、物理兵器を用いている可能性が高いからです。
むしろ、魔法戦に有利なようにすることが、魔導師しか戦力のない
管理局にとっては有効な脱獄対策です。
「…どうだ、シャマル」
「…侵入者、８名より３２名に増大。どうやら、何かを探し回っているようです」
「クラールヴィントに匹敵する走査デバイスは持っていないようだな。
上手く行けば、逆にこちらが不意打ちを掛けることができるようだ」
「………来ます！」
「いくぜアイゼン。先手必勝！」
「ヤヴォール」
「レヴァンティン！」
左右から挟み撃ちにこようとする、トーレとセッテに向けて
グラーフアイゼンの誘導弾と、シュトゥルムファルケンモードのレヴァンティンの攻撃が放たれます。
どうやら、存在を認識されているとは思っていなかったようで、出会い頭に直撃を受けてます。
「どうだ」
「直撃だな」
「残念だけど、今のはどちらも幻影ね。
侵入者の人数は１００人以上にふくれあがってきたわ」
「ふむ…」
「また来ます！」
「いいだろう、もう一度攻撃するまでだ」
「持久戦かよ…いくぜ」
同じ事の繰り返しです。
なんども押し寄せる幻影をその都度撃破はしていますが、なかなか本命が捕まりません。
「さすがに、これだけ攻撃を続けていれば、ここがスカリエッティの
独房だということはわかるだろう」
「そうですね…そろそろ、来てもいいころなんですけど…」
「シャマル。この独房の背後には、誰も来ないか？」
「え、ええ…誰も来てないみたいですけど…」
「！シグナム、独房の扉を破壊しろ」
「どうしたザフィーラ」
「簡単な事を忘れていた。なにも扉を開けなければ出られないわけではない」
「それは想定していたはずだ。近づけばクラールヴィントに反応がないはずがない。
クアットロの幻影に対処するためのプログラムは組み込んである」
「組み込んであることは、向こうも想定済みだ。もし、それに対処する手段を持っていたらどうだ？」
「！」
シグナムが扉を切り開きます。
そこには、切り裂かれた床がありました。
もちろん、スカリエッティの姿は影も形もありません。
「…みんな、追うぞ」
「まてよシグナム」
「どういうことだ、ヴィータ」
「まさかねーとはおもうんだけどよ。アイゼン、ギガントフォーム！」
ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォームに変えます。
こんな狭い場所でギガントフォームを使えば、それだけで壁をぶちこわします。
「ぶっとばせ！」
強引にスカリエッティの入っていた独房を含む回り中の独房を粉砕します。
誰もいないからいいようなものの、中に誰かいたら一緒に死んでいたことは間違いないでしょう。
「ちぇ。やっぱ逃げた後か。逃げた振りしてるだけかと思ったのによ」
「中にスカリエッティがいたら死んでいるぞ」
「心配すんな。非殺傷設定にしてたよ」
デバイスが非殺傷でも、吹っ飛ばされて飛んでくるガレキに当たるだけで軽く死ねます。
「穴を超えて追うぞ」
「ああ、そのほうが良さそうだ」
穴は三層。そこから切り裂かれた扉、あとは廊下です。
「クラールヴィントの反応は？」
「…完全に消滅」
「こちらはやて。シグナム、状況どうや？」
「申し訳ありません主はやて。どうやら、逃げられたようです」
「そうやろな。今、本局で大規模転送装置の使用を確認したわ。
民間輸送船の荷下ろし用転送装置をつこうたみたいや。
重犯罪棟に侵入したのはトーレのみ。セッテとクアットロが軽犯罪棟で
トーレの侵入支援、ドゥーエが民間輸送船の転送システムの乗っ取りで
全体指揮はいつも通りのウーノや。ま、ここまでお互い予定通りやろな」
「お互いですか、主はやて」
「評議会の中枢に侵入してたドゥーエやで。管理局のどの施設の情報もみな押さえてあるやろ。
あれから３年経ったいうても、軌道監獄の構造なんか急に変えられるわけもないわ。
みんななら、あるいは阻止できるか思うたけど、やられたなあ。さすがに
実戦経験豊富な戦闘機人は手強いわ」
「ですが、スカリエッティの拘置場所まではわからなかったはずです」
「ありうる襲撃パターンの一つに、シグナムが挙げてたやろ。
幻影で陽動をしかけて、攻撃を受けた場所からスカリエッティの位置を推測するいうやつ。
あれをやられたんやろな。まあ、シグナムの責任やない。
考えられること全部に対処するのは、無理や」
「ですが、逃がしてしまったことは事実です」
「仕方ない。ここまでずっとスカリエッティのターンやったんや。
けど、こっちもただ後手後手でやられてるだけやないんよ。
これでこっちの負担要因は完全に消えた。
今管理局の無人探査システムは、カリムの予言を元にスカリエッティが
行動を起こしそうな場所の監視はやってる。
最重要ポイントにはなのはちゃん置いてるし、その後最後の仕上げに
取りかかりそうな場所はフェイトちゃんが事前捜査にあたってる。
管理局艦隊も哨戒を密にしてくれてるし、なにより
……ヴォルケンリッターは、守りにつくより、攻める方が性に合うやろ」
「主はやて…」
「そういうわけで、はよう本局に戻ってきてな。
こんどこそ、スカリエッティの欲望を、粉砕するんや」
「はい、直ちに本局に向かいます」
「ちぇ、失敗まで想定の範囲内かよ」
「ヴィータちゃん、気持ちを切り替えましょう」
「もはやここには用事がないな」
「…やっぱ、ここぶっこわしたの、始末書書かなきゃいけないのかな」
「さあな、主はやてに聞いてみたらどうだ」
どうやら、我が主ヴィヴィオにとっての危機は、そこまで近づいているようです。
「わーん、ピーマンが、ピーマンが…」
我が主は、それどころじゃないようですけれど。