『ここが自分の家です、我が主』
「わかってるけど、ママと一緒って気持ちにならないんだよ」
「はやてちゃん、ヴィヴィオも一緒に聞いてもらった方がいいはなしなの？」
「せや、なのはちゃん。ヴィヴィオに関係する大事な話や。
　なにせ、ヴィヴィオも立場上は管理局の嘱託魔導師やさかいな」
「ショクタクマドウシって？」
「簡単にいうたら、…９歳のころのなのはちゃんみたいなものや。
　管理局員やないけど、管理局のお手伝いをする魔法使いのことなんよ」
「なのはママとおそろい～」
「で、現状報告とこれからの検討なんやけど、現状報告はティアナに任せるわ。
　関係者からの事情聴取もティアナがしたことやしな」
「では、まずナンバーズ脱獄事件についての概要から説明します。
　ナンバーズ脱獄ですが、まず４番クアットロが軌道監獄より外部の手引きにより脱走。
　脱獄後少なくとも１０時間以内に、１番ウーノ、３番トーレ、７番セッテの３名が
　クアットロの介入により脱獄、その後の行方は全く不明です。
　脱獄の状況についてわかっている事についてはレポートにまとめてあるので
　目を通してください。大まかに言えば、管理局員の一部が脱獄の手引きを行ったことが確実です。
　また、１番３番７番の脱獄では、フェイト執務官の偽物がかかわっていることがわかってます。
　脱獄事件については以上です。何かご質問は？」
「私の偽物が出たというのはどういうこと？」
「はい、クアットロ脱獄についての事情聴取を行いたい、というフェイト執務官からの
　要請で１番３番７番が長距離転送で本局に集められてます。
　転送後、転送室からそのまま異世界へ再転送され、そのまま行方不明になっているということですね」
「でも、本局の転送室は特別な許可がないと利用できないよね。フェイトちゃんでも無理でしょ」
「あそこの使用を指示出来るのは提督クラスでないと無理や。
　せやけど、オペレーターが提督なわけやないからな」
「どういう事？」
「それは私が説明するわ。この脱獄事件の管理局側関係者が、故意に
　転送装置を操作して脱獄させたことは確実なんや。
　せやけど、理由がわからへん。肝心な所になると
　”すべては聖王のために”としか答えへんからな」
「つまり、関係者が全員聖王教会の会員ってこと？」
「そう話が単純ならええんやけど、聖王教徒はなにも聖王教会にかぎらへん。
　聖王教会系統のカルト教団なんか、それこそ星の数ほどあるし
　管理局は慢性人手不足やから、いちいち局員の思想信条までチェックしてられへん。
　けど、今回のはただそれだけやなさそうなんや」
「一体どういう事？」
「ティアナ、説明バトンタッチ」
「わかりました。…事の重大性から、この事件については
　アコース査察官のレアスキルによる思考調査が併用されました。
　通常の捜査であればこれによって少なくとも動機は解明できるのですが
　今回は、アコース調査官にも、動機を解明することが出来ませんでした。
　何をしたかについては、正確に証言されるのですが、肝心の部分にはいると
　思考内容そのものが”すべては聖王のために”で停止します」
「それってどういうこと？」
「なのはちゃんがしらんのは無理ないわ。カルト教団でよくやる洗脳の一種やから
　フェイトちゃんは知ってると思うけど」
「特定の鍵によって発動する催眠術の一種だね。
　だけど、その種の洗脳だったら、管理局の定期検診でわかるはず。
　重罪犯罪者を扱うオペレーターは、任命時にもチェックされる」
「せや。普通なら考えられへん。けどその調査官そのものが洗脳されてたらどうなるやろな」
「そこまで疑うの？」
「そこまで疑わざるを得ない状況ね。なのはさん。
　あらかじめ完全な計画に沿った脱獄計画が存在したと仮定するほかないわ。
　それも、ナンバーズが逮捕される以前から準備されていないかぎり不可能な計画が」
「そうだとすると、スカリエッティ一味はあらかじめ逮捕されることを知っていたことになる。
　確かにレジアス中将や評議会がスカリエッティ一味のスポンサーだった事実はあるが
　彼らは、スカリエッティ一味が逮捕されることは想定していなかったはずだ」
「せや、この事件については、私も捜査に携わってるからよくわかってる。
　レジアス中将の計画は、スカリエッティ一味を逮捕したあとで協力者に仕立てることやし
　評議会の計画は、ゆりかごによる強力な管理局システムの構築や。
　どっちもスカリエッティの逮捕を想定するようなことやあらへん。
　けどな、わたしら、スカリエッティ当人の目的については、なんもしらへん。
　やったことはわかるけど、それぞれが矛盾しまくってて、なんか
　合理的な目的があったようにはとてもみえんのよ」
「私もスカリエッティの尋問はしたけど、尋問するたびに
　違ったことを答えてくるから、結局なにが言いたいのかわからなかった」
「そうですねフェイトさん。ですから、報告書ではスカリエッティについては
　多重人格、ないし、精神分裂、少なくとも合目的的思考が出来ないとしか
　解釈できないとなっていたはずです」
「とにかく裁判のやりようもない水準やからなあ。
　けど、ずっとわたしにはそれが引っかかってたんよ。
　スカリエッティがまともな思考ができへん、ただの変態科学者やとして片付けたとして
　ウーノが同じように合理的な目的を持った思考ができん、と仮定するんは
　明らかにおかしいわ。
　ナンバーズ、ちゅうか、スカリエッティ一味の全体指揮を執ってるんは
　スカリエッティやのうて、ウーノやからな。
　スカリエッティが支離滅裂な欲望の持ち主やったとしても
　ウーノが支離滅裂な指示をださなあかん理由にはちっともならんのよ」
「……うー、全然わかんないよー」
『わからなければとりあえず黙って座っていてください我が主。
　なのはさん達は大事な話の最中です。』
「それならヴィヴィオはいなくてもいいのに～」
『退屈な話を黙って聞くのも、勉強のうちですよ、我が主』
「悪かったなあヴィヴィオ。退屈な話ばっかりして。
　けど、ここらから、ヴィヴィオにも直接関係ある話になるんよ」
「直接関係あるってどういうこと？」
「一旦脱獄事件の話は棚上げにして、ヴィヴィオが体験している不可思議な現象に
　ついての話に切り替えるわ。
　ヴィヴィオ、魔法つこうてたたかわなあかん相手に遭遇したのは何回や？」
「うーんとね、エミーちゃんを助けるときと、スバルおねえちゃんが来た時に
　ガジェットを壊したときの２回だけだよ」
「そうやったな。ガジェット３型相手のときと、謎の婦警さんが相手のときやな」
「うん☆」
「あと、最近友達出来たんやて？」
「うん、エミーちゃんっていうんだよ。美人さんで頭がよくって
　体育の成績も優秀なんだよ」
「ユーノそっくりの目をしてるいうてたなあ」
「うん。ユーノパパみたいに両目が透き通る緑色なの。
　ヴィヴィオの片眼もそんな風かな」
「そうやな。…聖王の家系がみなオッドアイなわけやないからな」
「…えっと…」
「結論先にいうてしまうわ。
　間違いなくエミー＝シュミットは聖王のクローンの１人や。
　ヴィヴィオの仲間やな」
「ちょっとまってはやてちゃん。聖王のクローンって、成功例はヴィヴィオだけなんじゃない？」
「聖王のクローンいうても、普通のカルト教団が作ってるんは
　プロジェクトFもどきで、記憶を移植するタイプや。
　その手のクローンの成功例は一つ、ヴィヴィオだけや。
　もっともヴィヴィオの場合も、成功例っちゅう言い方が出来るかどうかは微妙やな。
　一体だれの記憶を移植したんか全然わからへん。むしろ戦闘機人作りの方に近いわ。
　けど、エミーは違うんや。ほんまのクローン、なんも手を加えてへん。
　たぶん、聖王の遺伝子が盗まれた直後に製造されたんちゃうか？年齢的にそうなるわ」
「ヴィヴィオと同い年～」
「技術的はよりプリミティブだってこと？」
「技術的にはな。けど、より自然な形で作られた、っちゅう言い方もあるんよ」
「あ…」
「…これと、ライチェントゥークスが集めてくれたヴィヴィオ関係の
　現象の情報に、今回のナンバーズ脱獄、これを総合して考えると
　おぼろげながら、事件の全体像が見えてくる…ティアナ、おおざっぱに説明して」
「おおざっぱにですか。…おおざっぱに言うと、JS事件は始まりにすぎなかったということです。
　そして、JS事件の結末自体が、些細な出入りはあるにせよ
　スカリエッティの計画通りに進行したと判断してよいでしょう。
　言い換えるなら、機動六課、むしろ管理局、正直に言うなら我々は
　JS事件について、致命的な誤解をしていたということです」
「致命的な誤解…ゆりかごを軌道に乗せることがスカリエッティの目的ではなかったということ？」
「はい。それが致命的な誤解になりました。なぜ、スカリエッティは
　自分のスポンサーを皆殺しにする必要があったのか。
　なぜスカリエッティは自ら戦力分散の愚を犯したのか。
　なぜスカリエッティはわざわざヴィヴィオがゆりかごにいると教えたのか。
　ゆりかごがスカリエッティの本命だと考える限り、合理的な説明が見あたらなかったんです。
　エミー＝シュミットの存在と、謎の婦警の存在を結びつけることが出来るなら
　この問題は簡単に解決しますが」
「…なんとなく、わかってきたよ」
「なのはちゃんは見えてきたか？」
「見えたよ。…だけど、本当にスカリエッティがそこまで考えてたのかな」
「考えてた。とするよりほか、説明つかんわ。
　ヴィヴィオに話した言葉が本当の鍵やったんや。
　スカリエッティの目的は、あくまで聖王の復活や。
　ヴィヴィオの誘拐も、ゆりかごの発掘も、レリック集めもナンバーズ作成も
　全部が全部、聖王の復活が目的やったと考えれば、一応合理的な説明はつく」
「はやておねえちゃん。でも、それだと、ゆりかごを壊されたことの説明つかないよ。
　ヴィータお姉ちゃんとなのはママがヴィヴィオを助けてくれたんだよ」
「そうや。ヴィヴィオはヴィータとなのはちゃんが助けたなぁ。
　後でスバルとティアナにも世話になったし。
　けど、スカリエッティの目的が、ゆりかごの破壊にあったとしたらどうやろな」
「ゆりかごの破壊？まさか」
「名前を考えてみ？ゆりかごやで。一生を聖王がそこで過ごすんやったら
　聖王の家ではあっても、ゆりかごとはいわんわな」
「……ゆりかごから出た後が本当の聖王？」
「むしろ、ヴィヴィオを被験者にしての、聖王のデータ収集が目的やったと考えるべきやろな。
　ゆりかごは確実に破壊させるために、わざと手薄にしてあったんや。
　自爆システム発動も予定どおりやろ。むしろ、ナンバーズが生き残ったのが
　スカリエッティの誤算といえるかもしれへんわ。なにしろ、スカリエッティの本命は
　全然別な場所。第９７管理外世界で普通に成長してたんやから」
「だけど、スカリエッティが死んだら、その先はどうするつもりだったの。
　ナンバーズの誰にもスカリエッティクローン発生なんて起きないことは確認済みなんでしょ」
「確認済みや。けどなヴィヴィオ。ドゥーエの本物がどこにおるか、わたしら全然しらんのよ。
　破壊されたのが本物のドゥーエやいうて、誰にわかるんや。
　ナンバーズがナンバーの数ぴったりかどうかもわからへん。
　ギンガとスバルはどっちもタイプ０や。タイプ２が複数おらん保証はどこにもない」
「…囮用のタイプ２が破壊されてるころ、本命のタイプ２がここで
　聖王のクローンを育ててた、ちゅうわけや。
　管理局全体の目がミッドチルダに注がれ、スカリエッティが隔離されてたら
　誰も他に聖王クローンがいるなんておもわんわな。カルト教団が作ってる
　クローンは気にするやろうけど、聖王教徒のおらん管理外世界なんて手がまわらんわ」
「もし、スカリエッティが死んでいても、そのドゥーエのもとに復活するってわけね」
「そうや。万が一に備えて、いまリィンII達には、スカリエッティの警護に配置してる。
　スカリエッティまで脱獄されたらかなわんし、死なれても同じ結果になりかねんのやからな」
「戦力不足に拍車をかけますけど、仕方のないことです、ご理解ください」
「それで、こっちの調査にはどれだけの人員が回せるの」
「残念なことに、なのはちゃんだけや。逃亡したナンバーズの追跡の方が
　違法でもないクローンの調査よりよっぽど優先されるんよ」
「違法行為じゃない？！」
「どんな遺伝子をつこうても、管理外世界でのクローン技術は不妊治療の一種や。
　プロジェクトFをつこうたら、違法行為で管理局が保護できるし
　スカリエッティの研究施設で作られたんなら、未開世界での実験施設として
　摘発できるんやけど、管理外世界の技術水準に適合した技術をつこうて
　管理外世界の法にのっとって作成されてたら、管理局は法的に手も足もだせへん。
　わかっててもどうしようもないんや」
「違法行為があるかどうかの調査をするだけの人員も割けないってことだね」
「そうや。大変な仕事を回すようになるけど、頼むわ」
「そうだね。はやてちゃんの話だと、ヴィヴィオを守ることと、調査とは
　基本的に同じ事みたいだから、いつもと変わらないっていえば、変わらないかな」
「ヴィヴィオはどうすればいいの～」
「ヴィヴィオちゃんも、いつも通りにしてくれてればええんよ。
　難しいことはライチェントゥークスにいっとくからな」
「うん」
『後で情報をお願いします』

めりかるうぃっしゅ

～はやておねえちゃんは名探偵なの～