私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオだよ。
今日は学校がお休みです。そしてスバルおねえちゃんが
ミッドチルダから遊びに来てくれました。

 

『遊びにではありません。大事な仕事で来られたのです。我が主』

 

じつはそうなんです。遊びに来たというのは世を忍ぶ仮の姿で
本当は、ヴィヴィオが車に轢かれそうになったから、心配して来てくれたんです。

 

『そういう説明でも誤解を招きます。我が主』

 

いいんだよぉ。ヴィヴィオが車に轢かれそうになったからってのはまちがいじゃないよぉ。
ライチェントゥークスは心配性に過ぎるんだから。
きっと、運転手のいない車っていうのも、冬美ちゃんの見間違いだし
そのときライチェントゥークスが聞いた念話の内容だって、どこまでが
本当で、どこまでが冗談なのかわからないよ。

 

『我が主。それは現実逃避ではないでしょうか』

 

「ねえヴィヴィオ。さっきから携帯電話が鳴ってるみたいだけど、どうしたの？」
「う、うん…たぶん、スパムじゃないかな」
「おまえ携帯電話もまともに使えないのかよ。ちゃんとスパムブロックしとけ」
「そうだけど、インフォメーションメールを落とすわけにいかないよぉ」
「インフォメーションなんて、ほとんどスパム同然だろ。
　携帯電話なんてずっとマナーモードにいれときゃ十分」
「冬美ちゃんも極端じゃないかな」
「ゲッコウ、マナーモードにしておかないほうが迷惑だろ」
「月光ちゃんは、アカリちゃんなんだよ」
「ヴィヴィオ、とりあえず自分の世界にひたるな。あたしら無視すんな」
「無視してないもん」
「あーったく、そんなすぐ涙目になるな。泣き虫はうざがられるぞ」
「ううう…好きこのんで泣き虫じゃないもん」
「冬美ちゃん。そんなヴィヴィオにきつくあたらないの」
「は、はいスバルさん」
「ねえ、冬美ちゃん」
「なんだよ月光」
「なんだか、冬美ちゃんって、スバルさんに対する時だけあからさまに態度が違うよね」
「あーその話か。無限ループだから聞くなよ」
「年上に対する礼儀だよね、冬美ちゃん」
「そ、そういうことです、スバルさん…」
「…そういえば、スバルさんって、ヴィヴィオちゃんと、同じところの出身なんですよね」
「うん、そうだよ。ヴィヴィオは、なのはさんが実家に帰るから一緒に帰ってきたけどね」
「スバルさんのいる所って、どんなところなんですか？」
「どんな、っていっても、こことあまり変わらないかな。
　人が一杯いて騒々しい場所だよ」
「騒々しいんですか」
「都会なんてどこも同じでしょ。海鳴市も、ミッドチルダも、ニューヨークだってみんな一緒」
「海鳴市と比べたら、ニューヨークは大都会ですよ」
「でも、おっきいビルが建ってて、車が走り回ってることに代わりはないじゃない」
「スバルさんは、小さいことにこだわらないんだ」
「…スバルおねえちゃん、ちょっと休もうよ」
「なんだヴィヴィオ、もうつかれちゃったのか？」
「そうじゃないけど…」
「ん、そうだね。……」
「どうしたのスバルさん」
「ん。いや、ちょっと、…なのはさんから聞いた場所に来たから」
「なのはさんに聞いた場所？」
「ここが、ユーノパパと、なのはママが出会った場所なんだよ」
「へー。ユーノおじちゃんとなのはおばちゃんの最初の出会いって、海鳴公園なんだ」
「ユーノパパは、外人さんの考古学者で、海鳴市には調査に来てたんだよ」
「あーあ、その話は前にも聞いたっての」
「私は来るのが始めて」
「スバルさんは、何度も海鳴市には来てますよね。でも、初めてなんですか」
「今まで海鳴市を歩くことってなかったから。
　いつも休暇が短くて、翠屋に行って、なのはさんんとお話してたら
　すぐに帰る時間になっちゃってたからね」
「スバルさんのお仕事って、本当に忙しいんですね」
「とにかく、人手不足だからね。災害は人を待ってくれないんだ」
「…そうですよね。スバルさん」
「ねえ、冬美ちゃん。思い切って言っちゃったら」
「なんだよ月光、思い切ってって…」
「ねえ、スバルおねえちゃん。冬美ちゃんが、スバルおねえちゃんに受けて欲しいって」
「…練習につきあってほしいの？」
「そ、それは…つきあっていただければ光栄ですけど…冬美やヴィヴィオを…
　……退屈…させるのも…わるいかなって…」
「冬美ちゃん。本当に二人がそう思ってたら、冬美ちゃんに勧めたりしないよ。
　ひとつ、どれくらい成長したか、見せてもらおうかな」
「あ、ありがとうございますスバルさん」

 

冬美ちゃんは、川崎流格闘術の使い手さんです。
なのはママの実家も、武道をやってるように
冬美ちゃんのおうちも、道場なんです。
どうして、冬美ちゃんがスバルおねえちゃんを知ってるのか
ヴィヴィオはしりません。
だけど、冬美ちゃんがスバルおねえちゃんを尊敬してるのはよく知ってます。
スバルおねえちゃんは、冬美おねえちゃんのあこがれの人なんだよ。

 

ヴィヴィオには、格闘のことはよくわかりません。
今は、スバルおねえちゃんも魔法は全然使わないのでなおさらよくわかりません。
それでも魔法の戦いならすこしはわかるんだよ。

 

『緊急事態です、我が主』
「え？なにが起きてるの、ライチェントゥークス」

 

何が起きてるのか、すぐにわかりました。
野良ガジェット登場です。
JS事件が終わっても、野良ガジェットはなぜかなくなってません。
時々、ガジェットの無人工場が管理局に摘発されているので
スカリエッティが密かに作っていたガジェット工場は他にも
いろいろあるんだろうって、なのはママは言ってました。

 

「…みんな、逃げて」
「逃げてって…」
「ここは私がなんとかする」
「スバルさん、あんな怪物…！」
「ぐずぐずするなっ！」
「は、はいっ！…ヴィヴィオ、月光、逃げるぞ」
「だ、だけどスバルさんは…」
「スバルおねえちゃんなら大丈夫だよ。ね、冬美ちゃん！」
「スバルさんが、あんなものにやられるわけがないだろ」

 

ヴィヴィオと月光ちゃんと、冬美ちゃんは、全速力で走って逃げます。
スバルおねえちゃんは、冬美ちゃんや月光ちゃんが一緒にいると
全力が出せないから、早く現場を離れた方がいいんです。

 

道路脇まで走って逃げると、そこにはパトカーが止まってました。

 

「どうしたの、そんなにあわてて、変質者でもいたのかしら？」

 

美人の婦警さんが、パトカーからおりてきて話しかけて来ました。

 

「あ、あの、変な機械が現れて…」
「まあ、それは大変ね。３人ともパトカーの中に隠れてなさい。
　私は…」
「…だめっ！」
「冬美ちゃん、どうしたの？」
「…あなた、警察官じゃないでしょ。一体、なにものなの」

 

えっと…ヴィヴィオには、なんで冬美ちゃんが急に叫んだのか全然わかりません。
婦警さんは、警察官さんで、悪い人じゃないと思うんです。

 

「ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃん、このパトカー、”海鳴市警察”って書いてあるよ。
　そんな警察、あるわけがないっ！」

 

流石月光ちゃんです。
ヴィヴィオはこんな時、パトカーに書いてある文字まで見てませんでした。
警察は都道府県単位で構成されてますから、市警察なんてあるわけがないんです。
こんな初歩的な間違いをする人達は…

 

「なかなか賢いお子様達ね。だけど、おとなしくこっちに来てもらうわよ。
　そうしないといけない理由が、おねえさんにもいろいろ、あるの」

 

なんだか、急に婦警さんの雰囲気が変わりました。
もしかして、ヴィヴィオ達は、大ピンチかもしれません。

 

「月光、ヴィヴィオを連れて逃げろ。…今すぐっ！」
「冬美ちゃん…そんな、無理だよ１人でなんて…」
「いいからっ！すぐにスバルさんが来てくれるっ！それまで時間を稼げばいいんだ！」

 

…ええと、こういう場合…

 

「うわーん…」

 

てけてけてけ

 

「ヴィヴィオちゃん、冬美ちゃんを見捨てて逃げるの」
「いいから早く月光も逃げろ！」
「あらあら、友達思いなのね。…でも、もう手遅れよっ！」
「させねえっ！」

 

『我が主、月光さんへの突きを冬美さんが蹴り飛ばしました』
（状況、どうなってるのかな？）
『マッハキャリバーからの報告ですが、スバルさんを攻撃している
　野良ガジェットは、到底野良とは思えない動きをしていて
　スバルさんが苦戦しているようです。まるで、スバルさんを
　足止めするのが目的であるかのような動きだそうです。
　冬美さんは、がんばってますが、長くは持たないでしょう。
　ただちに、なのはさんを…』

 

…なのはママを呼んで、それから閉鎖空間を作って…そんな時間ないよぉ

 

「ライチェントゥークス。魔法使用許可を。ヴィヴィオがやるっ！」
『わかりました、我が主』

 

ライチェントゥークスは、素直にヴィヴィオの言うことを聞いてくれました。
時間がない、っていうのは、ライチェントゥークスにもわかってたんだよね。
なのはママも言ってたよ。ヴィヴィオがなのはママが来るまでがんばれって。

 

魔法少女の変身は、０．０５秒で終了です。
だけど、それだと変身しても全然面白くないので
ちゃんとプロセスを説明するんだよ。

 

「星は天に、風は空に、不屈の炎はこの胸に、ライチェントゥークス！Satz auf」

 

ライチェントゥークスに蓄積されていた魔力が、ヴィヴィオの
リンカーコアに集中する。
ヴィヴィオがこの魔力の集中を受けて、一気に年齢＋７の大成長。
ライチェントゥークス自身は、ヴィヴィオの体を包むバトルジャケットに変形して
ヴィヴィオを守る鎧になっちゃう。
見た目は、レイジングハートを持ってないなのはママかな。
髪だってなのはママ風の片ポニーなんだよ。
なのはママと違うのは、ヴィヴィオ（１６）ってことと
レイジングハートが無いことと、なにより、スカートじゃなくてスパッツだってことかな。
スバルおねえちゃんとなのはママの折衷みたいになっちゃった。

 

『我が主、時間がありません』
「うん、ライチェントゥークス。RHに連絡をとって。
　ヴィヴィオはすぐに二人を助けに行くっ！」

 

ヴィヴィオは急いで冬美ちゃんと月光ちゃんの所に戻ります。
ちょっとだけ遅かったみたいで、冬美ちゃんは、謎の婦警さんにまともに一撃食らってしまってます。

 

「ちょっとだけ、骨があったわね」
「…ちく…しょう…」
「ああ、あなたは殺してもいいのよ。私はあなたに用事なんて無いわ」
「そこまで…なのっ！」
「だれ？」

 

ヴィヴィオは、公園の外灯の上に立って、謎の婦警さんを見下ろします。
まるでフェイトママみたいでしょ。

 

「だ、だれでもいいじゃない…なの」
「…もしかして、ヴィヴィオちゃんの…」
「ちがうのちがうのちがうの、う゛ぃ…ヴィヴィオじゃなくて
　魔法少女なのは…なのっ！」

 

ライチェントゥークスが、念話でため息をついてるのを感じます。
でもでもでも、＋７歳の１６歳なんだから、ヴィヴィオ本人だって
わかるはずないよぉ。

 

「なのは？…」
「とにかくっ！いたいけな小学生に対する乱暴狼藉はみすごせない…なの」

 

だんだん視線が、珍獣か宇宙人でも見てるかのような感じに変わってきます。
えーなんでー、なんでー、なのはママだって立派な魔法少女じゃないの。

 

「問答無用なの」

 

ライチェントゥークスが、RHに連絡をとってくれてるはずだから
ヴィヴィオはちょっと時間を稼げば大丈夫です。
魔力光を見られるとまずいので、空を飛んで最高速で殴り飛ばします。
拳を痛めないように、魔法で保護して殴るけど、魔力光は見られないように
体で隠します。

 

「ぐっ…なかなかやるな。だが、その攻撃のどこが魔法少女だっ！」
「そ、空を飛べるから魔法少女なの」
「ヴィヴィオ、冬美、月光、無事かっ」
「ち。今日は出直してくるわ」
「二度と来るな、なの」

 

『我が主、スバルさんがガジェットを撃破してこちらに向かってます』
（うん、わかった、ヴィヴィオも変身を解かないとね）

 

全力で冬美ちゃんと月光ちゃんのいるところから姿を消して
変身を解除します。
正体を知られてはいけないのは、魔法少女のお約束なんだよね。

 

「スバルさん、大丈夫ですか？」
「もちろん、私は大丈夫。…冬美ちゃん、大丈夫？」
「ちょ、ちょっといいのを喰らったけど…なんとか、大丈夫です…」
「そ、それで、ヴィヴィオは？」
「ヴィヴィオちゃんなら…」
「わーん、スバルおねえちゃーん…」

 

ヴィヴィオが泣いてるのは、嘘泣きです。
泣き虫ヴィヴィオってずっと言われてるから
嘘泣きでも、本当に泣いてるって思ってくれるんじゃないかと思います。

 

（ヴィヴィオ、変身したの？）
（…あれ？スバルおねえちゃん、わかった？）
（マッハキャリバーが教えてくれた）
（…あ、そっか）

 

「ヴィヴィオ…無事だったか。よかった…」
「冬美ちゃんが無事じゃなかったらよくないよぉ」
「このくらいかすり傷だ」
「…冬美ちゃん、怪我は甘く見ない方がいい。病院まで送っていくよ」
「い、いい…遠慮しておきます。スバルさん」
「そんなこと言わずに、一応病院に行こうよ冬美ちゃん。
　それで、スバルおねえちゃんが安心するんだから」
「…ヴィヴィオの言うとおりだよ。冬美ちゃん。一緒に行こう」
「はい、スバルさん…」

 

スバルおねえちゃんは冬美ちゃんを背負って病院に歩いてます。
ヴィヴィオは、なのはママに顛末を携帯電話で報告です。

 

「ヴィヴィオ、大丈夫だった？」
「ヴィヴィオは大丈夫だよ。だけど、冬美ちゃんがちょっと怪我したみたい」
「ヴィヴィオが無事で良かった。…だけど、無茶したらだめだよ。
　今日はそれで良かったけど、次も無事で済む保証はないんだからね」
「はーい」

 

今日は、とんでもない事が起きてしまいました。
でも、今日はちょっとなのはママみたいな事が出来て、ヴィヴィオはご機嫌なんです。
いろいろあるけど、ヴィヴィオはまだ、元気です。

 

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