めりかるうぃっしゅ
〜喫茶翠屋は聖地なの〜
私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオだよ。
何日か前に、暴走車に轢かれそうになった時には
なのはママにものすごく心配されたけど、あれから
べつに何事もなく時間は過ぎてるよ。
ライチェントゥークスが傍受した念話も、何かの間違いだったのかな？
「ヴィヴィオ〜ちょっとお店手伝ってくれる？」
「はーい、なのはママ」
翠屋は、とっても繁盛している喫茶店です。
人手はいくらあっても足りません。
ヴィヴィオも、まだお客さんの前には出られないけど
皿洗いとか、荷物運びとか、出来るお仕事はいろいろあります。
看板娘のなのはママは、ヴィヴィオなんか比較にならないぐらいに忙しいんだよ。
ヴィヴィオも、なのはママのお手伝いしないと。
『主、踏み台を用意してください』
「ありがとうライチェントゥークス」
時々ヴィヴィオは宙に浮いてしまうので、おじいちゃんが
踏み台を買ってくれました。
よいしょとかついで、よいしょと据え付けます。
なのはママに言われたとおり、踏み台を置いたら、まずぐらついてないか確かめます。
ヴィヴィオはちょっと反抗期で、なのはママの言うことが素直に聞けません。
だけど、なのはママのいないときには、なのはママの言いつけを守ってます。
「これでよしっと」
翠屋にも、食器洗い機はあるから、ヴィヴィオでも楽に作業が出来ちゃいます。
ヴィヴィオのお仕事は、食器洗い機からお皿を出して、整理することと
汚れたお皿を、食器洗い機に入れることです。
食器洗い機で落ちない汚れは、 手洗いしないといけないけど
それは、なのはママや桃子おばあちゃんのお仕事です。
「ヴィヴィオちゃん。大丈夫？」
「うん、大丈夫桃子おばあちゃん」
桃子おばあちゃんは、ヴィヴィオのお菓子作りのお師匠さんです。
なのはママのママだから、おばあちゃんだけど、とても孫がいる年には見えません。
ヴィヴィオは、なのはママと血がつながって無くて、14歳ぐらいしか年齢差がないから
桃子おあばちゃんが、孫のいる年に見えないのは、あたりまえなんだよね。
「はい、じゃあ、これをお店のカウンターまで持って行ってくれる？」
「はーい、桃子おばあちゃん」
ヴィヴィオは、桃子おばあちゃんが大好きです。
おばあちゃんは、お菓子作りを教えてくれて、作ったお菓子をくれたりもします。
なのはママは、ママだから、厳しいことも言わないといけないけど
桃子おばあちゃんは、孫だから、ママより甘やかしてくれるんです。
お菓子作りには、全然妥協してくれないだけど、一人前のパティシエさんに
なるためには、厳しい修行が必要なんだよ。
なのはママだって、すっごい魔法使いさんになるためには、厳しい訓練してたんだって。
翠屋の店内は、お客さんが一杯です。
何しろ、翠屋には、海鳴市以外からも、お客さんがやってきます。
なのはママは、ミッドチルダでも有名な、管理局の若きエースオブエースで
雑誌や放送局の取材も受けてるほどだから、巡礼にやってくる人も少なくないんだよ。
「ヴィヴィオ、なのはさんのお手伝い？」
「あ、スバルおねえちゃん」
スバルおねえちゃんは、昔のなのはママの教え子です。
今はミッドチルダで、レスキュー隊のホープとして活躍中です。
レスキュー隊は、管理局の花形じゃないけど、スバルおねえちゃんは
志願してレスキュー隊に配属されてます。
「こ、こんにちは」
「こんにちは。ヴィヴィオちゃん。今お仕事中？」
「あ、アカリちゃんに、冬美ちゃんだ〜遊びに来てくれたの」
「うん。だけどお仕事中じゃじゃましたらだめかな？」
「あら、いらっしゃい、冬美ちゃん、月光ちゃん、ヴィヴィオを誘いに来てくれたの？」
「はい、なのはおばちゃん」
「冬美ちゃん、そんなに緊張しなくていいわよ」
「き、緊張してないです」
アカリちゃんと冬美ちゃんは、ヴィヴィオのお友達なんだよ。
毎日、宿題を一緒にしたり、公園や海岸に出かけたりしてます。
あれ？だけど冬美ちゃん、どうしちゃったんだろ。
普段の冬美ちゃんなら、もっと言葉遣いが乱暴で気の置けないはずなのに。
「はい、おまたせ。翠屋特製のアイスクリームスバルスペシャル」
「うわぁ…」
スバルおねえちゃんは、アイスクリームが大好きです。
アイスクリームスバルスペシャルなんて、カレー皿からアイスクリームが
こぼれそうになるまで、いろんな種類のアイスクリームが乗っかってます。
ヴィヴィオもアイスは大好きだけど、あんなに食べたらお腹をこわしちゃいます。
スバルおねえちゃんは、きっと鍛え方がヴィヴィオとは違うんだと思います。
「うわぁ…いつ見てもすごいですね」
スバルおねえちゃんは、アカリちゃんの言うことが耳に入ってないみたいです。
目を輝かせてアイスクリームを食べてます。
「月光ちゃん、冬美ちゃん、アイスクリーム食べていく？
なのはさんがおごってあげるよ」
「ママー、ヴィヴィオにはー」
「もちろん、ヴィヴィオにも」
「わーい」
「いいんですか？頂きます」
「い、いただきます…」
あれ？いつもの冬美ちゃんだったら、ここで
”なんだよヴィヴィオ、アイスぐらいで変にはしゃぐな”とか
”ゲッコウ、おまえまだなのはさん返事してないだろ”とか
そういう突っ込みがあるよね。
どうしちゃったのかな。
「うわー、おいしかった」
…あれほどたくさんあったアイスクリームが、もう消えてます。
ここまで来ると、もう人間じゃありません。
まるでアイスクリーム魔神です。
「ヴィヴィオ、スバルさんを化け物みたいにいうな」
「えー、なんで頭で考えてたことがわかるの〜
もしかして冬美ちゃんって超能力者？」
「そんなわけあるか。声が出てたぞ」
「わーい、いつもの冬美ちゃんが戻ってきたー」
「いつものって…」
「ん？もしかして、冬美ちゃんって、いつもはこんな感じなの？」
「い、いえ、その…」
「無理しなくていいよ。なのはさんだって、化け物みたいな扱いされてたからね」
「そうなんですか？食欲魔神ななのはおばちゃんって、全然想像出来ないです」
「そういう意味でもないんだけどね」
（スバル、ミッドチルダの話題はやめてよ）
（すいません、なのはさん）
なのはママが、管理局のエースオブエースだっていうことは
海鳴市では、秘密なんだよ。
管理外世界では魔法は御法度なんだって。
「あ、あの、スバルさん。いつこちらに来られたんですか」
「そんなに緊張しなくてもいいってば。ちょっと休暇が取れたから
なのはさんの顔を見にきたんだよ」
「はい、３人とも、アイスクリーム食べる？」
「ありがと、桃子おばあちゃん」
「いただきます、桃子おばあちゃん」
「い、いただきます…」
冬美ちゃんは、妙に緊張してます。
なのはママといるときには、いつもの冬美ちゃんなので
きっと、これはスバルおねえちゃんがいるからだと思います。
「スバルと最初に会ったときが、こんな風だったかな」
「ええと…そうでしたっけ、なのはさん」
「うん、そうだったよ。今でも覚えてる」
「いい加減忘れてくださいよ〜」
「スバルさん、こんどいつ道場に来てくれますか」
「ごめん、今日は休暇なんだけど、あんまり時間とれないんだ。
今度の休みの時には、ちゃんとつきあうからさ、ほんとごめんね」
「い、いえ、こんど来てくださるんでしたら、はい、お願いします」
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
やっぱり、桃子おばあちゃんのアイスクリームは世界一です。
いつかヴィヴィオも、こんなすばらしいアイスクリームが作れるようになりたいです。
「じゃ、そろそろ行こうよアカリちゃん、冬美ちゃん」
「も、もうすこし、ここにいてもいいんじゃないか？」
「うん、冬美ちゃんがそういうなら、一緒にいてもいいかな」
「そうだね。冬美ちゃんは、スバルにいろいろ聞きたいことがあるだろうし」
（あの、なのはさん…私がここに来たのは、ヴィヴィオの事でお話があるからなんですけど…）
（うん、わかってる。だけど、念話で済ませること、できない？）
（わかりました…。
ライチェントゥークスが傍受した念話の内容ですが、管理局で分析しても
誰の念話かわからなかったそうです）
（そうなんだ、指名手配中の犯罪者ではないんだね）
（広域次元犯罪者に含まれてないことは確実だと思います。
小さな犯罪程度でしたら、管理局でも照合しきれないですから）
（うん、そうだね。それで、管理局の方で対策は決まった？）
（…しばらくは、様子を見るしかないです。あまりにも危険が漠然としすぎてますから
管理局としては手が出せません）
（そっか…私がヴィヴィオにずっとついていられるといいんだけど…）
（なのはさんが変身魔法で小学生になるって言うのも、無理がありすぎますもんね）
（まずヴィヴィオがおかしがるよ、それ）
（それで、管理局から、ヴィヴィオちゃんに、魔法使用許可が出ました。
ライチェントゥークスが魔法管理することになります。
ヴィヴィオちゃんが、管理局の嘱託扱いってことですね）
（……仕方がないかな。私が駆けつけるまでの時間、なんとかヴィヴィオに
がんばってもらおうってことだよね）
（そうですね…）
「そうそう、なのはさん」
「なに？スバル」
「なのはさんにインタビューしたいって、取材の申し込みがありましたよ」
「私にインタビュー？」
「なのはさんって、そんなに有名人なんですか？」
「そりゃ有名人だよ。なんといっても翠屋の看板娘だもん」
「ねえなのはママー、ヴィヴィオも一緒にいていい？」
「だーめ。ヴィヴィオの取材に来るんじゃないんだよ」
「残念。…ええと、じゃあ、スバルおねえちゃん一緒に遊びに行こうよ」
「私はおし…」
（スバル、一緒に行ってあげたら？）
（え、でも…）
（冬美ちゃん、よろこぶよ）
「…うん、そうだね。どこに行こうか」
「わーい」
「す、スバルさんが来てくださるなら、歓迎です」
「海鳴公園に行きましょう」
「じゃ、しゅっぱーつ」
翠屋から出る前に、ちょっと店内を見回してみます。
次元世界から来たお客さんが、ちらほらいるような気がします。
『気がするんじゃなくて、実際にいますよ、我が主』
何かが起き始めてる気はしますけど、ヴィヴィオは、今日も元気です。